「人的資源管理 学習と能力開発の指標」とは?
2023年に新登場「ISOの研修効果測定指標」は活用できるのか
~WHY(なぜ必要) WHAT(何) HOW(どう使う)~
有名なISO(国際標準化機構)が2023年6月に研修効果測定の指標を発表(出版)しました。
正確にタイトルを日本語にすると ISO/TS 30437 「人的資源管理 学習と能力開発の指標」 です(*1)
*1 https://www.iso.org/standard/68714.html June.2023
題名が抽象的でどのようなものか気になりますが、上記サイトを開いても全文読むには購入が必要なことがわかります。日本語版もないようです。
そこで、この新たな指標について次の3つの観点から要点を解説します。
- この指標はなぜ必要か?(WHY)
- ISO/TS 30437とは何か?(WHAT)
- この指標をどのように使えば良いか?(HOW)
目次
1.この指標はなぜ必要か?(WHY)
1960年にカークパトリックは有名な研修効果測定の4段階モデルを発表しました。
しかし残念ながらその後、進化があまりありません。例えば、
・1990年に発表された、世界最大の人材育成団体であるASTD(現在ATD)の人材育成担当者向けの調査では、「研修効果測定のベストプラクティスはほとんど使われていない」という結果でした。
・2007年に発表された、eラーニング関連の団体 eLearningGuild の調査では、「研修効果測定は十分できている」と回答する人材育成担当者はたった20%でした。
・最近発表された、人材育成コンサルティングファーム Tier 1の調査でも「自社の研修効果測定に対して満足している」と回答した人材育成担当者は5%しかないのが現状です。
一言で言うと、研修効果測定は昔でも今でも人材育成の重要課題の一つです。
経緯はいろいろあるようですが、国際標準化機構は分かりやすい、実践的な指標、スタンダード、ベストプラクティスがあれば少しでも役立つと考えて ISO/TS 30437 「学習と能力開発の指標」を開発し、発表したのが昨年でした。
2. ISO/TS 30437とは何か?(WHAT)
(1)目的
この指標の狙いは次の4つです。
企業や団体において
- 知らせる(Inform) 実施した人材育成に対する疑問に答える、トレンドを把握する
- 確認する(Monitor) 過去と比較して大きい変化があるかどうかを確認する
- 評価する(Evaluate)人材育成の効率、効果、成果を評価する
- 管理する(Manage) 人材育成の目標を達成するために管理する。
(2)対象者
研修効果は測るだけではなくて、報告しないと役に立ちませんが、相手によって求めている情報が異なります。そのために5つの相手(ユーザー)を定義しています。
- 経営層(Senior organization leader)
- 部長層(Group or team leader)
- 人材育成責任者(Head of learning)
- 人材育成担当者(Program manager)
- 受講者(Learner)
ポイントは相手によって報告する項目、内容、レポートが変わるので、相手別に整理して、相手のニーズに合うような報告をすることです。
(3)指標の種類
指標はこの3種類に分かれています。
・実施効率(Efficiency) | 研修の効率的な提供 (例:受講者数、研修実施の数、実施費用) |
・研修効果(Effectiveness) | 研修による受講者の習得度、成長、職場での活用 (カークパトリックのレベル1,2,3)ビジネス成果(Outcome)職場での成果 |
・ビジネス成果(Outcome) | 職場での成果 (カークパトリックのレベル4) |
(4)お勧めする指標
対象者別に指標の種類を並べると下記のような図になります。
*これは中小企業にお勧めする指標で、大企業にお勧めする指標はさらに多くて複雑です。
出典:The First Standard for L&D Metrics is Here! David Vance 日本語化は当社
細かいことがいろいろ書かれていますが、大事なポイントは3つの指標の種類をいくつかの切り口から見て、相手のニーズに合わせて報告しようと言うことです。
個人的にとても気になることは、効率系の指標がとても多く、効果・成果関連の指標が少ないことです。この通りに実施すると、効果測定の手間と負担が重い上に研修の効果や成果を測ることにはあまり役立たず、今後の研修の改善にもつながらなさそうな点です。
次の章でもう少し掘り下げて説明しましょう。
3. この指標をどのように使えば良いか?(HOW)
ISO/TS 30437「人的資源管理 学習と能力開発の指標」の概要はわかったと思いますが、結局この指標をどのように使えるかという疑問が残ります。それについて3つの選択があります。
(1)研修効果測定の重要性を強調するきっかけにする
ISOというのは経営層にある程度のインパクトがあるので「ISOは研修効果測定をしないとダメと言っているので、どうしましょうか?」というような問いかけを経営層にして、研修効果について考えてもらうための良い機会にはできると思います。
それをきっかけにして
- 各研修で本当に求められていることは何か
- それぞれの研修目標を達成するために育成施策は十分か
- 研修後の定着フォローの強化が必要か
- どのように成果を測れば良いか
などのディスカッションができれば非常に良いと思います。
その時に参考となるコラムをご紹介します。
・研修効果測定の基本の3ステップ
https://at-jinji.jp/expertcolumn/359
・研修計画を決める際に意識したい「6階層の価値ピラミッド」
https://at-jinji.jp/expertcolumn/410
(2) 研修効果測定の方法と項目を整理するための参考する
研修効果測定の重要性は理解しているが、細かく何をどう測れば良いかが分からない場合に、この指標は少し役立つ可能性があります。
例えば、相手別に考えて誰のために測るかを明確にして、細かい指標を考えます。
お勧めは効率系の指標に関してはエネルギーと時間をかけないで、LMS(学習管理システム)などで自動的にできるものに絞ることです。
また、効果の指標に関しては(カークパトリックのレベル2. 習得度と 3. 職場活用)に重点を置きましょう。よくあるまとめ方は効率の指標を定量的にデータとグラフで見せて、効果指標の受講者コメントと成功事例を定性的にまとめることです。
まとめ方のヒントに関してはこのコラムを参考にしてください。
・2022年度の研修レビューって本当にできていますか?
https://at-jinji.jp/expertcolumn/427
(3)何もしない
この指標の英語ドラフト版は2023年6月に発表されましたが、今まで積極的に取り組んでいる企業の事例は一つも聞いたことがありません。それどころか実際にネットで検索しても日本語でこの新しい指標に関する紹介記事や投稿すらほとんど出てきません。
これまでISO9001とISO 14001は製造業を中心として多くの企業に積極的に取り組まれてきましたが、同じISOでも今回の人材育成分野の30437の指標はそうならないと思います。「誰かに聞かれたら反応する、でもそれ以外何もしない」というスタンスでも問題ないと思います。
4. まとめ
2023年にISO/TS 30437 「人的資源管理 学習と能力開発の指標」が発表されました。
人材育成業界としては知っていた方が良いですが、今すぐ具体的に何をすれば良いかと言う明確な行動は不要です。なぜなら指標の詳細を見ても研修の改善とビジネス成果を測るために大きく役立ちそうもありません。
あまり積極的に取り組む必要はないと思います。でも「研修の効果は大事、ちゃんと測りましょう」というメッセージを強調するためには少し使えると思います。
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