変化の時代に求められるリスキリング。企業はいかに取り組み、人事は何をすべきか【第3回】

『リスキリングをどう進めるか? ②現場をどのように巻き込むか?』

本連載は、「変化の時代に求められるリスキリング。企業はいかに取り組み、人事は何をすべきか」というタイトルの通り、経営者や人事の方に向けてお届けするものです。
昨今話題になっている「リスキリング」という言葉は、人事の方にとって身近なワードになり始めているのではないでしょうか?
連載の第3回は、リスキリングに対し、人事がどういったことに取り組めば良いのか、いかに現場を巻き込むか、をお伝えいたします。

【連載内容】
【第1回】 『リスキリングとは何か?なぜ必要と言われているのか?』
【第2回】 『リスキリングをどう進めるか?①まず経営・人事が進めることは?』
【第3回】 『リスキリングをどう進めるか?②現場をどのように巻き込むか?』
【第4回】 『リスキリングはいつまで続く?流行で止めないためには?』

目次

  1. リスキリングをどう進めるか? ①まず経営人事が進めることは?(前回のまとめ)
  2. 現場をどのように巻き込むか? POINT1:現場に、リアルに、強烈にメッセージをする
  3. 現場をどのように巻き込むか? POINT2:実践の場を設ける
  4. 現場をどのように巻き込むか? POINT3:学ぶ環境を構築・持続させる
  5. 現場を巻き込むには、正解はない

リスキリングをどう進めるか? ①まず経営人事が進めることは?(前回のまとめ)

第2回では、リスキリングを考えるための全体像・STEPを中心に、「リスキリングを推進していく際の全体像、STEP、よくある落とし穴について、身近な例も交えながらお伝えしました。また、リスキリングは単なる流行ではなく、産業や事業が大きく変化する企業が生き残っていくには避けられないテーマであるとともに、本当に自社に必要かを考える重要性もお伝えしています。

 

加えて、リスキリングの対象が多岐にわたる場合は「果たすべきリスキリング」と「任せるべきリスキリング」を分けていくこと、「果たすべきリスキリング」については、Off-JTでは必須参加を促すなど強制力も併せながら進めていきつつ、OJTでは日常で利用する場面やそれらを活用している事例を経営・事業で推奨する動きが大事になる、とお伝えいたしました。

全体像に沿って検討をしていただくと、自社におけるリスキリングの方針は具体的になってきたかと思いますが、ここまで検討を進めても、現場の理解や共感が得られず、リスキリングが進まない場合もあるかと思います。その場合、現場にどのようにアプローチしていくと良いのか、またリスキリングを推進していく際にどういった落とし穴があるのかについて、今回ご紹介いたします。
今回はロジックやセオリーだけでは通用しないため、ポイントや事例をお伝えし、皆さん自身の会社がどのように現場を巻き込んでいくのかを考えていただくヒントにしていただければ幸いです。

現場をどのように巻き込むか? POINT1:現場に、リアルに、強烈にメッセージをする

リスキリングの定義は、「新しい職業に就くため、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に対応するために、必要なスキルを獲得させる/すること」であり、「リスキリングとは社員が学んでいるか学んでいないのか、という話ではなく、企業の未来を左右する難しいかつ、重要なテーマ」です(第1回)。

つまり、リスキリングを進めるには「企業としての未来を左右するテーマである(事業戦略と密接なテーマである)」と現場にメッセージをし、理解してもらうことが重要です。
リスキリング推進において、このメッセージを伝えることがついつい抜けてしまいがちです。実際に人事の業務は多岐にわたり、経営や人事の中ではリスキリングを進める理由がすり合っていても、具体的にはどのように運用するか、どんな研修やコースを選ぶのか、ということに意識が回ってしまい、ついつい抜けてしまうケースがあります。

しかし、リスキリングを進めるということは、多くの場合、経営や人事が企業変革(コーポレートトランスフォーメーション)を進めることと同義です。これを現場に浸透させていくことは至難の業であり、経営や人事がメッセージを発信し続ける必要があります。

なぜならば、企業としての未来を左右するテーマだとすると、うまく進まない場合、企業だけではなく社員1人ひとりの未来も左右するテーマになり、数年後にその方の居場所や社会的な地位がなくなってしまうかもしれないからです。
それでも、実際に日本企業では、すぐに仕事が無くなってきませんでした。しかしながら、デジタルサービスが当たり前になってきているなか、受付や翻訳など、テクノロジーに代替されることで無くなり始めている業務は既に出始めており、そう遠くない未来に待ち構えているかもしれません。そのため、現場に対してこのリアルを正しく伝えていくことが重要であるとともに、経営や人事がその深刻さを強烈に伝えていくことが求められてきています。

現場第一主義のトップが企業改革を一気に進める(ファミリーマートの事例)

現場にメッセージを伝える際に、経営が“構え”をもって、企業変革を進めてこられた事例として株式会社ファミリーマートの元代表取締役副会長・社長である澤田貴司氏のエピソードがあります。当時澤田氏は現場第一主義を掲げて、全国の店舗を行脚し、時にはレジ接客も取り組まれていました。

