障害者雇用促進法とは? 対象者や企業の対応ポイントをわかりやすく解説
障害者の就労と自立した職業生活を支援する障害者雇用促進法(正式名称:障害者の雇用の促進等に関する法律)。1960年に元となる法律が定められて以来、何度も法改正が行われ、内容の見直しが進められてきました。労働力不足が顕在化し、ダイバーシティが重要さを増す昨今、障害者の就労も重要な課題となっています。
人事労務担当者が知っておきたい障害者雇用促進法の概要と企業に求められる対応を、法改正の動向も含めて説明します。
※最新情報は、厚生労働省または独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)のホームページなどを確認してください。
目次
1.障害者雇用促進法とは
障害者雇用促進法の目的や対象者、法定雇用率に達しなかった場合の対応について説明します。
障害者雇用促進法の目的
障害者雇用施策の目指すところは、障害の有無にかかわらずそれぞれの希望や能力に応じて、各地域で自立した生活を送ることができる「共生社会の実現」です。厚生労働省「障害者雇用促進法の概要」によれば、「障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置、職業リハビリテーションの措置等を通じて、障害者の職業の安定を図ること」が障害者雇用促進法の目的として定められています。
1960年に現行の法律の前身となる「身体障害者雇用促進法」が定められ、1987年には法律の対象範囲が身体障害者や知的障害者も含むものに拡大されました。その後法改正が行われ、2016年には事業主の障害者に対する差別の禁止・合理的配慮が義務化、2018年には精神障害者の雇用が義務化されています。
障害者が自立した一人の社会人として働ける職場環境を整え、その能力を発揮してもらうことは、企業や社会にとって大きなメリットになります。
障害者雇用促進法の対象企業
障害者雇用促進法では、「その雇用する対象障害者である労働者の数が、その雇用する労働者の数に障害者雇用率を乗じて得た数以上」となるようにしなければならないと定められています(第43条)。つまり、民間企業の法定雇用率2.3%の場合、約43.5人につき一人障害者を雇用しなければならないことになります。したがって、従業員が43人以下の企業には、現在のところ雇用義務は発生しません。
また、業種によって、相当する雇用数を控除できる除外率が当分の間設定されています(制度自体は廃止、経過措置として当面継続)が、段階的に縮小され、廃止に向かうことが予定されています。
障害者雇用促進法の雇用対象者
障害者雇用促進法2条1号において、「障害者」は以下のように定義されています。
身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者
障害者雇用率の算定対象となる労働者は、主に障害者手帳を交付されている人です。手帳の様式は自治体によって異なります。
一方、手帳を持っていなくても、上記に当てはまる人は「差別の禁止・合理的配慮」の対象となります。従業員が手帳を持たないからといって、「差別禁止や合理的配慮」をしなくて良いわけではないため、人事労務担当者は誤解のないように注意が必要です。手帳の有無に関わらず誰もが働きやすい職場環境を作ることが本来の理念であることを忘れないようにしましょう。
参考:厚生労働省「改正障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A」
罰則
罰則ではありませんが、法で定められた障害者の雇用率(法定雇用率)を下回る企業は、不足人数に応じて納付金を納めなければなりません。障害者雇用の計画や適正な実施について厚生労働大臣からの勧告やハローワークからの行政指導を受けた場合、従わないと企業名を公表される可能性があります。
なお、企業は毎年6月1日に障害者の雇用状況をハローワークに報告する義務があります。この義務を怠って報告書を提出しなかったり、虚偽の報告をしたりすると、障害者雇用促進法違反となり、30万円以下の罰金が科せられます(第86条)。
2.障害者雇用促進法に関する企業の対応
ここからは、障害者雇用促進法に関して企業に対応が求められる内容を詳しく説明していきます。障害者雇用促進法の主な内容は以下の7つです。
障害者雇用促進法まとめ
(1)障害者雇用義務
企業は障害者を「法定雇用率」以上の割合で雇う義務がある。
(2)納付金、助成金制度
雇用率未達企業からは納付金を徴収し、達成企業には助成金が支給される。
(3)差別の禁止・合理的配慮の提供
差別的扱いをせず、障害者に対して合理的な措置を講じる。
(4)障害者職業生活相談員の選任
