サバティカル休暇とは?導入事例を見て学ぶ休み方改革のメリット
「サバティカル休暇」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。一定の長い期間勤めている社員が数カ月単位の長期休みを付与するという制度です。もともとはヨーロッパで創設された制度でしたが、働き方改革が進められる中で、日本の経産省も推奨をはじめています。この記事では、サバティカル休暇導入による影響やメリット・デメリット、そして国内での導入事例を説明していきます。
サバティカル休暇とは?
サバティカル休暇とは、長期間勤続した社員や優秀な成績を収めた社員に対して、1カ月(~1年)の休暇を与える制度です。休暇の使い方や目的は一般的に自由とされています。これまでは主にヨーロッパ諸国で活用され伝統的には大学教員の研修休暇とされてきましたが、2018年3月に経済産業省の有識者研究会が「休暇中の個人の学び直しや振り返りを支援する」ことを目的に推奨の方針を発表したことで、日本国内でも注目が高まってきています。
サバティカル休暇のメリット・デメリット
サバティカル休暇の導入による、企業側のメリットとデメリットを紹介します。
メリット
サバティカル休暇の導入によるメリットを具体的に説明していきます。
退職を防ぐことができる
長期間勤続の報酬という位置づけで長期休暇を与えることで、社員の自社に対する帰属意識やモチベーションの向上が期待できます。さらに、介護や育児といったライフイベントの発生で退職を余儀なくされてしまう社員の救済処置にもなり、離職防止につながります。
社員に新たな学びの機会を与え、視野を広げることができる
サバティカル休暇取得の目的は自由です。企業側から「新たな学びに挑戦すること」を呼びかけて休暇取得を促すことで、社員が復職までに新たな視点や技術を身に着けて戻ってくる……ということも期待できるでしょう。
デメリット
サバティカル休暇の導入で考えられるデメリットについて詳しく解説していきます。
現場が混乱する可能性がある
長期勤続者、または功労者が長期間不在になれば、他の社員への不十分な情報共有や業務量増加によって職場が混乱する可能性があります。企業側は残された社員が無理をしないよう、業務量の管理や休暇前の引き継ぎの調整を行う必要があります。
復職後の人間関係修復にコストがかかる
有力な社員とはいえ、数カ月~年単位で職場を離れれば現場でのプレゼンスは当然下がります。離れている間に出来上がった社内の力関係やコミュニティーに自然に戻れるようにするため、企業側は受け入れ体制を整える必要があるでしょう。
日本の企業の導入例
サバティカル休暇はもともと海外で始まった制度ですが、既に国内でも導入し、実際に運用している企業があります。
以下に、国内での導入事例を紹介します。各企業の例を知り、制度を取り入れるか検討する際の参考にしてみてはいかがでしょうか。
サバティカル休暇を導入・運用している企業の具体例
早期からサバティカル休暇の制度を取り入れた企業の、具体的な運用例について解説します。
ヤフー…レポート提出を義務化し有益な休暇を
Yahoo! JAPAN(以下ヤフー)は2013年という比較的早い時期から、サバティカル休暇を与える制度を導入しています。正社員として一定のキャリアを積んだ社員が、自らのキャリアや経験を見つめ直し、さらなる成長へとつなげていくことを目的としています。
勤続10年以上の正社員に2~3カ月に休暇を付与します。対象者には基準給与1カ月分を特別支援金として支給。
更に有給休暇と組み合わせて使うことで、一定の給与を得ながらの休暇を取得することができます。取得後にはレポートの提出が必須です。ヤフーの「Yahoo! JAPANコーポレートブログ」には、サバティカル休暇を活用した社員のレポート記事が掲載されており、サバティカル休暇の実態を知るのに役立ちます。
活用例1:留学に行くために休暇を取得した例
参照:3カ月のサバティカル休暇をとってみた(留学編)
活用例2:「自分のために時間を使おう」との決意から休暇を取得した例
参照:「社会人や母親だけでなく、一個人としても過ごせた」サバティカル休暇
ソニー…職場復帰のしやすさに配慮
