給与計算の3つのリスクと給与計算システム導入のメリット・デメリット

給与計算は企業にとって不可欠な業務です。しかし、計算ミスが原因で従業員が不満を持ったり、労働基準法違反による行政処分を受けたりするリスクもあります。給与計算は複雑で、人為的なミスを避けるのは難しいのが現状です。こうした課題を解決するために、給与計算システムの導入を検討する企業が増えています。

本ページでは、給与計算に伴うリスクと給与計算システムのメリット・デメリットについて解説します。給与計算システムの導入を検討している企業は、ぜひ参考にしてください。

目次

給与計算システムとは

給与計算システムとは、従業員の勤怠データと雇用情報などから給与計算を行い、業務を自動化・効率化するためのシステムです。給与計算の基本を理解することが、このシステムの重要性を把握する鍵となります。そこで、給与計算について簡単に説明します。

給与計算とは、従業員に支払う給与額を計算する業務です。給与は基本給、各種手当、そして控除から成り立っています。基本給は従業員の職位や経験にもとづき、手当には残業代や家族手当、通勤手当などが含まれます。控除は、所得税や住民税、社会保険料などです。

企業の規模や従業員数に応じて、給与計算の複雑度は異なります。小規模企業では手動での給与計算が一般的ですが、中大規模企業では給与計算システムの導入が進んでおり、業務の効率化が進められています。

会計ソフトと給与計算システム(ソフト)の違い

会計ソフトと給与計算システム(ソフト)は、どちらも企業の財務処理を支援するソフトですが、主な機能や対象範囲が異なります。

会計ソフトは、企業のお金の動きを記録・管理し、決算書を作成するためのものです。売上や仕入、経費などの情報を入力することで、収益、利益、資産、負債などの財務状態を把握できます。

一方、給与計算システム(ソフト)は、従業員の給与を計算・管理するためのものです。勤怠データや給与規定などの情報をもとに、給与額を算出し、給与明細を作成します。また、社会保険料や所得税などの控除も計算します。給与計算ソフトで算出されたデータは、会計ソフトにも入力されるため、正確な給与計算が求められます。

両者の違いは、以下のとおりです。

会計ソフト 給与計算システム(ソフト)
目的 企業の財務状況を把握・報告する 従業員の給与を計算する
主な機能 仕訳、決算書作成、資金繰り表作成、税務申告書作成など 給与計算、給与明細作成、源泉徴収票作成など
導入費用 数万~数百万円 数万~数十万円

給与計算システム(ソフト)は、給与計算業務を効率化したい企業におすすめです。一方、会計ソフトは、企業の財務全般を管理したい企業に向いています。
なお、給与計算と会計の両方の機能を持つ統合ソフトも存在し、これにより企業の財務業務をより効率的に運営できます。

関連ページ:「会計ソフト完全ガイド|@人事」

押さえておくべき給与計算のリスク

給与を正確に支払うためには、労働基準法や社会保険制度などの法律や規則の遵守は欠かせません。給与計算には多くのリスクが伴います。ここでは、押さえておくべき給与計算のリスクについて解説します。

3つのリスク

給与計算のリスクは、大きく分けて以下の3つに分けられます。

税務

給与計算には、所得税、住民税、社会保険料などの税務処理が必要です。さらに、法令改正にも適切に対応する必要があります。法令への適応不足や計算、入力のミスがあると、納税額に誤りが生じたり、税務調査の対象となる可能性や、税務当局からペナルティを受けるリスクが増えます。

労務

労務に関するリスクは、給与計算のミスによって従業員とのトラブルに発展することです。給与の計算ミスや、残業代の未払いなどは、従業員の不満や不信感を招くだけでなく、訴訟に発展する可能性もあります。また、これらの問題は労働基準法違反となることもあり、企業にとっては大きなリスクとなり得ます。

情報漏えい

情報漏えいとは、個人情報や機密情報が不正に取得され、外部に流出してしまうことです。給与計算に関連する従業員の氏名、住所、勤務先、給与額などの情報が漏えいすると、従業員のプライバシーが侵害されるリスクのみならず、その情報が悪用される恐れも生じます。さらに、企業の信頼性にも影響が出る可能性があります。

