CROSS BORDER 【越境】戦略 ~可愛い社員には【越境】をさせよ〜Vol.6
人事部こそ【越境】すべき~戦略人事(SHRM)への道~
みなさん、こんにちは。株式会社リクルートマネジメントソリューションズの井上功(こう)です。
「可愛い社員には【越境】をさせよ」、全6回シリーズの最終回です。前回は、【越境】で社員が得られること、【越境】とリーダーシップの関係、【越境】の際の注意点、【越境】の促進要因などについて言及しました。第6回では、人事部こそ【越境】すべき、という話をします。守旧派と言われることが多い人事部こそ、【越境】して組織や企業変革の先導者になるべきです。
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目次
人材マネジメントこそ徹底して【越境】して、戦略的に行う
第5回で、リーダーシップの先行研究を概観しました。改めて図示してみます(図A参照)。
リーダーとは、上図の右端に示しましたが、“やることを決めて”、“人を動かす”ことができる人です。主体的にアジェンダ(やること)を設定・進化させ、それを実現するべくネットワーク(人を動かすこと)を維持・拡大する人がリーダーというわけです。アジェンダ設定とは、組織がやること、つまり“戦略”を決める、ということであり、経営者や経営企画部の役割といってもいいでしょう。ネットワーク構築とは、決めたアジェンダ(戦略)を達成させるために、人材マネジメントを駆使して組織の構成員を動機づけて動かすことを意味し、主に人事部の役割となります。
この連載の中で、3つの市場と企業経営のダイナミクスをイメージしながら、戦略の【越境】の必要性を話しました。特に商品市場とのコミュニケーションに於いては多角化が求められます。顧客・市場や、製品・提供価値の【越境】が必要です。戦略が【越境】するのであれば、人材マネジメントも【越境】しなければなりません。今までと違うこと(戦略)をやるのであれば、今までと同じ人の動かし方では難しい、という訳です。それはSHRMといえます。Strategic Human Resource Managementの頭文字をとったもので、戦略的人材マネジメントという意味です。人材マネジメントこそ徹底して【越境】して、戦略的に行わなければならないと考えます。
人材マネジメントの【越境】の方向性を考える
ここで、人材マネジメントの【越境】の方向性を考えてみましょう。MIマトリクス®というフレームを提示します。2015年に考案したもので、フレームの左右がドラッカーのいう、企業の機能のMarketingとinnovationです。上下にリーダーの機能である、アジェンダ設定とネットワーク構築を置きました。
黄緑色の領域は、高度経済成長期をイメージしていただくといいでしょう。日本の人口や世帯数が飛躍的に増え、主に国内の需要が爆発したこの時期には、日本型の雇用システムの3種の神器(終身雇用/年功序列/企業内労働組合)や、新卒一括採用が有効に機能しました。国としてのエコシステムの詳細は、1979年に刊行されたエズラ・ヴォーゲルの「Japan as No.1」が詳しいです。
一方で、今までのこと(既存事業)が一気になくなるわけではありません。黄緑色の領域である既存事業こそが、多くの企業で今現在の売上げや利益の中核になっています。マーケティング領域のアジェンダを達成させるための人材マネジメントを機能させてきました。人材マネジメントの大胆な変革・【越境】が簡単ではない理由がここにあります。
組織は戦略に従う⇔戦略は組織に従う
時は流れ、VUCAの時代になりました。MIマトリクス®上での右シフトが求められています。戦略の大胆な【越境】も簡単ではありませんが、人材マネジメントは社員にとって、より身近で生活に関わることだからこそ、より一層【越境】が難しい。しかし、それを成し遂げないと企業の変革は覚束ない。そして、その当事者が人事部なのです。人事部こそ、人を動かす機能、すなわちネットワーク構築機能を駆使して人材マネジメントを【越境】させ、企業変革を実現していく主体者であるべきです。
そこで、人材マネジメントの【越境】の方向性を、6つの機能に細分化して考えてみました。それが図Cです。
人材マネジメントは、人事の7機能(採用/配置・配属/評価/報酬/昇進・昇格/人材開発/代謝)で説明されることがありますが、ここでは業務デザイン、評価、配置、失敗の位置づけ、採用、育成、で考えてみました。アジェンダ(戦略)を新価値創造領域にシフトさせるのであれば、ネットワーク(人材マネジメント)も上図のようにシフトさせなければいけません。
組織は戦略に従う、という考え方があります。戦略(アジェンダ)を軸に組織(ネットワーク)を変えるべき、という主張です。かたや、戦略は組織に従う、ということも機能します。組織(ネットワーク/人材マネジメント)が主導者になり、戦略【越境】を実現させるというイメージです。人事部が適時・的確・適切に人材マネジメントを【越境】させ社員を動かして、SHRMの主役になるということです。これからの時代に正に求められていることかと思います。
つくるべきはイノベーションのエコシステム~OPEN JAPANの必要性
全6回シリーズで、「可愛い社員には【越境】をさせよ」ということについて論じてきました。大きな流れを再掲してみます。
- 【越境】とは何か?
