DX推進における人事部の役割

事例から学ぶ人材育成・文化醸成のポイント

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、単にデジタル技術を導入することだけではありません。DXの本質は、企業がそれまでのビジネスモデルや業務プロセスを見直し、根本から変革するための取り組みです。
この変革を成功させるための鍵は、「デジタル技術」だけではなく「人」にあります。

従業員が新しいデジタル技術を理解するとともに、ビジネスモデルや業務プロセスをどのように変革するかを考え実行に移すためのサポート役として、人材育成を担う人事部は非常に重要な役割を持っています。

本記事では、クライアント企業への伴走型DX支援の実例を通して、人材育成と組織文化の醸成がDX推進にどのように寄与するのか、その具体的なプロセスや効果についてお伝えします。

参考:NJCが考える「DX」とは

目次

  1. 現場の意識改革から始める
  2. DX推進組織の考え方を変える
  3. モチベーション管理の重要性
  4. 実践的な学習環境の整備
  5. 部門を超えたチームワークの促進
  6. まとめ:DX推進における人事部門の役割と施策例
  7. さいごに

現場の意識改革から始める

事例:外部の視点で気づきを促す

ある企業の勤怠管理担当者は、なぜ必要なのかを知らないまま、10年以上前から変わらない書式や手順を引き継いで業務を行っていました。たとえば、他の従業員が手書きした書類をExcelに入力したり、別の書類に手書きで転記する作業を何度も行い、そのたびに複数の従業員がデータを確認するという非効率な運用が続いていました。それでも「ずっと前から変わらないのだから、必要な手順なのだろう」という先入観が強く、自身の業務に問題があるとは感じていませんでした。

そのため、DX推進組織からは「現状維持思考が強い」と見られていました。しかし、伴走型DX支援プロジェクトに参加し、業務の実態やデジタル技術の効果を実際に目の当たりにしたことで、業務の非効率性やリスクに気づき、業務改善への意欲が高まりました。

ポイント:

  • 外部の視点を取り入れることで、先入観や固定観念にとらわれない問題発見と解決策の創造が可能となる
  • 従業員が自ら問題を発見し、解決策を考える機会を提供することで、業務改善および変革に対する主体性を高めることができる

DX推進組織の考え方を変える

事例:プロセス重視のアプローチへのシフト

ある企業のDX推進チームは、当初、同業他社におけるデジタルソリューションの導入事例に感銘を受け、そのソリューションの導入に対して前のめりになっていました。しかし、現状の業務を十分に把握しないまま、ソリューションを「どう活用できるか?」から考え始めたため、解決すべき問題や目指す目標が不明確な状態となってしまい、ステークホルダーの理解が得られずにいました。

そのDX推進チームは、プロジェクトを通じて、現状分析の重要性に気づきことができました。現状の業務プロセスを深く理解して問題を把握し、理想的な状態を描くことから始め、そのギャップを埋めるためのデジタルツールを選定するというアプローチに転換しました。

ポイント:

  • デジタル技術の導入を前提とせず、まず業務プロセスの理解と改善に重きをおくことで、変化し続ける事業環境に対応するための思考やマインドを育むことができる。
  • 社内のDX推進をリードするDX推進組織の考え方を変えることで、現場ひいては全社における変革への取り組み方に変化をもたらすことができる

モチベーション管理の重要性

事例:DX推進組織の業務負荷管理

ある企業のDX推進チームは、主業務を持つ兼務者で構成されていました。そのチームで、DX推進活動を続ける上での業務負荷や、主業務とDX推進活動に対する評価に不安を抱えていました。
同様に兼務者で構成されたDX推進チームが存在する別のクライアント企業は、従業員がDX推進活動に対して積極的な姿勢となることを期待し、DX推進に関わる業務を主業務と同じように扱い、評価にも反映させていました。

ポイント:

  • 多くの企業でDX推進活動が兼務となっている中、従業員は業務負荷の増加や評価方法に不安を抱えていることを正しく認識する必要がある。適切な対策を講じることで、DX推進に対するモチベーションを維持が期待できる

