第14回HR EXPO春(人事労務・教育・採用)|RX Japan株式会社第14回HR EXPO春(人事労務・教育・採用)|RX Japan株式会社

これから求められる 個を生かすオンボーディング vol.3

VUCA時代はオンボーディングに関する視界を広げることが求められる

前回は各社の課題感について整理した。
まず、対象を(1)若手社員本人、(2)接支援の上司など、(3)間接支援の人事担当などの3者に分けて捉えた。
そうすることで、誰に対してどう取り組むかがハッキリするからだ。
メインターゲットは(1)の若手本人。そのスムーズな立ち上げのために(2)の上司や育成担当などが直接的に働きかける。その働きかけを支援し効果を高めるために(3)の人事などが仕組みをつくる。このように整理した。
今回は、課題に対して、効果的に取り組んでいくためのスイッチを明らかにしたいと考え、過去弊社がお手伝いしてきた実例の中から見えてきたその仮説構造をお伝えしたい。それが、読者の皆さんの効率的なオンボーディングの実現に少しでもつながればと思っている。

参考:第2回 各社の課題意識からみる、オンボーディングの捉え方の違いと共通点

目次

  1. オンボーディングを効果的に実現するために
  2. 某企業の取り組みで見えてきたこと
  3. 若手社員の成長に対する価値観にも注目してみると・・・
  4. 若手社員の心理メカニズムの仮説
  5. 明日への一歩

オンボーディングを効果的に実現するために

今回の連載では、オンボーディングを「若手をスムーズに立ち上げること」と捉え、若手が「スムーズに立ち上がる」ことは、具体的には、「活躍する、成長する、コンディションが健全である、そして自律している」状態になることと考えている。新人時代だけに閉じていないのがポイントだ。

また、前回のコラムでは、その課題の中心は若手社員本人だが、課題を強く感じているのは、現場の上司や育成担当であり、それを支える人事だ、ということを書いた。言い換えると、オンボーディングの主語は、この3者の誰かだけではなく3者全員だと言うこともできる。

ここからは、上記を踏まえ、課題の中心にいる若手社員本人はどんなプロセスで立ち上がっていくのか、その共通性(メカニズム)に注目してみたい。共通性が分かれば、上司・育成担当やそれを支える人事が効果的に若手社員に働きかけるヒントになるはずである。

某企業の取り組みで見えてきたこと

具体的にイメージするために、企業α社の取り組みを紹介する。
α社でも例にもれず、「新人・若手が思うように立ち上がらない」「状態が悪い若手が少なくない」「気持ちが折れたり、突然やめたりする」という問題意識があった。そしてそこに手を打つために負荷の低いシンプルなパルスサーベイを活用していたが、それだけでは若手社員の状態に気づけてもその要因までは捉えることができない状況にあった。そのため若手の状態をタイムリーに捉えることに加えて、その状態になる要因を探る工夫を施し、効果的に個々人に働きかけを行ったり、組織的な共通施策を展開したりしている。

その中で、若手社員本人の心が健全かという点に加えて、しっかり成長を実感しているかどうかという点にも注目している。それは新しい世代(Z世代)が仕事をする上で内発的動機を強く求めていることが、理由として大きい。実際、パーソル総合研究所の調査では、成長実感はパフォーマンス、ワークエンゲージメント、定着に正の関係があることが示されている。

【図】パーソル総合研究所 若手社員の成長実感の重要性~若手の成長意欲を満たし、本人・企業双方の成長につなげるには~「図1.成長実感とパフォーマンス、ワーク・エンゲイジメント、継続就業意向の関係」をもとに、リクルートマネジメントソリューションズが作成

α社では下表のような傾向が見えてきた。心の健全さと成長の実感が双方ともバランスよく高いかという観点で作成した表であるが、理想的な状態であるAが4割でもっとも良くない状態のDが2割である。Aが一番多い点は前向きにとらえられるが、A以外が6割いることがとても気になる。そして、A以外ではそれぞれ起きていることは違いそうである。

Bは、様々な仕事に取り組む中で成長感は感じているが、息切れをしていたりしかけたりの状態。気持ちが折れてしまわないようにケアが必要な状態と言える。Cは元気ではあるが、仕事から得られるものがない。ある意味「緩い」状態もしくは物足りない状態と言える。このような状態でほかにもっとよく「見える」職場があれば、転職ハードルが低い昨今では飛び出してしまいかねない。そのような仮説が立ちそうである。

シンプルなパルスサーベイはもちろん、気づきツールとしてきっかけを得られる点はとても優れているが、もう一段若手の内面を掘り下げていくと、効果的な打ち手につながるような理解につながる。そのようなポイントに気づかされる結果だ。

若手社員の成長に対する価値観にも注目してみると・・・

更にα社では、若手社員が成長に対して大事にしている価値観にも興味深い傾向があることが分かった。
(1)自分らしさの発揮がより大事な人。(2)自分をどんどん変え進化させる事が大事な人。これは必ずしも二者択一ではないことであるが、そのバランスは個々によって違いがあり、下表のような傾向が見えてきた。

