サーベイ起点の組織改革 第1回
従業員向けサーベイを取り巻く現状
主に人事が組織の状況把握や組織課題改善の足掛かりとして実施する従業員向け「サーベイ」。私は、リクルートマネジメントソリューションズにおいてサーベイの導入及び、活用を支援する組織でマネジャーをしていますが、最近「サーベイ疲れ」という言葉をよく耳にするようになりました。各社、目的に応じてサーベイを実施していますが、サーベイの種類や回数の多さに対して従業員が負担を感じているようです。
そこで今回は、『サーベイを効果的に実施・活用するにはどうすれば良いか』、を3回にわたってお伝えしていきます。第1回は「従業員向けサーベイを取り巻く現状」を解説し、第2回で「サーベイの概要と選び方のポイント」、第3回で「サーベイの活用方法・事例」をご紹介します。サーベイ活用に悩まれている方の参考になれば幸いです。
目次
そもそも“サーベイ”とは何か
サーベイの語源は、古くは17世紀頃の英語、更にさかのぼるとフランス語だと言われています。フランス語の語源には「見る・気づく」という意味があり、その後、社会科学やビジネスの領域でも「サーベイ」という言葉が使われるようになったとされています。
現在の主に人事領域におけるサーベイは、「従業員が自社に対してどんな思いや感情を抱いているかを可視化・把握する手段としての調査」という意味合いで使われることがほとんどです。
目的に応じて選ばれる多種多様なサーベイ
一般的に企業で実施されるサーベイは多種多様です。また、サーベイを実施する理由も、人的資本開示への対応から離職防止、ストレスチェックなど幅広く、用途に応じて適切なサーベイが選択されます。
テーマ別に見ると、
- 従業員満足度やエンゲージメント状態
- ストレスやコンディション
- コンプライアンスの遵守度合い
- 理念やビジョンの浸透度など、特定テーマにおける組織状態
などがあり、現状や課題を把握したり、課題解決の糸口を見つけたりするために実施されることが多いです。
最近では特に、人的資本経営におけるスコア開示を目的にしたサーベイの実施ニーズも高まっています。人的資本開示における企業の指標別の開示状況を見ると「エンゲージメントサーベイスコア」の開示率は16%ですが、今後開示率は伸びることが予想されます(図表1)
▼図表1:各指標の開示状況(指標別開示率)
出所:有価証券報告書の開示率・開示指標の調査結果(リクルートマネジメントソリューションズ コラム―各社の開示情報や傾向から「個と組織を生かす」人的資本経営を考える― )
また大手企業を中心に、人事データ活用に取り組む企業の割合も増えており、リクルートマネジメントソリューションズが2023年に一般企業の本社・部門人事を対象に行った「人事データ活用に関する実態調査」では、「1.現在(データとして)把握しているもの」「2.今後重視したいもの」のどちらについても、「従業員エンゲージメント・従業員満足度・コミットメント」の選択率が一番高く出ています(1.本社人事68.3%、部門人事60.2%、2.同44.9%、34.7%)。従業員エンゲージメントや満足度の把握にはサーベイを使うことが一般的で、データ活用の文脈でもサーベイへの関心がより高まっていることが窺えます。
参考:「人事データ活用に関する実態調査」の分析結果を発表|リクルートマネジメントソリューションズ
センサスサーベイとパルスサーベイの違い
さらに、サーベイは手法や頻度によっても種別できます。手法の違いとしては、上述のように、ある特定の組織や会社全体を対象に日頃の状態や組織に対する従業員の思いを把握する「組織向けのサーベイ」と、主にマネジャーのパフォーマンスやマネジメント状況の把握を目的に、マネジャーとその直属のメンバーにマネジャーのパフォーマンスに対して回答する「360度評価」などがあります。
頻度の違いとしては、全従業員を対象に、大規模かつ一定の期間を空けて中長期的な組織の状態を測る「センサスサーベイ」と、全従業員もしくは特定の組織を対象に、小規模かつ高頻度に組織や個人の状態を測る「パルスサーベイ」に分類できます(図表2)。
▼図表2:センサスサーベイとパルスサーベイの違い
昔はサーベイと言えばセンサスが一般的でしたが、頻度高く組織や個人のコンディションを把握し、タイムリーに介入することで離職の防止や従業員のリテンションが図りやすくなるとして、近年パルスを導入する企業が増えています。
また、中長期的な組織状態は年1回のセンサスで把握し、タイムリーな状況把握や改善にはパルスを使用するといったサーベイの併用も増えています。そういった意味では、昔に比べてサーベイの多様化が進み、目的に応じてより適切なサーベイが選択・実施されるようになってきていると言えます。
近年起こりやすい“サーベイ疲れ”とは?
