変化の時代に求められるリスキリング。企業はいかに取り組み、人事は何をすべきか【第4回】
『リスキリングはいつまで続く? 流行で止めないためには?』
本連載は、「変化の時代に求められるリスキリング。企業はいかに取り組み、人事は何をすべきか」というタイトルの通り、経営者や人事の方に向けてお届けするものです。
昨今話題になっている「リスキリング」という言葉は、人事の方にとって身近なワードになり始めているのではないでしょうか?
連載の第4回は、リスキリングはいつまで続くのか、そして流行に終わらせないためにできることは何かをお伝えいたします。
【第1回】 『リスキリングとは何か?なぜ必要と言われているのか?』
【第2回】 『リスキリングをどう進めるか?①まず経営・人事が進めることは?』
【第3回】 『リスキリングをどう進めるか?②現場をどのように巻き込むか?』
【第4回】 『リスキリングはいつまで続く? 流行で止めないためには?』
目次
リスキリングをどう進めるか?(前回までのまとめ)
第3回まで、リスキリングはなぜ必要か?リスキリングを進めるために①まず経営・人事が進めることは?②現場をどのように巻き込むか?を紹介いたしました。
繰り返しになりますが、リスキリングは単なる流行ではなく、産業や事業が大きく変化する企業が生き残っていくには避けられないテーマであるとともに、本当に貴社で必要ですか?という問いを、投げかけてきました。
今回は、これまでの内容を踏まえ、リスキリングは今後どのように進んでいくのか?流行で止めないためにはどうすれば良いのか?について考えていきたいと思います。
リスキリングは今後も続く?
ネットなどで「リスキリング 今後」と調べていただくと、さまざまな記事が出てきますが、「リスキリングに取り組み始めている企業は増えている」「一方、企業側の機会提供より個人で学び始めようとしている人が増えている」など、さまざまな記事が出てきます。調査母集団により回答結果に差はあれど、多くの企業や個人が「学び」を進め始めようとしています。
弊社の調査*でも1年以上に渡って自律的に学び始めた方がどのような学びをし始めたのか、どのような頻度で学んだのかなどの調査を行っています。結果として、ビジネスに直結する学びもあれば、それ以外の領域での学びをしている方々も多くいることがわかりました。
*リクルートマネジメントソリューションズ「会社員の自律的な学びに関する実態調査」(2021)
<図表>Q.最も熱心に取り組んでいることを1つ選んで具体的な内容を教えてください。(n=489/自由記述をもとに分類)
※「1年以上にわたり継続的に、自ら興味をもって取り組み、上達したり詳しくなったりしたと感じていること(学習、趣味、活動など)」があると答えた人に対する質問
出所:リクルートマネジメントソリューションズ「会社員の自律的な学びに関する実態調査」(2021)より「<図表1>学びの領域」
もちろん個々人が「生活文化系」の学びをしていくことも、それぞれのキャリア自律やライフワークとして大切なことですが、企業の視点では、こういった個人の学習を継続している人たちに、いかに「リスキリングすべきテーマ」に取り組んでもらうかは、重要なテーマです。また、既に学び始めている人たちがどのような経緯で学びをしているのかを把握することは、現在学びを積極的にしていない方へのヒントになるものもあると思います。
実際に同調査で「学び始めた理由・きっかけ」を見てみると、「語学・仕事系」に関しては、「今の仕事に役立てたいと思った」ことが1位、「将来の仕事に役立てたいと思った」ことが2位であげられており、第3回に取り上げた通り、学ぶ内容と仕事に活かせる環境を接続することが重要であると考えられます。
<図表>Q. 学び始めた理由・きっかけは何ですか?(複数回答)
出所:リクルートマネジメントソリューションズ「会社員の自律的な学びに関する実態調査」(2021)より「<図表6>学び始めた理由・きっかけ」
他にも個人が企業から提供される環境だけではない学習機会を自ら選択し、学び始めているなどの記事やレポートも多数出ていますので、さまざまな調査データに目を通していただくと、企業側と個人側の乖離などが見えてくるかと思います。
また、厚生労働省や経済産業省が発表している内容でも、「人材への投資計画」や「リスキリングを支援する支援事業」など、積極的に学びを推進する取り組みが施策として推進されています(自社には予算が無い、という企業の皆様はこの辺りを調べていただくと糸口が見えるかもしれません)。
このように、政府も積極的な投資を継続することを発表しており、今後もリスキリングは推進しやすい環境は継続していくと考えて良いでしょう。
リスキリングの必要性を圧倒的に加速させるDX・テクノロジーの進化