今回取り上げているα社は事業内容やその歴史から質実剛健な風土を持つ企業であり、積み重ね進化させてきた圧倒的な技術による価値提供をチームの協働力で実現してきた企業である。その意味で、「らしさの発揮は否定しないもののそれより学び高める方が大事」という(2)の価値観を持つ若手が7割集い圧倒的に多いという傾向が出ているのは納得感が高い。
その一方で、Z世代の若手が大事にしている価値観であるとよく言われる「自分らしさを発揮することをより大事にしたい」というタイプも3割いるという傾向が出ている。

これらの傾向はα社の「Z世代に対して行った調査結果」と言えるが、必ずしも全員が「自分らしさの発揮ばかり」を大事にしているわけではないことが改めて確認できた結果である。
おそらくこの傾向は、企業による違い、事業による違い、もっと言うと若手社員個々による違いがあると捉えた方が良さそうである。
この若手の成長に対する価値観の多様性を踏まえた時、個々それぞれがその価値観を満たせているのかが、成長を実感するために重要になる。つまり、(1)が大事なら(1)を、(2)が大事なら(2)を満たせていることである。もしそれぞれの価値観を満たせていないなら、成長への実感は弱くなるだろう。

関わる側からすると、この部分を踏まえて効果的に若手に関わりたい。しかし、自分たちにもこれまで蓄積してきたものの上に自身の信念があったりするので、気づいたら若手社員との間にギャップが生まれてしまうことがしばしば起こりがちである。

α社ではこのような構造が見えてきた。
このあたりに注目してメカニズムを表現することで、アクションにつながる可視化を可能にし、実践的な仕組みづくりにつなげたいと考えている。

若手社員の心理メカニズムの仮説

上記ではα社を中心に話をしてきたが、他社での取り組みなども踏まえ一般化し、若手社員が新しい環境で立ち上がっていく際の心理面プロセスをつかみやすくするために「若手の心理面のメカニズム」について表現してみたい。

狙いは関わる側が客観的に若手のことを捉えられるようになることである。良い状態の若手を更にレベルアップするにしても、停滞している若手をその状態から抜け出させるにしても、その原因を特定すると、課題の設定がしやすくなる。そしてそれがよりシャープに手を打つことにつながるはずである。

【心理メカニズム:成長サイクル】

【図】リクルートマネジメントソリューションズ提供

上図を御覧いただきたい。「本人の心理メカニズム」をサイクルの形で表現している。
このサイクルを回すことが成長につながり、回っていることで成長を実感するという構造になっている。状況や人によってスタート地点の違いはあると思うが、行動する【1】から見てみたい。行動するとそこから学ぶ【2】。それを次に生かす【3】。それも含め自分らしさを発揮する【4】。そしてその発揮によってまた行動する【1】。もちろん、自分らしさとは長所も短所も含めてである。その【1】から【4】を感じられていると成長を実感できる。

前述の価値観(1)「らしさの発揮が大事」が強い人材は【4】が感じられていることが大事になるし、価値観(2)「自身の変化・進化が大事」が強い人材は【2】を感じられていることが大事になる。

これらが目詰まりを起こさずスムーズに回転すると、とてもよい状態である。「個性を生かしエネルギーと成長スピードを高めること」につながる。逆に目詰まりが起きてしまうと停滞につながる。サイクルを自律的にたくさん回せる状態が目指す状態である。もちろん最初から全て一人で回すのは簡単ではない。支援が必要である。その中で学び工夫を繰り返すことで自律して回せるようになっていく。

このサイクルがどのような状況かをキャッチし、適切に関わることができたら、とても効果的な支援が若手社員に対してできるだろう。

成長のスタートは、学ぶことからだとか、自分らしさを発揮することからだといった二項対立議論ではない。サイクルで考えることで取り組む内容や個性の違いによって最適な形で考えることができる。新しい世代(Z世代)の「自分らしさを重視する」価値観を踏まえる意味でもこの柔軟性をもつことで、より効果的な支援ができるようになる。

明日への一歩

今回は、若手社員の状態を理解するのに心理メカニズムを成長のサイクルで捉えてみることがどう効果的なのか、についてお伝えしてきた。皆さんはどのように感じられただろうか。もし少しでも可能性を感じていただけたなら、是非このメカニズムを使って皆さんの近くにいる若手社員について整理してみていただきたい。

また、ご自身について整理してみることもお勧めしたい。というのも、読者の皆さんは、このサイクルをこれまで積み重ね、今「自律的」にそして「高いレベルで」回されている状態にあるだろうと言えるからだ。
現在・過去の取り組みテーマの中で、自分の得意や、やりたいこと、大事にしていることをどのように生かして(自分らしさを発揮して)いるか。そして、様々な成果や経験から何を自分にフィードバックしているか。そのような「自律・自走し自分を高め続けている状態」へ若手社員を導くこと。それがオンボーディングの理想的な状態ということだと考えている。自身の整理を通じて、自社の目指す状態を具体化してみていただければと思う。

次回は、このメカニズムを踏まえてみた時に、職場になじめない、或いは取り組んでいることに意味を感じられないなど、若手社員に起こりがちな諸々の問題をどのように捉えることができるのか、そう捉えた時にどのように対処していく事ができるのかについて考えてみたい。

>>>vol.4 データを活用して若手の成長サイクルを見える化~データから見えてくる若手がぶつかる壁~(前編)

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