第14回HR EXPO春(人事労務・教育・採用)|RX Japan株式会社第14回HR EXPO春(人事労務・教育・採用)|RX Japan株式会社

CROSS BORDER 【越境】戦略 ~可愛い社員には【越境】をさせよ〜

【越境】とは何か? 企業経営の観点から捉えると【越境】の意味や価値は?

みなさん、こんにちは。株式会社リクルートマネジメントソリューションズの井上功(こう)と申します。僕は、昭和61年にリクルートに入社して以来、人事、人材系営業及び開発、コンサルティングセールス、イノベーション事業開発を推進してきました。近年は、研修仕立てでイノベーションを創発するi-session®の企画・開発・運営や、その異業種協働版であるJammin‘のプロデュース等を行っています。ズバリ、テーマはイノベーションです。

イノベーションの開祖であるシュンペーターや、ドラッカー、クリステンセン、オライリーやタッシュマン、ハメル等の論説には共通項があります。それは、【越境】です。
イノベーションと【越境】は極めて親和性が高いです。企業にはイノベーションが求められることは言うまでもありませんが、そのためには【越境】が必要です。事業ドメインを越えて【越境】して、初めて新しい価値の創出ができるのです。であれば、組織構成員である社員も【越境】しなければならないのでは? という問題意識が頭をよぎりました。それが、今回の連載を書く契機となりました。

先ず初回は、「【越境】とは何か? 企業経営の観点から捉えると【越境】の意味や価値は?]ということから始めます。
以降、企業と市場の関係や【越境】の必要性、人材マネジメントにおける【越境】の意味、社員の【越境】のイメージと組織の【越境】支援方法、【越境】で得られる効果・効能、人事部の【越境】の必要性、という流れで【越境】論をお伝えします。全6回の長丁場になると思いますが、是非ともご覧いただければ幸いです。

目次

  1. 【越境】とは何か?
  2. 企業経営の観点から【越境】を捉えると、何が見える?

1.【越境】とは何か?

ここでは、【越境】を多角的に扱います。サブタイトルにある“可愛い社員には【越境】をさせよ”ということの、意味や価値、具体的方法や効果・効能について順を追って説明します。

2023年1月に上梓した拙著『CROSS BORDER 越境思考~キャリアも働き方も跳び越えればうまくいく』では、ビジネスパーソンを主語におき、【越境】により新しいキャリアをつくろう!という主張しました。この@人事でのテーマは、【越境】を組織・会社側がどう支援するのか? です。【越境】するのは主体者であるビジネスパーソンですが、全ての【越境】を個人のみに自律的に委ねることは難しい。組織や会社側には、社員を【越境】させるための何かしらのサポートがあって然るべきです。主語は組織側ということです。【越境】を促しながらも、状況次第ではセイフティネットも必要でしょう。個人が【越境】思考をしつつ、組織は【越境】戦略を立てるべきだと思います。

境界には2種類ある

改めて【越境】について考えてみます。【越境】とは、一体何でしょう?
辞書には、国境などの境界線を越えること、法的に定められた境界を無視して侵入すること、とあります。【越境】は境界(線)を越えることだと分かります。境界とは何でしょうか? 境界は、元々は仏語だったようで、能力の及ぶ範囲・限界を意味していたようです。転じて境遇や境地を示すようになり、近年は主に土地や物事の境目を意味することが多いようです。国境は代表的な境界であり、自然科学と社会科学の境界、といった使い方もします。つまり、境界には2種類あるのです。物理的境界と心理的境界です。身近な例で考えてみます。

物理的境界の代表は家でしょう。我々は自宅という物理的境界を【越境】して出勤してきました。コロナ禍以降、出社という【越境】をしている人は減っているようですが、今も多くの人が家というプライベートな空間と、会社・職場というパブリックな空間とを行き来しています。

心理的境界はどのようなものでしょうか? 部署や部門といった何かしらの会社・組織内での所属自体が心理的境界を形づくっています。組織図は心理的境界を暗に示しているともいえます。我々は、「うちの部では・・・」のような言い方をごく普通にしています。うちの、ということで他の部との心理的境界線をひいているのです。

人はなぜ境界をつくるのか?

