開示義務化から2年、人的資本経営はどのように変化しているのか【第2回】

人的資本開示の好事例と注目ポイント(2024年度)

人的資本経営の領域も含めた組織開発・人事制度構築を支援している筆者が、全4回にわたり、「2024年度の人的資本経営と人的資本開示」についての考察をお届けする連載。前回は人的資本経営の開示率、開示指標などの比較調査分析を紹介しました。今回取り上げるのは、人的資本開示の好事例です。

私たちリクルートマネジメントソリューションズでは、2024年度の「有価証券報告書における各社の開示率・開示指標の調査」で、820社の人的資本開示を調査しました。そのなかから、好事例をいくつか発見しましたので紹介します。

参考:【第1回】人的資本開示2年目・2024年度の調査結果分析と考察

目次

  1. 好事例1/目指すビジョンや取り組み課題が明確になっている
  2. 好事例2/取り組み課題解決のプロセスまで明記されている
  3. 好事例3/自社の経営(財務)に与える影響にまで触れている
  4. 好事例4/意図を持って開示項目を追加している
  5. 自社の経営戦略に紐づく独自の人的資本施策を示すことにフォーカスしよう

好事例1/目指すビジョンや取り組み課題が明確になっている

最初は、コニカミノルタの事例です(図表1)。この事例の秀でた点は、人的資本経営により達成したい状態「ビジョン」を明確にしているところです。合わせて、戦略を実現するために求められる「人材・組織像」や、その実現のための「取り組み課題」が示されているのもすばらしいと感じました。

コニカミノルタの場合、将来の人財動向をふまえ、プロフェッショナル人材集団への変貌を人財基本戦略(ビジョン)に掲げています。また、その実現のための人財育成体系を明確化し、DX人財教育レベルの向上を取り組み課題としています。このような人材資本開示をすると、ステークホルダーに対して目指す姿を高い解像度で伝えることができます。多くの企業が参考にできる事例だと思います。

▼図表1

「コニカミノルタ株式会社(有価証券報告書2024年3月期)」|@人事プライムコラム

図表1:出所「コニカミノルタ株式会社(有価証券報告書2024年3月期)」

好事例2/取り組み課題解決のプロセスまで明記されている

2つ目は、三井住友信託銀行の事例です。この事例の注目点は、各課題に対する「目標値(人的資本KPI)」が設定されており、課題解決の全体像やプロセス(価値向上モデル)まで明記されている点です。

「人材力の強化」という目指す状態(ビジョン)に対して、取り組むべき課題を「健康経営」「エンゲージメントの強化」「組織力の強化」と段階的に提示し、プロセスごとの実施施策も打ち出しています。
全体として、取り組みの方向性が分かりやすくなっています。ビジョンや取り組み課題に加えて、このように課題解決の全体像やプロセスまで明確にすると、人的資本開示の解像度をさらに高めることができます。

▼図表2

出所「三井住友信託銀行株式会社(有価証券報告書2024年3月期)」

好事例3/自社の経営(財務)に与える影響にまで触れている

3つ目は、丸井グループの事例です。この事例の特徴は、人的資本経営を行うことで得られる「自社の経営(財務)リターン」は何かということまで踏み込んで考えている点です。
人的資本投資に関するリターンを、IRR(Internal Rate of Return=内部収益率)による測定モデルを用いて算出しており、効果検証しています。

人的資本がどのように財務資本につながるかのサイクルを示しているのです。人的資本経営では、常に人的資本と財務資本の関係が問われます。その問いへの回答として、優れた事例の1つだと考えます。
2024年度は、丸井グループをはじめとして、先進的企業が財務面への影響も含めて示すトレンドが見られました。

▼図表3

出所「株式会社 丸井グループ(有価証券報告書2024年3月期)」

好事例4/意図を持って開示項目を追加している

4つ目は、スズキの事例です。この事例は、自社の人的資本開示に対する姿勢を明確にしたうえで、2023年度よりも開示項目を増やし「独自指標」を多く開示しています。

スズキは「個の成長」を極めて重視しており、そのために独自指標を多く設定し、独自の取り組みをいくつも行っています。今回は特に、自社の人的資本に関する取り組みの定性情報を大量に列挙している点が好印象でした。

スズキをはじめとして、2023年度よりも開示率を大きく高めている企業は、独自指標を設定する傾向が高く、人的資本開示に対する積極的な姿勢が現れていました。人的資本開示は定量データを軸にすることが望ましいですが、独自の取り組みを分かりやすく説明するため、定性面の開示を追加することは効果的だと言えます。

▼図表4

出所「スズキ株式会社(有価証券報告書2024年3月期)」

自社の経営戦略に紐づく独自の人的資本施策を示すことにフォーカスしよう

これらの好事例の注目ポイントは、大きく2つあります。

1つ目は、ステークホルダーへ目指す姿を伝える解像度の高さです。フェーズによって、伝えるべき情報は異なります。まずは好事例1(コニカミノルタ)のように、目指すビジョンや取り組み課題を明確にすることが大切です。それに加えて、好事例2(三井住友信託銀行)のように解決プロセスを明記したり、好事例3(丸井グループ)のように財務的な影響を示したりしていくと良いでしょう。

2つ目のポイントは、義務化2年目にあたって、単に情報量を増やすのではなく、自社の戦略や注力課題の解決など、意図をもって開示情報を増やしていることです。開示情報の増やし方については、好事例4(スズキ)が1つの典型です。
これらの好事例のように、経営戦略に紐づく重点課題の解決や、自社が重要だと考える独自の項目を示すことにフォーカスすることが、人的資本経営や人的資本開示の質を高めることにつながります。ぜひ参考にしてください。

第3回では今後の人的資本経営と人的資本開示の展望を紹介します。

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