その離職、本当にミスマッチ?

「採用=ゴール」で終わらせない! 定着・戦力化を見据えた採用戦略のアップデート術

「優秀な人材を採ったはずなのに、なぜすぐに辞めてしまうのか」——。今、多くの企業が直面している問いではないでしょうか。
中途採用市場の有効求人倍率は高止まりしており、企業間の人材獲得競争は厳しい状況です。そんな中、企業側が苦労して採用したにも関わらす、数カ月で早期離職に至ったり、当初期待していたパフォーマンスを発揮できなかったりするケースがあり、私たちの支援現場でも多く聞かれます。

この記事では、「優秀な人材の採用・定着・活躍」に悩む企業に向けて、採用の上流である「要件定義」の考え方や面接・アセスメントの精度向上、オンボーディングの設計までを一貫した戦略として捉え、“活躍する人材”を迎え入れるための実践的なポイントをお伝えします。自社の採用戦略が、単なる“人材獲得”にとどまらない、“入社後に活躍する”ことを前提にしたものへ、アップデートするヒントとなれば幸いです。

目次

  1. 採用目的の再設定
  2. 採用戦略で見落とされがちな「要件定義」の落とし穴
  3. 採用戦略再設計のための3つの問い
  4. 入社後のオンボーディング=組織としての責任
  5. まとめ

採用目的の再設定

内採用活動の目的は、短期的な「人を採ること」ではなく、中長期的に「事業を推進させる人を迎えること」に重きを置くべきです。しかし、現場では“入社”がひとつのKPIになってしまっています。人事専任者が不在だったり、採用経験の浅いメンバーが担当していたりして、「人を採る」こと自体が業務として重くのしかかっている状況の企業もあります。結果として、獲得したい人材の要件定義や「入社後にどう育ち・活躍していくか」のイメージが不明瞭なまま、採用に至ってしまうのです。

▼履歴書や面接だけでは見えない要素(働きぶりや職場でのコミュニケーション力など)。そのためミスマッチや問題が生じる。

  • 採用責任者が採用した申し分ない経歴の方が「コミュニケーション能力不足」で早期離職
  • 営業ロープレを高得点で通過した人が、入社後に全然成果が出せずに数カ月経過
  • マネジャーが“扱いづらい”と感じ、任せることをためらった結果、業務引き継ぎがうまくいかない

このような状況は私たちの支援先でよく聞く例です。その度に、採用の要件を見直すものの、それでもうまくいきません。なぜでしょうか。

面接やペーパーテストで見極められる要素に対し、入社するまで“見えない要素”がどうしても発生してしまいます。職場での適応力や、関係構築のスタイルは個人差があり、周囲のサポート体制やコミュニケーションも変わります。その“ギャップ”を完全になくすことは難しいかもしれませんが、候補者が「自社・組織にどう馴染み、どう周囲と関係を築いていくか」という観点があれば採用で見ていくポイントが変わり、入社後の定着・活躍の状況も変わってくるはずです。

「活躍」という言葉の定義

採用市場には“情報の非対称性”が発生します。企業は「自社が求めている人物像」をうまく言語化できておらず、候補者も「自分が何を提供できるのか」を正確に把握していません。選考の場ではポジティブな面が強調され、具体的な業務やカルチャーへの適合性についてのすり合わせが不十分なまま、期待だけが膨らんでしまいます。

「活躍」という言葉の定義も曖昧です。期待を超える意味もあれば、“期待通り”のパフォーマンスが出ていれば十分活躍していると定義もできます。大事なことは、その期待値を明確にしておくことです。「何を期待し、それができている状態はどういうことなのか」ということが定義です。それはすなわち、入社後の状態を具体的にする、定着・活躍を見据えた採用設計なのです。

