従業員の健康を重視し、その向上に努める健康経営は、企業の持続可能性や生産性の向上につながり、良好な企業イメージを築きます。すでに取り組みを行っている企業は、認定制度を利用することで、客観的な評価を証明できます。このページでは、健康経営のメリットや取り組み方、企業規模別の事例、そして健康経営優良法人認定制度について詳しく解説します。
目次
健康経営とは、従業員の健康と幸福を保ち、その結果として生産性と満足度を向上させることを目的とする経営手法です。企業の人材が健康であることで、企業の収益性が高まり、持続的な発展につながると考えられています。
特に日本においては、超高齢化社会における生涯現役を前提とした経済社会システムの再構築を目指して、経済産業省が健康経営を推進しています。
健康経営を行うことで、次のようなメリットがあります。
もちろん、健康経営を実施したからと言って、ただちに業績が上がるわけではありません。しかし、実施から2年ほどのラグを置いて、ROA(総資産経常利益率)とROS(売上高営業利益率)が上昇していると報告されています。
また、健康経営により従業員のエンゲージメントが高まることで、離職率が低下し、さらに健康経営に関する情報を公表することで企業イメージも向上します。最後に、従業員の健康が促進された結果、医療費を削減し、社会保険料の負担を軽減できます。
参考:日経Smart Workプロジェクト「スマートワーク経営研究会」中間報告「働き方改革と生産性、両立の条件」2018年6月22日
健康経営を実践するための取り組みを、経済産業省のガイドブックでは「経営理念・方針」「組織体制」「制度・施策実行」「評価・改善」に分けています。具体的にやるべきことをステップ別に解説します。
参考:経済産業省「(新)企業の『健康経営ガイドブック』~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1版:平成28年4月)」
経営のトップが健康経営の意義や重要性をしっかり認識し、その考えを社内外に発信することが重要です。また、自社の課題、健康経営の実施で目指す方向性、実現すべき理想像といった方針を固め、そこに至るための取り組みを具体化しましょう。
取り組みを実行するための体制を作ります。専門の部署を設置する、または既存の部署に担当者を置くなどして、担当部署を決めます。この時、従業員の健康について資格や知識を持つ職員を配置したり、担当職員に対し必要な知識を身に付ける研修を行ったりすることも重要です。
ただし、単一の部署や一部の層だけが努力しても健康経営は実現できません。経営層から従業員まで、全体の理解と協力を得る必要があります。必要性を理解しやすい目標を示し、全員で共有することが有効です。
健康経営の制度・施策を実行するにあたって、まずは従業員の健康状態を把握する必要があります。健康管理システムなどを導入していれば、既にある程度のデータが収集できている場合もあるでしょう。データが整理されていない場合は整理し、管理が分散している場合は一元化して分析すると有効です。
現状が把握できたら、成果目標を立て、計画を実行します。
これらの過程では、健康保険組合など、外部機関とも適切に連携することが重要です。
取り組みの効果を検証し、PDCAサイクルを回せるような体制を維持することが重要です。また、従業員が継続的に参加し、意欲的に改善を行えるよう、施策にゲーム性やエンターテインメント性を取り入れることも有効です。自社の状況に合った方法を模索し、検証をしながら実施する必要があります。
これらが健康経営の基本的な流れですが、最初から全社を巻き込んだ施策を行うのはハードルが高い、という場合もあるでしょう。そうした場合は、まず「従業員の健康状態を把握する」「健康診断の受診状況を確実に把握し、100%受診を目指す」「健康意識を高めるための研修を行う」など、取り組めるところから取り組むのも有効でしょう。健康管理を着実に行い、データを蓄積することも、健康経営につながります。
実際の取り組み事例を、企業規模別に紹介します。
味の素グループは、「事業を通じて、世界の食と健康、そして明日のよりよい生活に最大限貢献できるよう、社員のこころとからだの健康を維持・増進できる職場環境づくり」を目的に掲げています。
「従業員のパフォーマンス向上」、特にメンタル不調の防止・早期発見・対応や、生活習慣の改善を課題とし、以下のような取り組みを行っています。
健康経営の取り組みが従業員に評価され、パフォーマンス向上につながっています。
オムロンヘルスケア株式会社は、「世界中に健康を届ける企業として、われわれ自身が心身ともに健康で元気でいきいきと働くことができる企業であること」を目的に掲げています。
「従業員の心身の健康増進」、特に生活習慣病などの疾病リスクを持つ従業員への重症化予防の課題や従業員の喫煙率低下を課題とし、以下のような取り組みを行っています。
自社製品を生かした取り組みで、152人の「かくれ高血圧リスク者」を発見するなど、成果を上げています。
キリングループは、「社会的価値と経済的価値の両立による、CSV 経営の実現」を目的に掲げています。
「組織の活性化」、特に従業員の健康問題に起因する生産性低下や事故の予防、生活習慣の改善を課題とし、以下のような取り組みを行っています。
健康経営の推進により、社外からの評価を獲得して企業価値が向上し、従業員のエンゲージメント向上や採用時の評価向上にもつながっています。
愛知県の株式会社ケィテックは、残業時間の多さによるメンタル不調が課題になったことをきっかけに健康経営に取り組みました。
食事や睡眠、ウォーキングなど10 項目の具体的健康実施項目について、取り組みやすいことを意識した評価基準を設定しています。それぞれの項目の達成度に応じてポイントを配分し、QUO カードを進呈する制度を実施しています。また、禁煙の取り組みでは会長からの手紙が必ず目に触れるように給与明細の中に同封する工夫を行いました。
取り組みの結果、80%以上の従業員が目標を達成し、アンケート結果から今後注力すべき課題も明らかになりました。また、取り組みに対する従業員の意見を基にイベントを開催し、社内のコミュニケーション促進にもつながっています。
