管理職・マネージャー向けコーチング研修の落とし穴
成果が出ない理由とは? 現場のコーチング実態から見る5つの問題と5つの解決ヒント
日本ではコーチングが20年前くらいに大きな話題になり、それ以来、管理職・マネージャーにとってコーチングスキルは必要不可欠と言われてきました。
先日行ったマネージャー育成関連イベントでのアンケート結果からも、現在も引き続きコーチングスキルが重視されていることがわかります。
【図】IDEA DEVELOPMENT株式会社主催のイベント「[2023年度版]経営戦略で重要な『マネージャー育成』とは?具体的なコンテンツを解説! -マネージャー育成フォーラム 2023」でのアンケート結果より(以下同じ)
ここでは、マネージャー研修の担当者である回答者のうち、98%が、コーチングはマネージャーにとって「大切」か「とても大切」と回答しています。しかし、肝心のマネージャーたちが適切に実践できているかというと、必ずしもそうではないようです。
この1年間に実施したコーチング研修で、受講者が学習したコーチングスキルを職場でどのように使っているか、実態を把握することができました。それに基づいてこのコラムでは、受講したマネージャーが職場でコーチングスキルを生かせているのか、どんな課題があるか、その課題をどう解決すれば良いのかを紹介します。
参考:IDEA DEVELOPMENT株式会社「【セミナーレポート】経営戦略で重要な『マネージャー育成』とは?具体的なコンテンツを解説! -マネージャー育成フォーラム 2023」
目次
1. マネージャーとコーチングとの接点
背景となるマネージャーとコーチングとの主な接点はこの4つです。
- マネージャー向けコーチング研修の実施(受講者同士によるロールプレイ)
- マネージャーの職場での部下に対する個別コーチング実施(研修の職場実践)
- 上記により得られたマネージャーの職場での個別コーチング映像の分析と評価
- 数人のマネージャーのグループコーチング(職場実践の経験を共有し自らを見直す)
研修の進行中に受講者同士のロールプレイを観察することで、受講者の能力がある程度把握できます。例えば、「アクティブリスニングの質には個人差が見られる」、「相手中心に聞こうとすると話が進まなくなる」などです。しかし、職場の実際の場面で部下に対してコーチングスキルを用いる際の成果はどうなるでしょうか? 残念ながらこれまでそれを確認する機会はなかなか得られませんでした。
そこでこの数年、コーチング研修の中で、受講者が職場で部下に対して実際に行っているコーチングのシーンをビデオ撮影し、その映像を提出するという取り組みを行っています。研修が複数回あるため、受講期間中に受講者が職場で部下に対してコーチングを実践し、その様子を撮影して提出するのです。研修では講師が撮影された映像を分析し、コーチングスキルを評価します。評価ポイントは以下のような基本的なコーチングスキルです。
- 安心させる雰囲気作り
- 傾聴力
- 目標設定
- 状況把握の力
- 頭を整理する質問術
- 解決案を引き出す力
- 動機付け
- 実行に向けたプランニング など
実際のシーンを見ると、現場でのコーチングは研修中のロールプレイと異なり、多くの場合、予想以上にコーチングスキルが低いことが明らかになります。代表的な課題は以下の5つです。
課題 | 詳細 |
相手の話を聞かず、一方的に話す | ・傾聴が不足している ・決めつける(自分の先入観が強い) ・自分の経験談や考えばかりを話す(自慢話になるリスクがある) |
コーチング・ティーチング・業務指示の区別がついていない | ・ティーチングの段階の人にはコーチングが必要 ・コーチングが合う人にはティーチングが必要 ・進捗確認&業務指示とコーチングの区別がついていない |
1on1の目的が不明確 | ・雑談で終わってしまう ・部下の課題や悩みが明確化されず状況改善につながらない |
上司が課題解決を考えてしまう | ・上司が解決案を出してしまうと、部下は単なる情報提供者になり、主体性やモチベーションは上がらない |
具体的なアクションや期限、結果共有などの確認が不足している | ・なんとなく終わってしまい、成長のサイクルが生まれない |