では、人はなぜ境界をつくるのでしょうか?

先ずは、自分の居場所のためです。同じ目的や利害を持つものと集うことで、所属感が高まります。同好の士であれば、胸襟を開くスピードが高まり、落ち着きます。ほっとする感じです。
境界をつくることは、社会を分けることでもあります。分けることで、コミュニティ内の人数が減り、コミュニケーション・コストが下げられます。境界をつくり、共通の興味・関心を巡り集団を小さく分けることで、意志疎通がし易くなり、意志決定も容易になります。それは、コミュニティ内での一体感の醸成に繋がります。

いっぽう、一体感はその集団外との区別を明確にします。境界がはっきりしてくると、その内外の違いの認識が明確になります。例えば運動会の紅白に分かれての棒倒しのように、赤と白というコミュニティをつくり、あなたは白組、あなたは赤組、と分けられれば、その区別を基にして戦うことになります。

人は境界をつくり、自分の居場所を確保し、コミュニケーションを容易にし、外部と峻別し、内に籠る。このこと自体は自然な営みということができます。では、境界内にずっと留まっていて、いいのでしょうか?
境界は物理的・心理的な壁です。我々は、会社を始めとする境界内のコミュニティに所属しています。その中では、安定化の動きが加速します。自然と余計なことをしないようになります。日本が島国であり海という強力かつ物理的な境界に囲まれていることもあって、我々はどんどんタコ壺に入っていきます。

【越境】とは、変化に対応すること

さあ、【越境】の出番です。【越境】とは、変化に対応すること自体であり、ガラパゴス化の状況を脱する手段です。組織が境界内に閉じて縮小均衡しないように、個人がぬるま湯に浸かって新たなチャレンジをしなくならないように、【越境】して外部環境の変化に対応して、成長・前進する必要があるのです。

必要なのは、最初に【越境】の一歩を踏み出す人であり、彼等の【越境】を後押しする組織・仕組みです。孤独なファースト・ペンギンのみに、ただでさえ難度が高く見返りが少ないかもしれない【越境】を委ねてはいけません。【越境】を支援する思想や目的、戦略や具体的な制度、運用方法や評価といったことが必要です。それらがあって初めて、新しい分野であってもリスクを恐れずに、先陣を切って【越境】するリーダーが現れるのです。
そして、現代は【越境】にとって非常に好都合です。働く人たちにとって、【越境】のハードルはどんどん下がってきています。【越境】し易くなっているのです。

働く場所、時間、相手で起きている【越境】

働く場所を考えてみましょう。オフィス内ではフリーアドレス化が進んでいます。○○部□□課はこの場所、という物理的境界がなくなりつつあります。会社によってはオフィスを全廃したところもあります。オフィス自体の概念が大きく変わってきているのです。オンラインのメリットを最大活用した【越境】がごく普通に行われるようになっています。

働く時間はどうでしょう? 以前から事務職を中心にフレックスタイム制は浸透していました。2010年代になり次第に在宅勤務も進んできました。テレワークやワーケーションなどで、プライベートからパブリックに軽やかに【越境】できます。働く時間の自由度が高まり、【越境】しやすくなっています。

働く相手を考えてみます。コロナ前は出勤して職場で働くことがごく普通でした。対面で集まり、打合せや会議をしたり、研究・開発に勤しんだり、顧客を訪問したりしていました。これらはみな、クラスターといえます。クラスターの本来の意味は植物の房や群生、動物の群れ・集団の意味ですが、コロナ禍ですっかり悪役になってしまいました。そこで、デジタル・クラスターの出番です。オンライン上の集団であれば、感染する心配はありません。どんどん【越境】して、デジタル・クラスターをつくり、コミュニケーションを重ねるべきです。

