近年、労務管理におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)が注目されています。企業の競争力を高めるための戦略として、ペーパーレス化やデジタル化の取り組みにはどのような準備が必要になるのでしょうか。このページでは、労務管理のペーパーレス化の実態から、その必要性、メリット、実践的なポイントまでを詳しく解説します。
目次
労務管理のペーパーレス化は、業務効率化やコスト削減を目指す上で重要な取り組みです。実際にどれくらいの企業でペーパーレス化が行われているのでしょうか。
バックオフィスでは、伝統的に紙ベースの業務が主流で、この慣習からの脱却が難しい場合が多いです。ある調査によれば、バックオフィス担当者の半数以上が紙の資料を「毎日使用している」と回答しており、9割以上が「週に1日以上」使用していることが判明しました。
出所:「アドビ、『バックオフィス業務のデジタル化に関する調査』の結果を発表」をもとに作成
新しいシステムやツールの導入による効率化は、初期の段階では操作の難しさを感じさせることがあります。特に、中高年の従業員の中には、デジタルツールに対する抵抗感を感じる人もいます。紙ベースの業務からの転換への躊躇(ちゅうちょ)が、ペーパーレス化・DX化の道を阻んでいます。
紙文化の根強さと変化への抵抗があるとしても、近年、ペーパーレス化を促進する法改正が進んでおり、企業はペーパーレス対応を迫られています。以下にその理由を述べます。
行政手続きの効率化を目指す一環として、2020年4月から特定の法人では社会保険・労働保険に関する一部の手続きにおける電子申請が義務化されました。
社会保険・労働保険の電子申請義務化の対象となる「特定の法人」とは以下の通りです。社会保険労務士が手続きを代行する場合も、下記のいずれかに該当する法人であれば対象になります。
また、電子申請が義務化される「一部の手続き」は、以下の通りです。
健康保険 厚生年金保険 |
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労働保険 |
継続事業(一括有期事業を含む)を行う事業主が提出する以下の申告書
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雇用保険 |
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手続き方法はe-Gov電子申請システムによる申請、あるいはe-Gov電子申請システムとAPI連携した労務管理システムによる申請のいずれかになります。
社会のデジタル化を前提に、経理の電子化による生産性及び記帳水準の向上を目的として、2022年に「電子帳簿保存法」が改正されました。これにより、電子取引における書類の保存方法が、印刷・紙保存から電子データ保存へと変更され、義務付けられました。また、電子データ保存に際しての隠蔽(いんぺい)や改ざん行為があった場合、その税額に対して重加算税が10%課されることになりました。
このような法的な背景も含め、企業はペーパーレス化の取り組みを進めるべき状況にあります。
全国的にペーパーレス化・DX化が推進されている中、企業には実際どのようなメリットがもたらされるのか紹介します。
ペーパーレス化により、物理的な書類の保管や印刷にかかるコストを大幅に削減できます。
従来、企業は大量の紙を消費し、それに伴う印刷コストや保管スペースの確保が必要でした。しかし、ペーパーレス化を進めることで、これらのコストを削減できます。特に大企業の場合、年間でのコスト削減効果は非常に大きいと言えるでしょう。
例えば、長野県長野市では会議資料の準備における手間とコストに関する課題に対して、会議において使用される大量の紙を削減するために「ペーパーレス会議」を実践しました。その結果、約14万枚の紙の削減と、約300万円の印刷費用(カラーコピー代1枚21円換算)が削減できました。
デジタルデータに変換することにより、ワークフローの簡略化・情報共有の迅速化が実現され、業務効率が向上します。
従来の紙ベースでの各種申請や稟議(りんぎ)では、紙で文書を作成し、その文書に直接押印しなければならなかったため、承認までのスピード感に限界がありました。しかし、その手続きをオンラインで完結できるシステムに置き換えれば、業務スピードが大幅に向上します。
例えば、株式会社野村総合研究所ではオフィス内に紙があふれ、円滑な業務遂行や情報セキュリティに問題があるという課題に対し、ノンペーパーに取り組んで業務の生産性向上を目指しました。具体的には、紙を使用しないノンペーパー会議の実施や、会議資料や議事録を電子データ化して情報共有するなどを実行しました。
その結果、紙代の削減になっただけでなく、電子ファイルによって情報共有・更新が円滑に行われるようになったことで社員がチームで仕事をしやすくなったという効果を得られました。また、紙資料を配布する必要がなくなり、その分の時間を業務にあてられるようになりました。
デジタル化された文書は、編集履歴やアクセスログなどの情報も一緒に管理でき、データの透明性が向上します。
デジタルデータであれば、いつでもどこでも編集履歴やアクセスログを確認できます。これにより、誰がいつどのデータを編集したのか、どのデータが最も頻繁に参照されているのかなどの情報が手に入り、業務の状況管理にも役立ちます。
また、キーワード検索やデータベースの活用が可能となり、遠隔地の拠点やリモートワーク環境でも情報をリアルタイムで共有できるため、業務の連携もスムーズになるでしょう。
ペーパーレス化により、リモートワークやフレックスタイムなど、多様な働き方を実現できるようになります。従来、人事労務や総務などバックオフィス職は個人情報を扱うという業務の性質上、オフィス出社が原則になっていました。しかし、デジタルデータであれば場所や時間を問わずアクセス可能です。