雇用数5人以上の場合は障害者職業生活相談員を専任して相談・指導を行う。
(5)障害者雇用に関する届出
毎年6月1日に障害者の雇用状況をハローワークに報告する。
(6)職業リハビリテーションの実施
地域の各機関と連携し、職業訓練や職業紹介、職場適応援助者などの職業リハビリテーションを実施する。
(7)苦情処理・紛争解決援助
障害者からの苦情に対し、自主的解決を図る努力をする。
(1)障害者雇用義務
従業員が一定数以上の企業は、障害者を「法定雇用率」以上の割合で雇わなければなりません(障害者雇用促進法43条第1項)。記事執筆時点での民間企業の法定雇用率は2.3%(経過措置としての据え置きの値。詳しくは後述)で、従業員数が43.5人以上の企業は障害者を1人以上雇う必要があります。
カウント方法
短時間労働者や重度の障害をもつ場合などはカウント方法が以下のように異なります。
カウント方法については、「障害を持つ雇用者のカウント方法と、実務上の確認方法」で詳しく解説しています。
2024年から法定雇用率を段階的に引き上げ
2023年度から、障害者雇用率(民間企業)は2.7%とされています。ただし、計画的な対応を可能にするための措置として、2023年度中は2.3%で据え置きとなっていました。2024年度からは2.5%、2026年度から2.7%と、順次引き上げられます。また、法定雇用率の引き上げに伴い、障害者雇用義務のある企業の範囲が拡大されます。民間企業であれば、法定雇用率が2.5%になれば従業員数40人以上、2.7%になれば37人以上になると雇用義務が生じます。
参考:厚生労働省「令和5年度からの障害者雇用率の設定等について」
(2)納付金、助成金制度
企業の金銭的負担を軽減するため、法定雇用率が未達の企業からは納付金を徴収し、達成企業には助成金を支給する制度があります。
納付金、調整金、報奨金
- 納付金……不足1人につき月5万(常時雇用する労働者数が100人以上の企業)が徴収されます。
- 調整金……超過1人につき月2万7,000円(常時雇用する労働者数が100人以下なら月2万1,000円)が支給されます。
- 報奨金……在宅で働く障害者に仕事を発注する企業に対し、報奨金が支給されます。
助成金
助成金はいくつか種類があり、
- 障害者を雇い入れるときに役立つもの(トライアルや環境整備)
- 障害者を雇い入れた後に役立つもの(能力開発やキャリアアップ)
などがあります。
助成金について詳しくは「障害者雇用の助成金制度~金額や期間も解説~」をご覧ください。
2024年度から助成金を新設・拡充予定
2024年度からは、障害者雇用を進める事業主への支援強化のため、助成金の新設や既存の助成金の拡充が検討されています。
助成金の新設案として、下記の2つが挙げられています。
- 障害者雇用相談援助助成金(仮):中小企業等の雇用管理に関する相談援助事業への助成
- 中高年齢等障害者職場適応助成金(仮):加齢により職場への適応が困難となった障害者の雇用継続措置への助成
また、障害者介助等助成金、職場適応援助者助成金、障害者作業施設設置等助成金など関連する各助成金について拡充が提案されています。
最新情報を確認し、利用可能な助成金を活用しましょう。
(3)差別の禁止・合理的配慮の提供
差別的扱いをしないこと、障害者に対して合理的な措置を講じることが企業の義務として定められています。
差別の禁止
企業は、障害者のあるなしにかかわらず、募集・採用において均等な機会を与えなければなりません。また、賃金・教育訓練・福利厚生の利用その他の待遇について、障害があることを理由に差別的扱いをしてはならないと定められています(障害者雇用促進法第34~35条)。
差別にあたる言動の例
厚生労働省の「障害者に対する障害を理由とする差別的事例等の調査」(2011年)では、以下のような事例が挙げられています(以下いくつか抜粋)。
車椅子の男性が上半身は丈夫でもトイレの設備がないため採用が困難と言れた。(肢体不自由、70代以上、男性)
ハローワークの障がい者の窓口に、電話をしたら、医師の「働ける」と証明したものを持ってこいと言われた。また、2~3時間の仕事しかない、と言われた。(精神障害、40代、女性)
透析時間があるので3時頃退社しようとしたら、だから透析患者は、いやだ、一番忙しい時に帰るなど言われた(内部障害、40代、男性)
合理的配慮の提供義務
均等な機会や待遇の確保のために、障害者に対して合理的な措置を講じなければならないと定められています。ただし、企業側に「過重な負担」がかかる場合はこの限りではありません(障害者雇用促進法第36条の2~36条の4)。
合理的配慮の提供の例
- 募集内容について、音声等で提供すること。(視覚障害)
