脱・ゆるブラック企業!従業員にやりがいを感じさせるためのポイント

はじめまして。Great Place to Work® Institute Japanでシニアコンサルタントとして、各社の働きがいのある会社調査実施のサポート、分析、経営層への提言や働きがい向上支援を行っている、岩佐真裕子と申します。多くの企業の働きがいの状態を確認し、そしてそれを改善させるために必要なポイントを分析してきた経験や、実際に働きがいの高い組織の施策や事例を豊富に蓄積している弊社ならではのお伝えできることがあると思っています。

人事としての課題にお悩みの方はもちろん、従業員をマネジメントする立場にいらっしゃる方にも少しでも参考なる情報をお届けできれば幸いです。

今回は、「脱・ゆるブラック企業!従業員にやりがいを感じさせるためのポイント」と題し、お話しできればと思います。

目次

  1. 「ゆるブラック企業」が注目されている
  2. 「ゆるブラック企業」では、「働きやすさ」はあるが「やりがい」はない
  3. 「ゆるブラック企業」で起きていること
  4. 「ゆるブラック企業」の事例:ワンマン経営が引き起こす従業員の「諦め」
  5. 脱・ゆるブラック企業!そのために取り組むべきこととは

「ゆるブラック企業」が注目されている

日本において、長時間労働や低賃金など、労働者を酷使して劣悪な労働環境で働かせる企業として、いわゆる「ブラック企業」と呼ばれる企業が存在し問題視されてきました。「ブラック企業」が生まれる背景はさまざまありますが、日本型雇用システムの影響もあると思われます。「メンバーシップ型」の企業文化があり、担当業務の範囲があいまいであることや、かつては転職が一般的でなく、労働者側に不満があっても企業に留まる選択をする人が多いことも「ブラック企業」が横行した背景と言えそうです。

このような問題や労働力不足を解消し、一人ひとりがより良い将来の展望を持てることを目的に、日本政府は2016年から働き方改革を開始しました。それにより、まだ課題が残る企業はありながらも、多くの企業において長時間労働は削減される結果となりました。
その結果として、現在注目されはじめているのが「ゆるブラック企業」です。

「ゆるブラック企業」とは、働き方改革により長時間労働は削減され、働き方としては従業員にやさしい状態となったものの、成長実感が得られない、やりがいがあまりない状態になっている企業です。一見、働き方や残業時間などに着目すると、いわゆる「ホワイト企業」のように見え、魅力的に映るかもしれませんが、従業員にとって良い環境と言えるかは、要注意です。

「ゆるブラック企業」では、「働きやすさ」はあるが「やりがい」はない

企業の働きがい(エンゲージメント)を調査しているGreat Place to Work® Institute Japan(以降、GPTW Japan)では、「働きやすさ」と「やりがい」の両方を包含した「働きがい」が大事だと考えています。
「働きやすさ」とは、快適に働き続けるための就労条件や報酬条件などを指し、社内の環境や福利厚生も含めた制度など、会社側がある程度整えるべきものです。「やりがい」とは、仕事に対するやる気やモチベーションなどを指し、会社や社会への貢献実感や自己実現の度合いといった働く動機にかかわります。

GPTW Japanでは、「働きがい」と業績の関連を明らかにするために、働きがいのある会社調査のスコア別に売上の伸び率を確認した研究レポートを発表しています。「働きやすさ」の高低、「やりがい」の高低をもとに4つのグループに調査実施企業を分け(図1)、売上の伸び率をみてみたところ、やはり「働きやすさ」と「やりがい」の両方が高い「いきいき職場」が最も高い結果となりました(図2)。残念ながら、「働きやすさ」だけが高い「ぬるま湯職場」は、どちらも低い「しょんぼり職場」とあまり変わらない結果となりました。

「ゆるブラック企業」はまさに、図1の4つのグループでいう「ぬるま湯職場」に該当します。従業員にとっては、働きやすいとはいえ、やりがいがなく成長実感も得られにくいだけでなく、企業としても、そのような風土が出来上がってしまうことは、長期的な企業の成長の観点から望ましくないものと言えます。

▼図1 “働きやすさ”דやりがい”4つの職場タイプ

■図2 4つの職場タイプごとの売上の対前年伸び率

出典:「働き方改革」で業績は向上するのか? ~"働きやすさ"、"やりがい"と業績の関係~

「ゆるブラック企業」で起きていること

「ゆるブラック企業」はまさに、「ぬるま湯職場」に当てはまると記載しましたとおり、「働きやすさ」はあるが「やりがい」がない状態になってしまっています。そのような状態では、「ぶら下がり社員の増加」「優秀な人材の流出」といった問題が起こってしまいます。

ぶら下がり社員とは、仕事に対する動機や会社へのコミットが弱く、指示されたことや与えられた仕事を受身的にこなし、成果を追求する主体的な行動をとらないような人材を意味します。職場の問題としては、ぶら下がり社員による消極的な働き方が他の従業員に波及して同じような人が増えたり、前例踏襲の仕事や上意下達の仕事ばかりが増大したりするなど、現場のモチベーションが低下していく危険性があります。

そして、優秀な人材の流出はさらに大きな問題です。優秀な人材は総じて、給料や職位などの外的な評価だけではなく、内的な評価を大事にしています。会社のパーパスやビジョンが魅力的か、地域社会や世の中全体への貢献内容に共感できるか、仲間や上司を尊敬できるか、といった点です。所属する職場を誇りに思えるか、自己実現を叶えられるか、成長できる環境があるか、すなわち「やりがい」を持てるかについては重要なポイントとなります。

