休職中の従業員の給料はどうする? 保険手当の申請手順も解説
休職は従業員の福祉や健康を支えるための重要な制度です。人事・労務担当者は、休職時の給与の扱い、保険手当の申請方法など、いくつか押さえておくべきポイントがあります。ここでは、休職と休業の違い、従業員が休職した際の給料の支払いの有無、休職中に申請できる各種手当について解説します。
目次
休職中の従業員の給与・手当について
休職中の従業員に対し、会社は給与および何らかの手当を支払うべきでしょうか。休職の種類、休業との違いとともに、休職中の給与支払いや有給休暇の取り扱いについて解説します。
休職とは
休職とは、健康上の理由や家族のケア、個人的な事情などによって、従業員が一時的に職務を離れることを指します。
休職は従業員の福祉を考慮した制度であり、該当者が一定期間、職務から離れても、その職を保持できるようにするためのものです。休職期間が終了すれば、従業員は元の職務または同等の職務に復帰することが期待されます。休職の条件や期間、復帰に関する規定は会社によって異なります。
休職の種類
休職にはさまざまな種類があり、それぞれに特定の条件や規定が存在します。基本的な種類として以下が挙げられます。
・傷病休職
・自己都合休職
・留学休職
・公職就任休職
・事故欠勤休職
・起訴休職
・組合専従休職
従業員が休職を希望する際には、その理由と種類を正確に把握し、適切な手続きを案内する必要があります。また、休職期間中の従業員のフォローアップや復職時のサポートも重要な役割となります。
近年増加している、うつ病などのメンタル不調が理由で休職する場合は傷病休職にあたります。関連記事では、従業員がうつ病で休職する際の対応についても解説しています。
関連記事:うつ病で社員が休職! 正しい対応は? 休職期間の決め方など流れで解説
休業との違い
休職と休業は、従業員が職務を一時的に離れる状況を指しますが、その背景と法的な扱いは異なるため、人事・労務担当者はこれらの違いを正確に理解しておく必要があります。
休職は、従業員の個人的な事情によるものです。これには健康問題、家族のケア、個人的な学業や研修などが含まれます。休職は多くの場合、従業員の申し出によって始まり、従業員が一定期間後に職場に復帰することを前提としています。例外的に、従業員の心身の健康への配慮といった理由から、会社が休職命令を出すこともありますが、本人の明確な同意を得られないとトラブルに発展するリスクもあるため注意が必要です。
一方で、休業は会社都合や制度、自然災害、その他の外部要因によって決定されるもので、育児休業や介護休業もこれに含まれます。また、休業の場合、従業員に対する一定の給与保証が法律で義務付けられています。休業は一時的な措置であり、事業状況が改善されれば従業員は通常の業務に復帰します。
基本的に給与の支払い義務はない
休職については法的な決まりはなく、自社の就業規則において休職中に給与を支払うという記載がなければ、支払う義務はありません。休職期間中、従業員は就労を免除(禁止)されている状態なので、給与は発生しないという考え方がベースになります。
休職期間中の有給休暇申請について
休職期間中に従業員から有給休暇申請があった場合は有給休暇を付与することはできません。休職は労働義務がない状態であり、給与付きで労働を免除する有給休暇の対象には該当しないからです。休職前であれば有給休暇を付与できるため、休職のタイミングについて従業員と相談するのが良いでしょう。
各種保険手当の申請条件・給付額・申請手順について
従業員が病気やけがで休職した際に受け取ることができる主な給付金として、傷病手当金と休業補償給付が挙げられます。
休職中は会社から給料が支払われないケースが多いため、従業員は生活費や治療費の捻出に困るかもしれません。そうした金銭的な負担を軽減するのが以下の手当です。ここでは、それぞれの手当の申請条件や給付額、申請手順などについて説明します。
傷病手当金(健康保険)
健康保険から給付される手当金で、健康保険加入者が病気やけがで働けなくなり、給与が受け取れない状況にあるとき、給与額の約2/3が支給される制度です。傷病手当金は、業務外の病気やけがによる休職時のみ申請できます。連続3日間の休みの後、4日目から支給が始まります。
支給期間は最長1年6カ月で、これを超えた場合は傷病手当金は支給されません。ただし、2022年4年1月1日から支給期間が通算化されたため、支給期間中に職場復帰するなどして傷病手当金が支給されない期間がある場合、支給開始日から起算して1年6カ月を超えても、休職期間が通算で1年6カ月を超えない限り繰り越しての支給が可能です。
傷病手当金の申請条件
(1)業務外の事由による病気やけがの療養のための休業であること
(2)労働できない状態であること
(3)連続する3日間を含み4日以上労働できない状態であること
(4)休業した期間について給与の支払いがないこと
上記4つを全て満たしている場合、申請が可能です。
傷病手当金の給付額
傷病手当金の額は、就労できない日1日につき、標準報酬日額(※1)の2/3が支給されます。1日あたりの給付額は以下のように算出されます。
傷病手当金(1日あたり)=「支給開始日(※2)以前の継続した12カ月間の各月の標準報酬月額を平均した額」÷30日×2/3
※1 入社時の報酬によって決められ、毎年決め直されます。また、報酬が大幅に変動したときも決め直されます。報酬とは、基本給、残業手当、住宅手当、通勤手当、家族手当、勤務手当など労働者が労働の対償として受け取るすべてのものをいいます。年3回以下の賞与は含まれません。