リスクを軽減する対策

給与計算のリスクを軽減するためには、以下の対策を講じることが重要です。

・専門知識を持った担当者を配置する
・給与計算ソフトやシステムを導入する
・定期的なチェックや監査を行う

外部の専門企業への給与計算業務の委託も考慮すると良いでしょう。これにより、専門家の知識と経験を利用して、リスクをさらに低減することが期待できます。リスクをしっかりと認識し、適切な対策を実施することが大切です。

もし手作業だったら?

手作業による給与計算はミスが起こりやすく、従業員数の増加に伴い、作業量も増えるため、時間と労力が大きくかかります。これは効率的とは言えません。
給与計算システムの導入を検討する際、現代の給与計算の複雑さを理解することがキーとなります。全てを手作業で行う場合、以下のような多くの課題やリスクが生じる可能性があります。

関連ページ:給与計算システム導入・乗り換え時によくある失敗例|原因と注意点を解説!

決まりごとを覚える

給与計算には、基本給や残業代の計算方法、各種手当の支給条件、税金や社会保険料の計算方法など、多くのルールが関わってきます。これらのルールは、従業員の年齢や勤務形態によって異なることもあり、全てを正確に把握することは容易ではありません。

記録を確認する

給与計算には、勤怠データの確認が欠かせません。さらに、社員の特別な状況、例えば育休からの復帰後の時短勤務や、会社の任意参加イベント、遠方への出張など、勤務時間の計算が複雑になるケースも考慮する必要があります。

最新の法律を知る

給与計算に関わる法律やその解釈は頻繁に更新されるため、最新の情報を常に把握し、それを給与計算に適用することが必要です。特に、社会保険料の率や副業に関する規定など、細かな変更が頻発する部分に注意が求められます。これらの変更を手作業で追い続けることは大変であり、ミスのリスクも高まります。

給与計算システムでできること

給与計算システムは多岐にわたる種類と機能を持っています。システムを選択する際には、企業の規模や業務内容、必要な機能などを考慮して、最適なシステムを選択することが重要です。

給与計算システムには、大きく分けて以下の3つのタイプがあります。
・給与計算特化タイプ
・人事システムタイプ
・ERPタイプ

対象人数や主な機能などを比較すると以下のとおりです。

給与計算特化タイプ 人事システムタイプ ERPタイプ
対象人数 ~50名 50~100名 100名~
主な機能 給与計算に特化 給与計算に加えて人事管理機能も搭載、 基幹業務と連携
導入コスト 低〜中 中〜高
カスタマイズ性 低〜中

関連ページ:給与計算システムの種類と費用の比較ガイド

給与計算特化タイプ

給与計算特化タイプは、給与計算に特化したシステムです。給与の基本的な計算をはじめ、年末調整の準備にも対応できます。また、税務処理や法令改正に迅速に対応するためのアップデート機能も搭載されていることが多いです。主に50人以下のスタートアップや小企業を対象としており、10人以下の企業向けに無料プランが提供していることもあります。

人事システムタイプ

人事システムタイプは、給与計算だけでなく、人事業務全般をサポートするシステムです。勤怠管理、人事評価、教育研修の管理など、多岐にわたる人事業務を一元的に管理できます。規模としては、50〜100人の中小企業が対象です。

ERPタイプ

ERP(Enterprise Resource Planning)タイプは、会計や販売、購買などの基幹業務を統合的に管理するシステムです。給与計算もその一部として取り扱われます。基幹業務を一つのシステムで管理することにより、経営資源の最適化を図ることが可能です。このタイプは、100人以上の中小から大企業が対象です。

給与計算システムの種類

給与計算システムの選択は、連携機能や料金体系、カスタマイズの可否など、多くのポイントを考慮する必要があります。どのシステムを選ぶべきかは、会社の規模や成長の度合いに大きく依存します。

