外国人材のキャリア展望【後編】
外国人材のキャリア形成論

BEENOS HR Link株式会社代表取締役社長の岡﨑 陽介が特定技能制度の成り立ちから課題点、これからの展望などを実際の例を交えながら紹介する本連載。前回は外国人材のキャリア形成とそのための支援などについて解説しました。後編となる今回は特定技能2号取得に向けた、企業の取り組み事例についてご紹介します。
前回:外国人材が長期的なキャリアを形成する意義と影響
連載記事:https://at-jinji.jp/expert/column/104
目次
特定技能2号分野の広がりとキャリアパスの実例
2024年に特定技能2号の対象分野が従来の建設業と造船・舶用工業に加え、新たにビルクリーニング、工業製品製造業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業の9分野に拡大されたことは、外国人材にとって大きな転機となります。これにより、単なる現場作業者としての役割を超え、各業界で高度な専門性を発揮しながらキャリアを築ける可能性が広がります。
例えば、ビルクリーニング業では、現場の清掃作業者から品質管理責任者や施設管理のマネージャーへと成長できる道が開けます。製造業分野では、ラインリーダーや品質保証責任者として現場の効率化や技術革新を担う立場に進むことが期待されます。自動車整備業では、整備リーダーや診断技術者として高い技術力を活かし、さらに工場管理者やサービスマネージャーといった管理職へのキャリアアップが見込まれます。
これらの分野では、特定技能2号を取得することで、外国人材がリーダーシップを発揮し、チームの指導や業務の効率化を担う中核的な役割を果たせるようになります。また、対象分野の拡大に伴い、企業側も彼らを長期的に雇用し、技術向上やマネジメントスキルを育成する意欲が高まると予想されます。結果として、外国人材が「現場の労働力」から「会社を支える人材」へと成長することが期待できます。
出所:「外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」出入国在留管理庁
さらに、特定技能2号は在留期間の上限がなく家族の帯同も認められるため、安定した生活基盤を築くことが可能です。これにより、外国人材のモチベーションが向上し、長期的なキャリア形成が現実のものとなります。例えば、農業や漁業で地域に根ざした活動を続け、やがて自らの経営を始めることや、宿泊業や外食業で店舗を運営するフランチャイズオーナーへの道も描けるでしょう。
特定技能2号の対象分野拡大は、外国人材のキャリアパスの多様性を生み出し、企業や地域社会における外国人の役割を再定義する重要な転換点となります。
外特定技能2号へ転換するために必要な試験
特定技能1号から2号へ転換するためには、分野ごとに定められた試験に合格する必要があります。これらの試験は、1号で培った実務経験を基にさらに高度な専門性や技能を測るものであり、各分野で求められる基準に応じて異なる内容となっています。
例えば、建設分野では「建設技能評価試験2号」という試験が実施されます。この試験では、1号の業務で得た基本的な技能に加え、リーダーとしての能力や高度な技術を証明する必要があります。具体的には、構造物の安全管理や作業計画の策定といった実務的な知識が問われます。同様に、造船・舶用工業分野では「造船技能評価試験2号」が実施され、溶接技術や配管の精密な加工などの熟練した技能が求められます。
2号試験ではマネジメント要素が求められる
出所:「特定技能外国人受入れに関する運用要領|4 建設分野」出入国在留管理庁
新たに追加された分野についても、それぞれ特定技能2号への転換に必要な試験が設けられています。自動車整備業では、1号で取得した基礎的な整備技能を踏まえ、高度な整備作業や診断技術を測る「自動車整備技能試験2号」が必要です。ビルクリーニング業では「ビルクリーニング技能試験2号」が設定されており、現場作業だけでなく管理能力や品質向上に関する知識も問われます。
