人事データ活用の実践

第5回 データを活用して採用のPDCAを回す

近年、企業の採用活動を取り巻く環境は大きく変わりつつあります。就職・採用活動日程に関する考え方・学生の就業観・選考手法など複数の変動要素が絡み合いながら今後も変化していくと思われますが、自社が求める人材確保に向けた採用戦略は常に重要課題です。
また、2022年問題(22歳人口の大幅減少)・2025年問題(超高齢化社会への突入)に代表されるような、社会・人口構造の変化からくる人材不足も踏まえて採用が担う役割はますます重要になっていくでしょう。

そこで今回は、外部環境の変化に常に適応していくための、採用の基本的なPDCAサイクルに焦点を当てた人事データ活用のポイントをご紹介します。

参考:
第1回 自社でもできる、人事データ活用
第2回「人事データ活用の概要を把握する」
第3回「組織サーベイを活用して組織の機能を高める」
第4回「昇進・昇格選考を通じてより多くの活躍できる人を輩出する」

目次

  1. 採用における人事データ活用
  2. 量的な観点でのプランニングと振り返り
  3. 質的な観点でのプランニングと振り返り
  4. 編集部より書籍紹介

採用における人事データ活用

採用活動においてデータという定量的な指標を活用することのメリットは、「自社が欲しい人材」を効果的・効率的に採用するための必要な施策を、事実をもとに計画し振り返ることができることと考えられます。

【図表1:採用のPDCAサイクル​】

出所:『人事データ活用の実践ハンドブック』(中央経済社,2021年)p25

また、副次的な効果として、採用に関わる人事以外の関係者(経営層、現場面接者など)に対する説明力が向上することもメリットとして挙げられます。
活用しうるデータの一例として、採用プロセスにおいて取得される代表的なものを提示します。

【図表2:採用プロセスと取得データ例​】

出所:『人事データ活用の実践ハンドブック』(中央経済社,2021年)p26

採用管理システムや適性検査などを導入していれば、上記以外のデータも蓄積されていると思いますが、ここで注意しておきたい点は以下の2点です。

CHECK! データ取得時に利用目的を明示し同意を得ていること
     (利用者が意図する・しないに関わらず、一方的な不利益や差別を生まないため)
CHECK! 最初から全てのデータを扱おうとするのではなく、継続的に扱える基本的なデータから着手すること
     (採用年度によって取得できないデータだった場合、継続的にPDCAを回せないため)

では、採用のPDCAサイクルに焦点を当てながらデータ活用の具体例を、量・質の両方の観点から見ていきましょう。

量的な観点でのプランニングと振り返り

量的な観点の振り返りにおいて、もっとも基本的な方法は、「採用プロセスにおける人数の計画値と実績値を可視化し、その差分を明らかにすること」です。特にプロセスごとの人数遷移率(次のプロセスに進んだ割合)に着目することで、計画に照らした課題を発見することができる可能性があります。下記に、採用プロセスごとの振り返り例を提示します。

【図表3:各選考プロセスにおける計画値と実績値の比較例】

出所:『人事データ活用の実践ハンドブック』(中央経済社,2021年)p29から抜粋

上記例から黄色マーカーの部分においての課題仮説例は、次のような内容が考えられます。

  1. プレエントリーには多く呼び込めたが、説明会参加への割合が計画値より低く、説明会への広報・接続がうまくいっていない可能性がないか
  2. 1次、2次面接ともに合格している割合が計画値より高くなっているため、面接者の見極めが甘くなっていないか。また採用基準を満たしているか質観点から振り返り(後述)が必要ではないか
  3. 内定承諾の割合が計画値より低くなっており、最終面接に合格した「自社が欲しい人材」への動機づけがうまくできていない可能性がないか

さらに、図表3のような全体傾向だけではなく、内定承諾者と辞退者に分けて集計し比較するなど、集計分析の切り口を細分化することで、新たな課題を発見することもできます。