2. 部下へのコーチング実態から見えるマネージャーの共通の5つの課題
理解を深めるため、これらの点について詳細を補足します。職場での上司と部下の関係がうまくいっていないと上司も部下も周囲も感じている場合に、その原因がどこから生ずるかが理解できるでしょう。
課題1:相手の話を聞かず、一方的に話す
コーチングビデオを評価する時に最も困るのは、50分の映像を見てもどこにもコーチング的な要素が見受けられないことです。上司が一方的に話し続けている場合です。どうやら部下と一緒になると、多くのマネージャーは無意識に説教モードになってしまうようです。
課題2:コーチング・ティーチング・業務指示の区別がついていない
プロのコーチング研修講師が必要とするような細かい定義や使い分けは不要ですが、部下のニーズに合わせて上司の対応を変える必要があります。
部下が自分では分からない時には、教えた方が良いです(ティーチング)。なんとなく分かっているがもやもやしている時には、質問をしながら部下の頭を整理します(コーチング)。取るべきアクションが分かっていない時には、指示が必要です(指示出し)。
ポイントは部下の状況を把握して、それに合わせて適切な対応(教える、気づかせる、指示を出す)をすることです。
課題3:1on1の目的が不明確
これは定例会議にもよくある問題ですが、形から入って、途中から何のためにやっているかが分からなくなることです。映像を見ると、雑談で終わる、お互いに譲り合いながら話が進まない無意味な1on1、部下のヒアリングや愚痴タイムだけで終わってしまうケースが驚くほど多いです。どのケースもコーチングを通じて次に何をすれば良いかというイメージづくりとモチベーションアップにつながりません。
課題4:上司が課題解決を考えてしまう
今までの課題に比べて致命的ではありませんが、上司主体の課題解決だとコーチングから求めている効果が得られません。コーチングの利点は部下中心となり、無理なくついていけて、自分の考えたことに納得して、モチベーションが高くなって行動につなげられることです。これに対して上司が回答を考えて、部下に指示をすると部下は受身的になってモチベーションが上がりません。その場合、行動につながらないリスクが高くなります。
課題5:具体的なアクションや期限、結果共有などの確認が不足している
心理的安全性は、あらゆるコーチング研修で強調される要素です。一部のマネージャーはそれを勘違いして「コーチングでは何も決めない、部下の話をただ聞くだけ」と捉えています。これではコーチングセッションや1on1をやっても、結局次に誰が何をすれば良いのかが不明で、行動につながりません。これはコーチングでも何もなくて、ただの雑談と時間の無駄です。部下が主体となり次のアクションを決めて、第一歩を踏み出す動機づけを行うことが、コーチングが当然目指すべき基本中の基本です。
これら5つの問題は、研修中のマネージャー同士のロールプレイでは明らかになりにくいものの、実際の職場では頻繁に発生しています。次に、これらの課題をどのように解決すれば良いかを見てみましょう。
3. コーチング研修の実態
コーチングスキルの習得には、コーチング研修が明確な対策の一つです。マネージャー研修の担当者によると、約7割がコーチング研修を実施中か、実施する予定がある、または検討していると回答しています。逆にコーチング研修を考えていない回答者は11%しかいないのが現状です。
しかし、研修を実施したからといってマネージャーがコーチングスキルを習得したとは限りません。そのため、コーチング研修の効果について聞きました。
回答者の25%はコーチング研修の効果が良い、極めて良いと回答していますが、逆に言うと75%は効果が期待に満たないと感じていると解釈できます。これは残念な結果です。
どうしてこうなるのか。コーチング研修の代表的な問題は下記のとおりです。
よくある問題 | コメント |
プロコーチ向けの研修内容に基づいている(目的はプロコーチ育成) | プロコーチ用の認定研修に必要な項目がきわめて多い。残念ながらこのような研修は日本のマネージャーには適していない。目的が違う、対象者が違う、活用場面が違う、クライアントとの関係が違う…など |
