新入社員研修では、入社したばかりの社員が企業の一員として働いていくために、必要なスキルや知識を身に付けます。研修のカリキュラムは多岐にわたるため、企業の業種や社員の職種に応じて、目的に合った内容を組み立てましょう。
このページでは、新入社員研修の主なカリキュラムについて、実施目的と内容を整理。さらに効果的に行うためのポイントを解説します。
学生時代は、自分の意志のままに過ごすことのできる時期です。しかし社会人になってからは、相手中心の考え方ができるように切り替えていく必要があります。
必要な意識変革としては、主に以下のものがあります。
学生 | 社会人 | |
---|---|---|
責任 | 責任はほとんどない | 仕事や社会に対する責任が生まれる |
お金 | 親からの仕送りや奨学金をもらう | 自らの仕事の対価として給料を得る |
身だしなみ | 服装や髪型は基本的に自由 | TPOに合わせた身だしなみが必要 |
言葉遣い | 敬語の使用は限定的 | 敬語を適切に使えることが必要 |
人間関係 | 自分の好みで選べる限定的な人間関係 | 好き嫌いとは関係のない仕事を通じた関係 |
時間管理 | 自由度が高い | 計画的な時間管理が必要、時間厳守 |
立場 | 顧客としてサービスや商品を買う側 | 顧客にサービスや商品を売る側 |
これらの意識改革は、実例を交えて目的を伝えることが成功のコツです。たとえば、TPOに合った身だしなみや正しい敬語を欠いてしまうと、顧客や取引先からのイメージが悪くなり、業績や企業イメージにも悪影響が出てしまいます。先輩の身近な失敗例などがあると、重要性をより実感できるでしょう。
また社会人と学生の考え方の違いについては、参加者同士で討論させるなど、ペアやグループでの実習も有効です。
仕事をしていくうえで必要なスキルは、企業で働く社会人にとっては当たり前でも、新入社員にとってはなじみのないものが多くあります。新入社員がスムーズに社会で働けるよう、入社のタイミングで、ビジネススキルの教育が必要です。
主な学習項目には、以下のものがあります。
顧客や取引先との関係を良好に保ち、仕事を円滑に進めるために必要なマナーを学びます。お辞儀の仕方や挨拶をはじめ、身だしなみ、名刺交換のやり方、席次、敬語、来客応対、会食などについて、基本的な知識とスキルを身に付けさせましょう。
研修を成功させる秘訣は、各項目に合わせて、研修の手法を変えることです。たとえば、身だしなみであれば、チェックリストを用いて参加者同士で問題がないかチェックを行う方法があります。また、名刺交換はロールプレイングが有効です。席次や敬語などは、問題演習も必要となるでしょう。挨拶やお辞儀は、講演者が実演して見せることが重要です。
社員一人ひとりの電話応対が、企業全体の信用や顧客満足度を左右することを学ぶとともに、基本の型や言葉遣いなどを身に付けます。基本の型を教えたら、受講者同士のロールプレイングでスキルを習得させましょう。
毎日の仕事で作成するビジネス文書を、正確かつ効率的に作成するための研修です。メールや社内文書、社外文書、プレゼンテーション資料などの作り方を学びます。
基本の型(ひな形)や表現を提示したのち、実際に文書やメールを作成させて添削する方法が効果的です。仕事で実際に作成するものに近い文書を、課題として作らせるのがよいでしょう。
仕事は、個人プレーではなくチームプレーです。チームワークの重要性と実践方法を学びます。
チームの作り方やチーム内での役割分担、チームでの仕事の進め方などを、実践的に学びます。ペーパータワーなど、ゲーム形式のワークショップが効果的です。
リーダーシップは、指導的立場にある社員だけに必要なものではありません。自ら考え、率先して目標達成に向けて行動できる人材を育成するために、リーダーシップ研修が必要となります。
研修のなかでは、日常の行動を振り返るとともに、今後の自身のリーダーシップスタイルを検討させて、表などにまとめさせる方法が効果的です。また、チームをリードするために必要な態度や行動スタイルについて、ディスカッションしてもよいでしょう。
顧客への商品・サービスの説明、上司への業務報告など、仕事のあらゆるシーンにおいて、相手に情報や意図を正確に伝えるための研修です。「ホウレンソウ」などの基本を押さえるとともに、ロールプレイングを行うことで効果が期待できます。ロールプレイングでは、聞き手、話し手、採点者に分かれ、聞き手が話し手に対してフィードバックし、採点者が口調やスピードなどを客観的にチェックするとよいでしょう。
部門をまたいで複数のメンバーと考えを共有したり、取引先にサービスの魅力を伝えたりする場面では、プレゼンテーションのスキルが重要な役割を持ちます。新入社員研修では、プレゼンテーションの構成やストーリーを考えるスキルと、発表スキルをそれぞれ身に付けさせましょう。
基本の型を説明したのち、実際にテーマを与えてプレゼンテーションを行わせ、フィードバックをすることで効果的にスキルが身に付きます。テーマは、業種や職種ごとに身近なものを選びましょう。
PCスキルは、ほとんどの企業で業務に必須のスキルとなっています。一方、スマートフォンやタブレットの普及によって、PCに触れないまま社会人になるケースも増えているため、新入社員研修での教育が必要となります。
まず、PCになじみのない社員に対しては、ファイルやフォルダと言った概念、プリンターやスキャナーと言った外部デバイスの利用方法、インターネットブラウザやメーラーなどについての基本的な知識を教えることが必要です。
次に、文書作成、表計算、プレゼンテーションの3種類の基本ソフトについて、それぞれの目的と使い方を教えます。講師が実演して見せたのち、受講者に実践させ、講師がチェックしてフィードバックする方法がおすすめです。実際の業務における利用シーンを可能な限り再現するのがポイントです。