また、当時ではありえなかった、全加盟店にアンケートを取ることを決めたり、加盟店の方からLINEで直接連絡を受け取ったり、現場第一主義を徹底するために、自ら体現されていました。そして加盟店からの声を踏まえて改善を促す活動を積み重ね、現場の方々からも厳しい声をもらいながらも、現場の共感を呼びながら変化を起こされていました。

結果、澤田氏の姿勢・取り組みを見て、役員や社員たちも現場に赴きだし、現場に必要なことは何か?を踏まえて動きはじめ、従来の「加盟店との関係性」作りではなく「加盟店の支援・課題解決」が一気に進んだと言われています。社員に言うだけでは伝わらない、自ら動いて姿勢を示し、企業改革を進めてきた事例として取り上げられ、経営としての構えがあることが、現場を動かすことに繋がる象徴的な事例です。

ここで重要なのは、澤田氏のような振る舞いが大事なのではなく(できれば最高ですが)、「現場に対して『なぜ変わる必要があるのか?』『変わっていかないとどんな未来になるのか?』『だからこそ本気で変わってほしい』」ということを伝えるということです。「企業の未来が個人の未来にどのように影響するのか?リアルに、そして強烈に、伝えていくこと」が現場を巻き込むポイントの1つとなります。

ただし、ここでの強烈は、強い言葉で示す方法もありますが、現実をリアルに想像してもらう機会を設けたり、本当に必要なことを切実に伝えたりすることも含みますので、自社の社員が一番強烈に意識を出来る手法を見極めて、取り入れることが重要です(例えば、リアルに想像できれば動ける社員の方々であれば、未来を一緒に考えるワークショップを行う、将来や生活に影響すると分かれば動ける社員の方々であれば、未来の業績や財務状況を伝えることが手段になります。ここは各社の社員の方々のタイプを見立て、適切な手段を選ぶことが重要です)。

ある日突然、「あなたの仕事が今後無くなってしまいました」と伝えるのではなく、未来を予知し、先んじて必要性を訴え続けていくことが求められてくるのです。そして、現場と経営の間にたつ、マネジャー層が、このことを正しく理解し、行動していくことが重要なキーになります。

現場をどのように巻き込むか? POINT2:実践の場を設ける

POINT②では、もう少し身近に寄せて考えるために、「英語」を例に少し考えてみましょう。せっかく英語を学んでも活かす場所が無ければ、学ぶ意欲が低下するという経験はないでしょうか?逆に目標や実践の場(例えば海外旅行)などがあれば、そこまでは一生懸命学べるという経験もあるかと思います。これは、ビジネスにおいても同じで、学んだことを活かす「実践の場」を用意することが、現場でリスキリングを進めるうえで、重要な観点となります。

この際押さえておきたい点は2つあります。1つは、「必然的に使わなければいけない実践の場を設ける」こと。2つめは「新しく実践できる場を設ける」ことです。

ポイント1:必然的に使わなければいけない実践の場を設ける

「リスキリングを進めなければ今の職場で仕事が進まない」、もしくは「リスキリングを進めるために異動・配置する」2つの手段があります。
前者はわかりやすく、使えなければ困ってしまうため、手っ取り早い手段の1つですが、実際に業務が進まなくなっては困ります。そのため、管理職であるマネジャーが仕事のクオリティを維持しながらも、今の職場でリスキリングを推進するための基準を持ってかかわり、今の仕事と未来の仕事を同時実現していく取り組みをすることが必要です。
また、この手段の場合は、マネジャーをまずはリスキリングし、その基準を現場に落とし込んでいく、という方法が効果的でしょう。

後者の異動・配置をする方法については、リスキリングを進めている人材を積極的に異動・配置し、新しい業務をアサインする方法ですが、リスキリングをより加速させる方法として効果的です。また、リスキリングが進まない社員を必要に迫られる環境に異動させるという荒療治もあります。

ポイント2 :「新しく実践できる場を設ける」

ポイント1のような異動・配置を実現できない場合に有効です。
その際、例えばプロジェクトを用意し、リスキリングをしながら明確なアウトプットを求めていく方法です。このパターンは絵空事になってしまう要素がどうしても起きてしまいがちなのですが、実際の業務に活かせるアウトプットであればあるほど効果的です。

弊社でもデジタルサービスの進化を進めるにあたり、リスキリングを進めて欲しい人材を新しいプロジェクトにアサインし、今の業務に影響を与える形で、実践の場を設けています。そして出来る限り、社内だけではなく、社外の視点や刺激が入るようにすると、学びが多様化していくため、リスキリングしていくテーマの深みが増していきます。
例えば「DXプロジェクト」を立ち上げ、デジタルサービスやテクノロジー活用による業務改善を進め、アウトプットのインパクトは小さいながらも、社員がスキルを身に着けていった事例は多くあります。