※2 支給開始日は、最初に給付が支給された日のことを指します。
給付額例(1日あたり)は以下の通りです。
標準報酬月額が26万円の場合
26万円÷30日×2/3=5,780円
傷病手当金の手続き
Point
- 傷病手当金を申請してから支給開始まで最低でも1カ月ほどかかる。
- 傷病手当金の時効は2年。
- 給与の締切日(1カ月)ごとに申請するのが一般的。
傷病手当金申請の流れ
STEP1:医師や本人から療養が必要である報告を受ける
STEP2:申請書を用意する
STEP3:「本人記入欄」を従業員に記入してもらい、添付書類を用意してもらう
STEP4:「医師記入欄」を医師に記入してもらう
STEP5:「会社記入欄」を埋め、健康保険組合に提出
傷病手当金の申請は手続きが多く、申請書提出後の審査に時間がかかるため、支給開始まで1~2カ月程度かかるといわれています。会社側は、申請書を用意して渡す、必要書類一覧を伝える、会社記入欄を迅速に記入するなど、休職する従業員がスムーズに申請できるようサポートしましょう。なお、傷病手当金の申請書は健康保険組合のサイトからダウンロードできます。
傷病手当金支給における注意点
上記のように申請を行えば、病気やけがによって休職している従業員に傷病手当金が給付されますが、注意点もあります。傷病手当金の給付を受けるためには、従業員が社会保険の加入者であることが前提です。そのため、たとえ休職中であっても、本人と企業双方が社会保険料を支払い続けなければなりません。人事・労務担当者は従業員に対し、休職期間中の社会保険料の支払い義務や金額の目安について事前に説明しておきましょう。
ちなみに、休職中は給与が発生しないため、雇用保険料を支払う必要はありません。
休業(補償)給付(労災保険)
休業(補償)給付とは、労災保険による手当の1つです。業務または通勤が原因の病気やけがによる休業中の所得を補償します。休業の初日から第3日目までを「待機期間」といい、この間は業務災害の場合、事業主が休業補償(1日につき平均賃金の60%)を支払わなければなりません。待機期間を過ぎた第4日目から休業(補償)給付と休業特別支給金が支給されます。休業(補償)給付・休業特別支給金の申請条件・給付額は以下の通りです。
※休業(補償)給付と休業給付の違い……業務上の理由の場合は休業補償給付、通勤が原因の場合は休業給付と呼びます。ただし受けられる補償内容は同一です。
休業(補償)給付の申請条件
(1)業務上の事由または通勤による負傷や疾病で、療養していること
(2)上記理由のため、労働ができない状況であること
(3)賃金を会社から支給されていないこと
上記3つを全て満たしている場合、申請が可能です。
また近年、精神障害による労災請求件数が増加傾向にあることを受け、厚生労働省は「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」(2011年策定)を改正し、2023年9月1日に施行しました。これにより、精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲が広げられています。人事・労務担当者は概要をよく理解しておきましょう。
休業(補償)給付の給付額
「給付基礎日額」と「休業日数」を基準として算出されます。計算式は以下の通りです。
休業(補償)給付=給付基礎日額の60%×休業日数
休業特別支給金=給付基礎日額の20%×休業日数
つまり、休職期間中は賃金の80%(休業(補償)給付60%+休業特別支給金20%)が支給されます。また、「給付基礎日額」とは、原則として、労働基準法の平均賃金に相当する額をいい、医師の診断によって疾病が確認された日の直前3カ月間に被労災者に対して支払われた金額の総額(賞与や臨時に支払われる賃金を除く)を日数で割った額です。
休業(補償)給付の手続き
Point
- 休業(補償)給付の時効は2年。
- 休業が長期にわたるときは、1カ月ごとに請求するのが一般的。
休業(補償)給付は、療養のため労働できないことを理由とした賃金を受けない日ごとに請求権が発生します。請求権が発生した日の翌日から2年を経過すると請求権が消滅します。
申請の流れ
STEP1:休業(補償)給付の請求書を入手
STEP2:指定の医療機関を受診
STEP3:会社の証明欄を記入・押印
STEP4:医療機関に治療期間などを記入してもらう
STEP5:労働基準監督署に提出
請求書は、業務災害の場合「休業補償給付支給請求書 様式第8号」を提出します(通勤中の災害が原因の場合は「休業給付支給請求書 様式第16号の6」を提出)。様式は厚生労働省のWebサイトより、ダウンロード可能です。
参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「休業(補償)等給付 傷病(補償)等年金の請求手続」
休業(補償)給付支給の注意点
労災などによる休業中であっても、社会保険料は本人と企業双方が支払わなければなりません。トラブルを避けるために、金額の目安や徴収方法は事前に従業員と話し合って決めておきましょう。
まずは人事担当者が制度の理解を
休職中、給与が支払われない間は従業員の生活負担が大きくなります。従業員の休職中の不安を少なくするため、人事・労務担当者自身が制度を理解し、手当金の手続きを迅速に行いましょう。また、申請手続きに慣れていない会社では、休職者が出たときに備えて、担当窓口の設置やマニュアルの作成など、事前の準備が大切です。
【編集部より】
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