第1回でも取り上げましたが、リスキリングの背景にはDXやテクノロジーの進化があげられます。この進化スピードは、これまでの環境変化とは桁違いに速く、そしてインパクトのある変化と言われています。その中心にあるのが、AI(人工知能)です。AI自体はこれまで3度ほどブームがあると言われており、第一次AIブームは実は、日本の高度経済成長期とも重なる1950~60年代に既に起きています(第二次は1980年代、第三次が2000年代特に2010年以降と言われています)。
第三次ブームで大きな違いと言われているのが、ディープラーニング技術進化と実用化です。これまでのAIは人が一定の正解を提示してそれを学習していくものでしたが、AI自体が大量にあるデータから正解を自ら考え、アウトプットできるようになった点が大きく異なる点です。また、最近ではディープラーニングを活用し、0→1を生み出すことができるようになった「生成AI(Chat‐GPTなど)」が注目されています。これは大きな変化で、クリエイティブな領域でも実用化が進んでいます。そして、これらの技術はデータ量が飛躍的に増え、それらを処理できるようになったことで実用可能になっており、今後も進化するスピードは止まるどころか加速するばかりです。
こうしたなか、デジタルを活用したビジネスを企業が考えることも勿論重要になってきますし、それ以上に従来の仕事が無くなることが、これまで以上にスピード感をもって進んでいきます。具体的には制作や開発で行っていた試作品づくりやデザインイメージなどが瞬時に作成出来るようになったり、これまでは企画概要を考える際にアイディアをあげていたことが、瞬時に網羅的に、情報を洗い出すことができるようになったりします。このように、デジタルを活用できるかどうかで、組織としても個人としてもビジネスの検討スピードは大きく変わります。
このように進化のスピードは速まるばかりで、その変化についていけなければ企業も個人も生き残っていくのが難しくなっていくでしょう。また、この際、「品質がまだまだ」「AIに出来ることは限界がある」などの感情が芽生えるかもしれませんが、デジタルを変に怖がったり、過小評価したりするのではなく、まずは使ってみることがとても重要になると思います。
実際に人事の皆さんもテクノロジーを活用すると、下の画像のように、研修テーマを具体的に教えてもらえたりするなど、従来時間をかけていた業務があっという間に終わり、代替してくれるようになります。人事の皆さんの仕事自体も、デジタルは遠いものではなくなる世界がすぐ目の前に待っているので、前向きに取り入れて頂くとリスキリングの必要性や具体性のイメージが膨らんでいくかと思います。
リスキリングを流行でとめないために(まとめ)
ここまで全4回にわたり、リスキリングがなぜ必要か?リスキリングをどう進めるか?リスキリングは今後も続くのか?ということをお話しました。
リスキリング自体は、政府や企業の動き、そしてテクノロジーの進化を踏まえると、今後も重要なテーマになっていくのは間違いないでしょう。一方、人事業界に長くいらっしゃる方にとっては、数年に一度同様に「バズワード」的に流行した人事テーマがこれまでもあったかと思います。リスキリングも新聞やニュースなどでも日々取り入れられ、本来の意味以外にも広がり、バズワードのような使われ方も増えてきたと思います。
これまでバズワード的に流行したもののなかには、今では企業で当たり前になっているテーマ(例「ダイバシティ」「働き方改革」など)もあれば、そんなテーマあったな、というものがあったかと思います。この20年程の人事テーマ、そのテーマの違いを見てみると、いずれも推進上の難しい理由はあるなかで、最後の最後は企業側の本気度や必然性が大きな差になっているように感じます。
最終的には個々人が学ばなければ生き残っていけない、ということを、個々人が強く自覚し、必要なリスキリングを自ら進めていくことが間違いなく必要ですが、そのきっかけを作れるのは人事であると考えています。
人事が現場を変えることは難しい……という声も聞こえてきそうですが、実際に5年、10年という単位で見れば、大きく変えることが出来たテーマもたくさんあります。時間はかかるかもしれませんが、自社で本当にリスキリングが必要であれば、1つひとつ進めていくことしか道はないと思います。
そして、変化スピードはこれまで以上に加速するばかりです。リスキリングが必要なのであれば、来年度から、来期から、経営が言い出せば、ではなく、人事の皆さん自ら1カ月でも、1週間でも、1日でも早くリスキリングを推進する体制を築くことができ、1歩ずつ進んでいくことを強く願っております。
今回の連載が、そういった皆さんの背中を少しでも押すことが出来ていれば幸いです。
4回に渡る連載をお読みいただいた皆さんありがとうございました。
【連載内容】
【第1回】 『リスキリングとは何か?なぜ必要と言われているのか?』
【第2回】 『リスキリングをどう進めるか?①まず経営・人事が進めることは?』
【第3回】 『リスキリングをどう進めるか?②現場をどのように巻き込むか?』
【第4回】 『リスキリングはいつまで続く? 流行で止めないためには?』
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