変化の時代に求められるリスキリング。企業はいかに取り組み、人事は何をすべきか【第2回】

『リスキリングをどう進めるか? ①まず経営・人事が進めることは?』

本連載は、「変化の時代に求められるリスキリング。企業はいかに取り組み、人事は何をすべきか」というタイトルの通り、経営者や人事の方に向けてお届けするものです。
昨今話題になっている「リスキリング」という言葉は、人事の方にとって身近なワードになり始めているのではないでしょうか?
連載の第2回は、リスキリングに対し、経営や人事がどういったことに取り組めば良いのかをお伝えいたします。

【連載内容】
【第1回】 『リスキリングとは何か?なぜ必要と言われているのか?』
【第2回】 『リスキリングをどう進めるか?①まず経営・人事が進めることは?』
【第3回】 『リスキリングをどう進めるか?②現場をどのように巻き込むか?』
【第4回】 『リスキリングはいつまで続く?流行で止めないためには?』

目次

  1. リスキリングとは何か?なぜ必要か?(前回のまとめ)
  2. 経営や人事が考えるべきリスキリングの全体像
  3. リスキリングを考えるためのSTEP1 「事業戦略を踏まえた対象者×スキル定義」
  4. リスキリングを考えるためのSTEP2 変化のスピードに合わせた要員ニーズに対応できるように、採用・育成・配置
  5. リスキリングが必要だが、必要になることが沢山ありすぎる時に
  6. 現場を巻き込んでいくために(次回に向けて)

リスキリングとは何か?なぜ必要か?(前回のまとめ)

第1回では、リスキリングという言葉について説明をさせていただき、「リスキリングとは社員が学んでいるか学んでいないのか、という話ではなく、企業の未来を左右する難しいかつ、重要なテーマ」であるということをお伝えしました。
そして、リスキリングが、単なる流行ではなく、産業や事業が大きく変化する企業が生き残っていくには避けられないテーマであるとともに、本当に御社で必要ですか?という問いを投げさせて頂きました。

経営や人事が考えるべきリスキリングの全体像

今回は、もし皆さんの企業でリスキリングが必要な場合、何から考えていけば良いかを深めていきたいと思います。

まずは具体的なリスキリングの事例として、ある保険会社の例をお伝えします。
ご存じの通り、他業界からの参入やネット保険などのサービスが乱立し、環境変化が起きている保険業界ですが、他の企業に勝つためには、顧客への提供価値としてUX向上(ユーザーがわかりやすく良い体験を受けられること)が必要条件になってきています。特に利用の手続きについてはデジタル化することが当たり前になり、その中でも「手軽に・わかりやすく」サービスを得られることが顧客にとっては重要になってきます。
こうなると従来アナログで対応していた仕事はデジタル化が進み、その業務に携わっていた人たちの仕事は少なくなるばかりで、彼らの配置転換などを考える必要が出てきています。実際にある企業は、配置転換先として、彼らを営業職に変更することを決めて、営業教育のリスキリングを推進しています。

この事例からも、必ずしもリスキリングがDX人材の育成ではないですし、企業にとって、このリスキリングが進むか進まないか、で企業の成長が大きく変わることがわかるかと思います。また、この保険会社にとって事務人員の営業への配置転換がうまくいかない場合、戦略が進まないことに加え、配置先に困る人員を抱え続けることになってしまいます(しかも雇用しなければならない期間は伸びていく一方です)。

こういった実際の事例や取り組みを踏まえ、「経営や人事がまずは何をすべきか」について、この後に全体像と具体的なステップに分けて解説していきたいと思います。

リスキリングを考えるためのSTEP1 「事業戦略を踏まえた対象者×スキル定義」

まずは、「自社がなぜリスキリングに取り組むか」を改めて具体的にしていくことが重要になります。それには、自社における「環境変化」「事業戦略」を捉えることが、最初の出発点になります。そして、環境変化や事業戦略が影響を与える「業務設計」「人・組織設計」にについて、どのような変化が起きてくるのか?を具体的に検討していく必要があります。さらに、これらは一気通貫しておくことが重要になりますので、経営と人事が密なコミュニケーションを取って検討し、現場としてもなぜ必要なのかを一貫した考え方のもとに設計することが重要です。

