CROSS BORDER 【越境】戦略 ~可愛い社員には【越境】をさせよ〜

【越境】の必要性とは? 資本市場、商品市場が企業に求める変化

みなさん、こんにちは。株式会社リクルートマネジメントソリューションズの井上功(こう)です。
第1回では、【越境】とは何か? 企業経営の観点から捉えると【越境】の意味や価値は? ということを記しました。【越境】のイメージを掴んで頂きやすくするために、企業(経営者)と3つの市場のダイナミクスを示しました。企業経営とは図Aにある3つの外部環境としての市場の変化に対応し、コミュニケーションすることです。

【図A:3つの市場を巡った企業経営のダイナミクス】

【図A:3つの市場を巡った企業経営のダイナミクス】
(筆者作成)

第2回では、企業と資本市場、商品市場との関係や【越境】の必要性について書いていきます。

目次

  1. 資本市場と企業とのコミュニケーション
  2. 商品市場と企業とのコミュニケーション
  3. 歴史ある企業も変化対応を行ってきた
  4. まとめ

1. 資本市場と企業とのコミュニケーション

資本調達活動も、環境が変わることで変化することが前提です。では、資本調達活動とは何でしょうか?

資本調達とは、

  • 企業が投資家から
  • 資本を調達し
  • 事業活動で収益を上げ
  • 利益の一部を、配当や株価の上昇等で投資家にフィードバックする

ことと言えます。

投資家というと、企業に投資することで売買益や配当金を得て生計を立てる“容赦ない”イメージがありますが、最近は、投資先の企業が成長し市場価値を高め社会に貢献することを、長期的な投資の目的にしている人も多い印象です。

その証左として、企業の新しい評価基準が近年登場しています。ESG経営です。ESGとは、E(Environment)・S(Social)・G(Governance)の略であり、環境に配慮している経営をしているか、社会的に正しい経営をしているか、企業の管理・統治を正しく行っているか、を問うものです。ESG経営を推進しているか否かを投資判断基準においたものが、ESG投資です。

企業に求められるE(Environment)への対応

その中でも、Eの軸が特に注目されているようです。2023年7月に、国際連合のグテーレス事務総長が「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と述べました。地球沸騰化とは地球温暖化とは比べものにならない気温の極端な上昇のことであり、その主因はCO2を含む温室効果ガスと言われています。CO2は、主に石炭や石油を燃やすことによって排出されています。世界の温室効果ガス排出量の約80%を、日本を含むG20が排出しているといわれており、その削減は待ったなしの状況です。企業としても、E、即ち気候変動対策をより加速化する必要性に迫られています。

【図B:環境経営のダイナミクス】

【図B:環境経営のダイナミクス】
(筆者作成)

企業が発展・成長しても、環境自体が持続していかなければ意味がありません。持続可能性と環境対応の両立こそが、これからの企業に求められることといっても過言ではないでしょう。それは、図Bのトレード・オンの領域を目指すことによって実現されます。そして、投資家も長期的な企業価値の向上を図るために、ESG投資に拍車をかけていくことが予想されます。企業の成長・発展は、環境である地球自体の存続が大前提であるということを、投資家も企業経営者も、もはや普遍的に理解しています。投資判断基準が今までとは大きく異なってきているのです。このように、資本市場とのコミュニケーションの様相も大きく変化してきています。
変化への対応こそが企業経営の要諦であり、それは投資家との間でも実行されなければならないことであり、企業経営者の【越境】の必要性といってもいいでしょう。

2.商品市場と企業とのコミュニケーション

次に、商品市場に対峙する領域としての事業活動を考えてみます。事業活動とは何でしょうか。事業活動は徹底して絞り込んで考えると以下の4つに尽きるということができます。

(ア) 顧客に対して
(イ) 価値を提供し
(ウ) 収益モデルを確立し
(エ) 競争優位性を担保する

この活動自体を、図Aでは資本の回転としています。資本は回転させて、商品市場に対して価値を提供し、対価を獲得しなければなりません。少し掘り下げていきます。

​顧客の変化

画像:【越境】の必要性とは?資本市場、商品市場が企業に求める変化|@人事

事業活動をする以上、顧客、即ちお客様が必要です。顧客が企業のこともあれば(B to B)、顧客が一般市民(B to C)のこともあるでしょう。政府や自治体を相手に事業活動をしているケースもあります(B to G)。いずれにしても、価値を提供する相手がいなければ事業にはなりません。顧客は人であり、人口が影響してきます。

