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360度評価の導入で陥りがちな失敗とは? -注意点と対策-

株式会社Works Human Intelligence WHI総研の井上翔平です。
人事トレンドや人事業務に関する調査・研究を行っています。

4月は多くの企業にとって評価の時期。
人事評価を実施された企業も多かったのではないかと思います。

一般的に人事評価の方法には、目標管理(MBO)評価がとられていることが多いですが、行動等を評価する360度評価も存在します。今回はこの「360度評価」について取り上げていきます。

360度評価とは上司だけでなく、部下や同僚にも評価してもらう評価手法の一つです。2020年には、トヨタ自動車株式会社が管理職に360度評価を導入しました。日本ではあまり導入が進まなかった360度評価ですが、日本を代表する企業でも活用されはじめている状況です。

しかし様々な人から評価を得られるメリットのある360度評価には、導入の失敗原因となりうるデメリットや注意点もあります。

本記事では、360度評価とは何かをご説明し、メリット、デメリットについて解説します。さらにそのようなメリット、デメリットを見極めつつ、自社で導入する際の注意点とその解決策についてご紹介します。

※こちらの記事は下記の人事業務・人事トレンド解説コラム「360度評価は自社に適切?導入に失敗しないために人事が考えるべきこと」を@人事の読者様向けに一部編集させていただいております。
https://www.works-hi.co.jp/businesscolumn/360-evaluation

目次

  1. 360度評価とは
  2. 360度評価のメリット
  3. 360度評価のデメリット
  4. 360度評価を導入する際の注意点
  5. 自社に合った360度評価を

360度評価とは

360度評価とは、上司だけでなく部下、同僚、取引先等、社内外の関係者に自身の仕事ぶりを評価してもらう評価手法です。

本来、360度評価における評価者には、顧客、仕入先等社外の関係者も含まれます。しかし社外の関係者から評価への協力を得られないこともあり、現実的には多くの企業にとって運用が難しいです。

そのため社内の関係者だけで評価を行っていることがほとんどであり、360度評価というと社内の関係者でお互いに評価し合うという認識が一般的です。

360度評価の意味はあくまで様々な関係者に評価してもらう「評価者の多様性」のことであり、その評価者が「何を評価するか」について厳密な定義はありません。

評価項目は行動特性(コンピテンシー)、能力(スキル)、資質等、様々なものが考えられます。ただ360度評価の特性上、評価項目は誰にでも観察されやすいものとして、最終的には「行動」に落としこまれていることが多いです。

また、労務行政研究所の「人事労務諸制度の実施状況」※にて日本での導入状況を見ると、360度評価を取り入れている企業は10.6%に過ぎず、まだまだ活用は進んでいないことがわかります。
※参照:「『労政時報』第4038号」

360度評価の目的

360度評価の目的は、「従業員の行動変容を促すこと」です。360度評価を導入することで、どのような時でも従業員は評価項目となる行動を意識します。さらに、自身の行動に対するフィードバック・コメントが得られることで、自発的に行動を改善できます。

従業員に意識してもらいたい行動の基準は2種類あり、1つは自社が大切にする行動指針、価値観(バリュー)、もう1つは高業績者の行動特性(コンピテンシー)です。

360度評価は、評価項目となる基準がバリューであればバリュー評価、コンピテンシーであればコンピテンシー評価とも言えます。

いずれにしても360度評価は、自社が従業員に行動指針や行動特性を意識させ、望ましい行動をとるように促すことが可能です。

360度評価のメリット

導入するメリットは3つあります。1つは「管理職層の部下に対する行動を変えられる」、2つ目は「上司が見ていない行動も評価できる」、3つ目は「従業員のモチベーション向上に繋がる」です。

メリット1:管理職層の意識や行動を変えられる

360度評価は特に管理職層の意識や行動を変えたい場合に有効です。

上位者による評価のみ実施する場合、管理職層が部下に対してどのように接しているか、育成やチームマネジメントができているかは、なかなか評価できません。特に業績評価だけで管理職を抜擢している場合、たとえば営業成績がよいという理由で管理職になっていることも考えられます。

しかし、営業成績がよいからといってマネジメント能力が優れているとは限りません。

360度評価を用いて部下による行動評価も導入することで、管理職は部下の育成やチームマネジメントにも責任を持つようになるでしょう。また部下からのフィードバックやコメントで気づきを得ることにより、改善に向けた行動を期待することができます。

冒頭で例に挙げたトヨタ自動車も、管理職層の意識や行動を変えることを目的にまずは管理職に360度評価を導入しました。

また株式会社ディー・エヌ・エーでも管理職だけに360度フィードバックを実施しています。同社の場合は、昇格や昇給といった評価に結びついていないため、360度「フィードバック」と呼ばれています。

メリット2:上司が見ていない行動も評価できる

企業によっては上司が部下の仕事ぶりを十分に把握できないことがあります。たとえばプロジェクト形式の業務が中心で、上司と部下がそれぞれ別のプロジェクトに関わっている、部下が自律して単独で業務をこなしている場合です。

このような働き方で上司だけの評価になると、従業員から「上司が自分の仕事ぶりを評価できるとは思えない」「もっと自分の仕事をよく見ている人に評価してほしい」という不満、意見が出てくることもあります。

この場合、360度評価で普段一緒に仕事をするメンバーにも評価してもらうことにより、従業員の不満軽減に繋げられるでしょう。

メリット3:従業員のモチベーション向上に繋がる

360度評価は従業員のモチベーション向上にも寄与します。従業員のモチベーションは報酬(金銭)だけではありません。仕事のやりがい、成長実感、周囲との関係性等様々なものがモチベーションとなり得ます。

