人事データ活用の実践

第6回 適合の観点でデータを活用して個人の活躍を支える

人事異動や配置転換を考える際に、本人が持つ資質やスキルの高低以外にも「スキルは高いのにこの職場ではなぜかうまくいかない」「Aの仕事は得意だがBの仕事は不得意」といった情報に悩む場面は誰しも経験があるのではないでしょうか。
適材適所・適所適材をどう実現するかというテーマは、人材の流動性が加速していく現代の環境下では、さらに重要な観点となっていくでしょう。第6回は、その問いに対して人事担当の勘や感性だけで応えようとするのではなく、データを用いてどのようにアプローチしていけば良いのか、その考え方をご紹介します。

参考:
第1回 自社でもできる、人事データ活用
第2回 人事データ活用の概要を把握する
第3回 組織サーベイを活用して組織の機能を高める
第4回 昇進・昇格選考を通じてより多くの活躍できる人を輩出する
第5回 データを活用して採用のPDCAを回す

目次

  1. 適合の観点
  2. 職務/仕事との適合を確認する方法
  3. 上司や同僚との適合(相性)を確認する方法
  4. 編集部より書籍紹介

適合の観点

活躍に影響を与える「適している」「合っている」という観点については、大きく3つの視点で分類することができます。
(1)適合の対象
(2)適合の仕方
(3)適合する特徴

特に(1)の対象を見極めることが、「個人がなぜかうまくいっていない」という状態を紐解いていくきっかけになると思いますので詳しく見ていきましょう。

学術的なフレームワークとしては個人-環境適合(Person-Environment Fit; 「P-E Fit」)という概念があり、代表的なものとして5つが挙げられます。

  • 組織との適合:Person-Organization Fit
  • 職業/職種との適合:Person-Vocation Fit
  • 職務/仕事との適合:Person-Job Fit
  • 上司との適合:Person-Supervisor Fit
  • 職場同僚との適合:Person-Group Fit

例えば組織との適合では、企業風土との相性観点から「自社のカルチャーに向いているから採用しよう」といった表現で語られることがあるのではないでしょうか。また、上司との適合に関しても、「昔の上司とはそりが合わなかったが、今の上司とはウマが合う」などはよくある話です。

上記を踏まえて、適合を整理する枠組みを図表化したものが次になります。

【図表1:適合を整理する枠組み​】

出所:『人事データ活用の実践ハンドブック』(中央経済社,2021年)p85を元に著者が一部編集

(2)適合の仕方 (3)適合する特徴に関しては、複合的に絡み合って影響するものです。適合対象との関係性や取得できるデータの実態を踏まえ、自社でどのように検証方法をアレンジできるかぜひご検討ください。
例えば、上司や同僚との適合を考える際、同じような知識・スキルレベルを有している(類似度が高い)ほうが仕事の進め方やコミュニケーションがスムーズに進む、というケースもあれば、異なった領域知識やレベルのばらつきがある(補いあっている)ほうがメンバー間の創意工夫が進む、というケースも考えられます。また、知識・スキルレベルという特徴を起点にしつつ、性格や価値観といった特徴を追加して検証していくことで、関係性を把握する精度が高まっていくでしょう。

次からは、「職務/仕事との適合」「上司や同僚との適合」の2つに焦点を絞り、適合をデータによって確認する具体例を見ていきましょう。

職務/仕事との適合を確認する方法

職務との適合度を確認する方法としては、図表1内「適合を表す状態」にある指標例をもとに、活躍度と個人の人物特徴の関係を確認することが挙げられます。ただし、適合を表す状態を表す指標(結果指標)は、人事考課や業績評価だけではなく、360度評価や昇進・昇格スピード、また自己認知をもとにした満足度評価やワーク・エンゲージメントなど、目的やデータ取得可否によって使い分けることが重要です。

また、結果指標に加えて「個人の人物特徴」「職務情報」を合わせて確認し分析する必要がありますので、図表2にそれぞれのデータ例を記載しました。自社の状況を踏まえて参考にしていただければ幸いです。

【図表2:職務適合を確認する枠組みとデータ例​】

今回は、人事考課をもとに「活躍群」と「活躍群以外」に分類し、2群の性格特性を比較する際の分析例をお伝えします。

性格特性をデータとして扱うためのツールとして様々な適性検査がありますが、ここでは最も一般的な枠組みである5大性格特性(ビッグ5)を使いました。そのアウトプットが図表3です。

【図表3:活躍群と活躍群以外の5大性格特性の比較】

出所:『人事データ活用の実践ハンドブック』(中央経済社,2021年)p87から抜粋

上記の例からは、「外向性」「誠実性」「経験への開放性」が活躍群の方が高い傾向がある、ということが読み取れます。さらに、営業職やスタッフ職など職種ごとに、図表3のような比較を行えば職務と個人との適合に影響を与える要素が抽出でき、異動配置の検討材料として活用することが可能になります。