実践の場を設けることが大事なもう1つの理由

実践の場が無いリスキリングは、社員の離職の可能性を増長させる落とし穴があるということです。リスキリングが進むと、社員の見る視点が広がり、自社に足りないものが見えてきたりします。

顕著な例として、社員がAIの学習をしたけれども、実践の場がなく、AI系のベンチャー企業に転職してしまうケースは、ままある話です。私の知り合いにも同様のケースが複数あるのですが、辞めた理由と、何があれば残っていたのかを尋ねたところ、口をそろえて「社内で実践できる場や環境が変わっていれば辞めていなかった」と言っており、いかに実践の場が大事なのかを、私自身も痛感しました。このように学ぶことと実践の場はセットで設けることが重要です。

現場をどのように巻き込むか? POINT3:学ぶ環境を構築・持続させる

ここまで現場を巻き込む方法をご紹介してきましたが、学ぶ環境を構築し、持続させることも重要なポイントです。現場が学んでみようと思ってくれていても、学びづらい環境があると、なかなか持続していきませんし、皆さんもいざ学んでみようと思ったことがあっても、何から学べばいいのかわからない、学んでみたけど難しい、学び始めたけど続かない、という経験をしたことで、学ぶ意欲が低下してしまったことがあるのではないでしょうか。

学ぶ環境を構築する際の観点としては、「個別化・効率化・具体化」を意識して設計することが重要です。

・「個別化」

それぞれにとって何が必要なのかを具体的にしていきます。
例えばスキルチェックを用意し、上司と本人で課題を個別に明らかにしていく方法もあれば、スキルテストやテクノロジーを活用することで、本人にとって必要な学習要素を洗い出す方法もあります。ここでは、社員1人ひとりに必要なものを、どのように見つけられるかが重要になります。

・「効率化」

学ぶものがはっきりしていても、それを学ぶのに時間がかかったり、特定の条件でなければ学べなかったりすると、学びは滞りがちになります。
いかに効率的に身に着けてもらうかは、本来は一人ひとりの方法は異なってくるはずです(英語で考えてみると、話して学ぶ人もいれば、書いて学ぶ人もいるし、理論や法則で理解する人もいます)。この場合、効率的に本人にとって学びやすい環境を作るために、多岐にわたる学習手法(対面での学習、オンラインでの学習、個別学習、eラーニングでの学習などなど)を用意することで、一定の担保をすることが出来ます。あれもこれもとなってしまう側面もはらんでいますが、さまざまな機会を設け、本人が自己選択して学べる環境を整備していけるが重要な点になります。

・「具体化」

学習した内容を具体的な業務に接続していくことが重要です。
学んだことを職場で実践できる機会を学習後に設けることも重要ですし、学ぶテーマ自体も一方的な学習ではなく、実際の業務と紐づけるようなインタラクティブな形式の学びが望ましいです。
弊社でも、論理的な思考力を身に着ける研修として、実際の職場のテーマや世の中のテーマと紐づけながら、自身の「考える力を高める」コースなどを用意し、机上の空論にならないよう、具体的なテーマで学びを深めてもらうようなサービスも提供しています。

自社の状況を踏まえて自社らしい学ぶ環境を構築していく

このように「個別化・効率化・具体化」を意識いただきながら、自社の状況を踏まえて自社らしい学ぶ環境を構築していくことが、社員1人ひとりが学びを持続させやすくなっています。

弊社の事例ですが、自社の社員教育の考え方として「認知・選択・開発」サイクルというものを社員に提示しています。3つの観点を踏まえながら、見ていくと、上司との目標設定やサーベイ評価で、自身の課題を認知し(個別化)学習手法はカフェテリア形式で提供し(効率化)仕事機会や実践の場を用意する(具体化)ことを行っています。このフレームがベストという訳ではなく、自社の状況を鑑みて、現場が学ぶことを継続しやすい環境を構築してみて頂ければと思います。

他にも、有名な事例としては、サントリーホールディングス株式会社で取り入れている寺子屋も知っておきたい事例の1つです。1人ひとりの社員が自由に「学びたいこと」や「共有したいこと」を寺子屋サイト内で発信し、社員自らが講師として登壇したり、社外から講師を呼んできて「研修プログラム」や「イベント」を立ち上げたりすることができる仕組みを構築しています。サントリーらしい「やってみなはれ精神」であるとともに、社員を巻き込んだ形での取り組みです。

現場を巻き込むには、正解はない

今回、現場を巻き込むためのポイントを3つお伝えしてきました。
第2回でお伝えしたことは、ステップに沿いながら検討することで、自社におけるリスキリングを具体化することが出来るかと思いますが、現場の巻き込み方に正解はありません。
1人ひとりの共感を生み続けるための絶対的な正解は無いからこそ、自社に合った方法を模索し続けていくことが重要ですので、今回お伝えしたポイントが、皆さんの会社の模索の役に立つことが出来れば幸いです。

最終回となる次回は、リスキリングが今後どのようになっていくかを、一緒に考えていければと思います。

>>>【第4回】 『リスキリングはいつまで続く? 流行で止めないためには?』

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