コーチングに対する知識が主な研修内容(プロコーチでない人には不要な専門用語が多い) | コーチングは奥深く、教えられることもかなり多いが、限られた研修時間を解説で使ってしまうのは本末転倒。肝心の繰り返し演習とフィードバックが必要な実践的なコーチングスキルを練習する時間の確保が重要 例:わかりやすく重要な金言を3つ研修の中休みに紹介する程度に留める |
高いコミュニケーションセンスが前提として求められる内容になっている | プロコーチの共通点は人間に対する関心が高く、助けたいという気持ちが強く、しかもコミュニケーション能力とセンスが高い。しかし社内のマネージャーはコーチングが本業ではなく、そこまでのレベルにないので、多くのコーチング研修の内容についていけない |
職場での活用イメージが不明確 | 承認、傾聴、GROWモデルなどを勉強しても、受講者のマネージャーはプロコーチではないので、そのスキルを誰とどの場面で使えば良いかが分からないケースが多い |
コーチングスキルを生かせる職場環境・シーンを作りにくい | コーチングスキルの代表的な活用場面は1時間程度の1対1のセッション。そこでは、安心できる雰囲気づくりと急がせないことも大事。残念ながら多くの職場はそこまでの余裕がないし、そういうシーンもない |
やりっぱなし研修で定着フォローがない | 残念ながら多くのコーチング研修は行動変容と職場成果につながらない。代表的なパターンは研修後いつどこで使えば良いかが分からない、時間がたつと自信がなくなる、職場でできない、結果的に成果が出ない |
4.効果的なコーチング研修と5つの解決ヒント
上記の問題を解決するための効果的なコーチング研修のイメージを図表にしてみました。
問題を解決し、効果を高めるための5つのヒントを提案します。
- 実践的な研修内容:
社内のマネージャーは外部のプロコーチとは異なり、ニーズも違います。そのため、研修内容を社内のマネージャーに合わせて設計する必要があります。マネージャーの活用する場面から逆算して研修内容を作りましょう。 - 演習中心の研修:
コーチングについての講義をただ聞くだけでは、コーチングスキルの習得はできません。実践的な反復練習を繰り返して少しずつスキルを身に付ける必要があります。研修の7割以上を演習にしないと身に付く可能性は低くなってしまうでしょう。 - コーチング体験:
多くのマネージャーには、良いコーチングを体験する機会がありません。その状態で良いコーチングができるかというと疑問です。まずプロコーチから良いコーチングを受けて、受ける側としての感覚と価値を実感してもらいましょう。そのイメージとモチベーションを持って、初めて良いコーチングを提供するスタートラインに立てるはずです。 - 職場実践:
研修でのロールプレイはマネージャー同士で行うため、実際の業務環境と大きく異なります。上下関係のある上司部下のコミュニケーションスタイルを変える必要もありますが、それもそう簡単ではありません。しかし、コーチングを受ける部下の気持ちや感覚がある程度がわかっていれば、途中でつまづいても立て直すことができるでしょう。研修期間中には必ず職場でコーチングを実践してもらって、そのシーンを映像撮影して提出させましょう。 - 個別フィードバック:
受講者の実際の映像に対して、講師からフィードバックを行うことが必要です。評価レポートはもちろんですが、一番効果的なやり方は、講師と受講者が一緒に映像を見ながら話し合うことです。
5.まとめ
管理職とマネージャーにとって、コーチングは非常に重要なスキルです。そのために多くのコーチング研修が実施されていますが、残念なことに実態を見ると、研修を受けても多くのマネージャーは実際の職場でコーチングスキルを上手に使えていません。
その背景には、日本で企業のマネージャー向けにコーチング研修が導入された当初、多くの場合はプロコーチ養成のコーチング研修をベースにしてきたことがあるようです。
この問題を解決してマネージャー向けコーチング研修を効果的にするために、このコラムで紹介した5つのヒントが必要と考えられます。ぜひこれらのヒントを参考にし、自社のコーチングスキルを強化してください。
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