これらの試験は、単に技術的な能力を確認するだけでなく、リーダーとしての適性や、日本の労働環境で長期的に活躍するための素質も評価されることが特徴です。また、試験を受験するためには、特定技能1号で一定期間の実務経験を積むことが前提とされています。
特定技能2号への転換に必要な試験は、高度な専門知識や技術力を確認するものであるため、事前の準備が重要です。外国人材にとっては、試験対策に時間を割くことが必要になりますが、企業もサポートを提供することで、労働者のスキル向上や定着を支援することができます。
外国人材のキャリア形成について日本企業が考えるべきこと
ガイコク人材を雇用する企業の中には、「評価制度は日本人と外国人で同じにしている」という方針を掲げる企業もあります。しかし、「同じ」であることと「公平」であることは必ずしも一致しません。国籍や文化的背景、さらには言語能力の違いなど、完全な平等を追求することは現実的に難しい場合があります。それでも、従業員評価において重要なのは、国籍や個人の特性を問うのではなく、仕事内容や職場環境といった業務に直接関連する要素に焦点を当て、公平な基準を設けることです。また、評価においては「働きたくないと思われてしまう要素」を取り除く姿勢が求められます。
外国人材の定着率を向上させる取り組みも、表面的な解決策では十分ではありません。「外国人」というひと括りで対応するのではなく、一人ひとりの状況やニーズに応じた柔軟な対応が必要です。
例えば、宗教行事や家族事情に伴う一時帰国の要望が出た際、企業側としてはその要望をただ受け入れるのではなく、その従業員が長期的に組織に貢献してくれる可能性を評価する視点も重要です。「外国人だからすべて配慮するべき」という考え方ではなく、組織にとってどのような形で相互利益が生まれるかを考える必要があります。
その一方で、外国人材にも日本の職場文化や就労意識への適応が求められます。双方が歩み寄ることで、働きやすい環境が形成されるのです。また、企業は宗教や文化的な背景に関する最低限の知識を持つべきですが、宗教上の理由で休暇を必ず認めるべきかどうかなどはケースバイケースです。個別の対応が必要な場面も多く、従業員と企業の信頼関係を築きながら解決策を見出すことが望まれます。
外国人材の雇用は、日本企業にとって多文化共生社会の一端を担う機会でもあります。多様性を活かしつつ、個別対応と公平性のバランスを取ることで、外国人従業員にとっても日本企業にとっても成長につながるキャリア形成が実現するのです。
日本企業における特定技能のキャリアの展望
特定技能2号は5年を超えた長期の在留が許可されることからも長期的な雇用を実現したいと考えている企業を中心に特定技能1号を受け入れている企業も長期的な雇用を視野に入れた2号への転換を歓迎しており、2号に転換するための経験を積むためにマネジメント業務を行う配置を実施している企業も少しずつ増えています。
企業の立場から見ると、特定技能1号から2号への転換は、単なる人材の昇進にとどまらず、企業の成長に不可欠な重要な人材を育成するプロセスでもあります。特定技能2号の外国人材がリーダーシップを発揮することで、業務の効率化や品質向上、さらには新たなビジネスチャンスの創出にも貢献できるようになります。
特定技能2号には、現場での熟練度が求められる一方で、チームの指導や業務全体の管理といったマネジメント能力も重要な要素となるため、企業がそのような人材を育成することが日本経済にとってプラスになると言えるでしょう。
また、特定技能2号を取得するためには、試験に合格することが必要ですが、このプロセスを通じて外国人材はさらに専門的な知識とスキルを習得します。企業側は、従業員に対して教育や研修を提供することで、スムーズな転換を支援することができます。このようなサポート体制を整えることが、企業にとっては従業員のモチベーションを向上させ、長期的な雇用関係を築くうえでも重要です。
結果として、特定技能1号から2号への転換は、外国人材のキャリアパスを広げると同時に、日本企業が国際的な競争力を高めるための鍵となります。多様な人材の活躍の場を提供することが、日本の産業の持続的成長に貢献し、共生社会の構築にも繋がると期待されます。
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