採用戦略で見落とされがちな「要件定義」の落とし穴

採用における最初の設計ミスは、要件定義に表れます。例えば、適切な要件=「何が必須で、何が歓迎なのか」が曖昧なまま選考が進んでしまうケースがあります。現場から「とにかく優秀な人を」と依頼され、いわゆる「スーパーマン要件」(すべての業務が全部できてリーダーシップも兼ね備えた人材)を探そうとします。こうした“スーパーマン要件”は市場に存在しないことも多く、エージェントがうまく動いてくれず、母集団形成も進まない。結果としていつまでもポジションが空いた状態になっています。

求める要件=スキルの羅列と捉えているケースもあります。例えば、「営業経験3年以上」「マネジメント経験あり」といった表層的な条件を満たしていても、自社の営業プロセスや文化にフィットしなければ、結果を出せずに早期に離脱してしまうこともあるのです。

大事なのは、「採用戦略 = 人材要件の明確化 + 活躍後のイメージ共有」という設計です。つまり、「このポジションでどのように活躍してもらうか」をあらかじめ定義し、そのために必要なスキルだけでなく、組織との相性や行動特性、カルチャーとの適合性までを含めた要件の設計を行い、「自社でどう成長していけるのか」というイメージを候補者にも共有することです。

本来、人材の要件定義というのは、 「そのポジションでどのような成果を期待しているのか」という、事業戦略や組織戦略と連動して決まるべきものが、予算や人員計画が先に決定し、職務記述書(JD)を作成する流れになってしまっている企業も多いのではないでしょうか。改めて、事業の目的に立ち返り、その目的を達成するための役割・スキルや人物像を逆算して整理することが戦略的な採用です。

よくある「落とし穴」

  •  “ハイスキル人材”を採れば活躍してくれると思っている
    スキルや経歴が優れていても、組織・環境に馴染むことができなければ、パフォーマンスは発揮されない
  •  現場へのヒアリングが不足している
    実際にそのポジションと関わるメンバーからリアルな期待値を引き出さなければ、机上の空論になってしまう
  •  将来の役割変化や成長余地を織り込めていない
    特にスタートアップや成長企業では、半年後に求められる役割が変わっている可能性がある。短期的な視点だけで要件を定めると、すぐにミスマッチが生じかねない

採用戦略再設計のための3つの問い

ここまで、採用の目的の置き方やありがちの要件定義の誤解について解説しました。それでは、「自社で活躍する人材像をいかに現実的に捉え、それを制度に落とし込めるか」について、3つの問いを立てたいと思います。自社の状況と照らし、再設計のポイントがどこにありそうかぜひ考えてみてください。

問い:事業で何をしたいか?

中長期の事業計画によって、本当に必要な人材やスキルは大きく変わるはずです。短期的な人員計画を満たすことに引っ張られた結果、中長期で必要なスキル・人材タイプとズレが生じていないでしょうか。経営上の人員計画や予算策定は避けて通れない制約ですが、事業で「そもそも何を実現したいのか」という問いから逆算し、「本当に必要な人材とは誰か」「これから必要になるスキルは何か」を捉え直すことが重要です。たとえば、新規事業の立ち上げフェーズなのか、既存事業の拡大・効率化フェーズなのかで、必要なスキルやマインドは大きく異なります。

<実践アクション>

  • 事業戦略をもとに、今後1~3年で必要となるスキル・ポジションの棚卸しを行う
  • 必要な人材のマスト要件とウォント要件を再定義する

問い:市場はどうなっているか?

自社が求める人材像が、採用市場にどれだけ存在するか。あるいは、報酬や働き方が市場とマッチしているか。ここを見誤れば、採用はうまくいきません。「年収はこのくらいで実務経験が5年以上あり、マネジメント経験も……」という要件の人材は実は市場に1%も存在しないといったことも珍しくありません。また、制度上「課長職でなければこの年収が出せない」「ポストは空いているが雇用形態は正社員のみ」という理由で採用を見送るなど、自社の制度体制の硬直さが機会損失につながることもあります。市場ニーズと自社の受け入れ体制とのギャップを認識し、柔軟に修正していく視点が求められます。

<実践アクション>

  • 採用市場における人材分布や報酬相場を把握し、要件や待遇をアップデートする
  • フルタイム正社員だけに固執せず、副業、業務委託、プロジェクト単位など、多様な働き方・雇用形態を選択肢として設計に組み込む

問い:適切な採用要件とアセスメント体制になっているか?