- 面接を筆談等により行うこと。(聴覚・言語障害)
- 出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に考慮すること。(精神障害ほか) など
出典:厚生労働省「合理的配慮指針-概要」
(4)障害者職業生活相談員の選任
障害者を5人以上雇用する事業所は、障害者職業生活相談員を選任し、障害者の職業生活全般についての相談や指導を行う必要があります(第79条第1項)。
これは、障害者の雇用を促進するだけでなく、職業生活の充実をも図るための制度です。
障害者を5人以上雇用するようになった日から3カ月以内に、条件を満たす者を障害者職業生活相談員に選任し、ハローワークに氏名を届け出る必要があります。
(5)障害者雇用に関する届出
障害者雇用義務のある企業は、毎年6月1日現在の障害者の雇用に関する状況(諸具合者雇用状況報告)をハローワークに報告する義務があります(第43条第7項)。また、障害者を解雇しようとするときは、ハローワークに速やかに届け出なければならないと定められています(第81条第1項)。
(6)職業リハビリテーションの実施
障害者が自立した職業生活を送ることができるよう、地域の各機関と連携し、職業訓練や職業紹介、職場適応援助者などの職業リハビリテーションを実施することが定められています。
設置されている主な機関
- ハローワーク……求職登録、職業相談・紹介、職場定着指導などを行う。
- 地域障害者職業センター……職業評価、職業指導、職業準備訓練、職場適応援助や、事業主への雇用管理のアドバイスを行う。
- 障害者就業・生活支援センター……就業面、生活面における一体的な相談支援を実施。
参考:
・厚生労働省「全国ハローワークの所在案内」
・独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)「地域障害者職業センター」
・厚生労働省「障害者就業・生活支援センターについて」
(7)苦情処理・紛争解決援助
障害者から苦情を受けたとき自主的解決を図る努力をすることが求められています。自主解決しない場合は、紛争解決の援助を都道府県労働局から受けたり、紛争調整員会に調停案の作成を申請したりすることが可能です。
出典:厚生労働省「平成28年4月(一部公布日又は平成30年4月)より、改正障害者雇用促進法が施行されました。-改正概要」
3.生産性向上や組織の活性化も期待される障害者雇用
障害者を雇用することは、業務の進め方や分担を見直して生産性が向上したり、障害者へのコミュニケーションの配慮を行うことで組織全体の活性化につながる効果もあると考えられており、進め方によって大きなメリットを得られます。
優良な中小事業主に対する認定制度
障害者の雇用促進が必要とされる中、「障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度(もにす認定制度)」※が制定されています。
この制度で認定され、「もにす認定事業主」となると、商品等に「障害者雇用優良中小事業主認定マーク」を付けることができます。また、ハローワークなどによって周知広報が行われ、社会的認知度を高められるほか、日本政策金融公庫の低利融資対象となったり、公共調達等で加点評価を受けられたりというメリットがあります。
企業事例
これまで障害者雇用は、法律により課せられた義務として、後ろ向きに捉えられることが少なくありませんでした。しかし障害者雇用に積極的に取り組むリーディングカンパニーからは、「障害者の採用がきっかけとなり、社内にもポジティブな変化が起きた」という声が聞こえてきます。
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【特集】障がい者雇用が会社を強くする
- CASE1 リクルートスタッフィング「丁寧なコミュニケーションで障がい者の活躍をサポート」
- CASE2 グリービジネスオペレーションズ「障がい者を特別扱いせずに、活躍できる職場をつくる方法」
- CASE3 LITALICO「どうする? 障害者の就労定着 支援の現場に聞く」
【特集】活力を生み出すダイバーシティ
まとめ
障害者雇用促進法は障害者雇用に関する義務を定めており、企業は法に則って障害者雇用を進めなければなりません。障害者を雇用することは決してデメリットではなく、生産性向上や組織の活性化に役立てることもできます。
障害者のある人・ない人がともに働きやすい環境づくりを目指して、各種支援機関や助成金を活用しながら、障害者雇用に取り組んでみてはいかがでしょうか。
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