ここまで述べてきたように、昔に比べてサーベイの多様性が高まり、目的に応じた適切なサーベイの選択や併用が進んでいます。経営層や人事としては、適切なタイミングでさまざまなテーマに沿った組織の状態を把握できる一方で、現場に視点を向けると、必ずしもサーベイの実施が理解、歓迎されないという現実もあります。
実際に、会社をより良くしようと実施されるサーベイも、現場から見るとサーベイの乱立に映ったり、度重なる回答やフィードバックが負荷になったりするケースは想定でき、最近は、次第に回答する意欲やモチベーションを失ってしまう「サーベイ疲れ」という言葉も耳にします。
このサーベイ疲れの主な要因としては、以下が挙げられます。
様々なテーマで情報を収集したいがために、従業員に数多のサーベイを頻繁に依頼することがあります。日々の業務をこなしながら、空いた時間で回答するにも数や頻度が多いと、その分現場には負担になります。特に質問数が多かったり、自由記述式の設問、回答に思考することが求められる設問があったりすると、回答に要する時間や負担感が増大し、現場のストレスも溜まりやすくなります。また、ここに回答や還元システムの使いづらさが合わさることで更なる負荷の増大につながります。
項目内容が抽象的である、同じような内容の項目が重複している、聞かれている対象が不明瞭といったサーベイそのものの質の低さも回答者の負担になります。現場の状況とあまりに乖離している、聞かれている内容に一貫性を感じないといった回答する意味を感じない設問が多く含まれる場合も同様です。
また、サーベイを実施する目的や背景の伝達が十分でない、回答者の情報や回答内容が適切に管理されないといった場合も、回答者は不安を感じ、本心で回答することを躊躇してしまいます。
調査結果が公表されない、回答した結果が具体的な改善策や変化に結びついていないと回答者が感じる状態が続いてしまうと、回答する意味を感じず、サーベイへの意欲が下がることも考えられます。
また、サーベイ結果は公表するものの、一部の管理職しか閲覧できない、都合の悪い部分を隠して公表されるといったことがあると、回答を公表しない場合よりも不信感につながることもあります。
上記に挙げられるような状態を回避し、現場にもサーベイが受け入れられやすい状況をつくるためには、「(1)実施・活用方針の明確化と浸透」と「(2)質の高いサーベイの実施と運用」が重要です。
現場にもサーベイが受け入れやすくするためのポイント
ポイント(1)実施・活用方針の明確化と浸透
「なぜこのサーベイを実施するのか」「結果をどのように活用するのか」といった、回答者が気になるポイントに対して、目的や活用方法を言語化し、社内イントラネットで発信したり管理職を通じて情報を伝達したりします。ただ伝えるだけでなく、可能な限り意図を理解してもらえるように働きかけることが重要です。
日常の業務に追われる中でのサーベイへの回答は「追加の業務が増えた」と捉えられる可能性も高いという前提に立ったうえで、分かりやすくしっかりと実施や活用の目的、意図を伝えることが大切です。
ポイント(2)質の高いサーベイの実施と運用-
「サーベイの項目は、言葉の使い方や聞き方の微妙な違いが回答結果に大きな影響を与えることもあるセンシティブなものです。意図した回答が得られるように、綿密な設計と検証を繰り返す必要がありますが、そうしたサーベイの品質を内製で担保するには限界もあります。その場合、信頼性や妥当性の検証を経て一定の品質が担保されている外部のサービスを使うのも有効です。
また、回答者が本心で回答できるように心理的安全性を担保したり、負担になりすぎないように本当に必要なサーベイのみを実施したりする、運用の質の向上も重要です。検討のうえで、どうしてもサーベイの種類や回数が多くなってしまうという場合は、上述の通りしっかりと現場に意義や意図を伝達すると、回答の意味を感じて、対応してもらいやすくなるでしょう。
まとめ
サーベイを使った一連の活動は、変化の激しい環境下で組織がより高いパフォーマンスを発揮したり、企業が貴重な人材を活用し成果を上げたりするために大変有効な手段の一つです。しかし、使い方を誤ると現場の負担感の増大や不信感を招く脆さを併せ持つものでもあります。しっかりと準備し、適切な実施と活用を目指すことが、「サーベイ疲れ」を防ぎ、やる価値のある施策にするうえで重要です。
では、具体的にどんなサーベイをどのように選んで実施したらよいのでしょうか。第2回ではその詳細をお伝えします。
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