これからの時代のウェルビーイング経営とは

ウェルビーイング経営を取り入れるために必要な、組織状態の「可視化」と個人の行動変容

はじめまして。株式会社ラフールで執行役員として、人事の責任者や企業への人事コンサルタントとして従事している宮内智弘と申します。私は、人材ビジネスの会社2社で、新規事業立ち上げやキャリアコンサルタントなど経験後、2016年に人事コンサルタントとして独立し、外資系企業や大手企業などで人事制度・採用・ブランディング・教育研修などを行っていました。
現在は、当時のクライアント企業の一つであったラフールのビジョンや社員の温かさに魅かれ、2019年に入社し、人事責任者として採用・教育・人事制度の構築など幅広く手がけながら、企業への人事コンサルティング支援を行っています。

多くの企業の組織の内側、外側を見てきたこそ、組織を健全に、かつ社員ひとりひとりがどうすれば生産性が高まるのか、そのために必要な人事としてのマインドや人事組織のあり方を、私なりの見解でお伝えできることがあると思っています。

人事としての課題にお悩みの方はもちろん、人事は経営に直結します。人事との連携や組織力を高めたいとお考えの経営者の方々に少しでも参考なる情報をお届けできれば幸いです。

まず初回は、「ウェルビーイング経営を取り入れるために必要な、組織状態の『可視化』と個人の行動変容」と題し、お話しできればと思います。

目次

  1. ウェルビーイング(well-being)に関心が高まっている
  2. 労働市場における日本の課題
  3. 『ウェルビーイング(well-being)経営』を実践するためには?
  4. 人事戦略にはウェルビーイングの観点が必要
  5. ラフールはマインドフルネス講座を実施
  6. 日本企業のウェルビーイング(well-being)の取り組み事例
  7. ウェルビーイング経営は企業、社員、社会に好循環をもたらす

ウェルビーイング(well-being)に関心が高まっている

最近よく耳にする言葉「ウェルビーイング(well-Being)」。精神的、身体的、そして社会的に心身ともに健全な状態を指しますが、コロナ禍での働き方の変化により、この状態が損なわれる人も出てきています。

2019年から進められている経済産業省の人材版伊藤レポート伊藤レポートでは、「人件費はコストであるいう考え方から、人への投資がこれからの企業の成長にとって不可欠だ」との提案がなされています。

加えて、諸外国ではメンタルヘルスへの取り組みという視点で企業を評価する基準が発表されており、日本だけでなく、世界でもウェルビーイング(well-being)に対する関心が高まっている状況です。

なぜ、会社経営にウェルビーイング(well-being)を取り組んだ、『ウェルビーイング(well-being)経営』という概念が日本企業には必要なのでしょうか。

労働市場における日本の課題

『ウェルビーイング(well-being)経営』について解説する前に、まず日本が労働市場おいてどんな課題を抱えているのか、解説していきます。

(1)生産年齢人口は年々低下傾向

【出典:総務省
※2015年までは総務省「国勢調査」(年齢不詳人口を含む)、2020年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」(出生中位・死亡中位推計)

内閣府が発表している「人口減少と少子高齢化」によると、日本の生産年齢人口は2065年に約4,500万人となる見通しで、2020年時点と比べると約2,900万人の減少です。

2020年時点の65歳以上の老年人口は約3割、生産年齢人口の割合は約6割です。2065年の人口構成見通しでは、老年人口の割合が約4割まで上昇、生産年齢人口の割合は約5割に低下します。

国内全体の人口減少に先んじて始まった生産年齢人口の減少ですが、今後ますますこの動きが加速していくと見られます。

(2) 日本の職場のメンタルヘルス対策の遅れ  

厚生労働省によると、2008年のうつ病性障害の疾病費用は3兆901億円と推定されており、このうち2兆円超が就業者の生産性低下による損失と非就業による損失とされています。

2014年6月に労働安全衛生法が改正され、2015年12月からストレスチェック制度が義務化されました。制度の主な目的はメンタルヘルス対策であり、労働者自身のストレスへの気付きを促進すること、ストレスの原因となる職場環境の改善につなげることの2点です。

令和3年「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は全体で59.2%であり、約6割の事業所が対策に取り組んでいます。

事業所が行うメンタルヘルス対策で最も多いのが「ストレスチェックの実施」で65.2%、続いて「職場環境等の評価及び改善(ストレスチェック結果の集団(部、課など)ごとの分析を含む)」が54.7%となっています。

実際、過去1年間(令和2年11月1日から令和3年10月31日までの期間)にメンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業した労働者、または退職した労働者がいた事業所の割合は、10.1%となっています。このうち、休業した労働者がいた事業所の割合が8.8%、退職した労働者がいた事業所の割合が4.1%となっています。

約6割の事業所がメンタルヘルス対策としてストレスチェック等さまざまな対策を行っていますが、メンタル不調で休業・退職した労働者は約1割。企業におけるメンタル不調者を減らすためには、対策を行う事業所を増やすことや対策内容について見直す必要があるでしょう。

(3)  日本は幸福度が低い傾向にある

「世界幸福度調査」の結果を見ると、日本でウェルビーイングはまだまだ普及していないと考えられます。幸福度ランキングが先進国の中だけではなくのみに限らず、世界的に見ても高いと言えないばかりか、年々下がり続けているためです。

2020年3月に公表された報告で、国民幸福度が最も高かったのは、3年連続1位でフィンランドでした。日本の幸福度は、146国中51位、主要7カ国(G7)の中では最下位の位置付けでした。

【出典】世界幸福度調査World Happiness Report2020の概要と関連質問紙提供について

『ウェルビーイング(well-being)経営』を実践するためには?

