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「就活生=投資家」という視点が、企業と学生をより成長させる
「個人投資家」と「就活生」の共通項
「個人投資家」と「就活生」には、「目的を達成させるために企業を研究・分析する」という共通項があります。実は企業研究・分析という行為だけではなく、両者の目的も共通しています。当たり前ですが、「個人投資家」は経済的なリターンを得ることを目的に身銭を企業に投資します。では「就活生」は、どんな目的で何を投資しているのでしょうか?「就活生」は幸福な生活というリターンを得るために、自分の時間や自分の未来を企業に投資していると考えることができます。つまり、「就活生」は立派な投資家であり、身銭よりも重要な時間や未来を投資するために企業を研究・分析していると言えるのです。
「お金」や「時間・未来」といった、自分の重要な資産を投資するという目的を持つ「個人投資家」と「就活生」は、概ね以下のような視点で企業研究・分析を行います。
- 業績は安定しているか?成長しているか?
- 財務状況は健全か?
- 経営計画や戦略は明確か?実効性は高いか?
- 経営理念やビジョン、経営者に共感できるか?
- 経営課題やリスクの備えはできているか?
また極力リスクを回避する上でも、直感や感情に依存せずに論理的な判断が求められているという点も両者の共通項といえます。しかし、こういった共通項の多い個人投資家と就活生ですが、実態は個人投資家ほどの企業分析、研究を行っている就活生はほとんど存在しないというのもまた事実です。
共通項の多いはずの「個人投資家」と「就活生」の違い
前回のコラムでは、「就活生」が就職先候補の企業研究・分析を行う上でのスキルやノウハウが不足しているとお伝えしましたが、その背景について触れてみたいと思います。
少し大きな話になりますが、日本では、資本主義国家でありながら「お金」に関する(義務)教育が極めて希薄です。算数や数学は勉強しても、お金を稼ぐこと、そして管理・運用するという教育は、皆無といっても過言ではありません。一方欧米では、子供のころから自分でお金を稼ぐという体験や、そのお金を運用して増やすという考え方を学ぶ機会が日常的にあると言います。そういった教育を受けていない日本の大学生に、いきなりお金の知識を持って企業研究・分析をしなさいと言っても、戸惑ってしまうのはある意味当然です。個人的には、日本と欧米のお金に関する教育の差が、ビジネスの世界においても大きな差になってくるのではないかという危機感もあります。
結果として、就活生は「目的を達成するために企業を研究・分析する」という投資家と同じミッションを持ちながら、そもそもお金を稼ぐこと、それを管理運用することに対する知識・学習経験が圧倒的に不足しているというハンデがあるのです。私は「就活」が、このハンデを埋める機会として機能するべきではないかと考えています。
一般的な上場企業のコーポレートサイトには、「会社概要」「事業内容」といったタブが存在し、サイトを訪れた人は自分の目的に応じてそのタブを選択するわけですが、例えば「個人投資家」は「投資家の皆様」或いは「IR情報」というタブを押します。一方でほとんどの就活生は、「採用情報」というタブを選択します。目的別に企業情報が分類されているため、自分にとって非常に重要な意味を持っているはずの「IR情報」を、就活生は意識しないまま就活を進めてしまうのです。
私は、こうした「就活生が採用情報にしか関心を持たない、持てない状況」を変え、個人投資家がチェックする情報にも興味を持ち、「採用情報」ではなかなか得られない企業情報を入手するような就活の流れを作っていくべきだと考えます。
投資家意識を持つ「就活生」を輩出する動きが求められている
日本の大学生の投資家意識の乏しさ、その意識のないままの就活、その延長線にある企業と学生のミスマッチは、日本社会にとって非常に大きな問題です。このことを改善していくためにも大学生に対して「金融リテラシー」や、企業の経営情報リテラシーを提供する機会を創造すべきです。
例えば、多くの就活支援セミナーといわれる講座では、ESや面接対策などの就活そのものテクニックやスキルがメインになっています。私は、そういった就活テクニック以前に、企業研究・分析に必要なPL/BSの見方やその数字の意味などをもっと理解させる必要があると考えます。
当社でもそういった経営情報の見方講座などを独自で提供し始めました。また、最近では東京証券取引所様と協力しながら「金融リテラシー」と「経営情報の見方」に関する講座等も行っており、そのコンテンツを大学内でも展開できるような活動も開始しています。
また上場企業の中には、採用広報にIR情報を活用し、採用情報だけでは伝えられない自社の魅力を伝えるような動きも出てきました。説明会前段では、時間を設けて経営情報の基礎知識レクチャーを行う企業さんもいらっしゃるようです。
さらに先駆的な例では、インターンシップ及び本採用の応募条件として、自社のIR情報の閲覧とレポートを課している企業もあります。その人事の方にその理由を伺うと、「数字を理解できない、理解しようとしない人材は当社のビジネスでは活躍できないからです」と非常に明快な回答をいただいたことが新鮮でした。
今後は、自社のためだけでなく、社会のためにも自分の時間や未来を投資するという意識を持って就活する学生の育成、輩出が求められる時代になっていくのではないでしょうか。私は、社会全体が、就活生が幸福な生活や人生というリターンを得るために、時間や未来を論理的に投資できる仕組みやサポート体制のさらなる構築が必要ではないかと考えています。
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