社史から読み解く“自社らしいマネジメント” 第2回
自社らしいマネジメントとは?
連載第1回では、「劇的な環境変化に揺れずに進める人・組織と、そうではない人・組織の違いの一つの要因として、“自分(たち)のマネジメント基準~価値基準を自覚しているか”どうかにある」ということについてお話ししました。
このコラムのタイトルにも“自社らしいマネジメント”とありますが、ところで、“自社らしさ”“自社らしいマネジメント”とは、いったい何でしょうか?それが今回のテーマです。
参考:第1回 マネジャー受難の時代~必要とされるのはマネジメント基準
目次
自社らしさとはなにか?
自社らしさという言葉はよく聞きますが、その内容について、皆さんはどう考えていますか?
ここでは、経営理念・ビジョンなど自社らしさと同一、もしくは同時に語られやすい言葉との違いを考えながら、“自社らしさ”というもの対する認識を揃えておきたいと思います。
図1は、企業理念(見えるもの)と自社らしさ(見えないもの)の関係を表したものですが、ある会社のエピソードをお話しすることで、この図の意味することを感じていただきたいと思います。
あるメーカーの話です。この会社は、工場設備の筐体に使われる部材を開発・製造しています。創業30年を超え、リーマンショック時の数年を除いて、増収増益を続け成長してきた会社です。従業員は500名強、全国30カ所に拠点を設けています。増収増益の理由は、他社ではやらないような材質を使って、他社にはない形状を実現できる開発力にあります。お客様からみれば、自分たちの要望に沿ったものを開発してくれる、そうした開発力が競争優位性となり、成長してきました。会社としても継続した成長をしていくために、“とにかく自分たちで開発していく”ということを経営方針に、経営理念・行動指針で「とにかくやってみる」を掲げ、口酸っぱく言い続けてきました。創業の節目では社史をつくり(創業30年で社史はすでに3冊あります!)、社内報でも社長のコーナーを設けるなどしてその思いを発信し続けてきたのです。
しかし、ある出来事をきっかけに、社長の思いがまだまだ浸透していないことが露見します。
それは、システム開発の場面でのこと。担当社員は専門性と時間効率を見込んで、専門業者にそのシステム開発を外注しました。しかし、しばらくしてからそのことを知った社長は烈火のごとく怒り、開発を止めさせてしまったのです。その結果、システム開発は白紙に戻ることになりました。
担当社員は「今の時代、システムについては外注したほうが時間もコストも相当減らすことができます。その分自分たちの得意領域(材料工学や形状デザイン)に集中すべきだと思うんです。社長からも日頃から納期・コストのことは厳しく言われているので、そのためにも外注したんですが」と社長の意図を測りかねている様子でした。
社長にお話を伺ってみると、「うちには“とにかく自分たちで開発していく”という方針があるのに、誰もわかっていない!何でも外部に任せるのではなく、自分たちはどうしたいか考えるんだよ!」とすごい剣幕です。
社長が、本業ではないシステム開発にまで“とにかく自分たちで開発していく”ことに、そこまでこだわる理由はなんだと思いますか?
そう考えるようになったきっかけになった出来事について聞いてみました。すると、その原点は創業時にありました。
「当社は、ある会社の一部門から独立させてもらった会社です。その会社にいては自分が理想とするような材質・形状が作れなかったのです。ありがたいことに、お客様も一部引き継がせていただきました。
ただ独立してみると、一番感じたのは恐怖でした。お客様から”やっぱりおたくとは付き合えない“と言われやしないか、怖くて仕方がなかった。実際数社、当社を離れて独立前の会社に戻っていきました。もし、このまま全てのお客様が離れたらどうなるんだろう?とすごく焦りました。
焦り悩み続けたうえで、改めて思い起こしたことは、自分は何のために独立したのか?ということだったんです。自分にはやりたいこと・実現したいことがあって独立したのに、それを実現しないまま倒産してしまうのか、それだけは絶対嫌だ、と。そこで”自分がやりたいと思ったことはまずは自分でやってみる。やらないで終わるより、やって後悔したほうがいい。決して、他人任せにはしない“ということを心に誓いました。それ以来、資本金に匹敵するような生産設備の購入や、全国拠点の展開など、当時多くの人から反対されたり疑問を持たれたりした施策を実行できたのも、そういった思いがあったからです。
そして、そのことを社員にも感じてもらいたくて、”とにかく自分たちでやってみる“という行動指針を決めて言い続けてきたんですけど、なかなか伝わらないものなんですね。せっかく当社に入社したのだったら、自分が思っていることや考えていることを自由にやってみたらいい。誰にでもやってみたいことはあるはずですから」
ここで大事なことは、象徴的なキーワードとしての「とにかくやってみる」という言葉を覚えること、理解することではなく、“何か困難を前にしてやらないで終わるより、やって後悔したほうがいい”、“(社長自身や社員に対して)実現したいことや考えは必ず持っている”という根底にある見方・感じ方を実感しているかどうかだということです。
その見方・感じ方があるからこそ、「とにかくやってみる」「とにかく自分たちで開発していく」という行動が生み出されているわけです。
つまり、自社らしさとは、目に見える制度・ルールやキーワードではなく、その背景にある、その会社特有のものの見方・感じ方と言えるでしょう。
自社らしいマネジメントとは、場面マネジメント
自社らしさというものが、その会社特有のものの見方・感じ方だとすると、それはどう浸透していくのでしょうか?
1つ言えることは、「自社らしさは言葉では伝わらない」ということです。先ほどの事例でも、社史・社内報などを使ってどれだけ言葉を伝えても行動にはつながりませんでした。
ではどうするか?
ヒントは、「システムの開発場面」にあります。担当者は、納期・コストの面を考慮して開発を外注しました。一方、社長は「そういうときでも自社開発を貫け」と言っています。そのとき、言葉で大事だ、というのではなく、実際に社長のように“自社開発でいこう!”と伝え、体験させていたらどうなっていたと思いますか?おそらく最初は社員も驚き、戸惑ったことでしょう。しかし、体験をし続けることで“こんなときでも社長は自分たちで開発することを大事にするんだ”とか、“一見できないと思っていたことでも自分の思いを表現することが大事なんだ”ということを実感していったことでしょう。
「自社にとって大事な場面でどのように振る舞ってきたのか。その意思決定の基準に自社らしさが宿っており、体験・行動を通して、その意味が再発見・再実感されていく」のであり、「自社らしいマネジメントとは、直面する場面でどうすることが自社らしいのかを考え、現場に落としこむ行為~場面に対するマネジメント」といえるしょう。
図2は、「場面」に宿るエピソードを抽出したものです。参考にしてください。
社内に伝わるキーワード
今回は、あるメーカーの事例を通して、自社らしさ・自社らしいマネジメントについて考えてみました。そして、そのヒントは、創業~会社の発展・成長の重要場面に宿っていることを見てきました。
皆様の組織・会社においても、日頃から繰り返し伝えられている言葉・キーワード、歴代の社長や経営陣がこだわる表現というものがあると思います。そうした言葉に出会ったら、その意味を探るのではなく、それはどのような場面で何をすることなのかを考えてみてください。そして、そのヒントは、「創業」~「これまでの歴史」のなかに隠れています。
「創業」~「これまでの歴史」を振り返ることの重要さ、自社らしいマネジメントの概要について考えてきたところで、次回は自社らしいマネジメントを掴みポイントについて考えていきたいと思います。
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