実践的な学習環境の整備

事例:座学研修から実践学習へのシフト

ある企業では、各部署のDX推進をリードするメンバーに対して、生成AIに関する座学形式の研修を行いました。しかし、受講者が実業務に生成AIを活用するまでには至りませんでした。

一方、別のDX推進チームでは、ほとんどのメンバーがデジタル技術に対する知識が少なく、DX推進を「難しいこと」だと漠然と捉えていました。しかし、プロジェクトを通じて、「完走することができる小さな」の業務改善を実践したことで、小さなことからなら「自分たちでもできる」と感じるようになりました。そのチームは、プロジェクト終了後も、自らデジタル技術を活用した社内業務改善に取り組んでおり、従業員のDX推進に対する主体性が引き出されました。

ポイント:

  • 理想を実現する手段である「デジタル技術」を学ぶだけでなく、実際の業務課題を題材とした活動を促進することで、従業員に実践経験や成功体験の機会を提供できる
  • 実践経験や成功体験を通じて、「1. 現場の意識改革から始める」や「2. DX推進組織の考え方を変える」で述べたような意識変革を促進できる

部門を超えたチームワークの促進

事例:部門横断プロジェクトの成功

ある企業のDX推進チームは、さまざまな部門の従業員で構成されていました。プロジェクトを通じて、さまざまな部門の従業員が協働し、業務プロセスの理解や問題の発見を行っていくことで、これまで自部門の業務すら十分に把握していなかった従業員たちが、自部門のみならず他部門の業務にも興味と問題意識を持つようになりました。

ポイント:

  • 部門を越えたチームを編成することで、参加メンバーの視野を広げ、組織全体のDX推進に対する意識や主体性を高めることができる
  • 異なる専門性や強みを持つメンバーが協力する機会を増やすことで、自走可能なDX推進組織を醸成できる

まとめ:DX推進における人事部門の役割と施策例

DXの成功には、デジタル技術の導入と、それを使いこなす人材の育成が不可欠です。人事部門は、人材を採用し育成するだけでなく、組織文化の変革に対しても重要な役割を担っています。
以下のような取り組みに注力することで、組織全体のDX推進をより効果的に支援できます。

  1. 従業員の意識改革を促す参加型プログラムの企画
    例えば、デジタル技術による業務改善をテーマにしたワークショップやアイデアソンなどを人事部が企画することで、現場の従業員が自ら問題を発見し解決策を考えることができ、意識改革や主体性を引き出すことにつなげられます。
  2. DX推進組織向けの問題解決思考トレーニングの実施
    デザイン思考のような問題解決のフレームワークを使ったトレーニングを、人事部が主導することで、DX推進組織などに必要なスキルを育成できます。これにより、先入観や固定観念にとらわれず、柔軟な視点で問題解決に取り組めます。
  3. DX推進活動を適切に評価するための制度の設計
    DX推進に関わる従業員のモチベーションを維持するため、人事部は主業務とDX活動のバランスを考慮した評価制度を設計することが重要です。従業員が自分の貢献が正当に評価されていると感じることで、DXへの積極的な取り組みが期待できます。
  4. 実践的な学習環境の整備と継続的なスキル開発支援
    座学だけでなく、実際の業務課題に取り組む実践型の学習環境を提供することで、従業員のスキル向上を図ります。例えば、プロジェクト型の研修やデジタルツールの実践的な活用を通じて、学習機会の提供とフォローアップを行うことで、継続的なスキル開発を支援できます。
  5. 部門を越えた協働を促進するプロジェクトのサポート
    異なる部門のメンバーが協力する部門横断プロジェクトを通じて、チームの多様な視点を生かし、組織全体のDX推進を効果的に進められます。人事部は、チーム編成や部門を超えたコミュニケーションの円滑化、協力体制の構築に貢献しましょう。

さいごに

DX推進には、企業全体が一丸となって取り組む姿勢が求められます。その中で、人事部の役割はデジタルスキル教育などを提供するだけでなく、組織の意識改革や文化の醸成にまで及びます。

今回紹介した事例を通じて「人事部がDX推進に果たすべき役割」を理解し、実践的なアプローチを取り入れることで、人材育成と組織文化の醸成の両面から企業全体のDX推進を支援し、持続的な変革に向けて進むことができるでしょう。

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