外的環境の変化も、【越境】のハードルを下げる要因といえそうです。高度経済成長はとうの昔に終わり、バブルも一瞬で過ぎ去り、バブル崩壊からずっと低成長の時代を我々は過ごしています。失われた30年です。そんな中、外部環境は急激に変化してきています。急速なグローバル化、インターネット時代の到来、カーボン・フリーを始めとする環境対応、急減する日本の人口、急増する途上国の人口、働き方改革、ダメ押しのように襲ってきたコロナ禍、…これらは枚挙にいとまがありません。

働く場所、働く時間、働く相手、働き方、外部環境、これらの変化は【越境】を促すことこそあれ、妨げるものではありません。現代はとても【越境】しやすく、社員の【越境】支援も容易にできるのです。

誰が【越境】を推進していくのか?

でも、実際はどうでしょうか? 企業に参加して仕事をし始めると、居場所がかなり固定的になります。与えられた業務に習熟し、組織のルールや規範、作法を覚えなければなりません。頑張れば頑張るほど、現在の居場所の常識に囚われていきます。会社や仕事に慣れていくにしたがって、どんどん居場所が心地よくなっていくのです。
そして、クラス替え等が頻繁に行われた学生時代と異なり、人事異動などの【越境】機会は意外と少ない。【越境】させるとコミュニケーション・コストがかかりますし、ひとつの仕事に習熟してもらった方が効率的だからかもしれません。

そこで、組織の出番です。組織側(主に人事部)は、社員の【越境】を促進させるべきです。その仕組みや制度・方法を準備し、支援する必要があります。そして、社員の【越境】を実現させるのです。この連載での主語は組織側です。組織が【越境】を促し後押しをしながら、社員側が自律的・能動的・主体的に【越境】する。その両立が、組織や企業の変化対応力を高めることになります。組織は【越境】戦略を立てるべきだと思います。

2.企業経営の観点から【越境】を捉えると、何が見える?

【越境】という人間の基本的営みについて振り返ってきました。では、“可愛い社員には【越境】をさせよ”についての論を進めていきます。

社員には【越境】させるべき、との主張を考えるにあたって、そのメインフィールドである企業経営を考えてみます。企業経営、即ちマネジメントを、図Aの企業経営のダイナミクスの図で説明していきます。
企業経営者は、金融市場から資本を調達し、労働市場から労働力を調達し、人と金の力を活用して資本を回転させ、商品市場に対して価値を提供し対価を得ます。そして、得た対価を金融市場の投資家や株主に対して配当や株価の上昇等で報い、労働市場に対しては金銭的/非金銭的報酬を支払うことで報いていきます。これがマネジメントの本質的な仕組みです。

【図A:3つの市場を巡った企業経営のダイナミクス】

 

ここでポイントとなるのが、企業が相対するこの3つの市場は日々変化しているということです。金融市場にいる投資家の企業に対する投資判断基準は変化し、労働市場にいる労働者の労働観は以前とはずいぶん変わり、商品市場にいるお客様の消費性向や趣向は変化し多様化しています。

企業経営は、この3つの外部環境としての市場の変化に対応することといえます。時代はVUCAを叫び、変動性・不確実性・複雑性・曖昧性が増しています。この変化に的確、適切、丁寧かつスピーディに対応しないと、企業成長はおぼつきません。そして、3つの市場の変化をバランスよく掴んで対応することが何よりも必要です。企業経営者は日々それを行っているといえます。どれかひとつの市場にのみコミュニケーションを傾斜配分してしまうと、全体のバランスが崩れます。

この連載が扱う主な領域は、ここでいう労働市場(特に自社内労働市場)とのコミュニケーションであり、その必要性を【越境】をキーワードにして掘り下げていきます。その前に金融市場や商品市場との変化についても、第2回以降で簡単に説明していきます。

>>>【第2回】 『【越境】の必要性とは? 資本市場、商品市場が企業に求める変化』

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