安全衛生委員会の基礎知識|必要人数や組織図、議題の決め方は?
進め方や議題例37個も紹介
企業で安全衛生委員会の設置が義務となる人数や、守らなければならないルールをご存知ですか?
今回は、人事・総務担当者に向けて安全衛生委員会の構成メンバーやルール、進め方についてなど基礎知識を解説します。また、参考情報として委員会で話し合う議題例を紹介します。
関連記事:社労士が解説 働き方改革のポイントvol.4「労働安全衛生法の改正と、衛生管理や健康管理の必要性」
目次
安全衛生委員会とは
安全衛生委員会とは、「安全委員会」と「衛生委員会」を合わせた呼び名です。安全委員会または衛生委員会を設置しなければならない場合、代わりに両者を合わせた「安全衛生委員会」を設置することが可能です(労働安全衛生法第19条)。
安全衛生委員会の目的と、設置義務のある企業や構成メンバーについて説明します。
安全衛生委員会の設置目的は?
委員会設置の目的は、労働災害防止の取り組みを労使一体となって行うことです。
厚生労働省の発表によれば※労働災害による休業4日以上の死傷者は毎年、10万人以上に上ります。また、最近は職場のストレスや長時間労働からメンタルヘルスの不調を訴えるケースが増えています。企業にはこうした災害を減らし、労働者の心身の健康保持を促進する努力が必要です。そこで、日々安全で健康的に働くことのできる職場環境を実現するために、現場の意見を反映しながら労使が一体となって改善・予防に取り組むことが求められています。
安全衛生委員会のうち、安全委員会は、従業員の安全確保のために職場の事故やけが対策などを調査審議します。衛生委員会は、従業員の健康確保のためにメンタルヘルスや職場環境の改善策などを調査審議します。
▼労働災害における死亡者数、死傷者数の推移
安全委員会・衛生委員会の設置義務と罰則
常時使用する労働者数が50人以上であれば、衛生委員会を設置する義務があります。ここで言う「常時使用する労働者」にはアルバイト、パートタイマーや契約社員なども含まれます。衛生委員会の他に安全委員会も設置する義務があるかは、業種と労働者数によって次の表のように決まっています。
安全委員会の設置基準
人数 | 対象業種 |
---|---|
常時50人以上で設置 | 林業、鉱業、建設業、製造業の一部の業種(木材・木製品製造業、化学工業、鉄鋼業、金属製品製造業、輸送用機械器具製造業)、運送業の一部の業種(道路貨物運送業、港湾運送業)、自動車整備業、機械修理業、清掃業 |
常時100人以上で設置 | 製造業のうち上記以外の業種、運送業のうち上記以外の業種、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業・小売業、家具・建具・じゅう器等卸売業・小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業 |
人数:対象業種 | |
---|---|
常時50人以上で設置 | 林業、鉱業、建設業、製造業の一部の業種(木材・木製品製造業、化学工業、鉄鋼業、金属製品製造業、輸送用機械器具製造業)、運送業の一部の業種(道路貨物運送業、港湾運送業)、自動車整備業、機械修理業、清掃業 |
常時100人以上で設置 | 製造業のうち上記以外の業種、運送業のうち上記以外の業種、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業・小売業、家具・建具・じゅう器等卸売業・小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業 |
衛生委員会の設置基準
人数 | 対象業種 |
---|---|
常時50人以上で設置 | 全業種 |
人数:対象業種 | |
---|---|
常時50人以上で設置 | 全業種 |
労働者数が50人未満の場合、委員会を設置する義務はありませんが、安全衛生に関して労働者の意見を聴く機会を設けなければなりません(労働安全衛生規則第23条の2)。
参考:厚生労働省「安全衛生委員会を設置しましょう」
安全委員会・衛生委員会の構成メンバー