質的な観点でのプランニングと振り返り

質的な観点は、「今年の内定者は良い?」「結局今年の採用活動はうまくいったの?」といった問いに対し、「面接で会った雰囲気が良かったです」といった感覚的な回答をしがちなだけに、データを活用して科学的な視点を取り入れる可能性が大いにある観点といえるでしょう。「人材の質」をプランニングして定義する方法はいくつかありますが、今回は適性検査を活用したアプローチによって、「採用要件を明確にする方法」をご紹介します。

上記の文脈でよく行われるのが、入社後のパフォーマンスや評価情報をもとに、ハイパフォーマーの人物特徴を明らかにし、採用要件として設定するという手法です。特徴を抽出する分析手法は相関分析や回帰分析、t検定による差の比較等いくつかありますので、詳細は『人事のためのデータサイエンス』(中央経済社, 2018年)をご参照ください。

以下は業績上位・下位それぞれ25%を抽出した2群の平均値差の比較を行ったイメージ図です。

【図表4:業績上位下位2群の平均値差の比較】

※リクルートマネジメントソリューションズが提供するSPI3の職務適応性を使用
出所:『人事データ活用の実践ハンドブック』(中央経済社,2021年)p39から抜粋

上記分析から明らかになった特徴をもとに図表5のようなウエトを適性検査尺度に対して設定し、出力した得点を採用要件の指標として活用することで、採用年度ごとの応募者や内定承諾者の質を可視化し振り返りを行うことができるようになります。

【図表5:適性検査データを活用した指標設定例】

出所:『人事データ活用の実践ハンドブック』(中央経済社,2021年)p44から抜粋

また、要件を複数持っておくことで、以下のような可視化・モニタリング方法も可能になります。2軸のマトリクス内でセグメントを定義し、「今年の内定者は行動適性が高いセグメントの割合が、昨年より〇%上がった」というように、ポートフォリオの組み合わせや配分をプランニングしていくことにもつながっていくのではないでしょうか。

【図表6:2軸の指標マッピングによる可視化】

以上、今回は採用の振り返りやプランニングにおける人事データ活用として、量・質の両面で行うヒントを具体例とともにお伝えしました。第6回は、適合の観点を踏まえた個人の活躍を支えるデータ活用について紹介を予定しています。

編集部より書籍紹介

人事評価、業績、勤怠、適性検査、組織サーベイ、360°サーベイ、研修アンケート…
人事データを活用する考え方と実践方法を事例と合わせて初歩から解説

近年、ビジネスの世界では、テクノロジーやデータを活用することで、組織やビジネスのあり方を変容させるデジタル・トランスフォーメーション(DX)が注目を集めています。それは人事の世界でも同様で、HRテクノロジーやHRアナリティクスへの関心が高まっており、人事データ活用は以前と比べると確実に進みつつあります。

一方で、人事データを蓄積しはじめたものの十分に活用できない、またいくつかの分析を試みたものの、その結果がうまく活用できないというお悩みを耳にすることも少なくありません。

そこで、人事の実務の中で、「どのような課題を解決するために、どのようにデータを活用できるか。また何に留意すべきか」、その考え方や実践方法について解説する本書を執筆しました。リクルートマネジメントソリューションズは、適性検査「SPI3」や組織サーベイ、人事制度コンサルティングなどのサービスを企業に提供しており、60年近く企業のデータ活用を支援してきました。そのノウハウの一部を企業事例と合わせてご紹介します。

本書は、これから人事データ活用をスタートしようとされている方、また一度スタートしたもののなかなかうまく進めることができないと悩んでいる方におすすめできる一冊です。

【出版概要】
書名 :人事データ活用の実践ハンドブック
編著者:入江 崇介
ページ数:140ページ(A5判)
発売日:2021年4月26日
ISBN:978-4-502-38261-1
定価:2,420円(税込)
中央経済社:https://www.biz-book.jp/isbn/978-4-502-38261-1
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4502382612/ref=sr_1__mk_ja_JP

【目次】
第1章 人事データ活用の概要を把握する
第2章 データを活用して採用のPDCAを回す
第3章 データを活用して研修効果を高める
第4章 昇進・昇格選考を通じてより多くの活躍できる人を輩出する
第5章 適合の観点でデータを活用して個人の活躍を支える
第6章 組織サーベイを活用して組織の機能を高める
第7章 人事データ活用における留意点

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