社史から読み解く“自社らしいマネジメント” 第1回
マネジャー受難の時代~必要とされるのはマネジメント基準
ここ数年の事業・企業を巡る環境変化は、これまでの想像を完全に超えており、激しい環境変化を前にして事業やマネジメントの在り方を再考する必要がでています。しかし、再考にあたり、自社の良さを消してしまって、特長がない会社になってしまっては意味がありません。
この連載では、「“自社らしいマネジメント”とは何か」を考えるヒントを提供したいと思います。
第1回の今回は、その前提として、マネジャーが直面する変化についてみてみたいと思います。
目次
劇的な変化
読者の皆様の中に、コロナ禍がこれほど長期間に渡ると予想できた人はどれだけいたでしょうか? また、不安定な世界情勢や、一斉に行われた物価高騰はいかがでしょうか?
こうした世の中の動きが様々な変化をもたらしています。
事業という面で見れば、海外大都市のロックダウンや移動制限が発生し、調達・サプライチェーンの混乱、原材料高・不足、エネルギー不足が起こし、収益の悪化を引き起こし、その結果、事業の進め方やあり方を問い直す企業が増えています。
同時に、職場内にも大きな変化を起こしています。
リモートワークの浸透により、これまでのように一律の出社・勤務を前提とした働き方から、お互いが顔を合わせないまま業務を進めるようになっています。また、自分が持っている技量・技術を他で活かす~ギグワーカーのような副業が多くの企業で許可・活用されるようになりました。Z世代と呼ばれる新人世代に限らず、働く人たちの多様な価値観・考え方が、働く場所・働き方にそのまま反映されるようになっています。
その他にも、プライムなど新市場の運用開始、人的資本経営、SDGsといった企業統治(ガバナンス)の側面の変化も見過ごすことはできないでしょう。
では、こうした変化はどのような意味を持つのでしょうか?
その一つが、現場を支えるマネジャー・マネジメントに大きな変化を求め、結果として新たな負担を強いてしまっているということです。
先程、事業の進め方やあり方を問い直すと記しましたが、この環境変化の中で、明確な方針を描くことは難しいでしょう。その結果、経営から出される方針は曖昧にならざるを得ず、その曖昧な方針を現場にブレークダウンし、しかも、その実現に向けて、多様な価値観を持つメンバーを、顔を合わせずに動機づけるということが求められます。そして、その実現の過程では、ガバナンスの強化などからくる様々な要請を踏まえた職場運営がされなければいけません。
マネジャー受難の時代
以下の図は、マネジャーが直面している現実を整理したものです。
いかがですか? 皆さんの会社ではどのような変化に直面しているでしょうか? その結果、マネジャーの皆さんはどのような現実に直面しているでしょうか?
今、目の前にしている環境変化は、おそらく不可逆的なものになるはずです。そうだとすると、ほぼすべてのマネジャーが上図のような現実環境に対して何らかの対応=マネジメントスタイルの変更をしていく必要があるのが現実でしょう。
こうしてみると、正直今の環境下でマネジメントをすることがいかに大変か……。本当に頭が下がります。
では、マネジャーは自身のマネジメントを見つめ直さなければならないのですが、一体具体的にどのように考えていけばいいでしょうか?
ここでのヒントは、「環境変化に流され、機能不全となってしまう企業もあれば、そのような変化を前にしても自らを見失わず、進んでいける会社もある」ということです。両者は一体、何が異なるのでしょうか?
