開示義務化から2年、人的資本経営はどのように変化しているのか【第3回】
今後の人的資本経営と人的資本開示の展望(2024年度)
人的資本経営の領域も含めた組織開発・人事制度構築を支援している筆者が、全4回にわたり、「2024年度の人的資本経営と人的資本開示」について考察をお届けする連載。前回は2024年度の「有価証券報告書における各社の開示率・開示指標の調査」(820社)から好事例を紹介しました。
第3回は、過去2回の記事のデータや好事例を踏まえて、今後の人的資本経営と人的資本開示のあり方について考察します。
参考:
【第1回】人的資本開示2年目・2024年度の調査結果分析と考察
【第2回】人的資本開示の好事例と注目ポイント(2024年度)
目次
人的資本経営は「量」から「質」への変化が起こりつつある
連載の第1回で報告したとおり、有価証券報告書における25指標(内閣官房の開示指針を参考の上で設定した25項目の定量情報)の全体開示率は、2023年度は24.2%、2024年度は24.9%と大きな変化は見られませんでした(図表1)。
一方で、項目ごとの開示率には変化がありました。エンゲージメントスコア、人材育成投資、採用などの開示が増加し、反対にいくつかの指標は開示率が低下していました。また、弊社が設定した25指標以外の独自指標を設定し、自社ならではの情報として開示している企業も増加していました(図表2)。
▼図表1:開示率の変化(全体傾向)
▼図表2:独自指標の開示状況
以上をまとめると、人的資本経営は「量」から「質」への変化が起こりつつあるといえます。開示・義務化対応に取り組むフェーズがひと段落し、自社にとって意味のある取り組みに注力するフェーズに移行してきているのです。
今後は内外労働市場の変化にどう対応するかが問われるのでは
このような量から質への転換にともなって、自社における人的資本経営の目的・ゴールや全体像を明らかにする企業が増えています。
連載第2回では好事例として紹介しましたが、自社の理念・ビジョンを実現するための「求める人材像」や「ありたい組織像」をTo-beの状態として明らかにする企業が増加しています。また、To-beを実現するための人材戦略(取り組み課題)を明らかにし、自社の取り組みや注力ポイントを記載する企業も増加しています。
一方で、少し厳しいことをいえば、2024年度の人的資本開示は目先の打ち手にとどまっているケースが多く、自社を取り巻く内外労働市場の変化や先々の課題まで言及している例はまだまだ少ないのが現状でした。
しかし投資家は、企業が中長期的に成長できるかどうかを見定めるため、未来に向けた取り組みや変化対応力を注視しています。今後は、人的資本経営・人的資本開示においても、自社内の取り組みを整理するだけでなく、内外労働市場の変化にどう対応するかが問われるのではないかと思います。
「選び、選ばれる」環境下で人材に対する取り組みに注目が高まる
内外労働市場の変化とは、具体的にいえば「少子高齢化に伴う採用難」「労働流動性の加速」「事業構造の変化」などの課題です。
特に、少子高齢化×労働流動性の加速から、人材採用の難度がますます上昇し、企業が人材を「選ぶ」だけでなく、求職者から企業が「選ばれる」必要性が高まっています。労働流動性の加速に関していえば、転職に対して半数以上がポジティブなイメージを持ち、特に20代ではネガティブなイメージを持っている人は1割未満にとどまっています(図表3)。
▼図表3:内外労働市場の変化(労働流動性の加速)
出所:リクナビネクスト「転職に対するイメージと本音をアンケート」2019年
この状況を踏まえると、人的資本経営は自社の事業成長や投資家に向けた説明という側面だけでなく、求職者に向けた自社のPR活動という側面もますます重要になるのではないでしょうか。
リスキリングや再配置に関する人的資本開示も求められるようになるだろう
事業構造の変化についていえば、他国に比べると遅れているものの、日本でもすでに4割強の会社が生成AIを活用する方針を打ち出しています(総務省「国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究」2024)。
今後、DX推進に加えて生成AIの活用が進めば、企業の生産性が向上し、多くの人材がより付加価値の高い創造的な業務へとシフトしていくことが求められるようになります。また、こうした事業環境の変化を受け、多くの企業が成長事業や新規事業へのリソースシフトを進めることが想定されます。そうなれば、既存事業の見直し、人員のリスキリングや再配置、管理組織のコストカットなどを検討する必要性が高まるでしょう。
そのため、これからの企業はリスキリングやリソースシフトに関する人的資本開示も求められるようになるのではないでしょうか。少子高齢化にともなう採用難、労働流動性の加速、事業構造の変化などが、このように人的資本経営と人的資本開示のあり方を大きく変える可能性があります。
第4回では自社の人的資本経営を考える際のポイントを紹介します。
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