関連ページ:給与計算システムの種類と費用の比較ガイド

給与計算システムには、大きく分けてクラウド型、オンプレミス型、インストール型(パッケージ型)の3つの種類があります。

クラウド型 オンプレミス型 インストール型(パッケージ型)
利用環境 インターネット上 自社のサーバー パソコン
主な特徴 ・現代の主流
・導入が簡単
・カスタマイズ性が高い
・セキュリティが高い
・買い切りのソフト
・DVDなどで提供
費用 利用者数に応じて変動 初期投資が高い 一般的に3~5万円
対象規模 一般的な企業 大規模な企業や複雑な給与計算を行う企業 小規模な企業や個人事業主

クラウド型

クラウド型は、インターネット上で利用できるシステムです。現代の給与計算システムでは、クラウド型が主流となっています。利用者数に応じて料金が変動することが一般的です。

オンプレミス型

オンプレミス型は、自社のサーバーにシステムを構築して利用します。カスタマイズ性に優れており、大規模な企業や複雑な給与計算を行う企業に適しています。

インストール型(パッケージ型)

インストール型は、パソコンに直接インストールして使用するソフトウェアで、DVDなどのメディアで提供されることが多いです。かつては主流でしたが、現在も一定の需要があります。価格は3~5万円程度が一般的で、オンプレミス型より導入コストが低いため、小規模企業や個人事業主に向いています。

給与計算システムを導入するメリット

給与計算システムは、企業規模や従業員数に応じて、さまざまな機能を提供しており、適切なシステムを導入することで、給与計算業務の効率化とコスト削減を実現できます。導入により得られる主なメリットを以下で紹介します。

関連ページ:給与計算をアウトソーシングするには? 注意点も解説

給与データの一元化による生産性向上

給与計算システムの導入により、給与データは一元的に管理されます。これにより、給与明細の作成や年末調整などが効率的に実施でき、データ収集や入力の手間が削減されます。生産性が向上するだけでなく、いつでもどこでもデータを確認できるため、給与の状況把握も容易となります。

給与計算業務の効率化

給与計算システムの導入により、給与計算業務が大幅に効率化されます。計算や手続きを自動化できるため、給与計算に要する時間を短縮できます。さらに、一部のシステムでは、給与明細の作成や年末調整も自動で対応可能です。

属人化の解消と引き継ぎ作業の軽減

給与計算システムの導入により、必要な情報がシステム上に蓄積・一元管理されるため、業務の属人化を防ぐことができます。システムの操作を習得すれば、誰でも給与計算が可能となり、引き継ぎもスムーズに行えます。

人的ミスの削減

給与計算システムには、計算式や手順が組み込まれており、計算ミスを大幅に減少させることができます。もしミスが発生した場合も、給与計算の履歴から原因を迅速に特定し、修正が可能です。

人件費・外注費のコスト削減

給与計算システムの導入により、勤怠データの入力、計算、給与明細の作成などの手間と時間を大幅に節約し、給与計算にかかる人件費や外注費を削減できます。

法令違反の防止とセキュリティ対策

給与計算に関わる労働基準法や税法などの法令を遵守するため、給与計算システムの導入は効果的です。システムを利用することで、法令に基づく計算や手続きを自動化でき、給与明細や源泉徴収票などの重要書類も安全に保管できます。具体的には、以下の対策が可能です。

法令違反の防止と法改正への適応

給与計算システムを導入することで、以下の法令違反の防止につながります。

・法定労働時間の超過や休憩時間の不履行による労働基準法違反
・源泉徴収漏れや過徴収による税法違反
・社会保険料の未納や過徴収による社会保険法違反

さらに、税率や社会保険料率の変更、労働基準法の改正、マイナンバー制度などの法改正にも速やかに適応します。システムを利用すれば、法改正に伴う変更を自動で取り込み、リアルタイムでの確認が可能となり、法令違反の早期発見や対応が容易になります。