委員会のメンバーは、労働災害防止に労使が一体になって取り組む必要があるという観点から、議長1人を除き労使が半数ずつになるようメンバーを構成します。議長を除いた委員の半数は、労働組合から(労働組合がない場合、過半数従業員の代表者による推薦によって)選出されなければなりません。人数の定めは特にないため、自社の規模や作業内容に応じて決めることになります。
メンバー構成例
安全委員会の構成メンバー
安全委員会には以下のメンバーが必要です。
- 議長 1人
- 安全管理者 1人以上
- 委員(安全に関する経験を有する者) 1人以上
衛生委員会の構成メンバー
衛生委員会には以下のメンバーが必要です。
- 議長 1人
- 衛生管理者 1人以上
- 産業医 1人以上
- 委員(衛生に関する経験を有する者) 1人以上
議長
安全委員会でも衛生委員会でも、「総括安全衛生管理者または事業の実施を統括管理する者もしくはこれに準ずる者」が議長を務めます。規模などにより統括安全衛生管理者が定められていない場合は工場長、人事部長、総務部長などが指名されるのが一般的ですが、原則としては肩書にかかわらず事業の実施を実質的に統括管理する者を指します。
参考:厚生労働省 安全衛生に関するQ&A「総括安全衛生管理者について教えて下さい。」
安全管理者・衛生管理者
安全管理者・衛生管理者には資格が必要です。安全管理者は、条件を満たしたうえで安全管理者選任時研修を受講する必要があります。衛生管理者の場合は、業種に応じた資格が必要です。
衛生管理者はストレスチェックの実施や産業医とやり取りする窓口になることが多いため、職場の状況を把握しており、かつ役職者でない従業員を専任することが望ましいとされます。
参考:
・厚生労働省 安全衛生に関するQ&A「安全管理者について教えて下さい。」
・厚生労働省 安全衛生に関するQ&A「衛生管理者について教えて下さい。」
産業医
産業医は、労働者の健康管理等を職務として行います。安全衛生委員会において、医療の専門家として職場の環境や労働災害防止のアドバイスをする立場です。安全衛生委員会(衛生委員会・安全衛生委員会)に対して、労働者の健康を確保する観点から必要な調査や審議を求めることができます。
安全衛生委員会の構成員として出席するのが望ましいとされていますが、出席義務はありません。産業医に積極的に活動に参画してもらうには、委員会の開催日を産業医が巡視を行う日に合わせます(産業医は月1回以上職場巡視を行う義務があります)。来られない日は、前もって議題を共有して助言をもらっておくとよいでしょう。
また、産業医が辞任や解任に至ったときは、安全衛生委員会・衛生委員会に報告することが事業者に義務付けられています。
関連ページ:健康管理の方法と産業医の活用|@人事
開催頻度
安全委員会・衛生委員会共通で、月1回以上、委員会を開催することというルールがあります。
原則月1回の開催ですが、災害・緊急時には臨時開催が求められます。
周知のしかた
安全委員会・衛生委員会ともに労働者に議事の内容を周知する義務があります。
(1)見やすい場所に掲示する、(2)書面で労働者に送付する、(3)電子記録に残す、など労働者に分かりやすい形で明示しましょう。
議事録
安全委員会・衛生委員会ともに議事録として以下の内容を残さなければなりません。
- 委員会の意見および意見を踏まえて講じた措置の内容
- その他、委員会の議事で重要なもの
議事録は3年間保存することと定められています(安全衛生規則第23条)。
安全委員会・衛生委員会の主な付議事項
主な審議事項を簡単にまとめると、以下のようになります。詳細は労働安全衛生法第17条・第18条や厚生労働省のQ&Aページを参照してください。
- 労働者の危険防止対策関連
- 安全に関する労働災害の原因と再発防止対策
- 安全に関する規程の作成関連
- 安全衛生に関する計画関連
- 安全教育関連 など
- 労働者の健康障害防止のための基本的対策関連
- 労働者の健康の保持増進のための基本的対策関連
- 衛生に関する労働災害の原因と再発防止対策
- 衛生に関する規程の作成関連
- 安全衛生に関する計画関連
- 衛生教育関連
- 化学物質の有害性・作業環境測定の結果と対策関連
- 定期健康診断等の結果と対策関連
- 長時間労働による労働者の健康障害の防止対策関連
- 労働者の精神的健康の保持増進対策関連 など
2023年の法改正で衛生委員会の付議事項を追加
