外資系日本法人トップを歴任した、ブライトコーブ小枝逸人氏が語る
外資系企業の日本法人が成功するコツ
2022年3月に、ブライトコーブ日本法人代表取締役社長に就任した小枝逸人氏。幼少期からスキー選手として日の丸を背負い、22歳で引退してからビジネスの世界に飛び込み、外資系日本法人のトップを歴任したという異色の経歴を持ちます。
小枝氏に、これまでのキャリアを振り返っていただきつつ、外資系企業の日本法人トップとして2社のIPOに立ち会った経験や外資系企業が日本で成功するためのポイント、そしてブライトコーブに入社したきっかけなどをうかがいました。
【聞き手:ブライトコーブ株式会社 シニアマーケティングマネージャー 佐野通子】
目次
スキー選手時代に培った「目標をチームで成し遂げる力」
――小枝さんは22歳までスキー選手として活躍されていたそうですね。
小学3年生の時からスキーを始めて、4〜5年生にはスポンサーから用具の提供を受けるようになりました。中学1年生の時には北海道大会でいきなり1位になって、全国大会4位に。自分でもびっくりするような成績を収めて、それがきっかけで中学2年生から全日本のナショナルチームに入ったんです。そこからは世界各国に遠征していました。スキーと勉強を両立させるために、中学卒業後はアメリカのボーディングスクールに入りました。
そういう生活をしていたので、幼い頃から、ゴールに向かって進んでいくことの重要さや目標を成し遂げる力を自然と身についていたように思います。個人競技ではあるものの、家族やコーチ、用具を提供してくれるスポンサーなど、私が最大のパフォーマンスを出していくために支えてくれるチーム力の大切さや、チームで成し遂げる成果の素晴らしさを体験してきたんですよね。スキー選手時代に身につけたことが、今の私の基盤になっていると思います。
――ビジネスマンとしてのキャリアはどこからスタートしたのでしょうか。
22歳のときに複雑骨折してスキー選手を引退してから、社会人人生がイチからスタートしました。
入社したのは東京美装興業というビルメンテナンス会社です。総務や庶務、広報などの業務にかかわって仕事の仕方を学びました。
ただ、入社して10年経ったころ、少しずつ「英語を生かしてもっと頑張りたい」という欲が出てきたんです。ちょうどその頃、アメリカの大手企業「ジョンソンコントロールズ」が東京美装興業の筆頭株主になり、その部門でビジネスをするようになったのです。半分外資系の会社として、アメリカ人と一緒に営業責任者としてビジネスをすることになりました。
営業責任者として楽しいことも苦しいこともありましたが、ビジネスマンとしての本当の意味での第一歩を踏み出すことができたなと思いましたね。ジョンソンコントロールズの人たちとビジネスでのゴールを設定して、そこに対してビジネスをすすめていく大切さを学んでいきました。
その後、外資系の日本法人の社長のポジションのオファーをいただき、そこから25年ぐらいでいくつかの外資系企業の日本法人の社長やアジアの統括責任者などを歴任してまいりました。
外資系企業の日本法人は「グローバルに考えながらローカライズしていく」とうまくいく
――これまでの小枝さんのビジネスキャリアの中で、特に印象的だった出来事を教えてください。
2社のIPOに関わることができたことですね。1社目が「A10ネットワークス」です。日本法人社長として、そしてアジアパシフィックの責任者として大きな成功を収めることができ、ニューヨーク証券取引所での上場セレモニーでベルを鳴らすこともできました。
A10ネットワークスを創業したリー・チェン氏とは、特に信頼関係をうまく構築できたと思います。彼はもともとエンジニアだったから、人より優れたプロダクトを作るのが得意。だから、ビジネス面は僕に任せてくれた。この関係性を明確にしてくれたんですね。だからこそ「どの競合企業よりもお客さんをハッピーにできる会社を一緒に作ろう」と彼と決めたんです。
彼はアメリカン台湾人だったこともあって上場に至るまでさまざまな苦労がありました。苦労している様子も彼のそばで見てきましたから、一緒に会社を作り上げることができて、上場したときは感慨深いものがありましたね。
もう1社は「DocuSign」です。シリコンバレーでも世界的にも非常に有名なCEOと一緒に、DocuSign日本法人を作ることができました。しかも彼は、のちにアメリカの国務事務次官にもなった素晴らしい人。アメリカ全体を背負っていくような人と一緒にビジネスを作る経験を得られたのは、非常にラッキーだったと思います。
――外資系企業の日本法人社長として成果を上げることができた理由は、どういったところにあるとお考えですか?
外資系企業の日本法人社長の中には、海外の人たちをオープンに受け入れて一緒にやっていくタイプと、日本のやり方でやっていくというタイプの人がいますが、私は前者です。グローバルでの成功事例を一緒に持ち込んで、より多くの人たちを巻き込みつつ、ローカライズ部分を現地法人が担っていく。世界中のリソースを使いながらローカライズすることができた会社は日本でも伸びています。
前述のA10ネットワークスもDocuSignも、「グローバルに考えてローカルに合ったやり方を実行する」という考え方を持っている企業でした。
A10ネットワークスでは、日本にカスタマーサポートセンターを作ったことがローカライズの第一歩でした。お客さんが電話したら、24時間日本語で答えてくれるカスタマーサポートセンターです。本社と一緒に日本のハッピーカスタマーを増やすために、日本市場に合わせてカスタマーサポートを構築しました。
DocuSignでは、日本で100年以上の歴史を誇る「シヤチハタ」と業務提携したことが印象に残っています。日本は捺印文化が根づいており、シヤチハタはその文化を長年支えてきた企業。契約書のデジタル化にむけて、日本でDocuSignがローカライズしていくためには重要な業務提携を実現できたと思います。
“Think Global, Execute Local”という考えを持っている会社は、日本でも強いと思いますね。
――小枝さんはもともとそういった考えをお持ちだったのでしょうか?