   具体化する際に押さえておきたい手順とポイント
環境変化
  • 「これまで」と「これから」でどのように変わりそうか?
  • その時間軸はどれくらいか? 
事業戦略
  • 「これまで」と「これから」でどのように変わりそうか?
  • それは実際にどのような顧客価値になっていくのか?
  • それは実際にどれくらいの年数をかけて進めていくのか?
業務設計
  • 事業戦略が進んだ際に、どのような仕事の変化が生まれるのか?
  • 仕事の変化を生む重要な組織・機能はどこか?
人・組織設計
  • 仕事の変化を生むには、どのような組織や人材が必要なのか?
  • その際求められる、能力・スキル・知識はどういったものか?

特に「事業戦略」については、自社が明確な事業戦略を打ち出しているケースもあれば、そうはできないケースなどもあるため、企業規模や状況により、捉え方は大きく変わってくるかと思います。例えば、大手企業のように経営と人事の距離が一定離れている場合は、ここの認識が揃いづらいため、人事施策が乖離していく可能性をはらんでいます。逆に、中小企業のように経営と人事の距離が一定近い場合は、阿吽の呼吸で何となくすり合ってしまっているのですが、実は具体的に業務設計まで落とすと、イメージが全く異なる、ということもあり得ます。

ここまで整理を進めていただくと、なぜ自社リスキリングをする必要があるのか改めて明らかになってきたのではないでしょうか?もし、これらを整理する中で、リスキリングが必要でない場合は、無理に推進をする必要はないかもしれません(詳しくは第3回で解説します)
また、リスキリングが必要だが、必要になることが沢山ありすぎる、ということで悩まれている方もいらっしゃるのではないかと思います。こちらについては、後ほどもう少し具体的に整理していきたいと思います。

リスキリングを考えるためのSTEP2 変化のスピードに合わせた要員ニーズに対応できるように、採用・育成・配置

人・組織設計までが終わった後は、そういった人材を確保するための人的資源調達が必要となります。この際、良い人が採用できそうだったら採用する、育成・配置転換が出来そうだったらする、というような場当たり的な対応は望ましくありません。なぜならば「これまでの仕事」は急になくなる訳ではなく、現場の事業責任者やマネジメント層は、今目の前に集中しており、そこに対して変化を求めるには、現場の理解・共感を得ることが必要不可欠だからです。現場の事業責任者やマネジメントの協力無くして、社員のリスキリングは進まないものとして捉え、なぜ必要なのか?(STEP1)をきちんと押さえておくことが必要であるとともに、そこに向けた“構え”(本気度)を示せるようにしておくことが重要です。

   具体化する際に押さえておきたい手順とポイント
人・組織設計
  • 仕事の変化を生むには、どのような組織や人材が必要なのか?
  • その際求められる、能力・スキル・知識はどういったものか?
人的資源調達
  • 求められる能力・スキル・知識を保有している人材は、これからどれくらい必要か?
  • 求められる能力・スキル・知識を保有している人材は、いま社内にどれくらいいるか?
  • 求められる能力・スキル・知識を保有している人材は、何人くらい不足しているか?
採用
  • 欲しい人材は採用市場にいるのか?
  • 採用市場にいる場合、自社に来たいと思う魅力はありそうか?
  • その魅力を長らく提供し続ける社内環境は整っているか?
育成・配置
  • 育成体制対象となる候補者はどれくらいいるか?
  • 候補者が育成されたのち、実践する業務はどの程度あるか?
  • 候補者たちは、その業務を行うことに前向きか?後ろ向きか?
  • 候補者たちは、変わる必要性を感じているか?