ウェルビーイング経営とは、

  1. 人的資本経営(人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる経営)
  2. 個人のウェルビーイング状態(肉体的にも、精神的にも、社会的にも、すべてが満たされた状態)

この2つが成立していることだと当社は考えます。

すでに欧米では、経営戦略と人材戦略を統合した経営手法が主流となっており、企業の人材に対する関心がますます高まり、人的資本の情報開示など、「人」そのものを重視する経営スタイルは、特にこれからの時代に適合した取り組みとなっています。
では、ポジティブ心理学の提唱者であるペンシルベニア大学心理学部のマーティン・セリグ マン教授が提唱するPREMA(パーマ)という5つの要素からウェルビーイングをひも解いて行きましょう。

▼PERMA構成要素

P(Positive emotion/ポジティブ感情)
嬉しい、面白い、楽しい、感動、感激、感謝、希望

E(Engagement/エンゲージメント)
没頭、没入、夢中、熱中

R(Relationship/関係性)
援助、協力、意思疎通

M(Meaning/意味・意義)
人生の意義、社会貢献、利他行為、宗教

A(Accomplishment/達成)
達成、成果、自己効力感

これら5つの要素では、従業員エンゲージメントを上げるだけではなく、心をポジティブな 状態にするための取り組みや他者への感謝の気持ちの醸成など、「従業員の感情(心の状態や要因)」について幅広く語られており、ウェルビーイング経営を目指す上で何を重視すべきか理解することができます。

『ウェルビーイング(well-being)経営』を実践するためには必要なことは、以下の2つです。

【1】組織課題の可視化、改善
【2】個人の行動変容促進のサイクルを回すこと

【1】組織課題の可視化・改善

『ウェルビーイング(well-being)経営』を実践するためには、まず組織の状態、課題を把握する必要があります。従業員サーベイなどを活用し、必要な情報を揃えましょう。

「人材版伊藤レポート」による人材戦略においては、①経営戦略と人材戦略の連動②As is‐To be ギャップの定量把握③企業文化への定着の3つの視点が必要だと明記されています。

当社で提供しているサーベイでは、ウェルビーイング経営の実現のため、例えば、社員のメンタル、フィジカル、エンゲージメント、人間関係、組織関係、仕事内容、社内外ハラスメント、などを把握することが可能です。

離職リスク、高ストレス者などを可視化することができるほか、非財務情報(ESGへの取り組み)などもカバー。ウェルビーイング経営を実現するためにも、まずは組織のどこに、どのような課題があるかを可視化しましょう。こうした工夫が、対策の第一歩につながります。

人事戦略にはウェルビーイングの観点が必要

可視化された課題に対して企業ができることは、研修や相談窓口の設置だけではありません。前述のPERMAよりなぞると、例えばM(Meaning/意味・意義)。ビジョンへの浸透度が低い場合、そもそものこの会社で働く意味、意義が薄れてしまいます。それに紐づき、R(Relationship/関係性)、A(Accomplishment/達成)などが連動することで、ビジョンへの浸透度が高まり、良い循環が生まれるようになります。

また、P(Positive emotion/ポジティブ感情)、E(Engagement/エンゲージメント)において、エンゲージメントが高くても、メンタル的なポジティブ感情が低いと、ワーカホリック予備軍を増やしてしまう恐れがあります。長期的な生産性と定着率の高い組織を目指す上では、心身の健康とエンゲージメントのどちらが欠けては成り立ちません。瞬間的ではなく、持続可能なエンゲージメントが高い状態が望ましいです。

働き方や働く上での考え方の多様化により、このようなウェルビーイングの観点を取り入れた人事戦略はこれからさらに必要になってくるでしょう。

【2】個人の行動変容促進

コロナ禍を経て、今でこそ「メンタルヘルス」という言葉が浸透してきましたが、まだまだメンタルヘルスケアに取り組んでいる人は多くはないのではないでしょうか。

根本の背景として、現代の日本の医療制度は、世界的に見ても「非常にレベルが高い」と言われています。

日本では誰がどこにいても平等な医療を享受することが可能で、医療費の一部負担こそ求められるものの、月ごとの高額負担を軽減する「高額療養費制度」もあり、比較的安価に医療を受けることが可能です。

