試用期間中の解雇は可能? 正当と判断される解雇の条件と手続きを解説

人事

掲載日時:2019.07.23

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試用期間中の解雇は通常よりも広い範囲で認められていますが、実際に解雇する際には「解雇する他ない」と主張できる正当な理由が必要です。説明もないまま不用意に解雇を行うと、解雇した労働者との紛争に発展することも。ここでは、どんな場合に解雇が認められるのかや、解雇時の給与の支払いについても解説します。

試用期間の運用の仕方

試用期間とは、雇用した労働者を本採用する前に、人物、能力、勤務態度などを評価して社員として適格か判断する期間です。新入社員、中途社員、パート・アルバイトを雇用する際、多くの企業では最終的に社員として受け入れる前に試用期間を設けています。

試用期間の労働者の権利について

試用期間中の労働者の労働条件と権利・義務については、本採用後と基本的な違いはありません。条件を満たしているのに社会保険に加入させない、最低賃金を下回るような給与の設定にするなどの不当な待遇は認められていません。

試用期間中の労動契約は、「解約権留保付労働契約」であると考えられています。法律上では「試用期間の間、雇用者は労働契約の解約権を留保している状態」と解釈され、試用期間中に「社員として不適格」と判断した場合は、労働契約を解消することができます。

Point

  • 基本的には試用期間でも本採用後と同じ労働者としての権利がある
  • 試用期間でも、解雇には正当な理由が必要
  • パート・アルバイトであっても試用期間中の権利は基本的に社員と同じ

試用期間中の解雇でも正当な理由が必要

しかし、試用期間だからといってむやみに解雇できるわけではなく、合理的な理由が必要です。労働契約法第16条では雇用した労働者を解雇するには、社会の常識に照らして納得できる理由が必要、と定められています。アルバイト・パートの社員についても同様です。では、具体的にどういうときに試用期間中の解雇が認められるのでしょうか。

試用期間中の解雇が認められる理由

試用期間の解雇が認められる理由としては、以下の例が挙げられます。

①勤務態度が極めて悪い場合
②業務命令に従わない場合
③理由なく遅刻・欠勤を繰り返すなど職務上の規律違反が多い場合
④経歴詐称をはじめ、履歴に重大な虚偽の事実があったことが試用期間中に発覚した場合 など

①~③の例では、企業側が繰り返し指導をしても改善が見られなかった場合にのみ、解雇が正当であると認められます。また、試用期間であっても「能力不足による解雇」は簡単にはできません。過去の解雇をめぐる裁判では、指導や教育を行った末の結論かという点が焦点になっています。

そもそも前提として、解雇理由の客観性を判断するため、企業側は就業規則に「解雇事由」を正確に記載しておく必要があります。

Point

  • 試用期間であっても解雇には客観的で正当な理由が必要
  • 能力不足で解雇する際には、改善のための教育努力をしたかどうかが焦点になる
  • 解雇する理由について客観性を担保するため、就業規則に解雇する場合の理由を明記しておく

試用期間の解雇予告と給与の支払い

14日以内に解雇する場合と、14日以降に必要な「解雇予告」と「解雇手当」についての詳細を解説します。

解雇予告と予告手当の考え方

「解雇予告」とは労働者を解雇する場合、30日前に解雇の予告をしなければならない決まりのことです。試用期間中でもこの規定は適用されるため、解雇する際は原則的に少なくとも30日前の解雇予告か、解雇予告手当の支払いが必要となります。

試用期間14日以内なら自由に解雇できるわけではない

労働基準法第21条の規定により、14日以内なら解雇予告と解雇手当の支払いは不要です。しかし、解雇予告と手当の支払い義務がなくとも、「14日以内なら自由に解雇を行っていい」ということにはなりません。14日以内で解雇する場合でも通常の解雇と同じ、客観的で正当な理由が必要になります。

14日という短期間の勤務状況で「改善の余地がなく、解雇する他ない」と判断するのは難しいでしょう。「14日以内だから」と軽率に解雇してしまうと、解雇権の濫用として後に解雇が無効と判断される場合があります。

試用期間14日以降は解雇の予告、あるいは解雇予告手当の支払いが必要

雇用期間が14日を過ぎてしまった労働者の解雇を行う際には、少なくとも30日前に解雇の予告が必要となります。 予告を行わない場合には、30日分以上の平均賃金を「解雇予告手当」として支払わなければなりません。

例えば、解雇の10日前に予告した場合、「解雇予告手当」として20日分以上の平均賃金を支払います。15日前に予告した場合は、15日分以上の平均賃金を「解雇予告手当」として支払います(労働基準法第20条)。

試用期間の解雇が不当とされた事例

試用期間中の解雇が不当と判断された事例について紹介します。

(1)試用期間を数回引き伸ばした後、登用試験に合格しなかったとして解雇(ブラザー工業事件)

裁判所の判断:解雇は無効。

理由:合理的な期間を超える試用期間は公序良俗に反するため。

Point

  • 合理的な理由なく試用期間を引き伸ばしたあとに解雇した場合、その試用期間は無効とみなされ、引き伸ばした分の期間は「本採用していた期間」と判断される。

(2)試用期間を3カ月設けておきながら、パート社員を能力不足として3週間で解雇(ケイズ事件)

裁判所の判断:解雇は無効。

理由:3カ月の試用期間が設けられているのだから、その期間に必要な指導をして従業員の習熟度を上げていくことが企業には求められていると判断。

Point

  • パート労働者だからといって簡単には解雇できない。
  • 試用期間の残りがある場合は、必要な指導を重ねなければ解雇が有効と判断されない可能性が高い。

試用期間中の解雇の判断は慎重に!

試用期間中は通常よりも広い範囲で解雇の自由が認められているとはいえ、みだりに解雇できるわけではありません。解雇にあたる理由をあらかじめ就業規則に明記した上で、「この理由で解雇する場合、客観的な説明ができるか?」と記録をもとに慎重に検討しましょう。

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