ソニー株式会社では、「フレキシブルキャリア休職制度」という名前で運用されています。配偶者の海外赴任や留学への同行による知見や語学能力の向上によってキャリアの継続を図る休職(最長5年)や、自身の専門性の追求のための私費就学のための休職(最長2年)が可能。配偶者同行の場合はブランクが非常に長くなるため、週2日程度のテレワークを可能とする「休職キャリアプラス制度」の活用を行うことで、職場復帰がしやすくなるようにも設計されています。
参照:ソニーの人事制度
MSD…利便性の高い「分割取得」が可能
MSD株式会社では、社員の自律的なキャリア形成を目標としてサバティカル休暇を導入しています。勤続1年目の社員から既存の休暇制度に加えて年間最大40日まで取得可能な制度になっており、「ディスカバリー休暇」という名称で運用されています。40日分の休暇を週1回ずつ使用すれば週休3日制の働き方も実現できる「分割取得」システムが特徴的です。
リクルートテクノロジーズ…3年ごとの休暇取得でモチベーションアップ
株式会社リクルートテクノロジーズは、勤続3年ごとに最大連続28日間取得できる長期休暇制度「STEP休暇」を導入しています。自己の成長のためだけでなく、心身のリフレッシュのための使用も可能とし、休暇を取る目的は個人に委ねられています。制度利用者を応援するために、一律30万円の手当が支給されるのも特徴です。
アトラエ…1カ月の「有給」休暇が3年ごとに
株式会社アトラエでは、勤続3年以上の全社員及び役員を対象に、3年ごとに連続して1カ月の有給休暇を付与する「サバティカル3」を導入しています。普段から属人化を排除した業務運営を行うことで、社員の長期休暇を奨励できる環境が整備されているといいます。
ファインデックス…引き継ぎやサポートの徹底でデメリットを軽減
株式会社ファインデックスでは勤続10年ごとに最長6カ月の休暇が取得できる制度を導入しています。同社では、休暇取得の6カ月以上前に申請するよう義務付けています。業務引き継ぎや体制強化を行う期間を十分に設けることで、現場で混乱が生じることを防いでいるといいます。
ぐるなび…手頃な「プチ・サバティカル」休暇
正確には「サバティカル休暇」とは呼べるほど長期の休暇ではありませんが、株式会社ぐるなびでは、「プチ・サバティカル休暇」という制度を導入しています。勤続5年で3日間の連続休暇が付与され、休暇に合わせて、活動支援金として2万円が支給されます。
参照:ぐるなび・福利厚生
その他のサバティカル休暇を導入している企業の例
他にも、
・トライバルメディアハウス
・ワヴデザイン
・ココデグローバル
・ツナグ・ソリューションズ
などの企業で取り組みが行われています。
導入する際の注意ポイント
サバティカル休暇制度を実装するにあたっては、いくつか注意しておくとよい点があります。以下のポイントをぜひ参考にしてみてください。
休暇取得の目的を定める
サバティカル休暇は、基本的にどのような理由で取得することも自由とされている制度であり、目標を設定する場合なども会社の裁量に任せられるようになっています。何かを学んで成長して帰ってくることを期待する場合、レポートを義務付けるなどの条件が効果的でしょう。
支援金の有無について定める
休暇中の給料の支払いに関しても、企業の裁量に一任されています。休暇中は完全無給とする企業も多いですが、特別に支援金を支給したり、有給休暇と組み合わせることで休暇中に一定の給与を得ることを可能としたりと、企業ごとに適した運用方法を検討するとよいでしょう。
業務の引き継ぎを徹底する
有力な社員が長期間抜けてしまうのですから、現場の混乱は必至です。社員の休暇中、滞りなく業務を遂行できるように十分な引き継ぎを行う必要があります。休暇取得の数カ月前から、余裕を持って引き継ぎを進められると良いでしょう。
制度の周知を行う
職場に不公平感や制度を使いづらい空気が生まれてしまわないよう、条件に合う社員であれば全員が活用できる制度だと周知することが重要です。
サバティカル休暇の導入で、社員の成長を促す
サバティカル休暇は新しい休み方の形ですが、社員を成長させ、職場を活気づける効果があるものです。もちろんデメリットもあり、また日本ではあまり見られない制度ですので、乗り出すのにためらうところもあるかもしれません。しかし、働き方や雇用のあり方が変わりゆく今、検討する価値は十分にあるでしょう。他社事例や注意ポイントを踏まえた上で、ぜひ検討してみてください。
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