給与計算システムを選ぶ上で知っておくべき前提知識、導入のためのステップ、選定のポイントや注意点について解説します。自社のビジネスモデル、職場の環境、予算に応じて最適なシステムを選ぶことで、給与計算にかかる時間と手間を大幅に削減できます。効率的なシステム選びの参考にしてください。
目次
給与計算は煩雑でミスが許されない業務であるため、自社で行うには限界があります。効率化の手段として給与計算システムの導入が考えられますが、選定に失敗してしまうと後々の業務に支障を来します。導入を検討する前に、いくつかの前提知識を把握しておきましょう。
給与計算業務は、社労士や税理士、給与計算代行会社にアウトソーシングもできます。いずれも専門知識とノウハウがあるため、正確な給与計算はもちろんのこと、法令改正への対応もスムーズです。給与計算を外部へ委託することで、人や時間にかかるコストを削減できることが一番のメリットです。
従業員の数が多くて業務が煩雑だったり、担当者が不足している企業はアウトソーシングを検討してみてもいいでしょう。ただし、自社内に給与計算のノウハウが蓄積されない、従業員の個人情報が流出する恐れがあるといったデメリットも知っておく必要があります。
給与計算をアウトソーシングしている場合でも、外注先の方針によっては、データ連携の必要性などから、給与計算システム自体は自社に導入しなければならないケースもあります。契約前に条件をよく確認することが大切です。
関連ページでは、給与計算をアウトソーシングする際の注意点についても解説しています。
特に小規模な企業やスタートアップの場合、コストを抑えるために無料で利用できる給与計算システムを選ぶことも一つの手段です。一部のサービスでは、従業員数が10名までであれば無料で利用できるプランが提供されています。ただし、対応範囲や機能に制限があるため、将来的な拡張性もある程度は考慮して利用を検討しましょう。
例えば、フェーズによって以下のようなツール変遷が考えられます。
多くの場合、給与計算システムはほかのシステムと連携することを前提に提供されています。そもそも従業員の勤怠情報がなければ給与計算はできません。また、支払った給与は会計処理を行って記録する必要があります。そのため、検討の際には勤怠管理システムや会計ソフトとセットで考え、互換性や連携のしやすさを確認しましょう。
給与計算システムはそう何度も変更するものではありません。そのため、選定の経験がなく、どのような点に注意して検討したら良いか分からない担当者がほとんどでしょう。導入事例や口コミ、おすすめサイトなどを読んでみても、そもそも自社の選定基準や評価軸がなければ、書かれている内容をイメージできず、あまり意味がありません。
さらに、複数の給与計算システムを利用してみた比較情報が細かく紹介されているケースはまれでしょう。可能であれば、複数のシステムを実際に試用し、自社の業務に最も適したものを選定することが理想的です。
給与計算システムの導入は、単に新しいツールを取り入れるだけではなく、自社の業務フローを見直し、効率化を図る大切なステップです。導入する際の主要なステップを解説します。
現行の給与計算業務における課題を明確にしましょう。給与計算は、従業員の勤怠情報の確認、給与の計算、給与明細書の作成・発行、支払い、そして賃金台帳への記録など、多くのフローに分けられます。給与計算に関わる各部署や担当者とコミュニケーションをとりながら、どの部分で時間がかかり、どこでエラーが発生しやすいのか、またその原因を明らかにします。
システム導入によってどの課題を解決し、どのような改善を図りたいのかを整理します。勤怠情報を参照しやすくしたい、計算ミスを減らしたい、リモートワーク環境でもスムーズに業務を進めたいなど、具体的なポイントをリストアップしましょう。これがシステムを選ぶ上で大切な基準です。
給与計算は法律や税制に密接に関わる業務です。システム選定時には、専門的な知見がある社労士や税理士などの意見を取り入れることで、見落としがちだった課題に気付けることもあります。
また、自社と契約している社労士や税理士が参照しやすいサービスを選定することで、運用のアドバイスを受けられます。すでに社労士や税理士が使っている給与計算システムがあれば、そろえて活用するのも手でしょう。