- 働く人にとっての【越境】のし易さ
- 3つの市場(資本/商品/労働)を巡る企業経営のダイナミクスの提示
- 資本市場とのコミュニケーションの【越境】の必要性⇒ESG経営
- 商品市場とのコミュニケーションの【越境】の必要性⇒多角化
- 労働市場とのコミュニケーションの【越境】の必要性⇒人的資本経営
- 労働市場とのコミュニケーションの【越境】の詳細⇒雇用システムの限界/労働市場の環境変化/労働観の変化など
- 個人アンゾフを巡る社員の【越境】の方向性
- 社員が【越境】で得ていること☞新しい知識/モノの見方の転換/新結合/対人対応スキル/人脈/ワクワク感
- 【越境】はリーダー開発につながる
- 【越境】すると会社に対する愛着的、変革的態度が増す
- 【越境】促進には工夫が必要⇒プラスのスキーマ(認識)をつくる/エントリーしやすくする/現場との接続を意識する/プレ・オン・ポストの支援/定点観測/認知と称賛
- 【越境】を認めている企業が増加している
- 人事部こそ【越境】すべき⇒イノベーション(新価値創造)領域への【越境】を促すために、人材マネジメントを【越境】させる主体者は人事部
- それは「戦略は組織に従う」の実現
「可愛い社員には【越境】させる」べきです。社員の【越境】支援の主体者は人事部です。 ただ、ひとつの企業の中で躍起になっても、日本全体に【越境】が波及・普及していきません。人的資本主義経営の要諦ともいえる、日本全体を踏まえた人的資本の最大化を実現すべきです。【越境】を軸にした新しいエコシステムをつくり、社会全体で【越境】を促していくのです。それは、新しい「Japan as No.1」ともいえます。
組織の構成員を【越境】させることによって、
◇ たくさんの他流試合が生まれる
◇ たくさんの社外経験が生まれる
◇ たくさんの新結合が生まれる
◇ たくさんの自律的学習が生まれる
◇ たくさんの組織的学習が生まれる
◇ そうすることで、人的資本価値の最大化が日本として実現する
◇【越境】を軸に、日本全体で次世代リーダーが生み出される
ということです。
そして、人的資本主義経営自体は、ゲイリー・ハメルのイノベーションの5段階の最上位概念である、経営管理手法も変えていくことに繋がります。会社を動かす方法自体が変わっていくのです。MBAに代表される欧米型経営管理手法からの脱却の必要性や可能性を追求することにもつながります。
この仕組み自体は日本のみならず世界に開かれるべきであり、ガラパゴス化から解き放たれ、世界の知を取り込んで新結合の土壌となり、日本自体がイノベーション研究の第一人者・野中郁次郎先生の曰く「開かれた共同体」になっていくのです。自前主義を脱却し、排他主義から解放系に向かうべきかと思います。そのためには、組織の中に人を閉じ込めていてはいけません。
*参考:ゲイリー・ハメルのイノベーションの5段階の最上位概念(ダイヤモンド・ビジネス・レビュー)
令和元年6月21日付の政府の「成長戦略実行計画」
のP5にこうあります。
経済成長を支える原動力は「人」である。劇的なイノベーションや若年世代の急減が見込まれる中、国民一人一人の能力発揮を促すためには、社会全体で人的資本への投資を加速し、高スキルの職に就ける構造を作り上げる必要がある。
また、第4次産業革命や人口減少など変化が激しい時代には、企業も個人も、変化に柔軟に対応し、ショックへの強靭性を高める必要がある。このためには、第4次産業革命によってもたらされる分散化・パーソナル化の力に合わせて、働き方としても、多様で柔軟な企業組織・文化を広げる必要がある。
これにより、組織の中に閉じ込められ、固定されている人を解放して、異なる世界で試合をする機会が与えられるよう、 真の意味での流動性を高め、個人が組織に縛られ過ぎず、自由に個性を発揮しながら、付加価値の高い仕事が出来る、新たな価値創造社会を実現する必要がある。
まさしく【越境】です。【越境】を軸に、OPEN JAPANを実現させなければいけません。繰り返しますが、その先導役は人事部です。ぜひとも社員の【越境】を、目的を見据えて、さまざまな手段・方法で支援してください。
全6回、ご覧いただき大変ありがとうございました。
CROSS BORDER 【越境】戦略 ~可愛い社員には【越境】をさせよ〜(全6回)
https://at-jinji.jp/expertcolumn/476
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