「エンゲージメント不要論」は本当か?~国内No.1企業が語る“本質論”~

エンゲージメントの低い組織が取り組むべき「組織基盤の強化」とは?

第3回では、企業の成長ステージによって組織課題が変わることをお伝えしました。しかし、組織課題を「診断」するだけではエンゲージメントは高まりません。エンゲージメントを向上させるためには、「診断」した上で、「変革」のステップへと進まなくてはなりません。第4回、第5回では、当社の知見や経験をもとに、エンゲージメント向上に向けた「変革」のポイントをお伝えしていきたいと思います。。

※国内No.1 ITR「ITR Market View:人材管理市場 2024」従業員エンゲージメント市場:ベンダー別売上金額およびシェア(2017~2023年度予測)

目次

  1. エンゲージメントを高めるための組織基盤とは?
    【1】HR(ヒューマンリソース):組織は「個人」の集合体である
    【2】Communication:組織は「コミュニケーション」の集合体である
    【3】Rule:組織は「ルール」の集合体である
  2. エンゲージメントが低い組織が取り組むべき3つの課題
    《課題1》個人:「自立した個」の育成
    《課題2》コミュニケーション:「結節点」の強化
    《課題3》ルール:「信頼」の再構築
  3. おわりに

エンゲージメントを高めるための組織基盤とは?

エンゲージメントとは、人と人の間、あるいは人と会社の間にある関係性です。しかし、関係性は目に見えないため、取り扱うことは簡単ではありません。

エンゲージメントといった組織の状態や個々人の感じ方にアプローチするためには、目指す方向となる理念やその実現を支える仕組み(組織基盤)から整える必要があります。

では組織基盤を整えるにはどうしたら良いのでしょうか。
当社では、物理的には存在しない「組織」を、下図のように3つの構成要素に分けて、捉えています。
「4人」の組織を例として図示すると下記のような形になります。

【1】HR(ヒューマンリソース):個人、一人ひとりの従業員
【2】Communication:従業員同士をつなぐコミュニケーション
【3】Rule:組織を支える各種制度などの仕組み

【1】HR(ヒューマンリソース):個人、一人ひとりの従業員

言うまでもないことですが、組織は「個人」の集合体です。個々の従業員がそれぞれの役割を果たすことで組織は成り立っているので、この個人が他責的・評論家的だとどれだけ組織としてエンゲージメントを高めようとしてもノイズになります。
従業員が、全体を統べる秩序に従いながら自分の役割を果たすためには、「個が自立していること」が大前提です。

具体的には、次のようなことが求められます。

  • 他人と協力するために、自分自身と相手を理解すること
  • 自らの責任で意思決定・行動し、他人に責任転嫁しないこと
  • 自分自身が変化し、周囲に好影響を与えること
  • 変えられるものは「自分」「思考・行動」「未来」であると考えること

逆に、「他人」「感情・生理反応」「過去」は変えられないと考えること)

自立していない「弱い個」の集合体では個々人が依存し合ってしまうため、1+1が2にならず、場合によっては1以下になることもあります。1+1を2以上にするためには、個の自立が欠かせません。

【2】Communication:従業員同士をつなぐコミュニケーション

組織は「コミュニケーション」の集合体でもあります。人と人とのすべての行為は、コミュニケーション活動だと言えます。人と人は完全に分かり合うことはできませんが、より良い社会をつくるためには相互理解を重ね、共通了解をつくる必要があり、そのために日々コミュニケーションをしているのです。

第2回でお伝えしたとおり、組織には従業員と従業員の間に無数の線(コミュニケーションチャネル)が存在します。この無数の線をつなぐ上で最も重要なのが、管理職の存在です。
管理職には「結節点」としての機能が求められます。下りてきた情報をただ下に流すのではなく、自ら情報を集め、適切に編集・圧縮して、必要なところに伝達する手腕が求められます。また、従業員に対して適切に判断をしたり、従業員の動機を高めなければなりません。管理職が「優秀なプレイヤー」ではなく、「結節点」として機能しているかが、組織基盤を強化する上で重要であると言えます。

【3】Rule:組織を支える各種制度などの仕組み

組織は「ルール」の集合体と捉えることもできます。ここで言う「ルール」は、「守るべきこと」「してはいけないこと」などの規則だけでなく、業績管理制度、人事制度、福利厚生制度などの明文化された制度や、明文化されていない組織内の不文律(暗黙の前提)も含む広い概念としてとらえてください。

上図のように、ルールというものは、細か過ぎてもアバウト過ぎても組織の複雑性が増してしまいます。そのため、「適度な精緻さ」で設計することが重要です。この適度な精緻さを補うために必要なのが「信頼」です。

私たちは、「赤信号では車は止まってくれるはず」「自分の机のものは勝手に持ち出されないはず」など、「きっと相手はこうしてくれるだろう」という信頼に基づいて行動をしています。この信頼が不足している組織では、事細かにルールを設けなければならず、ルールが多過ぎるがゆえに組織の複雑性が増してしまいます。効率的にルールを運用するためには、日頃から組織内に信頼を形成しておくことが大切です。

エンゲージメントが低い組織が取り組むべき3つの課題

お伝えしてきた通り、組織の基盤を整えるには「HR」「Communication」「Rule」、それぞれへのアプローチが必要です。特にエンゲージメントが低い組織においては、その組織基盤が整っていないがゆえに、どんな施策を打ったとしても一過性の対症療法になりがちです。
本記事では、人事ができるファーストステップとして以下の3つをご紹介します。