いくつか候補が上がってきたら、システムを選定する際の基準を明確化しましょう。導入コストやランニングコスト、製品形態(クラウド型/インストール型/オンプレミス型)、操作性、サポートの対応範囲など、自社の状況とニーズに基づいて条件を絞っていきます。事業拡大に伴う従業員の拡充など、長期的な展望も視野に入れて導入することが大切です。
企業の規模や業務内容が変わることで、必要な機能やデータ量が変動します。また、法改正によって新しい機能が必要になることもあります。給与計算システムが自社のニーズに適しているかどうか定期的にチェックし、必要に応じてアップグレードや買い替えを検討することも大切です。
給与計算システムの種類は非常に多岐にわたるため、選定が難しいと感じる担当者も多いでしょう。分類ごとの違いや考慮すべきポイントを知ることで、自社のニーズとのすり合わせがしやすくなり、必要な要件を特定できます。
大きく分けてクラウド型、インストール型、オンプレミス型の3つの製品形態があります。クラウド型はインターネット経由でサービスを利用し、インストール型は専用のソフトをパソコンにダウンロードして利用します。オンプレミス型は自社のサーバーにシステムを構築して利用するものです。
それぞれに、コスト、機能、カスタマイズ性、セキュリティ面などに特徴があります。リモートワーク下でも利用したい、コストを抑えたいなど、自社のニーズに沿って選定しましょう。
関連ページでは、製品形態別の違いについて詳しく解説しています。
関連ページ:給与計算システムの種類と費用の比較ガイド
給与計算システムには、機能(製品タイプ)ごとの違いもあります。主に、ERP型、人事・労務管理一括型、給与計算特化型に分けられます。ERP(Enterprise Resource Planning)型とは、企業の基幹業務にまつわるデータを一元的に管理・運用できるシステムのことを言います。給与計算をするには勤怠情報をはじめとしたさまざまなデータが必要であるほか、後に会計業務にも関わってきます。そうした経営に関連する幅広い業務を一元管理できる高度なシステムであると言えます。
人事・労務管理一括型は、給与計算だけでなく人事や労務に関する業務も相互に連携して効率化できるシステムのことです。人事データと給与計算がひも付いているため情報の参照がしやすいほか、データの転記、書類作成などもスムーズに行えます。
一方、給与計算特化型はその名の通り、給与計算に関する一連の業務効率化に特化したタイプです。用途と機能がシンプルなため、ほかのタイプと比べて低コストで運用できる点が特徴です。
関連ページ:給与計算システムの種類と費用の比較ガイド
システムごとに、対象としている企業規模は異なります。先に挙げた給与計算特化型は小規模向けのサービスであると言えるでしょう。従業員の人数が増えれば増えるほど、雇用形態も多様化し、給与計算だけでなくあらゆる管理が煩雑になるため、必然的に複雑な計算や連携にも対応可能なサービスを選ぶようになります。
ほかの業務システム(勤怠管理、労務管理、会計など)とシリーズになった製品を販売しているベンダーもあります。提供元をそろえれば、ほかの業務システムとの互換性が高いため連携がスムーズです。一方、必要とする機能やコストなどとの兼ね合いで、それぞれ違ったベンダーの製品を利用する場合もあるでしょう。自社の業務フローに適した方を選択しつつ、シリーズ以外のサービスを選ぶ際にはデータ連携できるかどうか確認する必要があります。
販売管理システムや人事管理システム、そのほかのツールなどとの連携機能の豊富さも、企業にとっては重要なポイントかもしれません。単純に機能が多ければ良いということではなく、自社が使っているシステム、ツールとの連携性を確認することが大切です。
また、連携可能であるとしても、一部のデータは手動で入力しなければならなかったり、CSVファイルをダウンロードして取り込む必要があったりと、実際の対応範囲はサービスによって大きく違うため、何をもって「連携」としているかはよく確認しましょう。
