来年の研修は対面かリモートかブレンドかと迷う前に。
研修計画を決める際に意識したい「6階層の価値ピラミッド」
来年度の研修計画を立てている時期かと思います。数年前に比べて様々な研修スタイルが可能です。色々な選択肢があるのは良いのですが、多すぎるとどのタイミングにどのスタイルをすれば良いかがわからなくなってしまいます。
そこで今回は、研修形態を決めるときに意識すると良い「6階層の価値ピラミッド」について解説します。階層の目的や位置付けを意識することで適切な研修スタイルがすぐわかるだけでなく、人材育成のポートフォリオをうまく整理することにもつながります。
目次
来年度の研修を考えるうえで、まず代表的な研修形態と長所・短所を知る
最近、お客様(人事や研修担当者など)によく「来年の研修をどうすれば良いですか?」と聞かれます。背景は、数年ぶりに対面集合研修もできそうで、もちろんリモート研修も実施可能、この数年で試してきたオンデマンドやブレンドラーニングもできそうだと、色々な選択肢がある状況だからです。選択肢が多いのは良いことですが、それぞれ超短所と向き・不向きがあって、結構悩ましいです。
代表的な研修形態(研修提供方法)とそれぞれのポイントをまとめてみました。
代表的な研修形態(研修提供方法)とそれぞれのポイント【表1】
上の表に沿って研修形態を決めても良いのですが、実はもう少し本質的に考え直した方が良いと思います。
今はまさにベストタイミングです。
「価値ピラミッド」をヒントに研修の目的(位置付け/提供価値)を考えてみる
研修形態を考える前に目的を是非しっかり考えましょう。
ここで言う「目的」は研修の内容ではなく「位置付け/提供できる価値」というような意味です。研修効果測定で有名なブリンカホフ教授は研修目的を6階層の価値ピラミッドに可視化しました。
【図1】企業研修の目的(提供価値)を可視化した価値ピラミッド
出典:「Stop talking training and start talking value(トレーニングのトレーニングの話をやめて、価値の話を始めましょう)」[Chief Learning Officer - CLO Media]
このピラミッドの示す研修の目的・提供価値は(上から)以下の通りです
- 新しい企業戦略の実現 (イノベーション/変革)
- 現職務の成果向上 (現場力の強化による経営の盤石化)
- 人材パイプラインの強化 (◯◯人材の先行育成)
- トラブル発生時の対応 (万が一の事件への対応)
- コンプライアンス (従業員に対する義務・規制・規則の周知徹底)
- 従業員のモチベーション向上(従業員に対する組織の魅力アップ)
6つの研修目的(提供価値)にあわせたお勧めの研修形態を解説
目的に対して、適切な研修形態がだいたい決まっています。これを表2にまとめました。
【表2】研修目的ごとのお勧めの研修形態
1つずつ、「研修の位置づけ」「おすすめの研修形態」「実施する上でのヒント」を詳しくご紹介します。
6. 社員のモチベーション向上
研修の位置付け:知識習得、スキルアップ、行動変容が目的ではなく受講者の満足度向上やモチベーションアップが目的です。イメージは業務時間外の自己啓発研修です。*1
おすすめの研修形態:外部の公開コースがお勧めのスタイルの一つです。社外の人と意見交換できる研修では思わぬ視野が広がります。外部環境による気分転換も図れますしプチ旅行がセットされている場合は最高です。もう一つのお勧めするスタイルはオンデマンドのコンテンツライブラリーです。従業員は色々な選択から自分の好きなテーマについていつでもどこでも学べることが利点です。
ヒント:最終目標は職場での成果ではないので、しっかりした研修プログラムは不要です。それより従業員一人一人が気軽に好きなテーマについて軽く勉強して刺激を受けられればOKです。幅広く色々な選択がある、簡単に受けられる、一つの研修やコンテンツが重くないことがポイントです。
*1 欧米では従業員のリテンションが重要課題で、このような研修をリテンション策として実施することが多いです。
5. コンプライアンス
研修の位置付け:会社が義務、規制、ルールを遵守することを保証するための研修です。意識や行動が変わることがもちろん望ましいわけですが、全対象者に安定した質のある研修を受講させて重要な事項であることを周知徹底するこが最低限の目的です。
おすすめの研修形態:LMS(受講管理システム)によるeラーニングの独壇場です。
eラーニング以外の方法もありますが、LMS+eラーニングが最適です。
eラーニングの特長は
・いつでも、どこでも受講できる
・研修内容と質が安定している(講師によって変わることはない)
・受講履歴を細かく取れるし、管理は簡単
・大人数でも膨大なリソースとエネルギーが不要
ヒント:効率よく多くの従業員に安定した質の研修を提供して全員の受講管理ができることが必要です。
この位置付けの研修はコンプライアンスだけではありません。多くのオリエンテーション(入社時、昇格後、移動時などの周知事項説明)もここに入ります。
またコンプライアンスという研修内容は必ずしもこの位置づけとは限りません。
例えば保安は一般従業員にとってはコンプライアンスに近い内容ですが、航空会社のCAにとっては極めて重要でもっと高い位置付けになります。(詳細は→4.トラブル発生時の対応)
4. トラブル発生時の対応
研修の位置付け:コア業務ではなく万が一の事件が生じた場合の対応のための研修です。(例:避難訓練、火災発生時、職場設備のアクシデント、社内システムのエラー)
大切なポイントは研修の内容ではなくて、受講者が普段やらない作業であることです。
そう考えると、属人化を避けるために他のチームメンバーの仕事を少し覚えることもこの位置付けです。