これにより、リモートワークやフレックスタイムなど、バックオフィス職でも多様な働き方を取り入れることができるようになります。特に新型コロナウイルスの影響でテレワーク・ハイブリッドワークが増加する中、ペーパーレス化は企業の柔軟な働き方のサポートに必要不可欠と言えます。
労務管理に関連する業務は多岐にわたりますが、多くはデジタル化・ペーパーレス化が可能です。具体的には、以下の業務をペーパーレス化できます。
ペーパーレス化と聞くと主に年末調整に適用されるイメージがありますが、それだけではありません。労務管理システムを導入したことでペーパーレス化が実現された企業事例や総務省の取り組み事例を見て、どのようなことが具体的にできそうなのかを参考にしてみてください。
ペーパーレス化の推進が求められる中、どのように効率的にシステムを導入し、運用していくのかがキーとなります。ここからはペーパーレス化導入・運用の手順を解説します。
まずは現在の業務で紙を使用している部分を洗い出し、それによる問題点や非効率な部分を明確にしましょう。
例えば、従業員にアンケートを取るなどして「紙ベースだと回収・集計作業に時間がかかる上にミスも発生している」「紙資料を閲覧するためだけに出社しなければならない」などの問題点をなるべく隅々まで洗い出しておきましょう。
紙業務を整理し、デジタル化すべき業務を明確にしましょう。
書類の申請や報告書の提出、ミーティングの議事録など、紙を使用する業務を一つ一つ洗い出し、どの業務をデジタル化することによって効率化やコスト削減の効果が最大化できるかを評価します。次に、どの部分をデジタル化するか、どの部分を紙のまま維持するかの優先順位を決定し、段階的に取り組めるようにしましょう。
企業のニーズ・状況に合ったツールを選定し、導入することが成功のカギです。
市場には多くの労務管理システムがあります。自社の業務内容や規模、予算に合わせて、最適なツールを選定しましょう。また、システムのサポート体制や機能性、使いやすさも考慮して選定することが大切です。
システムをスムーズに運用するためのルール設定をしましょう。
ペーパーレス化に伴い業務の進め方がこれまでとは変わるため、現場の混乱を招かないように事前に業務フローや社内運用ルールを策定しておくのがベターです。システム導入後の運用ルールを明確にし、全従業員が理解しやすい形で共有しましょう。適宜、質問会など従業員の疑問点を解消するための場を設けることも大切です。
新しいシステムの導入には、従業員の理解と協力が不可欠です。新システム導入の目的や必要性、業務に影響する部分などを説明するためのワークショップを実施し、従業員に理解と協力を促しましょう。
従来のやり方を変えることによる心理的抵抗感を少しでも和らげるために、従業員が新しいシステムを使いこなせるよう経営層・労務側でサポートすることが大切です。
ペーパーレス化の運用を開始したら、定期的に効果検証を実施しましょう。当初洗い出した問題点や非効率的な部分がどの程度改善されたのかを従業員にアンケートを取るなどで確認し、新たに効率的にできる部分はないか運用ルールを都度見直してブラッシュアップしていきましょう。
また、コスト削減効果については長期的な視点で見るようにしましょう。導入してすぐは初期投資のコストの方が大きいため、半年や一年単位で期間を区切り、その期間内でどの程度コストが削減されたか検証します。
ペーパーレス化は、労務管理の効率化やコスト削減を実現するための重要なステップです。しかし、その取り組みを成功させるためには、いくつかのポイントを押さえる必要があります。ここでは、ペーパーレス化を進める際の3つの重要なポイントについて詳しく解説します。
ペーパーレス化を進める際は、どの業務をデジタル化するのか、範囲を明確にすることが重要です。
ペーパーレス化の取り組みを始める際、最初からすべての業務をデジタル化しようとすると、導入のハードルが高く、従業員からの反発も大きくなります。そこで、まずはスモールスタートで始めることをおすすめします。
最もペーパーレス化の効果が期待できる業務から取り組み、成功ノウハウを蓄積してから全社的に横展開していくことで、よりスムーズにペーパーレス化の範囲を広げられるだけでなく、従業員の抵抗感を減少させることができます。
ペーパーレス化を成功させるためには、全従業員が使いやすいツールを選ぶことが必要です。
ペーパーレス化のツールは数多く存在しますが、その中から最も使いやすいものを選びましょう。特に年配の従業員やITに不慣れな人がいる場合、直感的に操作できるシンプルなツールの選定が求められます。
ツールの中には無料トライアル期間を設けているものもあるため、本格導入の前に使いやすさや機能を確認してみるというのも手です。初期投資がどうしてもかかるため、安易に選ばずにさまざまなツールを比較検討しましょう。
ペーパーレス化の投資は、その効果を明確にすることで経営層の理解や支持を得やすくなります。
ペーパーレス化にはシステムの導入などの初期投資が必要ですが、その後のコスト削減や業務効率化による利益増加を考慮すると、長期的には高い費用対効果が期待できます。「それまでにかかっていた印刷代や郵送代などの紙のコスト」と「それに対応していたスタッフの人件費」と、「システム導入・運用費」を比較しましょう。この差額を明確にして、経営層にペーパーレス化の有用性を伝えることで、ペーパーレス化の取り組みをスムーズに進めることができます。
労務管理システムの導入は、ペーパーレス及びデジタルトランスフォーメーション(DX)を効果的に推進する主要な手段の一つです。
労務管理システムを導入することで、従業員の人材データや給与情報、人事評価などの情報を一元的に管理でき、業務の効率化やデータの正確性が向上します。さらにペーパーレス化の実現も可能です。自社のニーズに合った労務管理システムを選定し、ペーパーレス化・DXを推進しましょう。※こちらのページに掲載している情報は2023年9⽉時点のものです。
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