一流のビジネスマンを育てる「文章力」 人事担当者・指導者のための指南術

第1回 「文章力向上」が企業人に必要なコミュニケーション能力を鍛える鍵になる

企業活動におけるコミュニケーションでは、相手や場面に応じて、どのように表現すると効果的なのかを考える力が求められる。その能力は文章力と結びついている。
考えてみていただきたい。自分のコミュニケーション能力に自信がない人は、文章力にも自信がないのではないだろうか。あなたの周囲にいる提案書がうまく書ける人とは、コミュニケーション能力も高いのではないだろうか。
この連載では新人研修を行う人事担当者や、コミュケーション能力を高めたいとするビジネスマンに向けて、文章力の大切さと文章力向上のための方法を示していきたい。              

向上しなかった文章力

最初に「文書」と「文章」の定義についてあらためて認識していただきたい。
「文書」とは書かれた書類を指す。書類なので、文書と言うときは、言語で書かれた内容だけでなく、書類としてのデザインなども含めて対象となる。他方、「文章」とは言語で表現されたものを指す。言語表現なので、例えば、同一の文字列がA4判とB5判に印字された場合、両者は同じ文章と言える。しかし、同じ文書とは言えない。

さて、本題に入る。約30年前、筆者は日本商工会議所が主催していた日本語文書処理技能(ワープロ)検定にかかわっていた。その検定の試験科目に文書を作成する課題があった。当時よく耳にしたのが、「社員の文章力がないので困る」という、企業上層部の声であった。その悩みは30年経っても解決していないようだ。多くの社員の文章力は向上していないらしい。それはなぜだろうか。また、このまま放置しておいていいのか。

文章力を向上させないテンプレート

文章力が向上しなかった原因の1つは、テンプレート方式に代表される文書支援システムにある。
企業にとって文書は必要不可欠だ。そこで、誰でも容易に文書作成ができるように、どのような内容をどのような順序で書けばよいかを指示するテンプレート方式が開発された。優れた方式であり、多くの企業が利用し、形式の整った文書が作られるようになった。ところが、ここに落とし穴があった。

例えば、企画書を作成するときに、「目的」「実施内容」「効果」などを書きこむことを指示するテンプレートがあったとしよう。このとき、文書を作る人の多くは文章全体ではなく、項目ごとに情報が不足しないようにと考えてしまう。すると、「効果」の欄で、“目的が達成できる”ことまでも説明しようとして、こまごまと情報を書いてしまう。その結果、くどい文書ができあがってしまうのだ。

文書全体の意味を認識し、テンプレートの役割を理解した上で使えばいいのだが、それができない。文書構成や文章の基本について理解しようとはせず、その場しのぎで解決しようとするからだ。テンプレートに頼りすぎてしまう結果、自分で文書や文章を作る力がつかない。文書作成の効率化のために採用された文書作成支援システムが文章力向上を妨げているのだ。皮肉なことである。

有能な人材の武器としての文章力

文章力不足はさらに重大な問題を生み出している。文章力というのは、文書を作るためだけに役立つのではなく、コミュニケーション能力と結びついている。あえて極端な表現をすれば、「文章力不足の人はコミュニケーション能力が不足している」と言えよう。

コミュニケーションは、人と人とが理解しあうことと解釈される。それも間違ってはいないが、企業活動におけるコミュニケーションとなると、その段階にとどまらず、自分の考えや思いを、相手に理解して納得してもらうことまで要求されよう。
説得力が必要なのだ。顧客にこちらの条件をのんでもらう。謝罪の言葉によって、快く許してもらう。それらを勝ち取らねばならない。

そのためには、相手や場面に応じて、どのように表現すると効果的なのかを考える必要が生じる。文章を書くときに、そのような“考察の力”が鍛えられるのである。

文章は相手に情報を伝えるものである。的確に伝えるには、相手や場面を考えて最も効果的な表現を考えなければならない。会話の場面ではゆっくり考える時間はないが、文章を書く場面では、さまざまなシミュレーションで考えることができる。そこでは、論理的な考え方が醸成されるし、効果的な表現力も身についていく。文章を書くこと、文章力を向上させることは、まさに「企業で必要とされるコミュニケーションの力を鍛える」ことになるのである。

有能な人材を育てようとする企業にとって、いま、社員の文章力を向上させる取り組みが求められているのではないだろうか。

次回は具体的に文章指導で役立つヒントを提示したい。文章力を鍛えるためには「2つの誤解」を解くことが鍵となる。

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