国内市場を考えたとき、この200年くらいのスパンでみると人口の急増・急減の状況にあることが明白です。
1900年の日本の人口は約4300万人です。日本の人口のピークは2004年で約1億2700万人。国立社会保障人口問題研究所の予想だと2100年の人口は中位推計でも約5000万人です。つまり日本は大体100年前に今の三分の一だった人口が100年間で3倍になり、今後100年で三分の一に戻るのです。顧客の主体である人間の数がこれだけ激変する国も珍しい。

一方世界ではどうでしょうか? 1900年の世界の人口は凡そ16億5000万人。現在は約80億人。2100年の世界の人口予測は109億人となっています。

顧客としての人はこれほどまでに変化しています。変化対応が必要です。

提供すべき価値の変化


顧客が何を買っているのか? ということです。製品のこともあれば、サービスのこともあるでしょう。いずれの場合も顧客は企業から提供されたもので何かしらの価値を得ているのです。顧客にとって、課題が解消される「何かいいこと」が得られる必要があります。

この「何かいいこと」は時代と共に変化します。その時々の時代背景、政治状況、経済状態、文化の様相などによって、当該国の国民の求める課題を解決する「何かいいこと」は違います。人が持つ課題や解消したときに得られる「何かいいこと」が何十年も変わらないということは考えにくい。

また、顧客は日本のみならず世界に開いています。従って、顧客が求めること、即ち提供すべき顧客価値も変化させる必要があります。

収益モデルの変化

収益モデルも同様です。
事業活動はボランティアではありませんので、何かしらの収益(利益)を得る必要があります。収益を得る方法は多様化しています。いいモノをつくって売る、ということではない、アズ・ア・サービス、シェアリング、マッチング、サブスクリプションのような様々なビジネスモデルが存在します。顧客や提供価値が変化する中で、どのようにして永続的に収益を上げるのかについても変化させなければいけません。

競争優位性の変化

最後が競争優位性です。
提供される価値は、他社に対して何かしらの優位な点がなければいけません。性能や品質、ブランドイメージや価格、他社に対する競争優位性の観点は様々あろうかと思います。

イノベーション界隈でUVP(Unique Value Proposition/独創的な価値の提案/独自性)という言葉がよく使われます。他社が簡単に真似できるようなものであれば、独創性とは呼べません。競争優位性をつくるポイントは唯一無二(One & Only)ということでしょう。その市場に参入してくる時の障壁が高ければ高いほど、持続性がある事業を展開できることになります。この競争優位性も、競争相手が進化する前提で考えると、変化が必要です。

顧客/提供価値/収益モデル/競争優位性、この4つが、商品市場に相対する際に考えなければいけない必要最小限のコトです。これらは、商品市場が急激に変わっている以上、変化・進化させなければなりません。

変化に対応する多角化戦略

商品市場の変化に対応し、成長を維持継続する方法のひとつが多角化戦略です。
多角化戦略とは、新たな価値・製品をつくったり、新たな市場に進出したりすることで、成長を実現するための戦略です。事業の【越境】戦略といってもいいでしょう。

その説明はアンゾフのマトリクスが分かりやすいです。多角化をどのように推進するのかを考えるごく基本的なフレームです。

【図C:アンゾフのマトリクス】

【図C:アンゾフのマトリクス】
(筆者作成)

市場浸透は既存市場で既存の製品やサービスを、顧客にそのまま提供して収益を上げる戦略を指します。新商品開発は、既存の市場に新製品や新サービスを投入して売上を伸ばす戦略です。新市場開拓は、既存の製品・サービスを、新たな市場に投入して収益を伸ばす戦略です。多角化は、新しい顧客に新しい製品やサービスを提供することであり、以下の4つの方法があります。

(1) 水平型多角化戦略
自社が保有する技術を活用し、既存事業と親和性の高い分野で事業を拡大する戦略です。既に保有している技術や販売チャネルを活かせるため、新たな設備投資などの負担を軽減できます。また既存事業と親和性が高いため、シナジー効果も期待できます。

(2) 垂直型多角化戦略
新たな技術を獲得し、既存事業のバリューチェーンの上流若しくは下流の領域に進出し、成長拡大を狙う戦略です。既存事業に近しい市場を対象とするので、信頼関係がある既存顧客や既存取引先にアプローチしやすいメリットがあります。

