世の中が大きく変動する中、「人的資本経営」が注目を集めています。人的資本に関する情報の開示を進める世界的な潮流を受け、日本でも持続的な企業価値の向上のために人的資本経営が必要であると考えられるようになっています。
ここでは、人的資本経営の観点から、健康管理の重要性を解説し、活用しやすい健康指標も紹介します。
目次
人材を資本とする人的資本経営と、その人材である従業員の健康の管理・向上を目指す健康経営には密接な関係があります。まずは「そもそも人的資本経営とは何か」から、詳しく見ていきましょう。
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に活用しようとする経営手法のことです。
従来の経営では、人材は「コスト」と考えられていました。しかし、変革の激しい現在、企業の競争力や持続的な価値向上の源泉は「有形資産」から「無形資産」に移行したと言われています。その「無形資産」の中核をなすのが、「人的資本」です。
人的資本経営では、この人的資本に対し積極的に投資を行い、人材のスキルや能力、エンゲージメントの向上など人材戦略の成果を上げることで、中長期的な企業の価値向上が果たされると考えます。
こうした人的資本経営の考えに基づき、企業がいかに経営戦略と人材戦略を連動させるべきかという課題感の下、2020年9月に、経済産業省から「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」の報告書、通称「人材版伊藤レポート」が公表されました。この中で、人材戦略の3つの視点と5つの共通要素が述べられています。
3つの視点 | 5つの共通要素 |
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2022年に公表されたこの報告書の第2版では、これらの枠組みから具体的にどのような取り組みを実行すれば良いのか、各企業が主体的に考えるためのアイディアを提示しています。
2022年には、さらに内閣官房から「人的資本可視化方針」が提示されました。この方針には、人的資本経営に取り組んだ企業がその情報を可視化し、投資家に伝えていくための指針が示されています。
これらの資料を踏まえると、今後、企業は人的資本経営のための人材戦略を策定・実行し、さらにその実績を可視化していくことで、投資家に認められる企業価値の向上を目指す必要があるということです。
参考:
経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~」
経済産業省「『人材版伊藤レポート2.0』を取りまとめました」
内閣官房「『人的資本可視化指針』(案)に対するパブリックコメントの結果の公示及び同指針の策定について」
健康経営は、従業員の健康と幸福を保ち、その結果として生産性と満足度を向上させることを目的とする経営手法です。人的資本経営の要素から見ると、主に4.の「従業員エンゲージメント」に属する分野を主要課題とするもので、人的資本経営の中ではごく一部のように見えます。しかし、人材の価値を最大限に発揮させるという目的において両者は一致しており、かつ人的資本の価値を保つために健康の維持は不可欠でもあります。
「とはいえ、従業員の健康管理は結局本人次第では?」という疑問もあるでしょう。確かに、企業が全ての従業員の健康管理を完璧に行うことは困難です。しかし、従業員の健康を保つために必要な対策を行うことで、従業員の健康が損なわれることによるリスクを回避でき、生産性やエンゲージメントの向上につながるのです。
日本では2016年度から、経済産業省が健康経営優良法人認定制度を設け、健康経営に取り組む企業を顕彰しています。こうした認定が企業のブランディングやイメージ向上に寄与するのはもちろんですが、人的資本経営の側面からも、比較的情報のそろっている健康経営への取り組みについて開示することが、企業にとって実行しやすい第一歩になるとして注目されています。
関連ページ:健康経営と認定されるには? 事例と健康経営優良法人認定制度を解説
参考:
経済産業省「健康経営優良法人認定制度」
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人的資本経営を実施して企業価値を上げていくに当たっては、自社の非財務情報を可視化・開示することが一つのポイントになります。 企業にとって収集しやすく、分析や開示によるメリットのある8つの健康指標を紹介します。
事業者は労働者に対し、健康診断を実施することが義務付けられています(労働安全衛生法第六十六条)。労働者にも受診する義務があります。 法令遵守のためにも、従業員が確実に健康診断を受診しているか管理しましょう。 また、職場環境の安全に配慮することや、従業員が検査を受けるために必要な支援をすることも重要であり、人的資本経営としてのポイントです。
健康・安全に関する指標には、「安全」「身体的健康」「精神的健康」が含まれており、身体的な健康を保つ健康診断と同様、精神的な健康の維持を目的とするストレスチェックも実施が義務付けられています(労働安全衛生法第六十六条の十。ただし従業員50人未満の事業所では当分の間努力義務)。こちらも確実な受診の管理を行い、さらに高ストレスの判定が出た従業員に対しての産業医面談実施率など、フォローの指標も併せて開示すると、従業員のメンタルケアに配慮していることが示せます。
働き方改革の推進により、長時間労働に対する規制が強化されています。上限を超える労働時間がどの程度発生しているかは、法令遵守の姿勢のみならず、従業員の働きやすさを評価する指標にもなります。
労働安全衛生に関する、労働災害の発生件数・割合、死亡数など、および労働災害による損失時間は、人的資本経営の指標の中でも特に開示が求められる事項とされています。製造業や建設業などの危険作業が伴う業種ではもちろん強く意識されますが、過労死や精神障害といった業種を問わない労働災害もあります。特に精神障害に関する労災補償の件数は増加傾向にあり、厚生労働省が認定基準を検討するなど課題となっているため、重要な指標と見なされる可能性があります。
参考:
厚生労働省「令和4年度「過労死等の労災補償状況」を公表します」
厚生労働省「『精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会』の報告書を公表します」
離職率は、労働力の損失を示す最も重要な指標と見なされます。離職は教育や採用コストの増加、事業継続性の低下などにつながり、イメージダウンにつながります。一方で離職率が低い企業は、従業員満足度が高い、人材戦略が成功している、などポジティブに見られる可能性が高くなります。また、従業員エンゲージメントを総括する指標とも言えるでしょう。 離職率の指標から自社の課題を分析し対応していくことも、人的資本経営にとって重要なポイントです。
アブセンティーズムとは、心身の不調が原因で遅刻や早退、欠勤、休職するなど、業務が行えない状態を指します。 プレゼンティーズムとは、出勤はしているものの、心身の健康上の問題により生産性が低下している状態を指します。 どちらも離職には至っていない従業員が生産性を発揮できていない状態であり、本人のみならずチームや組織に影響し、生産性や業務効率の低下を招くとされています。特に海外の先行研究、国内の推計ともに、プレゼンティーズムによる損失コストが健康関連総コストの大半を占めると結論しています。 企業の健全性や持続可能性に大きく関わる指標ですので、自社の指標を把握し、分析することが重要になります。
企業には、従業員の望まない受動喫煙の防止に努める義務があります。これは従業員の禁煙を促すものではありませんが、非喫煙者の働きやすさという面に影響するため、人的資本管理の指標と考えられます。特に採用ブランディングなど、実際の働きやすさが問われる場合に影響は大きくなるでしょう。
十分な睡眠が取れていない場合、プレゼティーズムが悪化したり、疾病の発生率が高まることでアブセンティーズムの悪化につながる恐れがあります。また、睡眠障害の原因として業務時間や業務内容が影響している可能性もあり、その場合は従業員の働きやすさに直結する指標です。
人的資本経営において、健康管理を実施し、かつその指標を非財務情報として公開していくことが重要です。ここで紹介したさまざまな指標は、目的に合った健康管理システムを活用することで収集・分析したり、向上させたりできます。これらの指標を足がかりに、健康経営、ひいては人的資本経営の実施による企業価値の向上へ向けて、第一歩を踏み出してください。
※こちらのページに掲載している情報は2023年10月時点のものです。
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