働き方改革時代のメンタルヘルス対策

万が一の労務事故! あなたの会社は 説明責任を果たせますか?

グローバル化とダイバーシティ経営の大波を受け、我が国の産業界は「働き方改革」を実行するための仕組み作りや運用に追われています。そんな大変革の中、心身の不調を訴える人や、ハラスメント事案が増加傾向にあります。本稿では、万が一の労務事故発生時にも、総務・人事担当者をはじめとした当事者がステークホルダーに対して正しい説明をすることのできる「メンタルヘルス対策」の実務をご紹介します。

働き方改革時代のメンタルヘルス対策とは

2017年6月に厚労省から発表された「過労死等の労災補償状況」によれば 、精神疾患による労災申請は毎年高止まりし、労働局などに寄せられる相談では、職場でのいじめ・嫌がらせ(ハラスメント)問題がトップに躍り出るなど、日本の産業界における労務リスクは年々増大していると言わざるを得ません。
一方、我が国では「働き方改革」の大号令。では、「働き方改革」を成功させるためには何が必要でしょうか。その1つの回答が「安心して働ける職場」ではないでしょうか。

「改革」とは変化や痛みを伴うことでもありますから、それに備えて社内を安全な場に整えておくことが必要なのです。特に戦後日本を盛り立ててきた「昭和の男たち」や、その人たちに教育されてきた世代にとっては、「早く帰ってプライベートライフを充実させましょう」「会社以外の場所でも働いていいですよ」「女性の管理職を増やしましょう」「障がい者やシニアと一緒に働きましょう」等々、今までの教えと180度逆のことを受け入れなさいと言われているようなものです。

また、新たに労働市場に加わる女性、シニア、障がい者の方々にとっても、適切な受け皿がなければ、職場はストレスフルな場になってしまいます。従って、働き方改革やダイバーシティ経営を成功させたいのであれば、「メンタルヘルス対策/ハラスメント対策」はセットで導入しなくては意味が無いと考えられます。

さて、「メンタルヘルス対策ができている」とは、一体どのような状態を指すのでしょうか。
下の図で説明いたします。左側には社内規程やルール、右側には従業員向けの予防策があります。すべての予算を一カ所に使うのではなく、少しずつでもいいので、すべてのピースを準備すること。それが大切なのです。詳しく説明していきます。

社内規程・ルールの整備

従業員の自殺や過労死による紛争など万が一の場合、社内規程の存在と運用状況が「説明責任」を果たせるかどうかの決め手となります。また、不調者の取り扱いなどを見える化しておくことは、労使共に安心・安全な状態といえます。
ひいては株主や顧客など、すべてのステークホルダーにとって、優良な企業として受け入れられるのです。必要なルールは次の4つです。

産業医などに関するルール

産業医、衛生委員会(職種によっては安全衛生委員会)、衛生管理者の3点セットが50名以上の従業員がいる事業場ごとに選任、設置されているかどうか、そして産業医は月に1度企業を訪問しているかどうかチェックしましょう。
産業医は、病院やクリニックで働くドクターとは違い、基本的に治療行為を行いません。彼らの主な仕事は「就労判定」と「企業への勧告」です。定期健康診断、過重労働者対応、傷病による休業からの復職判定など、いずれの場面でも専門家の立場で、その労働者が働いても良いかどうかの判定をし、必要があれば企業に勧告するのが法律上の仕事なのです。

定期健康診断に関するルール

定期健康診断の100%受診は当たり前として、大切なのがその事後措置です。あなたの会社では、所見のあった者の受診結果をすべて産業医にチェックしてもらっていますか。
「要再検査・要精密検査」にばかり気を取られ、高血圧者と過重労働者のクロス集計などを疎かにしていませんか。脳卒中、心筋梗塞などで倒れる労働者が出た場合、真っ先にチェックされるのがここです。これを怠っている企業で過労死などが起これば、安全配慮義務違反と断じられても仕方ないでしょう。

過重労働者対応のルール

法定労働時間を100時間以上超えて働き、疲労の蓄積が認められ、かつ本人が申し出た場合は医師面接をさせるものですが、「本人からの申し出がないから面接を実施しない」という企業が散見されます。
そう言えるのは、全従業員にこの法律を周知し、100時間超の従業員に毎月医師面接の希望を聞き、しかも、希望があった場合は速やかに面接させられる体制を整えている企業だけだということをお忘れなく。
正確な労働時間管理には各部門のリーダー、マネジャーたちの理解と協力が欠かせませんので、管理職からルールの周知を徹底しましょう。