マネジャーが、自身の過去の体験から再実感したもの
ある介護施設運営の会社の話になります。
介護業界は、少子高齢化の流れもあり、市場規模は年々増加傾向にあります。ただ、勤務・待遇面の問題から、慢性的に人手不足(人材獲得競争)にあり、働き手の維持はサービス品質の如何、ひいては競争優位性に直結するような業界です。あまりに低品質のサービスを提供する会社は淘汰されていきますので、既存会社同士の競争は激しくなっています。そのため、ある施設が生み出したサービスは遅かれ早かれ他の施設でも導入されます。
結果として、コロナ禍による経済不安の影響もあり、新規入所希望者の減少とコスト高になり、この会社の収益は悪化しました。
そこで、これまでになく厳しいコストダウンと入所者募集の号令をかけると同時に、新たな自社ブランド確立が戦略課題に設定しました。具体的にはブランドについて他社事例から学び、そのエッセンスを自社に取り入れていくことになりました。
しかし、これが進まなかったのです。
入居者へのサービス提供に加え、離職の多い業界のためスタッフのケアなどやることは非常に多く、もともと激務です。そこに、これまで以上のコスト管理が求められると同時に、新しいブランド戦略などが現場に落としこまれ、マネジャーが疲弊していったのです。とりわけ、新たな自社ブランドの確立については、他社事例から学んだことを現場に合わせてどう展開させるかはマネジャーに一任されたため、マネジャーにとって悩みの種になりました。あいさつや身だしなみの強化のためにチェック項目を増やしかえって疲弊させてしまう、“接客の質を更に向上させよう”というスローガンを掲げてみたものの、それ以上具体的に何をすればいいかわらず身動きが取れなくなる、など混乱が発生しました。
しかし、そんな中でも比較的元気になった職場がありました。
売上も、スタッフの定着率も大崩れせず、他の職場で混乱を引き起こしていたブランド確立についても、“入居者やスタッフに居心地の良い場を提供すること”と定義して、両者に寄り添い続けることが最重要であると決めました。その結果、マネジャーもスタッフもこれまで以上に入居者・スタッフの悩み・困りごとの解決に集中することができたのです。
この職場には、弊社でワークショップを1日開催させてもらいました。その中で、これまで仕事の中で喜怒哀楽を感じた体験や、集中してやりきった体験を振り返ってもらったところ(詳細は以降の回でご紹介します)、入居者の願いをかなえて温泉旅行を実現させたり、スタッフのために無理難題を言う入居者のご家族も入れて相談の場を設けたりといった、入居者やスタッフの両者に真剣に向き合い合うこの会社ならではのエピソードが山のように出てきました。そんなことを交換している中で、あるマネジャーが改めてこんなことをおっしゃられました。
「我々の仕事は効率よりも目の前の一人ひとりのご入居者、ご家族、施設に係わる全ての人に対して親切、丁寧に接しなければいけないと改めて思いました。何よりも大事にしなければいけない事は“居心地の良さを提供すること”との答えにたどり着きました。明日から、我々に出来る最高の居心地を全スタッフ一丸となって提供していきたいと思います」と決意をもって職場に戻っていきました。
必要とされるのは“マネジメント基準”~その会社が何を大事にしてきたか
大きな環境変化の時代だからこそ、適応しなければ生き残れません。一瞬の遅れ・気の緩みで時代に取り残されてしまうこともあるでしょう。一方で過剰適応してしまい、会社の良さを失くし、マネジャー・組織が疲弊してしまっては元も子もありません。
先程のエピソードでは、他社の成功事例を取り入れるということを強調しすぎたために、本来その会社が持っていた価値やそれを産み出した働きざま~“入居者やスタッフに最高の居心地を提供する”ということを見失っていました。
こうしてみると、大きな変化に揺れずに進める人・組織と、そうではない人・組織の違いの一つの要因として、「自分(たち)のマネジメント基準~価値基準を自覚しているか」にあると言えそうです。そして、それを考えるヒントは、“その会社が過去から何を大事にしてきたのか”、ここをひもとくところにあります。
変化の激しい今だからこそ、環境変化にどのように適応するのかということを考える前に、一度立ち止まって、自社らしさ・自社らしいマネジメントについて考えてみませんか?
そこで、次回以降で自社らしいマネジメントとは何か、それを明らかにすると何をどう考えることなのか、“その会社の過去≒社史”と自社らしいマネジメントというのがどういう関係にあるのかを考えていきたいと思います。
>>>第2回 自社らしいマネジメントとは?
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