人的資源の調達方針が検討されたのち、実際の調達手段として、採用を強化することで人員確保出来るのであれば、それは手早い方法の1つです。特に自社ではなかなかこれまで育ってこなかった人材、例えばDX人材などは顕著ですが、そういった人材を外から採用することは人員確保できるだけではなく、+αの影響を与えるケースもあります。例えば、リーダークラスの人員を外部から調達し、その人材が周囲にノウハウを共有したり、これまで社内にはなかった視点を提供したりすることで、周囲に良い影響を与えるケースは多々あります。

ただし、自社が欲しい人材によっては採用が難しい可能性もあります。特に先ほど例にあげたDX人材は日本全体で不足しており、国内において数十万人~数百万人が不足しているというデータもあります。こういった人材を確保することは難しいため、自社で育成・配置することでのリスキリングが必要となってきています(一方、自社が欲しい人材が、採用市場にいる場合は調達することが実は手早いケースもある訳です)。また、採用した人材が企業や職場に必ずFitするのかはわからない点があります。特に事業戦略が大きく変わっていくフェーズでは、従来のやり方を大事にする社員が多くいる中、孤軍奮闘せざるを得ない場合も多々あり、なかなか定着や浸透しない場合もあります。そのため、採用なのか、リスキリングなのか、どちらだけが良いというよりは自社のおかれている状況を踏まえて、バランスを取って選択していくことが重要です。

さて、ここまでSTEP1~2について説明してきましたが、1つひとつの質問をクリアにしていただくと、貴社でリスキリングをすべき人たちは、どういったリスキリングが必要で、それはいつまでに、だれがどの程度リスキリングしなければならないのか、具体的になってきたのではないでしょうか。ここからはこれらを整理する中で落とし穴になりやすい点について、さらに考察を深めていきたいと思います。

リスキリングが必要だが、必要になることが沢山ありすぎる時に

ここからは、身近な例を参考に、リスキリングを進めるための一歩を深めていきたいと思います。

「リスキリングが必要だが、必要になることが沢山ありすぎる」と前述しましたが、そう考える方も一定いらっしゃるのではないでしょうか。

少し身近な例で考えてみましょう。皆さんのお仕事がとあるタイミングから、英語を利用しないといけなくなったとします。皆さん、どのようにリスキリングを推進していくでしょう? これまでのSTEPを踏まえ、少し考えてみてください。
まず、英語をこれまで使っていなかった場合、リーディング・ライティング・リスニング・スピーキング・コミュニケーションスキル、など分解してみると学ばなければならないテーマが沢山思い浮かんだかと思います。そして、これらを一気に引き上げようとしても、人はなかなか簡単にスキルを身に着けることは難しく、1つひとつレベルアップしていくものであると思います。

また「これから、英語学習が大事なので、選択型研修を用意しました(ので、後はそれぞれの課題に応じて学んでください)」と伝えても、現場がさして学ばないのは、皆さんも容易く想像がつくかと思います。
さすがにそんなに乱暴な指示はしないでしょ? と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、ビジネススキルやデジタル知識に置き換えると、「これから、デジタル知識が大事なので、選択型研修を用意しました」という、実はさほど変わらないような話をしてしまっている場合もあるのではないでしょうか。

必要になることが沢山ありすぎる時に大事な2つのポイント

ここでは2つ大事な点があります。1つは沢山ありすぎる場合「まずはそれらを整理すること」そして2つめは、「果たすべきリスキリング」と「任せて良いリスキリング」を分けることです。

まず1つ目に関しては、リスキリングを進める際に必要になることを、先ほどの英語の分解例のように、出来る限りわかりやすく構造化していくことが必要です。そのうえで、自社においてまず必要なものは何かを絞り込んでいきます。これはSTEP1で解説した、なぜ自社がリスキリングを推進する必要あるのか、ということを踏まえて具体化していきます。また、具体化する際、レベル別に整理できていると、人事と現場の目線が揃い、目指すものが明確になってきます。

2つ目に関しては、経営や人事が人材育成の投資を思い切ってする領域を絞り込むことです。繰り返しになりますが、リスキリングは企業が生き残っていく際に必要な事業戦略を推進していくためのものになります。しかし、幅広く機会を提供したからといって人材のスキルレベルが急激に伸びる訳でもありません。そういったことを踏まえると、事業戦略推進に必要な一歩を、力強く進められる学習テーマについては、時間や費用を思い切って投資していくことが必要です。また、これらのテーマについて、経営や人事が自ら学んでおくことも重要な視点になります。