不調者の休復職ルール

これは法定項目とは違い、企業独自で策定しなくてはなりません。いかに早く不調者を発見し、スムーズに休職に入らせるか、そしていかに低リスクで復職してもらうかを「見える化」して、誰が取り扱っても一定の成果が出るようルールやマニュアルを策定します。
また、不調者本人とそのご家族への対応は、社内の規程やルールが整っていなければ無理です。休職時に必要となる、本人向けやご家族向けのマニュアルも整備しておきましょう。休職~復職における失敗の原因の多くは、ルール不足で迅速な判断ができず、右往左往するうちに不調者の病状や心証を悪化させてしまうことが少なくないからです。そしてそれは、紛争リスクの増大につながります。

従業員のための予防策

さて、社内ルールが整ったら、いよいよ「従業員のための予防策」の策定に取り掛かります。
これには次の3つがあります。

1.実効性あるハラスメント対策

なぜプラネットでは「ハラスメント対策」を「メンタルヘルス対策の全体像」の中に入れているか(図参照)。それは、働く人のメンタル不調のおよそ半数以上が、ハラスメントを原因とするものである、との調査結果※1を意識してのことです。

さて、ハラスメント対策は3つの要素から成り立っています。①社内のルールづくり、②相談・通報する窓口の設置と運用、③ハラスメント防止のための教育・啓発です。

では、規程のみならず、具体的な禁止事項を決めるとよいでしょう。丹念に社内ヒアリングを行い、多くの意見が出たものを、企業公認の禁止事項として、ルールブックに記載します。
については、できるだけ外部のものを用意し、匿名での相談・通報も受け付けるようにします。外部に相談窓口を委託するといっても、受付業務を委託するのであって、解決に導くのは企業側の仕事です。事案が持ち込まれてから、「だれが事情を聴くの?」「いま、部長が出張で不在だから処理できない」などということがないよう、あらかじめ問題解決のためのマニュアルや業務フローを策定しておくことも大切です。
は、禁止事項の周知やハラスメント防止に関する啓発活動についてです。ポスターの掲示、リーフレットや小冊子の配布、外部の講師を使った研修会など、様々な方法があると思いますが、最低でも年に1回は注意を喚起する必要があります。あの手この手を使って、ハラスメントを防止していきましょう。

※1:2006~2017年にかけて当社の顧客企業およそ90社を対象に実施。

2.適切な相談窓口の設置と運用

体や心の不調を感じた人や、部下の変調に気付いた上司が、いつでも気軽に専門家に相談できるルートを確保しておくのも、安全配慮義務の一環です。社内の健康相談ルーム、外部EAP※2事業者との契約など、自社に合ったいろいろな方法を検討してみましょう。

また、それらの利用を促進するための施策も年間計画に組み込み、PDCAを回し続けましょう。大切なのは、アウトソーシングを恐れないことです。心理相談は非常に専門性の高い仕事ですから、半年や1年のトレーニングで上達するものでもないですし、人事の本業はそこではないはず。

※2:EAPとはEmployee Assistance Programの略で「従業員支援プログラム」のこと。 EAPは、1984年
にアメリカ合衆国政府機関が公式規定を作り全米の企業に普及。日本では、「従業員の心の健康をサポートする様々なプログラムを提供する外部の専門家」を意味することが多い。

3.意識付け/教育・啓発

まず、教育計画を立てます。メンタルヘルス研修は、対象者や目的によって何種類かに分けられますが、かならず全階層に対する基礎コース(病気の知識とセルフケアの方法について)から始めます。次に、管理職向けの研修(ラインケア研修)を行いますが、ここでは「部下の顔色の見分け方」などの臨床的な話よりも、労働法などの知識に加え、部下の健康管理と企業リスクの関係などを知ってもらうようにします。もちろん、社内ルール(全体像の左側)を説明しておくことは言うまでもありません。

もう1つ、メンタルヘルスの意識付けに有効なものとしてストレスチェックがあります。法定では年1回ですが、効果を出すには四半期に一度、会社への提出は義務付けない形で実施してもらうと、予防策として効果が出ます。

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