「ロジカルシンキング」や「対人影響力」といった一般的なビジネススキルは明確に定義されているものの、実際の業務に直接必要となる専門スキルや行動イメージまで具体化されているでしょうか。職種別のスキル詳細はあっても階層別にはなっておらず、期待する行動が一律で設定されていることもよくある状況です。たとえば「協力的な人」といっても、依頼に応じて動く人と、自発的に意見を出す人では行動が全く異なります。

また、見極めの質を左右するのは単なるスキルチェックではなく、「この人が自社で活躍するだろう」と言えるかどうか、スキル・カルチャー・報酬期待の3点をバランスよく判断することです。「なぜこの質問をするのか」「どの行動特性を見ているのか」など、面接官同士の目線を揃えることが、一貫したアセスメントにつながります。

<実践アクション>

  • ポジションごとに求めるスキル・行動・成果を具体的に言語化し、候補者にも共有
  • 面接官同士で質問の目的や評価ポイントのすり合わせを継続的に実施

入社後のオンボーディング=組織としての責任

ここまで、入社前までの話を進めてきましたが、最後に入社後のオンボーディングの質の重要性に触れたいと思います。オンボーディングが重要であることはもはや共通認識だと思いますが、単なるオリエンテーションや研修に組み込まれるなど、形式的に終わってしまう企業が多くあります。
中小企業ではプレイングマネージャーが自らの業務に多くの時間を割き、育成に十分な時間が割けない現実もあります。その結果、ただでさえ期待が高く入社してきた社員に対して、「できるんでしょ?」と放置された“お手並み拝見”の状態になってしまい、孤立を生んでしまいます。

また、「うちの会社ではこういう働き方が好まれる」とか、「この辺は裁量があるけど、ここは確認が必要」など、前職でNGだったことがむしろ歓迎されることもあれば逆もありますが、その違いは案外見過ごされがちです。そのような環境にいかにフィットさせるかも踏まえて、オンボーディングの全体計画を行うことが有効です。

本人にどれだけポテンシャルがあったとしても、職場の環境には大きく左右されるもの。活躍を最大限にサポートするためには、配属先のマネジャーだけに任せるのではなく、組織全体として立ち上がり〜活躍をサポートする意識や体制になっていく必要があります。

<実践アクション>

  • オンボーディングの目的と実施後の状態を定義することで支援する側の意識を揃える
  • 入社の段階に合わせた支援内容を設計する(例:入社前後〜初月のお悩み解決前提のメンター制度の導入など)
  • マネジャーに依存しない体制の検討(例:オンボーディング専任の担当者やチームを設ける)
  • 業務のオンボーディングだけでなく、文化や価値観を対話によってすり合わせる

まとめ

採用は「経営戦略」の一部です。本来は事業戦略と人材戦略は紐づくべきで、どんな人材を、なぜ、どのように迎え入れるのかまで一貫して設計するのが採用の考え方です。戦力化をゴールとするならば、採用の前後から組織側の“受け入れ体制づくりと意識の醸成”というプロセスも問われます。

採用時点での期待に対して入社後の環境が一致しているか。「活躍」の定義が明確になっているか。採用市場と自社の求める人物像・要件がズレていないか。こうした問いに向き合いながら、自社の採用戦略そのものをアップデートし続けることが変化の激しい市場に対応するために必要です。そのためには、社内に蓄積された経験や感覚だけでなく、データによって定量的に把握・分析すること、客観的な視点や外部の知見を柔軟に取り入れることも有効です。自社だけでは見えにくい「ズレ」に気づくことが、採用戦略の再設計の一歩になるでしょう。

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