360度評価は周囲との関係性の中で、自身の成長を実感できるしくみと言えます。普段一緒に働く人たちからの正しいフィードバックやコメントは、自身が成長するうえで重要な指針となるでしょう。

360度評価のデメリット

しかしなぜ日本では360度評価の導入が進んでいないのでしょうか。それは360度評価には特性上、「部下が上司を率直に評価できない」「評価者に対する説明、教育の手間がかかる」というデメリットもあるからです。

デメリット1:部下が上司を率直に評価できない

360度評価では、部下が上司を評価しますが、部下が上司に気を遣ってしまい、率直な評価ができないことが考えられます。特に年功序列や上司、部下の上下関係がはっきりしている企業では、部下が上司を評価することに心理的抵抗が大きいでしょう。

その場合、部下が上司に対して寛大な評価をつけてしまう傾向があります。評価結果が心理的要因でゆがめられてしまっていれば、360度評価は有効に機能しません。

ただ上司、部下の関係性が緩く、フラットに意見を言い合えるような組織では360度評価がなじみやすいと言えます。そうではない場合、自社で本当に360度評価がフィットするか慎重に検討する必要があります。

また評価者が正しく、客観的に評価できるように、評価者を匿名にする、明確な評価基準を作るといった制度設計上の工夫も必要です。

デメリット2:評価者に対する説明、教育の手間がかかる

360度評価では誰もが評価者となり得るため、評価基準を正しく理解し、そのうえで高すぎる、低すぎる評価とならないようにします。

そのため360度評価を導入するには、評価制度の従業員説明のほか、評価を実施するうえで他人をどう見るべきか、いかに正しい評価をするか、といった評価者としての教育も必要です。

特に360度評価では、仲がよい人同士で高い評価を付け合うといった談合が発生しがちです。評価者として、普段の仕事ぶりできちんと評価を実施するよう従業員が自覚する必要があるでしょう。

360度評価を導入する際の注意点

上記のデメリットを完璧になくすことは難しいですが、360度評価を導入するうえで、このデメリットを軽減し、失敗しないよう工夫することも可能です。360度評価には上記デメリット以外にもいくつか注意点があり、これらを解決する方法と合わせてご紹介します。

①評価基準

360度評価は多くの人が評価者になるため、どうしても評価者の能力に差が出てきてしまいます。また上司を評価することに心理的抵抗が発生することもあるでしょう。

そのため評価結果が評価者の能力や心理的要因に過度に依存しないよう、誰もが判断しやすい行動基準を設けることが必要です。

たとえばリーダーシップがあるかどうかを評価するために「リーダーシップがあるか?」と聞くことは適切ではありません。下記の例のように実際にその行動をとっているかどうかがわかる行動基準にしましょう。

▼リーダーシップの行動基準例

リーダーシップ  チームの目標、方針を明確に示している
チームの目標達成や課題解決に自ら貢献している
部下の意見を聞き、必要に応じて取り入れている
部下の仕事上の相談に乗り、適切な対応や助言をしている

またこれらの基準を多くしすぎないことも重要です。人間が普段の仕事で意識できる行動には限りがあります。評価の手間が増え、通常の業務に支障が出ることもあってはならないので、基準は多くしすぎないようにしましょう。

②評価者

360度評価で最も問題となるのは従業員がお互いに示し合わせて、評価を高くし合うといった談合が発生することです。そのために仲がよい、都合がよい人ばかりを評価者に選んでしまうことも問題です。

評価者は「普段仕事上で関わりがあり、その人の行動の評価ができる人」であることが条件であるため、満たしているかどうかを上司がチェックすることが一つの解決策となります。

また個別の評価、フィードバック・コメントを誰が行ったかがわかると、評価者が被評価者に遠慮してしまう、あるいは被評価者が評価者に対して悪い印象を持ってしまうという問題もあります。

これに対処するためには、個別の評価結果やフィードバック・コメントは誰が行ったかわからないよう匿名性にする方法が有効です。

③フィードバック

360度評価は従業員が自身の行動を振り返り、自発的に改善をしていく育成面の効果もあります。単なる評価ツールとしてだけではなく、育成面でも価値を発揮するために、具体的に何を改善すればよいか記述式のフィードバック・コメントを設けるとよいでしょう。

設問としては、「よりリーダーシップを高めるためにどのような点を改善すればよいか」といったものです。具体的なフィードバック・コメントは被評価者が行動を改善するための指針になります。

また、評価やフィードバックを受けて終わりではなく、上司が部下とどう行動を改善していくか面談する機会を設けてもよいでしょう。自分だけでは気づかなかった視点を得ながら、より有意義に上司が部下の育成に寄与することができます。

上記の解決策はあくまで一例として提示したものであり、必ずやるべきことではありません。自社の事情や目的に応じて、最適な360度評価を設計することが重要です。

自社に合った360度評価を

360度評価がうまく機能すれば、企業は自社が大切にしている行動指針やとってほしい行動をより従業員に意識してもらうことができます。また従業員は様々な関係者からフィードバック・コメントを得られるため、それが働くうえでのモチベーションにもなるでしょう。

ただ360度評価にはメリットもある一方で、デメリットも存在します。360度評価を安易に導入してしまうと、そもそも自社に合わない、評価の負担が重く、従業員から不満が出てしまうことも十分に考えられます。

導入を検討する際は上記の注意点をよく認識しておくことも重要ですが、自社に合った360度評価とは何かをよく考える必要があります。

その際に本記事が皆様の助けになれば幸いです。

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