筋道の通った考え方ができるようになるための研修です。まず、身近な具体例を提示して、ロジカルシンキングの必要性を理解してもらうことが重要です。たとえば、会議資料の作成に時間がかかっている際、その原因を論理的に考えないと、「仕事のスピードを上げる」という単純な解決策にたどり着いてしまいます。一方、ロジカルシンキングが身に付いている社会人であれば、資料作成の優先順位を決めたり、情報収集の方法を見直したりするなど、合理的な解決策を導けるでしょう。
ロジカルシンキングの研修では、ロジックツリーなどの手法を用い、視覚化しながらロジカルシンキングを実践することが重要です。実際の事業事例などを用い、成功や失敗の要因を考えさせて、討論させる方法を採ると、ロジカルシンキングが身に付けやすくなります。
スキルがあっても、知識が伴っていなければ、そのスキルをうまく発揮できません。また、学生のときと同じような考え方では、仕事をスムーズに遂行できないことも多いでしょう。社会人として生きていくために必要なマインドセットを、研修によって身に付けさせます。
具体的には、以下のものが挙げられます。
経済・経営の知識については、自社や業界に影響を与えるトピックを重点的に解説し、実感を持って学ばせることが成功の秘訣です。
円安・円高、インフレ・デフレ、GDPなどの基礎知識を学んだうえで、日本経済の状況や金融政策、財政政策の知識を得るようにします。
株主総会、取締役会、監査役などの役割、経営理念・経営目標・経営計画・事業計画・業務計画から仕事が生まれていることなど、企業経営の仕組みを理解します。
雇用の流動化が進むなか、社員のキャリアは企業が提示するものではなくなっています。社員一人ひとりがしっかりとしたキャリアデザインをしたうえで、自社に貢献することが理想的です。
まず、受講者それぞれが自己分析して現状を認識するとともに、今後の方向付けを考えます。その際、身近な先輩や上司などの事例からヒントを得られるようにするとよいでしょう。他の参加者と意見交換することも、客観的な視点を得られる点で有効です。
メンタルヘルス対策は、企業の健全な運営のために必須のものとなっています。
新入社員には、休職や職場復帰支援の事例を紹介し、社内におけるメンタルヘルス対策を具体的に理解させましょう。また、メンタルヘルスに関する正しい知識を得られるようにし、メンタル不調の予防と早期発見に向けたセルフケアの方策を教育します。メンタルヘルスケアは誰にとっても必要であることを理解させるため、セルフチェックリストを用いるなどして、当事者化することが重要です。
コンプライアンスは、CSRやリスクマネジメントの観点から重要です。関連する法令や規定、企業倫理などの知識を身に付けさせるとともに、コンプライアンス違反が会社にもたらす影響を具体的に説明します。e-ラーニングなど、問題演習が可能な方法も有効です。
新入社員の配属先が決まってからは、できるだけ早く即戦力となってもらうために、専門性を身に付ける研修を行います。具体的には、以下のような研修カリキュラムが考えられます。
3C分析(Customer、Competitor、Company)、STP分析(Segmentation、Targeting、Positioning)、4P分析(Product、Price、Place、Promotion)といったマーケティングの考え方を学ぶとともに、マーケティングリサーチやコピーライティングの手法を身に付けます。
マーケティングの研修を成功させるには、身近な事例を用いたケーススタディが効果的です。誰もが知っているヒット商品の事例を検証してみるとよいでしょう。研修の終わりでは、実際にマーケティングプランを作成する演習を行います。
コンピュータやネットワーク開発の基礎、データベースに関する基礎を学ぶとともに、それぞれの専門領域に合わせて、プログラミングやインフラについて学習します。具体的なノウハウについては、PC画面を共有した実演が効果的です。また特にプログラミングにおいては、実際に納品物を作成し、フィードバックするという演習が成功のカギになります。
顧客とのアポイントの取り方、商談の進め方、営業案件の管理方法などを学びます。自社におけるケーススタディをもとに、ロールプレイングを行いましょう。社会人経験の浅い新入社員では顧客役になり切れないことが多いため、できるだけ講師が顧客役になり、受講者一人ひとりの営業手法を評価するとよいでしょう。
財務システムの利用方法を学ぶとともに、財務領域の知識を身に付けます。特に、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書などの読み方を学ぶことは必須です。自社で作成している過去の決算書を用いて、安全性や収益性、生産性などの指標を分析させ、発表させるとよいでしょう。
労務、法務などの管理部門については、以下のことを学ぶ必要があります。
新入社員研修には、企業で社会人として働いていくための知識やスキル、心構えを身に付けるさまざまなカリキュラムがあります。全業種・職種に共通のものから、専門性の高いものまで、必要に応じて柔軟にカリキュラムを組むことが大切です。目的に合った新入社員研修を行うことで、効果的な人材育成のスタートを切ることができるでしょう。自社の新入社員研修を振り返り、カリキュラムを整理してみてはいかがでしょうか。
【参考】
眞崎大輔監修、トーマツイノベーション編著『人材育成ハンドブック いま知っておくべき100のテーマ』(ダイヤモンド社、2017年)
※こちらのページに掲載している情報は2017年12⽉時点のものです。
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