分析手法としては、図表3のような平均値差比較だけではなく、統計的な検定や相関係数、回帰分析などでさらに精緻に確認することも可能です。これらの方法の詳細は『人事のためのデータサイエンスーゼロからの統計解析入門』(中央経済社, 2018年)をご参考ください。

上司や同僚との適合(相性)を確認する方法

人と人との相性を確認する際には、図表1内の「適合の仕方」を勘案する必要があります。
一つは、「ある観点について類似度が高いほど、相性が良い」とする考え方です。これは、「性格が似ている」「価値観が似ている」などと日常でも表現され、似ていることで協働やコミュニケーションが円滑に進めやすい、という暗黙の前提を置いている場合です。分析や解釈も容易に行うことができるでしょう。一方で、異なることでお互いの過不足を補い合い、「違いがあるからこそ刺激があって楽しい」「この人と話していると新しいアイデアが生まれやすい」といった場面もあるのではないでしょうか。特に、正解のない環境下で共創が求められる場面ではそういった多様性を含んだ相性を定義していくことが、今後さらに必要になってくるかもしれません。

後者の場合を探索的に確認する一例として、図表4をご覧ください。上司とメンバーをそれぞれ任意のデータ(例えば価値観)からタイプ分けを行い、各タイプの組み合わせ毎にメンバーから上司への満足度の平均値を記載したものです。これによって、例えば最も満足度が高いセルの組みあわせが「相性が良い」と定義することが可能になります。

【図表4:上司とメンバーの組み合わせによる相性分析例】

出所:『人事データ活用の実践ハンドブック』(中央経済社,2021年)p95から抜粋

さらに深掘りをする際は、縦横軸のタイプ分類を価値観以外のデータから行う、またはセル内の得点を上司からメンバーへの評価で試してみるなど、多角的に分析を行うことで画一的な相性定義になるリスクを低減することが可能になりますので、ご自身や自社での仮説などをもとにぜひ色々試してみてください。

以上、今回は個人の活躍を支える適合というテーマでの人事データ活用として、枠組みや具体例をお伝えしました。今まで全6回の連載を行ってきましたが、今回が最後の連載となります。ご覧いただきありがとうございました。これまでの連載が少しでも自社の人事データ活用のスタートを後押しするきっかけとなっていれば幸いです。【連載おわり】

人事データ活用の実践【全6回】
第1回 自社でもできる、人事データ活用
第2回 人事データ活用の概要を把握する
第3回 組織サーベイを活用して組織の機能を高める
第4回 昇進・昇格選考を通じてより多くの活躍できる人を輩出する
第5回 データを活用して採用のPDCAを回す
第6回 適合の観点でデータを活用して個人の活躍を支える

編集部より書籍紹介

人事評価、業績、勤怠、適性検査、組織サーベイ、360°サーベイ、研修アンケート…
人事データを活用する考え方と実践方法を事例と合わせて初歩から解説

近年、ビジネスの世界では、テクノロジーやデータを活用することで、組織やビジネスのあり方を変容させるデジタル・トランスフォーメーション(DX)が注目を集めています。それは人事の世界でも同様で、HRテクノロジーやHRアナリティクスへの関心が高まっており、人事データ活用は以前と比べると確実に進みつつあります。

一方で、人事データを蓄積しはじめたものの十分に活用できない、またいくつかの分析を試みたものの、その結果がうまく活用できないというお悩みを耳にすることも少なくありません。

そこで、人事の実務の中で、「どのような課題を解決するために、どのようにデータを活用できるか。また何に留意すべきか」、その考え方や実践方法について解説する本書を執筆しました。リクルートマネジメントソリューションズは、適性検査「SPI3」や組織サーベイ、人事制度コンサルティングなどのサービスを企業に提供しており、60年近く企業のデータ活用を支援してきました。そのノウハウの一部を企業事例と合わせてご紹介します。

本書は、これから人事データ活用をスタートしようとされている方、また一度スタートしたもののなかなかうまく進めることができないと悩んでいる方におすすめできる一冊です。

【出版概要】
書名 :人事データ活用の実践ハンドブック
編著者:入江 崇介
ページ数:140ページ(A5判)
発売日:2021年4月26日
ISBN:978-4-502-38261-1
定価:2,420円(税込)
中央経済社:https://www.biz-book.jp/isbn/978-4-502-38261-1
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4502382612/ref=sr_1__mk_ja_JP

【目次】
第1章 人事データ活用の概要を把握する
第2章 データを活用して採用のPDCAを回す
第3章 データを活用して研修効果を高める
第4章 昇進・昇格選考を通じてより多くの活躍できる人を輩出する
第5章 適合の観点でデータを活用して個人の活躍を支える
第6章 組織サーベイを活用して組織の機能を高める
第7章 人事データ活用における留意点

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