いや、やはりいろいろな失敗から学んだ結果、そういった考えを持つようになったと思いますね。
長年の海外での生活で、日本人だということを主張して失敗したこともありますし、その逆をとったことで失敗したこともありました。その経験の中で、我を通しすぎず、相手の主張を受け入れすぎずといったバランスを学んでいったと思います。
外資系で失敗している企業を見ると、本社のやり方を押しつけているケースが多い気がします。逆に「ここは日本だから日本人の言うことを聞け」っていうケースも失敗しがち。自分の考えを信じることはすごく大切ですが、自分の我を全面的に出してうまくいく人も会社もいない。本社のある国と日本はまったく違う国だという前提で、本社と日本法人が一緒に手を取り合っていいサイクルが生まれると、成果が出ると思いますね。。
社員がパフォーマンスを発揮するために重要なこと
――これまで小枝さんはさまざまな企業でマネージメント経験をお持ちですが、社員が実力を発揮して成功するために気をつけていることはどんなことでしょうか。
まず目標を社員全員に共有し、それに共感してもらい、腹落ちさせることがまず重要です。その目標に向かって社員と一緒になって頑張るわけですから、目標達成に向けたオープンな環境づくりも大事ですよね。
ここでいうオープンな環境とは、心理的安全性が担保されていて、成功するために個性を発揮できる環境のこと。こういう環境をまず経営者がつくることが重要だと思います。
――成長する社員とそうでない社員で、それぞれどんな特徴があるとお考えですか。
個人でパフォーマンスを発揮することばかり意識するのではなくて、一緒に取り組むんだと。
そして、“Above and Beyond”。与えられた目標に対してもっと上回ることを考えていく姿勢がある人たちは成長を続けていくと思いますね。うまく成果を上げるために、どうすればいいかと考えるタイプの人たちですね。
その逆で、スタンドプレーが目立ち、チームに協調せず、一人だけで成果を出してやろうと考えたり、目標に向かってチャレンジせず、できない理由ばかりを考えたりといった姿勢の人は成長しにくい。こういう考え方を持って成功した人を私は見たことがないです。
もちろん、会社のカルチャーに合うか合わないかによって成功する、しないはあるかもしれません。ただ、どの会社においても、オープンマインドでチームワークを重視し、目標以上のパフォーマンスを発揮するために考え続ける人が成功するのだと思います。
――成長する社員を見極めるために、どのような視点で人材を採用しているのでしょうか。
採用面接の際に私が求めている方向や役割、資質、成果をきちんと説明したうえで、それに対する回答や経験を語ってもらうなどのディスカッションを行って見極めます。
入社してからはその人のやりたいことや目指すことを理解したうえで、普段の会話の中でKPIに対しての進捗を随時話し合います。これらを常に実施し、組織として定期的なレビューと次のステップを示していきます。
レビューを行っている会社は他にもたくさんありますが、それを有効なものにしていくためには経営者層と社員とのお互いの理解が必要だと考えています。
会社の方針と社員の目指すところのギャップが少なければ少ないほど、身を置く環境でどう成果を上げていくかを社員自身が考えやすくなると思います。当たり前のことですが、チーム全体が同じ方向を向いて成長していくことが、成果を上げる人を増やす近道なんですよね。
日本市場で日本のお客さまの声に耳を傾ける企業カルチャーに共感
――2022年3月、ブライトコーブの日本法人社長に就任されました。ブライトコーブへの入社の決め手は何だったのでしょうか。
ブライトコーブは、ビジネス向け動画配信プラットフォームを提供するグローバルリーダーです。今、動画業界は大きな変化の中にありますが、その変革にのっていける企業だと感じました。A10ネットワークスやDocuSignで私自身も大きな世の中の変革に関わってきましたから、これまでの経験も生かせるのではないかと思ったのです。
――ほかにも、入社の決め手になったポイントはあるのでしょうか。
私が今まで関わって成功した企業のカルチャーにすごく似ていると思ったのも、大きな決め手のひとつですね。
ブライトコーブは海外にある本社ではなく日本法人とお客さまが直接契約するので、お客さまとの向き合い方が多くの外資系企業とは異なります。つまり、お客さまはビジネスの成功のためのヒントをたくさんくださる存在だと考え、常にお客さまの声に耳を傾けているということ。日本市場とお客さまの成功を真摯(しんし)に考え、自社のビジネスファーストではなくカスタマーファーストを大切にしている企業だという点に非常に共感できました。
また、ブライトコーブの自分の役割や与えられたミッションを超えて「みんなで成功しましょう」というカルチャーもすごく気に入りました。自分たちの目標を達成するために、社員同士で助け合うというカルチャーが根づいているように思います。チャレンジに対してできるかできないかではなくて、「どうやったらできるんだ」と考える人も多いです。働く際、やっぱり誰と何をするかはすごく大事ですからね。【おわり】2022年9月15日取材
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