一方、公的医療保険が存在しないアメリカでは、非常に高額な医療費がかかってしまいます。ゆえに、極力病院に行かなくてもよいように「予防」意識が徹底されており、「病院を訪れる前段階」の医療サービスが充実しています。

このように「予防」に意識が向けられているからこそ、重症化が抑制されているようです。

社員個々人にセルフケアを取り組んでもらうことは、意識の高い人であれば可能ですが、そうでない人にはなかなか難しいでしょう。そのため、会社から個人の行動変容を促すアプローチが必要です。

ラフールはマインドフルネス講座を実施

当社では、毎週月曜日全社で集まり、マインドフルネス講座を社員向けに開催しています。リモートワークを推奨しているため、マインドフルネスだけではなくコミュニケーションを取れる機会も兼ねています。

また、運動促進とコミュニケーションを活性化するために、音声でつなぎウォーキングをする企画なども実施。企画内にはゲーミフィケーションをもたせ、社員が楽しみながらセルフケアを行なってもらうようにしています。

行動変容には「無関心期 → 関心期 → 準備期 → 実行期 → 維持期」といった段階があるため、無関心期にどのようにアプローチするかなど、企業は工夫が必要です。

日本企業のウェルビーイング(well-being)の取り組み事例

ここまでウェルビーイングについて説明してきましたが、日本企業による実際のウェルビーイング(well-being)取り組み事例を紹介します。

1.株式会社イトーキ

設備機器事業などを展開している株式会社イトーキは「従業員とその家族がいきいきと仕事やプライベートに取り組める健康」をテーマに、ウェルビーイングの取り組みを推進している企業です。

まず、2017年に制定した「健康経営宣言」では、食生活や運動・健康の促進や禁煙・メンタルヘルスなどの項目を設けました。また、健康保険組合をはじめ、労働組合や従業員とその家族も含めて幅広く健康づくりを推進しています。

新しいオフィスの設計にもウェルビーイングが意識され、生産性を向上させるために個室ブースと高集中エリアを設置。これにより、リラックスしたり従業員同士のコミュニケーションを取りやすくしたりする工夫が見られ、生産性の向上へとつなげています。そのほか、従業員満足度調査や「はたらきかた検診」など、イトーキ独自の調査や検診も取り入れている点も特徴的です。

2.味の素株式会社

大手食品メーカー・味の素株式会社では、ウェルビーイングの取り組みとして「人財に関するグループポリシー」を作成。これにより、従業員一人ひとりが身体と心の健康を維持・推進できる職場環境を作り出しています。

具体的には、従業員の健康を支援するために全員面談を行い、1年のうち最低1度は保険スタッフや産業医との面談を実施。また、健康状態を可視化し、セルフケアの推進や休業者の職場復帰がスムーズにできるためのサポートなども積極的に行っています。

これらの取り組みの結果「健康経営銘柄」に4年連続認定されました。「健康経営銘柄」は、経済産業省と東京証券取引所が共同で定めており、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業を選定基準として選考しています。

さらに、味の素は経済産業省が実施している健康経営優良法人認定制度の「健康経営優良法人(大規模法人部門)~ホワイト500~」に認定された実績も持つ企業です。

これらの企業は、従業員の心身の健康状態が悪化すれば生産性が低下し、企業の損失となることを熟慮して、さまざまな施策を講じています。

ウェルビーイング経営は企業、社員、社会に好循環をもたらす

企業価値の向上に欠かせない組織と個人のあり方。日本企業にはウェルビーイング(well-being)経営が今まさに求められています。従業員のウェルビーイング度が高いと、企業は大きなメリットを得られます。

ウェルビーイング経営の実現の重要度が確実に高まる中、当社は組織課題の可視化や解決策の提案を行い、企業成長や安定経営を本気で目指す経営者や人事の方々を本気で支援していきます。

事業を通して、企業とそこで働く従業員がイキイキとワクワクする毎日を送れるよう、全ての企業様に真摯に向き合うことで、素敵な変革を遂げていただき、最終的に“全人類を笑顔にしていく会社”を目指します。

次回は、ウェルビーイング経営に欠かせない人的資本経営と人事戦略の紐付け方をご紹介します。

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株式会社ラフール
執行役員 ビジネスデザイン部 部長/人事責任者
宮内 智弘

愛媛県出身。2010年順天堂大学卒業後、人材ビジネスの会社2社で、新規事業立ち上げやキャリアコンサルタントなど経験。2016年に人事コンサルタントとして独立し、外資系企業や大手企業などで人事制度・採用・ブランディング・教育研修などを行う。
また、大学生向けのキャリアコンサルティングや、高校生向けのキャリア授業にも力を入れる。クライアント企業の一つであったラフールのビジョンや社員の温かさに魅かれ、2019年に入社。人事責任者として採用・教育・人事制度の構築など幅広く手がけ、企業への人事コンサルティング支援を行っている。
株式会社ラフールHP:https://www.lafool.co.jp/

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