宮崎県のA’s社会保険労務士法人は、職員が全員女性であり、女性特有の健康課題に対する支援が法人の責務と考え、健康経営に取り組みました。
小さい子どもを持つ職員もいるため、終業時刻の15分前に帰宅できる仕組みがあり、年次有給休暇も入社時から12日間付与。女性特有の健康課題に関してセミナーを開催する他、女性の健康に関するメルマガを社内で配信しています。また、婦人科検診受診の金銭補助や健診受診日の振替なども柔軟に対応する体制を作っています。
取り組みの結果、職員の健康意識が高まりました。また、女性の健康についての配慮が生まれ、職場環境が向上し、離職の防止にもつながっています。
徳島県の喜多機械産業株式会社は、会社を次世代につなぐために軸とする自社の経営理念と健康経営の方向性が一致すると考え、健康経営に取り組みました。
体組成計を使用して毎年2回、従業員の体成分を測定・数値化し、インセンティブを設けて健康の維持・改善・向上を後押ししています。また、電動自転車を無料で貸し出したり、営業所にランニングマシンやトレーニングマシンを設置したりして運動機会を増やす取り組みを行っています。
取り組みの結果、半分以上の参加者の点数が向上しました。また、健康経営の情報交換で他の企業との接点が増え、パートナーシップの構築にもつながっています。
健康のための数値改善などの直接的な取り組み以外にも、ユニークな取り組みを行う企業も多くあります。
例えば株式会社はてなは、過去に健康増進のために自転車通勤を推奨し、自転車通勤者に手当を支給していました。同社は新型コロナウイルスの感染拡大により在宅勤務に切り替えましたが、逆に感染拡大を契機に自転車通勤の推進に力を入れたケースもあります。
また、運動機会を増やすだけでなく、コミュニケーションにつなげようという取り組みも見られます。例えば東京都の株式会社アローは、当初新型コロナウイルス感染拡大による働き方の変化で減少したコミュニケーション機会を補うためにオンライン運動会を開催していましたが、この取り組みが現在では自社で提供するコンテンツとなっていると言います。
健康経営への取り組みにはさまざまな切り口があります。自社の状況や課題に合致する取り組みや方法を考える必要があります。
健康経営に取り組む法人を公的に認定する制度として、健康経営優良法人認定制度があります。
健康経営優良法人認定制度とは、経済産業省が設ける、地域の健康課題に即した取り組みや日本健康会議が進める健康増進の取り組みをもとに、特に優良な健康経営を実践している大企業や中小企業などの法人を顕彰する制度です。
なお、よく似た制度に「健康経営銘柄」がありますが、こちらは東京証券取引所に上場している企業から選定されるものです。健康経営優良法人認定制度の対象には、そのような制限はありません。
この制度には、「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」があります。
大規模法人部門に該当するのは、以下の法人です。
大規模法人部門の中で、上位の法人は「ホワイト500」に認定されます。
中小規模法人部門の中で、上位の法人は「ブライト500」に認定されます。
大規模法人部門と中小規模法人部門では、認定の流れが異なります。
まず、経済産業省が実施している「従業員の健康に関する取り組みについての調査」に回答します。
申請内容に基づいて審査が行われ、認定委員会での審議を経て、日本健康会議によって認定されます。認定要件は経済産業省から毎年公開されています。
中小規模法人部門に申請するには、まず健康宣言事業への参加が必要です。加入している保険者に連絡して健康宣言事業への参加方法を確認し、参加します。
次に、自社の取組状況を確認し、「健康経営優良法人認定申請書」に記入、提出します。
申請内容に基づいて審査が行われ、認定委員会での審議を経て、日本健康会議によって認定されます。認定要件は経済産業省から毎年公開されています。
健康経営優良法人に認定されることで、企業イメージの向上や金利などの優遇措置を受けられるといったメリットがあります。健康経営そのものの効果によって得られるメリットと合わせて、企業活動に良い影響をもたらすことが期待できます。
健康経営優良法人に認定されると、認定ロゴマークを使えるようになり、自社の健康経営への取り組みが客観的に評価されたことを内外にアピールできます。ステークホルダーや金融機関に与えるイメージが向上するのはもちろん、採用ブランディングとしても良い影響が見込め、優秀な人材を獲得できる可能性が上がります。
金融機関によって、融資の貸付利率の引き下げなどの優遇制度を設けている場合があります。自社の取引先の条件に当てはまっていれば、優遇を受けられます。
国が発注する公共事業に参加することのある企業であれば、公共調達において加点され、入札審査で優位に立てる可能性があります。
また、保険会社によっては、健康経営優良法人に対して保険料を割り引いている場合があります。
この他、認定を受けた事業者に対するインセンティブなどの制度が地方自治体で設けられていることもあります。関係機関に確認してみましょう。
健康経営優良法人の認定に向けた支援や認定を受けた事業者に対する優遇措置に加え、地方自治体によって独自に企業の健康経営などの取り組みを顕彰する制度もあります。
自治体が健康経営の支援に取り組むことで、地域が活性化し、地場産業が新たに活気づくことで税金が増え、さらに地域住民の健康意識が高まることで医療費が削減できるなど、好循環が起こることが期待されています。
健康経営で成果を上げるには、自社の従業員の健康状態を収集・分析して現状を把握した上で、目標を立てるという行動が欠かせません。そのためには、勤怠情報や健康診断の結果、ストレスチェックの結果など、さまざまな情報を一元的に把握する必要があります。健康管理システムを活用すれば、この工程を効率的に進められるでしょう。
このページで紹介した事例や制度を参考に、自社の課題に合った成果を目指して、健康経営の第一歩を踏み出してください。
※こちらのページに掲載している情報は2023年10⽉時点のものです。
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