エラー回避とデータ改ざんの防止

給与計算システムでは、給与計算の計算式や手続きを標準化できます。これにより、手作業による計算や入力ミスを防止し、給与の誤算や漏れを防ぐことが可能です。また、給与明細や源泉徴収票などの重要書類は、システム上で安全に保管することができるため、紛失や改ざんを防止できます。

セキュリティの安心感

給与計算システムは、不正アクセスや情報漏えいなどのセキュリティ対策が施されています。これにより、情報資産を守り、従業員のプライバシーも保護されます。

給与計算システムを導入するデメリット

給与計算システムは、効率的かつ正確な給与管理を実現しますが、導入に際してはいくつかのデメリットも考慮する必要があります。給与計算システムの導入を検討する際にはこれらの課題に備えることが重要です。

給与計算ソフト導入のコスト

給与計算システムの導入には、初期費用や継続的なランニングコストが必要です。これらのコストを考慮しつつ、自社に適したシステムを選定しましょう。

導入するための初期費用

給与計算システムの導入には、システム購入費、設定やデータ移行のための導入費、そして従業員研修の費用が必要です。企業はこれらの初期費用を予算に組み込み、慎重に計画する必要があります。

ランニングコストやカスタマイズの費用

給与計算システムの運用には、月額や年額の利用料としてのランニングコストが必要です。このコストには、システムの利用料のほか、保守やメンテナンス費も含まれます。
また、特定の要件に合わせてシステムをカスタマイズする場合は、そのための追加費用も考慮する必要があります。

導入と運用の課題

給与管理システムの導入は、給与計算業務の効率化に大きなメリットがあります。しかし、導入から運用に至るまでの過程には、いくつかの課題も伴います。給与管理システムの導入と運用を成功させるためには、以下の点に注意しましょう。

慣れるまでの時間や教育が必要

給与管理システムは、従来の手作業による給与計算とは異なる操作方法や画面構成を持っています。ただシステムを導入するだけでは、その効果を最大限に活用するのは難しいでしょう。従業員がシステムを効果的に利用するためには、一定の期間システムに慣れる時間が不可欠であり、適切な研修が必要です。

クラウド型の場合のインターネット環境

クラウド型の給与管理システムは、インターネットを通じて利用するため、安定したインターネット環境が必須です。インターネット環境が不安定な場所では、システムの利用が困難になることがあります。また、インターネット接続に障害が発生した場合、一時的にシステムにアクセスできなくなるリスクも考慮する必要があります。

セキュリティリスクと不安

給与管理システムは、従業員の個人情報や給与の詳細などの機密データを扱います。このため、セキュリティの確保は欠かせません。特にクラウド型の給与管理システムでは、データの送受信がインターネット上で行われるため、外部からの不正アクセスやデータの漏えいのリスクが高まります。適切なセキュリティ対策と定期的な更新を行い、情報の安全性を確保することが必要です。

特定の時期に業務量が増加する

給与計算は、月末や年末といった特定の時期に業務量が増加します。特に月末は、勤怠管理や経費精算などの他の業務も集中するため、人事や経理の担当者にとっては負担が大きい時期です。そのため、システムの処理能力やパフォーマンスが十分でないと、業務遂行に遅延や支障が生じる可能性があります。

さらに、年末などの繁忙期には、一時的な人手を確保するためにパートや派遣社員を採用する企業も少なくありません。しかし、非正規の社員が重要な情報にアクセスすることは、情報漏えいのリスクを高める可能性があるため、適切なアクセス制限や教育が必要です。

給与計算システムのメリット・デメリットを考慮して自社に合うシステムを選ぼう

給与計算システムの導入は、給与計算業務の効率化や正確性の向上、コスト削減などのメリットが得られます。自社の給与計算業務の課題を整理し、導入の検討を進めてみてはいかがでしょうか。

なお、給与計算システムを導入する際には、自社の従業員数や給与計算業務の規模、予算などを考慮して、適切なシステムを選ぶことが重要です。また、システムの導入後は、従業員への周知や教育などもしっかりと行うようにしましょう。※こちらのページに掲載している情報は2023年10⽉時点のものです。

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