売り手市場時代の人材採用成功術
採用面接を成功に導き、転職者の内定辞退を防ぐ「5つのS」【チェックシート付き】
前回の記事では、過熱する人材獲得競争の中で、狙うべき「B層」とそのアプローチ方法についてご紹介しました。今回は、実際にアプローチして「いざ面談!」となった際に、採用担当として知っておくべき「5つのS」についてお伝えしたいと思います。
応募数は多いが、内定辞退数も多いA社の事例
東京に本社を構えるA社は、業界独自のサービスと営業力で市場シェアを獲得し、これからも成長が期待されている企業です。営業部門は案件が多いため常に忙しく、より成長にドライブをかけるためにも、優秀な人材採用が必要不可欠という状況。営業から1名を人事へ異動させるなど、採用にも非常に力を入れていました。
求人への応募者は多く、応募チャネルも多岐にわたり、人材紹介会社からの反応も良い。転職市場でのブランド力が高いのか、一流企業からの応募や転職者も多く、1次面接への誘導はかなりうまくいっていました。
しかし、A社には「良い候補者が来ても、辞退が非常に多い」という課題がありました。
実際に辞退される際には、
- 他社とオファーが重なり、結果的に他社を選んでしまう
- 面接途中で応募者に「自分のやりたいことと違う」と言われる
この二つが主な理由となっていました。
会社のブランド力もあり、優秀な人材の奪い合いになっている市場と照らし合わせてみても、選考途中や内定時の辞退が極めて多かったのです。傍から見ると、採用がうまくいくように見えるこのA社で、なぜこのようなことが起こったのでしょうか?
内定辞退が多発する真の原因とは?
私がプロセス診断をしたときに、問題と思えるところはいくつかありましたが、企業から上がって来た問題の解決方法は下記のものでした。
- オファー金額で負けることがあるので、もっと金額をあげるべき
- 面接回数は可能な限り減らし、1日で面接が済むようなプロセスにするべき
辞退理由から考えると、上記二つは、対策として間違ってはいないと思います。
今の市場を考えても、優秀な人を獲るためには高い給与を提示するのは当たり前ですし、数十万をケチって候補者を逃したとしたら、それは大きな問題です。また、面接が複数回(企業によっては8-10回やるところも)行われているなら、その回数を減らしたり、候補者の都合に合わせて1日で済むようにするのも、有効な手でしょう。
しかし、実際のところ、A社のオファー金額は競合他社に比べても競争力はあり、選考スピードも他社に比べると随分とスピーディです。確かに、オファー金額が原因で辞退になった候補者もいたとは思いますが、高い金額でも辞退は少なからずあったわけで、提示金額は根本的な解決にはなりません。
では、A社においては何が採用の問題だったのでしょうか。
「ハインリッヒの法則」を採用面接に応用する
A社の採用の問題を明らかにする前に、前提となる知識をいくつかご紹介します。みなさんは、ハインリッヒの法則をご存知でしょうか?
この法則は、労働災害における経験則の1つであり、1つの重大事故の背景には、29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するという法則です。
これを採用の世界に当てはめると、私は「1つの重大事故=辞退」であると考えています。
つまり、1つの内定辞退にいたるには、「日程調整の行き違い」「名前を間違えられた」「面接の場へ案内した社員の印象が悪かった」等々、目に見える「軽微な事故」が潜んでおり、さらに、採用経験者でも気がつかないような「異常」が採用プロセスにおいて存在している可能性が高いのです。
A社においても「会社のブランド力」「高い成長率」によって見えなかった、あえて見ようとしなかった、29の事故、300の異常が、1つの重大事故=辞退を生んでしまっていたということです。
採用面接を成功に導くための5つのS
潜む異常や軽微な事故に気付き、候補者の辞退を防ぐには、いくつかポイントがあります。今回は、私が「5つのS」と呼んでいるポイントについて説明します。
1.Speed 「候補者との面接調整は迅速にやってますか?」
まず1つ目が、Speed(スピード)です。
この場合のスピードとは、主にクイックレスポンスを指します。日程調整をする際、候補者への連絡はどのくらいのスピード感で実施されていますか? 調整の仕方はさまざまかと思いますが、どのやり方で調整するにせよ、優秀な候補者の日時は、別予定や他との調整ですぐに埋まると考え、出してもらったら3時間以内で設定するのが望ましいです。
実際の面接が2-3週間後になっても構いませんが、調整は早くすることです。逆に、面接の設定日を翌日などにすると、企業側の焦りや、きちんと扱われていないといった負の印象を持ち、候補者が辞退する可能性もありますから、面接日時は遠くてもかまいません。予定を素早く押さえることが大切です。