おすすめの研修形態:研修で色々教えても受講者はいつその内容を使うかが決まっていなくて忘れてしまいます。だからトラブルが起きたときのサポートツール(人材育成用語でパーフォマンスサポート)を準備することが一番効果的です。チェックリスト、マニュアル、ヘルプ、FAQ、チュートリアルあたりが最適です。わかりやすいイメージはコピー機の紙詰まりが起きた場合に表示される詰まった箇所のディスプレイです。
ヒント:サポートツールは研修ではありませんが、とても便利な人材育成施策の一つです。良いツールを作るために職場メンバーと一緒に作ることがお勧めします。使い方がわかるための研修が必要になるケースも多くなりますが、研修の中でツールを必ず使ってください。それから研修を職場単位で実施することにより共通の意識と言語が共有できて、研修効果が高まります。
3. 人材パイプラインの強化
研修の位置付け:◯◯人材(例:デジタル人材、グローバル人材)育成といった研修はまさにこの位置付けです。研修直後の職場での成果よりは数年後の業務のニーズに合わせて必要な人材をあらかじめ作ることが目的です。
おすすめの研修形態:ブレンドラーニングがピッタリです。なぜかというと知識とスキルを長く維持することが必要な割には成果を得られるまで時間がかかりますが、その間に使うリソースを最小限にしたいからです。最初のインプットではオンデマンドやeラーニングを活用してエネルギーと予算を最小限にできますし、研修後の復習が可能になります。高いスキル習得のためにはやはり講師によるリモートか対面研修が有効ですが、そのスキルを長期間キープするためにはリマインダーと復習の継続が必須です。
ヒント:よくある失敗パターンは立派な研修で受講者の能力を一気に上げるが、研修後に使う機会がないのでスキルがどんどん消えてしまうことです。勢いのあるスキルアップよりは長い期間の維持に重点を起きましょう。研修期間を長くする(半年から1年)フォローやリマインドのスキームを研修と一緒に設計することです。
ブレンドラーニングの参考記事:
・研修の効果を劇的に高めるキーワード 「ブレンドラーニング」
・2022年だからこそ改善、実施したい新入社員研修の3つのポイント
2. 現職務の成果向上(現場力の強化による経営の盤石化)
研修の位置付け:研修により受講者の現在の職務能力を高めて職場での行動変容を促し成果を出すことが目的です。個人別に「研修効果・行動変容」の成果目標を具体的に設定することがポイントです。例えば
・カスタマーサービスの担当者を1カ月以内に一人で対応できるようにする
・管理職のコーチングスキルを強化してチームメンバーのモチベーションと成果を上げる
・プロジェクトマネージャーのリモート会議ファシリテーションスキルをブラッシュアップして、進捗会議の生産性を高める
おすすめの研修形態:ここでのポイントは効果です。ということでラーニングジャーニー(数回の研修シリーズ)に定着フォローと職場実施を組み合わせたスタイルが最適です。インプットだけではなくて、研修でスキルを実際に身につけられるように演習を多く入れましょう。また研修直後に職場で使えるように実行計画やアクションラーニングがお勧めです。さらに高いレベルのスキルを身に付けるために繰り返し反復定着演習が必要です。
ヒント:成果を早く、大きく出すことに重点を置きましょう。研修に対する予算、時間、エネルギーはここにかけるべきです。人材育成チームリードする大切な取り組みはこの位置付けです。受講者の求められている行動が比較的に明確ですので、そこから逆算して効果的な研修プログラムを作るのは人材育成チームのミッションです。逆に言うと経営者のサポートやチェンジマネジメントはここでそれほど重要ではないです。
1. 企業戦略の実現
研修の位置付け:全社的な大方針や戦略を実現するための研修です。ほとんどの場合に経営層からトップダウンで研修以外の取り組みと一緒に行うケースが多くなります。(例:DX、持株会社へのシフトなど)
おすすめの研修形態:この位置付けの研修を成功させるために必要な要素は
●経営者サポート:従業員に重要性とビジョンを伝えるために必要不可欠です。途中途中の判断と工夫を考えるために継続的な関わりも必要です
●職場の巻き込み:他の研修より実際の業務に影響が大きいので職場の理解がないと失敗します。職場の上司とメンバーとコミュニケーションを取りながら経営者の求めていることと現場のニーズをある程度両方満たすように目指しましょう。
●効果測定:早いタイミングから進捗確認と効果測定が必須です。その結果を見て取り組みの内容をブラッシュアップする、方向を変える、施策の改善をするなどを決めないといけないです。
●チェンジマネジメント:組織レベルの大変革になってしまうのでチェンジマネジメントを意識して、スムーズに展開できるような工夫をすることが間違いなく必要です。
ヒント:求めている変化が大きく、研修と一緒に組織改革、ビジネスプロセスの変更、ツールの導入などを同時に行うことが多くなります。しかし最終的に狙っている目標やイメージが比較的に曖昧な場合が多くて、人材育成チームだけでは十分対応できない場合があります。ラインマネージャーと経営陣と連携して、進捗を確認しながらチューニングする必要があります。
クロージング
今回は、研修形態を決めるときに意識すると良い、「6階層の価値ピラミッド」について解説しました。それぞれの良さや効果があり、人材育成のポートフォリオを考える上でもうまく整理できたのではないでしょうか。
皆さんは重々承知しているとは思いますが、研修を計画する際に大事なのは、どのような研修形態でやるのかではなく、達成したい目的にあわせて最適な研修形態を考えることです。今回のコラムが、あらためて考え直す良いきっかけになり、良い気付けを提供できれば嬉しいです。
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