自社の変化に応じて、特に大事になるリスキリング対象を定めていく

先ほどの英語が必要になった例を、この視点に合わせてみると
英語が必要になる場面が「顧客接点」だった場合、そこに関わる方々のリスキリングは重要です。さらに「顧客接点」の多くが「文書でのやり取り」が多い場合は、まずは「リーディング力」や「ライティング力」を強化することが大事になりますし、「対面でのやり取り」が多い場合は「リスニング力」がまず大事かもしれません。

このように、自社の変化に応じて、特に大事になるリスキリング対象を定めていくことが重要です。そのうえで、例えば「ライティング力」が大事になる場合は、他の力に関してはある程度本人に任せる環境(選択型研修など)にしておきつつ、「ライティング力」に関しては徹底的に進めていくことが大事になります。特にOff-JTは強制的に参加するものとし、「必ず~~までに~~レベルまで引き上げるように学んでください」とメッセージすることも、本気度を示すには必要な手段の1つです。(学ぶべきテーマ全てを必須とするのも手段ですが、あれもこれも必須となると現場が疲弊してしまうため、自社の事業戦略の変化におけるスピード感を踏まえて、すみ分けることが進むための一歩になります。ただし、変化のスピード感を踏まえた際にすべてに強制力を持たせることが必要な場合は、全て必須にするのも1つの手段です。)

またOJTに関しては、日常で利用する場面やそれらを活用している事例を経営・事業で推奨する動きが大事になります。具体的には、そういった取り組みをしている場合に、現在の業績や評価とは別に、新たに表彰する制度の導入なども手段の1つです。そして、果たすべきリスキリングについては、何より経営や人事が、それらを自ら学んでいる“姿勢”を示すことも重要になってきます。例えば、先ほどの英語を例にした際に、ライティング力がこれから経営や事業にとって最重要だ、と言っているのに、顧客とのコミュニケーションが必要な場面に英語でメールを書こうとせず人任せにしている経営や人事がいた場合、その施策を現場はどう受け止めるでしょうか?きっと本気とは受け取らないかと思います(しかし、実はあるあるなケースです)。

実際にとある企業のケースをご紹介します。この企業は、従来「顧客にとって良いプロダクトを販売する」という事業戦略を踏んでいましたが、環境変化に伴い「顧客の課題解決ソリューションへ転換する」と舵を切りました。従来は「お客様と関係性を兎に角築く営業スタイル」が重視され、そういった社員が重宝されていましたが、新たな戦略のもとでは、「お客様の事業や課題を構造化し、必要とあれば自社以外のサービスも紹介して顧客の課題を解決する」と思い切った転換をしました。
この変化により、従来重宝されてきた「コミュニケーション力」よりも「問題解決力」が重要なリスキリングテーマとなり、問題解決系のスキルアップや知識学習をOff-JTで盛り込み、毎月のように勉強会や研修を実施しました。

また、OJTでも実際にそういった事例があると、全社員の前で称賛する機会や制度などを設けるなどを進めるとともに、経営陣自らが勉強会に参加し、そういった案件には積極的に関わるなど、経営も現場も人事も一体となって変わっていくという姿勢(本気度)を示したケースもあります。

このように、経営や人事が一定の強制力や本気度をもってリスキリングすることで実際に現場が変わりだした事例もあるように、経営や人事がなぜ自社がリスキリングをする必要があるのか?それは本当に進めることが必要なのか?を踏まえて、本気で推進してきたことで、変わり始めている会社の事例もあります。

現場を巻き込んでいくために(次回に向けて)

ここまえリスキリングを推進していく際の全体像、STEP、よくある落とし穴について、身近な例も交えながら解説をしてきました。しかし、ここまで検討を進めても、現場の理解や共感が進まず、リスキリングが進まない場合も多分にあり、そこに悩まれている経営や人事の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

第3回目では、そういった方々に対して、どのようにアプローチしていくと良いのか、また、リスキリングを推進していく際に現場でどういった落とし穴があるのかについてお話をしていきたいと思います。第3回はセオリーだけでは通用しない世界になってくるため、正解がない中でどのように現場を巻き込んでいくのかを改めて考えていければと思います。

>>>【第3回】『リスキリングをどう進めるか? ②現場をどのように巻き込むか?』

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