もちろん、「働きやすさ」も重要なファクターです。柔軟で多様な働き方ができることも、職場を選ぶ条件のひとつになってきていると思われます。しかし、前述のような問題を考えると、ただただ「働きやすさ」の改善にばかりに着手するのではなく、「やりがい」を高めることが重要です。

「ゆるブラック企業」の事例:ワンマン経営が引き起こす従業員の「諦め」

「働きやすさ」はあるが、「やりがい」という点において会社全体で低くなってしまっている事例を紹介します。
A社は、10年前の調査時点から、社員は経営・管理者層から管理されていると感じている傾向がありました。特に部長層でこの傾向は顕著でした。直近の調査における「経営・管理者層は社員の仕事ぶりを信頼している」という主旨のアンケート(設問)に対し、部長以上でポジティブな回答は0%。ポジティブな回答が最も高い階層である「役員・経営幹部」においても1割程度と、極端に低い結果となっていました。

A社には大きな原則がありました。「全ては社長が決める」という企業風土です。また、「社員を全面的に信頼しているわけではない」、経営・管理者層のこの意識が強く、社員側にも伝播してか「自分たちは管理されている」という自覚があったのです。社員に「新規性の高い挑戦をしたい」という思いがあったとしても「どうせ否定される」「どうせ社長のところで覆される」、そう考えてしまい、諦めてしまう。そんな事態も日常茶飯事となっていくのです。そのような‶諦め〟が続くと、挑戦への意志も湧いてこなくなります。

経営・管理者層と社員、互いに不信であるこの状況に人事部は、何もしなかったわけではありません。経営・管理者層と社員を集めた座談会や部活動を活発に行う、管理職研修の実施など、様々な努力をされてはいます。しかしながら、社長から権限委譲がされないこの状況では、信頼は育まれません。A社における働きがいを高めるには「全ては社長が決める」という企業風土の是正が必要です。

脱・ゆるブラック企業!そのために取り組むべきこととは

GPTW Japanでは、「働きやすさ」と「やりがい」の両方を包含した「働きがい」を高めるためには、経営・管理者層と従業員の間に高いレベルの「信頼」があることがベースになると考えています。
「信頼」は、リーダーへの「信用」、従業員への「尊重」や「公正」な扱い、そして仕事への「誇り」と仲間との「連帯感」から成り立つものです。ただ、すべてに手を付けることは難しいかもしれませんので、ここでは自身の会社が「ゆるブラック企業」かもしれないと感じている方に職場の中で意識していただきたいポイントを3つご紹介します。

【1】 やりがいを高めようとしている姿勢を従業員に見せる

「ゆるブラック企業」の問題は、「働きやすさ」はあるが「やりがい」が低いことであるため、「やりがい」を高めていただくことが重要です。「やりがい」は「働きやすさ」と異なり効果が見えづらく、取り組みづらいと考えてはいないでしょうか。「何をしたら効果が出るかわからない」、「他社の事例は参考にならない」、こういったお悩みも良く見聞きします。
しかし、何もしなければ組織は変わりません。「やりがい」を高めようと試行錯誤する姿勢そのものが、従業員の「やりがい」向上に寄与します。「社内の情報を出来る限り共有する」「上司と部下、従業員同士の交流の機会を増やす」「失敗についての社内批判をなくす」など、多額の資金や準備を必要とせずはじめられることもあります。トライアンドエラーを繰り返し、柔軟に改善・改良を重ねることで組織も変わることができます。

【2】 部下の強みと会社の方針を統合するマネジメント

マネジメントの立場にいる方であれば、ぜひ、まずは個々の従業員のやりがい探しに寄り添うことを推奨します。「あの人はどんなスキルを持ち、何が得意なのか」「あの人は何に興味があり、何をしたいのか」を情報収集します。個性やその人のスキル、やりたいことを把握し、どうすればその強みを最大化できるかを考えます。

職場全員のやりがいを把握できれば、次に「職場内の掛け算」を試みます。誰にどのような仕事を渡して、誰と誰をチームにすれば、より成果を創出できるのかを考えます。会社の戦略や方針だけでなく、従業員一人一人の立場に立ち、やりがいを軸とした未来を考え、会社の戦略や方針と統合して方向性を提示すること、それが現代のマネジメントに求められる視点です。

【3】 部下の「やりがい」、強みは対話で知る

とはいえ、「どうすれば部下の気持ちがわかるのか」とお悩みになるかもしれません。部下の個性を知るには、対話をするしかありません。仕事ぶりから見えるものもありますが、「何に興味があり、何をしたいか」は刻々と変わります。

心理的な距離を普段から縮め、話しやすい関係を築いておくことも大事です。おすすめは、「1on1」を効果的に行うことです。「1on1」とは、上司が部下と1対1で対話を行い、部下の現状や悩みに寄り添い仕事のパフォーマンスを最大化することを目的としています。上司が一方的に指示や指摘をしたり、業務の進捗確認を行う場ではありません。
昨今多くの企業で取り入れられていますが、効果的に行えているかは点検しても良いでしょう。自由な発言を促す、心理的安全性が担保された場を作れていることが重要です。「テーマフリーに話そう」「ざっくばらんに」「雑談をしよう」といった形で声をかけられると、相手の話も引き出しやすくなります。プライベートの話も含めて丁寧に耳を傾けることで、相手を良く知り、彼らのしたいこと、やりがいを理解することにつながります。

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