  1. 個人:「自立した個」の育成
  2. コミュニケーション:「結節点」の強化
  3. ルール:「信頼」の再構築

《課題1》個人:「自立した個」の育成

どれだけ会社がエンゲージメントを高める施策を実施しても、受ける側であるひとりひとりの個人がある程度自立していなければ、その施策はうまく機能しません。

エンゲージメントが低い会社では          、
「”どうせ”、会社や上司は自分の意見なんか聞いてくれない」
「”しょせん”、自分なんかが頑張ったって会社は変わらない」
「”やっぱり”、こんな施策をやっても意味がなかったな」といった声が多くあります。
こういった「どうせ、しょせん、やっぱり」の言葉が職場にまん延しないよう、
個人ひとりひとりが自責的な「自立した個」になる必要があります。

<人事が行うべきファーストステップ>

▼新入社員・若手社員のスタンス育成

「変えられないもの」にとらわれるのではなく、「変えられるもの」に目を向けられるように、若手社員のうちに、スキルだけでなく「スタンス」を育成していくことが重要です。
当社では新入社員全員を対象に、丸1日かけて「セルフモチベーションコントロール研修」を実施しています。また、現場に配属されてからも、本人が他責思考に陥らないよう、上司・メンターがフォローアップするOJTの体制を構築することも重要です。

《課題2》コミュニケーション:「結節点」の強化

どれだけ会社や人事がエンゲージメントを高める施策を講じたとしても、それに対して管理職が、

「人事は現場のことを全然分かってないから、施策は適当にやればいいよ」
「自分も背景を聞いてないけど、経営方針が急遽変わったので対応しておいてね」
といったように上位接続/下位接続ができていないと、エンゲージメントは一向に高まりません。それどころか施策を講じることが”逆効果”になってしまう恐れもあります。

だからこそ、管理職は経営と現場をつなぐ結節点(つなぎ目)としての役割が求められます。
結節点に求められる具体的な機能は「情報収集」「情報提供」「支援行動」「判断行動」の4つです。

管理職自身がこの4機能を果たす必要性を十分に理解し、その上で実践度合いを測っていくことが重要です。

<人事が行うべきファーストステップ>

▼管理職の結節点としての機能強化
大前提として「優れたプレイヤー」ではなく、経営と現場をつなぐ「結節点」となる人物を管理職に登用することが必要です。その上で結節点としての期待を伝える必要があります。当社では管理職に対して「360度サーベイ」を実施しており、上司と部下の両者から、上記4つの機能を半年に一度測定しています。          

《課題3》ルール:「信頼」の再構築

どれだけ制度や仕組みを整えたとしても、それに対する従業員の納得感が得られなければ運用はうまくいきません。さらに言えば、完璧な制度や仕組みというものは存在せず、それを実行に移す従業員の行動があって初めて制度や仕組みは運用されます。          

だからこそ経営陣が自ら行動し、会社としての「信頼のインフラ」を構築する必要があります。従業員が「うちの経営陣なら、きっと従業員のことを考えてくれているんだろうな」と思えるだけの信頼があることで、一つ一つの制度や仕組みに対して、従業員が懐疑的になることなく受け入れ、スムーズに運用できるようになります。

「信頼のインフラ」を構築するためのキーワードは「約束と実行」です。経営陣が、従業員に伝わる形で約束と実行を繰り返すことで、徐々に従業員の信頼を得ることができます。

<人事が行うべきファーストステップ>
     
▼経営陣と現場の対話機会の創出 
信頼を醸成するためには、まずは従業員が「経営陣は自分たちのことを分かってくれている」と思える状態にすることが重要です。そのためには、経営陣によるメッセージの「発信」機会だけでなく、従業員の意見をくみ取る「受信」の機会も設けることをお勧めします。

当社では、会社のイントラネット上で、従業員のコメントから経営陣がいくつかピックアップして返信する、全社総会で経営陣に対する質疑応答の時間を設ける、社内表彰や昇進などの機会に経営陣との食事の席を設けるなど、双方向のコミュニケーション機会を数多く設けています。

おわりに

「自立した個の育成」「結節点の強化」「信頼の再構築」の3つは、エンゲージメントを高めるうえで欠かせない組織基盤をつくる取り組みです。組織基盤が整っていなければ、どれだけエンゲージメント向上施策を講じても効果が 得られにくくなってしまいます。

次回は、「エンゲージメントの高い組織に共通する採用・育成・風土・制度のポイント」について解説していきます。

>>>第5回 エンゲージメントの高い組織に共通する採用・育成・風土・制度とは?

@人事では『人事がラクに成果を出せるお役立ち資料』を揃えています。

@人事では、会員限定のお役立ち資料を無料で公開しています。
特に人事の皆さんに好評な人気資料は下記の通りです。
下記のボタンをクリックすると、人事がラクに成果を出すための資料が無料で手に入ります。

今、人事の皆さんに
支持されているお役立ち資料

  • このエントリーをはてなブックマークに追加


資料請求リストに追加しました

完全版 HR系サービスを徹底解説! HR業務支援サービス完全ガイド 勤怠・労務管理 採用支援 会計・給与ソフト など