労働安全衛生法の改正により、衛生委員会の付議事項に下記の項目が追加されます。化学物質や濃度基準値設定物質へのばく露に関する事項ですので、関連物質を取り扱う可能性のある業種では、議論の対象として加える必要があります。
1. 労働者が化学物質にばく露される程度を、最小限度にするために講ずる措置に関すること。
2. 濃度基準値設定物質について、労働者がばく露される程度を濃度基準値以下とするために講ずる措 置に関すること。
3. リスクアセスメントの結果に基づき、事業者が自ら選択して講ずるばく露防止措置の一環として実 施した健康診断の結果と、その結果に基づき講ずる措置に関すること。
4. 濃度基準値設定物質について、労働者が濃度基準値を超えてばく露したおそれがあるときに実施した健康診断の結果と、その結果に基づき講ずる措置に関すること。
なお、このうち「1」は2023年4月から施行されており、「2」~「4」は2024年の4月から施行されます。
安全衛生委員会の進め方や議題例
人事・総務担当者の中には、「具体的な運営方法が分からない」「議題は何にすれば良いのか」と悩む方もいるでしょう。ここでは委員会の進め方や議題例を紹介します。
安全衛生委員会の進め方
安全衛生委員会は以下のような流れで進めます。
(1)委員を選出→(2)規程作成→(3)計画→(4)委員会を開催→(5)振り返り
(1)委員を選出する
労働安全衛生法の規定に基づいて、必要なメンバーを集めます。
(2)規程を作成する
委員会を設置したら、審議事項や委員の任務について定めた「安全衛生委員会規程」を作成します。法律で義務付けられてはいませんが、円滑な運営のために作成するのが望ましいです。
参考:東京労働局「4-6 作成例 安全衛生委員会規程」
(3)年間計画を立てる
委員会実施の効果をより着実なものにするため、月ごとに年間計画を立てます。以下は製造事業者における作成例です。
出典:厚生労働省「安全衛生管理・活動の進め方」より
(4)委員会を開催する
計画を立てたら、委員会を実施します。
(5)振り返り
適宜、活動の途中で振り返りを行います。成果や目標の妥当性、改善点などを整理し、今後の委員会活動に役立てます。
議題例37個
安全衛生委員会の議題例を紹介します。議題は、季節に関連した病気や会社で推進したいことに関する内容を取り上げると良いでしょう。
(1)春に関連したテーマ
- 花粉症
- 五月病、メンタルヘルス不調
- 健康診断の目的や検査項目
- 喫煙と健康の関係(5/31は世界禁煙デー)
(2)夏に関連したテーマ
- 夏バテ、熱中症
- 紫外線
- 食中毒
- 冷房の使い方
(3)秋に関連したテーマ
- インフルエンザ予防
- がん検診(10/1はピンクリボンデー)
- ドライアイ(10/10は目の愛護デー)
(4)冬に関連したテーマ
- ノロウイルス
- ヒートショック
- 湿度
- 温度管理
- お酒との付き合い方(忘年会シーズン前に)
(5)健康管理・予防
- 健康寿命を延ばすには
- 肩こり解消
- 腰痛改善
- 睡眠のとり方
(6)生活習慣病
- 高血圧
- 動脈硬化
- 糖尿病
- 脂質異常症
- 肥満・メタボ
(7)ストレス・心の病気
- 自律神経失調症
- うつ病
- 休職・復職
(8)女性に特有の病気
- 低血圧
- 貧血
- 更年期障害
(9)働き方
- 長時間労働の影響
- ワークライフバランスの推進
- セクハラ・パワハラの対処
(10)その他
- 防災対策
- スマホ・タブレットの影響
- アンガーマネジメント
- 職場のコミュニケーション
マンネリ化を防ぎ、意義ある委員会に
安全衛生委員会は、労災の防止や職場環境改善のためのものです。しかし、委員会を開催するうちに、目的意識が薄れ、委員会がマンネリ化してきてしまうケースも見られます。そうした場合は、議題が自社の実態に沿っているか見直してみたり、各委員にただ会議に参加してもらうだけでなく、発言・発表の機会を与えて能動的な参加を促したり、意義ある委員会の開催に努めることが必要です。
※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。
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