(3) 集中型多角化戦略
自社が既に保有している技術・スキルを活用して、既存事業との関係性が少ない新市場に進出する戦略です。自社が蓄えてきた技術や経験、ノウハウなどの経営資源を活かせることがメリットです。

(4) 集成型(コングロマリット型)多角化戦略
既存事業とは全く異なる新市場に参入する戦略です。新たな事業の柱を構築できるメリットがあります。

3. 歴史ある企業も変化対応を行ってきた

画像:【越境】の必要性とは?資本市場、商品市場が企業に求める変化|@人事

さて、このような外部環境変化に対応する多角化は、全ての企業にとって必要なことなのでしょうか? 商品市場が変化するので、企業はその対応をするべきと書いてきましたが、創業以来長い歴史を持つ企業は本当に外部環境変化対応をして生きながらえているのでしょうか? それとも、本質的価値は変わらないので、変化対応をせずとも継続できるのでしょうか? 結論からいうと、全ての企業に商品市場に於ける変化対応は必要です。

では、極端に歴史が長い企業の例を見てみましょう。

794年創業の奈良県にある五位堂工業株式会社は、鋳物製造を行なっています。794年と言えば平安京を遷都した年です。創業以来、鍋、釜、農業機具などの生活必需品や、寺社が多い奈良の土地柄をいかした釣り鐘などの鋳造もしていたようです。この五位堂工業社、現在は何と工作機械やエンジン部品も生産しています。正に環境変化対応の多角化を推進しているのです。

885年創業の田中伊雅仏具店は京都府にあります。真言宗や天台宗など各宗派の仏具を製造している会社です。以前の同社のカタログには3Dメガネが添付されていました。仏具が飛び出すように立体的に紹介されていたそうです。現在は、同社のWebサイトでは、VR技術を活用した仏具ムービーを視聴することができるようです。究極の外部環境変化対応と言ってもいいでしょう。

創業数百年を誇る企業も、このように変化対応をしています。ごく一部の企業を除くと、多角化の対応は必須といえるでしょう。商品市場が固定していて動かない、言い換えると顧客のニーズが全く変わらない、ということがないからです。

過去の多角化の反省とあるべき多角化

補足として少し気になることを挙げてみます。過去の多角化の反省です。
バブル時代に不動産事業に進出して多角化を図った企業は多かったと記憶しています。バブルが崩壊し、多角化が企業の足を大きく引っ張り、中には清算に追い込まれたところもありました。

このようなことのある種の反省的な合言葉として、「選択と集中」が幅を利かせてきたのだと思います。この辺りの記憶が、「選択と集中」と「多角化」の二項対立の図式を生んでしまった。多角化は悪で、企業は選択と集中に徹するべきだ、という空気が蔓延していたのかもしれません。

一方で、同時代にGAFAMを始めとする多角化企業が大きく成長して、世界での存在感を圧倒的に高めたのも事実です。日本企業は多角化において世界から取り残されたといっても過言ではないでしょう。

では、あるべき多角化とはどんなものでしょうか?

市場浸透から顧客と提供価値を両方とも変えて【越境】することが多角化ですが、【越境】の基準をつくるべきなのかもしれません。基準であるべきは、企業理念であり、パーパスです。なぜ事業活動をしているのか? 何を実現したいのか? ということです。その基準に照らして、顧客・市場と提供価値の壁を越えるべきかを決めるといいかと思います。そうすることで、「選択と集中」と「多角化」の両立が可能となります。

商品市場は変化します。変化する市場に対して企業側も対応しなければいけません。多角化は市場の変化対応の一例といえます。商品市場とのコミュニケーション自体も【越境】しなければいけないことが分かると思います。

4. まとめ

第2回では、企業(経営者)と3つの市場のダイナミクスのうち、資本市場や商品市場の変化に即したコミュニケーションの在り様を記しました。資本市場との間では投資家の投資判断基準が変化しESG経営が求められていること、商品市場との間では商品や事業の陳腐化のリスクを突破するために多角化が必要であること、を説明しました。

さて、いよいよ第3回では、企業(経営者)と労働市場との関係や求められるべきコミュニケーションについて掘り下げていきます。労働市場も変化しています。キーワードは人的資本主義経営であり、その基本ともいうべき概念の【越境】です。可愛い社員には【越境】をさせよ、という意味合いを解きほぐしていきます。ご期待ください。

>>>【第3回】 【越境】と人的資本経営の関係性とは? 労働市場が企業に求める変化

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