2.Simple 「面接までの行程は複雑ではありませんか?」
2つ目は、Simple(シンプル)です。
「面接日までに○○(システム)へ個人情報を入力し、経歴書を添付してください」であるとか、「当社1Fに着きましたら、□□までお電話してください。入館方法をお伝えします」など、丁寧に応対しているつもりでも、候補者からすると複雑に感じられる作業というものがあります。入居ビルの都合などで、どうしても複雑になるケースもあるかもしれませんが「自分の携帯電話を使って電話しないと面接できない」といった要素だけで、候補者の心象が悪くなることもありますから、充分に注意しましょう。
3.Smooth 「候補者の案内はスムーズにできていますか?」
3つ目は、Smooth(スムーズ)です。
面接に案内しようとしたところ、前の会議が長引いていて、候補者を部屋の外で待たせてしまったという経験はありませんか? 他には、部屋の飲み物が出しっぱなしになっていたり、面接官が時間通りに来なかったり……そういったことはないでしょうか? 部屋が汚いのは論外としても、面接官がわずかに時間に遅れることも、やはり問題です。面接を20時に希望していたのに、19時半で調整させられた上に、面接官が遅刻する。こんなことがあるとグッと候補者の印象が悪くなります。面接官と面接調整者が違う場合、情報の共有不足で、特にこういったことが起こりがちです。
4.Special 「候補者に特別感を演出していますか?」
4つ目は、Special(スペシャル)です。
面接に来た段階では、候補者はお客様扱いをするべきです。もちろん、入社後との明らかなギャップは無いようにしなければなりませんが、せっかく足を運んでくださった候補者には、特別感の演出を欠かさず行っていきましょう。将来のお客様やパートナーになる可能性もありますから「ご来社お待ちしておりました」「お会いできるのを楽しみにしておりました」「今日はご来社いただきありがとうございます」などの言葉を添えるだけでも、十分に効果はあります。
5.Surprise 「候補者をいい意味で、驚かすことができてますか?」
最後の5つ目は、Suprise(サプライズ)です。
面接に来てくれるということは、ほとんどの候補者は、事前にホームページを見たり、さまざまな検索をして会社のことを調べてくれています。にも関わらず、面接でお話をするときに、事前に調べた以上の話が聞けなければ、候補者は「時間の無駄だった」と感じてしまいます。面接後に、候補者の表情がガラッと変わるくらいの、一緒に働きたいと思わせる、輝く未来を語ることができねばなりません。サプライズをすることにより、入社意欲もグッと上がります。これはプライベートのみならず、仕事でも小さなサプライズをできるかどうか、が大きなポイントです。
内定辞退を減らす 「5つのS」チェックシート
5つのSは、候補者の”がっかり”を無くし、辞退を減らすためのポイントです。せっかく自社に興味を持ってくれた候補者をきちんと採用のプロセスに乗せるために、必ず意識して守りましょう。
いずれも小さいことで、「そんなこと気にしないでもっと根本的なことを!」と思っている方も多いと思いますが、その小さいことに気が付かず、候補者が感じる小さな”違和感”を放置しておくと、辞退という事故が起こるのです。
そうならないために、下記の「5つのSチェックシート」で自社で5つのSが守られているかセルフチェックしてみましょう。
*100点満点ですが、A(80-100点)、B(60-79点)、C(40-59点)、D(20-39点)、E(10-19点)で分けると、D、Eとなっている会社は至急改善が必要です。
「5つのS」を押さえ、優秀な人材の獲得につなげる
改めてA社の問題に戻りますと、A社は5つのSのうち、3つを守ることができていませんでした。
【A社が抱えていた問題点】
1 Speed :
面接調整に時間がかかり、候補者から日程をもらっても、1日で設定できないことが多かった。何度かのやりとりでようやく面接日時が確定する状況。
4 Special :
会社のブランド力があり、応募者も多かったことから、こちらが選ぶという立場で面談をしてしまったため、特別感は醸成されなかった。
5 Surprise :
事前に丁寧に目を通してほしいURLを送ったが、それ以上の情報を面接官がきちんと提供できていなかった。
1は優先順位を考えて対応すれば解消できること、4,5は会社のブランド力が高いがゆえに解決するには時間がかかるかもしれませんが、優秀な人材を採ろうとするのであれば、必ず改善していった方が良いものです。
せっかく優秀な候補者が面談にきてくれたとしても、辞退されてはそれまでの努力が全て水の泡です。そうならないよう、5つのSを忘れずに、候補者と向き合いましょう。
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