開示義務化から2年、人的資本経営はどのように変化しているのか【第1回】

人的資本開示2年目・2024年度の調査結果分析と考察

2023年3月期決算以降、上場企業を中心とした企業で、人的資本の開示が義務化になりました。では、義務化2年目の2024年度、各社の開示率・開示指標はどう変化したのでしょうか。また、どのような人的資本開示の好事例があったのでしょうか。そして、今後の人的資本経営と開示の展望について、どう考えたらよいのでしょうか。自社の人的資本経営を考える際、どのようなポイントを押さえればよいのでしょうか。リクルートマネジメントソリューションズでさまざまな企業に対し、人的資本経営の領域も含めた組織開発・人事制度構築を支援している筆者が、全4回にわたり、「2024年度の人的資本経営と人的資本開示」について考察してみます。

目次

  1. 人的資本経営の開示率、開示指標を比較調査
  2. 調査項目全体開示率は「24.2%→24.9%」と大きな変化は見られなかった
  3. 人的資本開示の「質」を重視する企業が増えた
  4. 「独自指標」や「なぜ開示するか」を発信する企業が増えた

人的資本経営の開示率、開示指標を比較調査

この第1回では、開示率・開示指標などの調査結果分析を紹介します。
私たちリクルートマネジメントソリューションズは、2023年度に続いて、2024年度の「有価証券報告書における各社の開示率・開示指標の調査」を2024年6〜7月にかけて実施しました。
2024年7月1日までに有価証券報告書を提出した企業を中心に、820社(プライム518社、スタンダード249社、グロース44社、その他9社)をピックアップ。内閣官房の開示指針を参考にしながら、独自に25指標を設定し、それらの定量指標有無を確認しました。その調査分析結果を2023年度と比較をしながら紹介します。

参考:2023年度調査結果について
「人的資本開示義務化に関する実態調査」の分析結果を発表

調査項目全体開示率は「24.2%→24.9%」と大きな変化は見られなかった

2024年度の調査項目全体開示率は「24.9%」でした(図表1)。2023年度が「24.2%」でしたから、大きな変化は見られませんでした(図表1)。プライム・スタンダード・グロースの市場別に企業を分けたときの開示率も同様に大きな変化はありませんでした。

また、市場ごとの「開示群」の割合も2023年度とほとんど同じでした(図表2)。プライム市場の企業は、開示義務の5項目だけを開示した「義務化対応群」よりも、6項目以上を開示した「順次対応群」や10項目以上を開示した「積極開示群」が多い状況にありました。スタンダード市場・グロース市場の企業は、2023年度と同様に義務化対応群が多い結果となりました。

▼図表1

▼図表2

人的資本開示の「質」を重視する企業が増えた

開示率や開示群には大きな変化が見られませんでしたが、人的資本開示の「質」には変化が見られました。
図表3は、私たちが設定した25項目の指標別の開示率です。開示義務項目は高く、それ以外は低くなっています。ただ、開示義務項目以外の項目には、昨年と比べて開示率が変化している項目がいくつか見られました。より詳しく見ていきましょう。

▼図表3

図表4は、開示率が2023年度と比べて増加した項目です。全企業群で「エンゲージメントサーベイスコア」の開示が大幅に増えたことが分かります。他に、「人材育成投資額・投資時間・研修参加率」や「採用」「高度専門職人材」「障がい者雇用率」などの開示率も高まっています。
一方で、図表5の開示率が2023年度と比べて減少した項目を見ると、「社員持株会加入率」や「女性従業員人数・比率」が大きく減っています。

▼図表4

▼図表5

図表3をあらためて詳しく見ると、多くの会社が人事戦略を再点検するなかで、有価証券報告書により優先度の高い項目(エンゲージメントサーベイスコア、人材育成投資、採用など)を記載し、相対的に優先度が低い項目(社員持株会加入率、女性従業員人数・比率)を削除したようです。

エンゲージメントサーベイスコア、人材育成投資、採用などの開示が増えているのは、人材獲得や人材育成に力を入れている企業が多いからだと考えられます。また、各社が競合他社の開示情報を検証した結果、エンゲージメントサーベイスコアなどを記載する企業が増えたという推測も成り立ちます。

こうした動向からは、各企業が自社の人事戦略をふまえ、開示情報の質を高めようとしたことがうかがわれます。

「独自指標」や「なぜ開示するか」を発信する企業が増えた 

さらに、自社らしい「独自指標」を開示する企業も少なくありませんでした。私たちの調査では、内閣官房の開示指針記載の指標(19項目)をもとに、当社が設定した指標以外の独自指標(25項目)を開示している企業が、全体の約40%もありました。(図表6)

▼図表6

独自指標の多くは有給取得率と健康診断受診率でしたが、それ以外にもさまざまな指標がありました。例えば、「ソリューションクリエイターレベル(SCREENホールディングス)」「テレワーク・時差勤務利用率(山形銀行)」「アルムナイイベント参加人数(ほくほくフィナンシャルグループ)」「一人当たり創出価値(東京海上ホールディングス)」といった独自指標が散見されました。

また、プライム市場の企業のなかには、有価証券報告書では義務化項目を中心とした限定的な開示に留め、その代わりに、「統合報告書」で義務化項目にとどまらない踏み込んだ開示、人的資本投資の狙いや実現したいことを発信している企業が一定数存在していました。例えば、ある企業は、独自性のある「人材育成方針」を提示したり、人材育成方針の体系図を示したりしていました。このように「なぜ開示するか」を発信する企業が増えたことも、2024年度の特徴の1つです。

第2回では人的資本開示の好事例と注目ポイントを紹介します。

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