料金体系は、システム選定において重要な要素です。従量課金型、買い切り型、初期費用やサポート・保守費用が必要なものなど、料金体系は多岐にわたります。予算内で最もコストパフォーマンスが高いシステムを選び、予期せぬコストが発生しないようにしましょう。
関連ページ:給与計算システムの種類と費用の比較ガイド
企業独自の手当や給与計算のルールがある場合、カスタマイズ可能なシステムを選ばないと二度手間になってしまい、業務効率化がかなわないケースもあります。
例えば、特定の資格やスキルといった人事評価と関連する計算根拠があるときに、そのルールを適用できない給与計算システムも存在します。細かなカスタマイズの要件に対応できるサービスを選定しなければなりません。
給与計算は、従業員一人ひとりの勤怠情報、福利厚生の加入状況、各種手当の額など、さまざまなデータを考慮して行わなければなりません。特に社会保険料や税金の計算は骨が折れる作業です。給与計算システムはこれらを効率化するためのものですが、より複雑・高度な処理に標準対応しているかもチェックすると良いでしょう。
例えば、ファームバンキング(一括での給与振込)機能を標準搭載しているサービスもあります。使い勝手やコストなど、自社の要件とすり合わせながら検討するのが良いでしょう。
給与計算機能がある人事・労務管理システムや勤怠管理システムを選ぶのも一つの手です。人事・労務管理で扱うデータのすべてが給与計算に関わるわけではありません。メインで注力したい業務からシステムを選定することで、必要最低限のコストで業務を効率化できる場合もあります。
自社のニーズや目的に合わない給与計算システムを導入してしまうと、後になって不都合が出てきたり、トラブルの発生につながるリスクが高まります。いくつかの注意点を念頭に置きつつ慎重に選びましょう。
給与計算システムの一番の目的は正確な給与計算とその効率化です。基本的な計算機能に大きな違いはなく、数字を入力すれば結果が算出されるため、どれも似たり寄ったりだと感じるかもしれません。サイトや資料では「シンプルな操作」「自動計算」など、分かりやすい言葉でサービスがアピールされていますが、これらの表現は非常に抽象的で、使い勝手やエラーが発生した際の対応など、細かな点は書かれていないことがほとんどです。内容をうのみにせず、トライアル期間で実際に操作をして確かめたり、ベンダーに話を聞いて詳細を把握する必要があります。
説明を聞いても、実際にシステムを使ってみなければ気付けないこともあります。作業中に待ち時間が生じるのか、各ページが参照しやすいかといった細かい部分は言葉では説明できないからです。また、担当者の数や着手する順番など、業務フローは企業によって異なります。担当者の知識レベルとの相性もあるでしょう。デモ版や無料トライアルがあれば必ず活用し、実際の業務プロセスと照らし合わせることが大切です。
例えば「勤怠情報の自動取り込み」といった機能があっても、サービスによってはその対応範囲が異なります。同じシリーズの製品情報しか取り込めないケースや、「自動」をうたってはいるものの従業員の勤怠情報をCSVデータで一つずつダウンロード・アップロードするまでは手動で行わなければならないケースなど、あえて言語化されていないことも多いのです。
ほかにも、法改正に対応したアップデートがあるか、その際に追加費用がかかるか、サポートがどれくらい充実しているかなど、各項目の対応範囲についてベンダーに質問して、疑問点は残さず解消しましょう。
給与計算システム選定のポイントは、実際の運用を具体的にイメージし、システムの機能や特徴と自社の業務フローをしっかりとすり合わせることです。また、システムの導入後も運用をスムーズに行うために、サポート体制や将来的な拡張性なども視野に入れて選定を行いましょう。システムが企業の成長や変化に柔軟に対応できるかを見据え、長期的なパートナーシップを築けるシステムとベンダーを選びましょう。
関連ページでは、給与計算システムの導入を失敗しないためのポイントについて、より詳しく解説しています。
関連ページ:給与計算システム導入・乗り換え時によくある失敗例|原因と注意点を解説!
※こちらのページに掲載している情報は2023年10⽉時点のものです。
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