人事データ活用の実践

第4回 昇進・昇格選考を通じてより多くの活躍できる人を輩出する

「名選手、名監督にあらず」という言葉に象徴されるように、メンバーとして活躍している人が、管理職として活躍できるとは限りません。そのため、管理職として活躍する可能性が高い人材を発掘すべく、人事の皆さんも昇進・昇格選考に工夫を凝らしているかと思います。そこで今回は、人材要件の明確化と選考方法の検証に焦点を当て、昇進・昇格における人事データ活用のポイントをご紹介します。

参考:
第1回 自社でもできる、人事データ活用
第2回「人事データ活用の概要を把握する」
第3回「組織サーベイを活用して組織の機能を高める」

目次

  1. 昇進・昇格選考における、よくある問題
  2. 人材要件明確化の2つのアプローチ
  3. 選考方法の検証方法
  4. 人材要件の明確化は、昇進・昇格選考だけでなく、人材育成にも使える
  5. 編集部より書籍紹介

昇進・昇格選考における、よくある問題

リクルートマネジメントソリューションズが企業の人材開発支援や組織開発支援を行う際、昇進・昇格選考について、よくいただくご相談に、以下の3つがあります。

  1. 昇進・昇格選考への納得感が低く不満が出ており、客観性を高めたい
  2. 昇進・昇格選考をしているものの、昇進・昇格後に気になる問題が起きており、より活躍する人を選べるように見直したい
  3. 長年同じ昇進・昇格選考のやり方を踏襲しているため、時代にそぐわないところが出ていないか、検証したい

これらに共通する問題の一つは、人材要件が不明確であったり、現状にそぐわなかったりするということです。たとえば、人材要件が明確でなければ、「なんで、あの人が評価されて、自分は評価されないのか」という疑問や不満を持たれてしまいます。
また、ビジネス環境や従業員の特性が変わっているなか、以前の成功パターンが通じないことも出てきているため、今までとは異なった能力や行動特性を持った人でなければ、これからの環境下では管理職として高いパフォーマンスをあげられないかもしれません。

共通するもう一つの問題は、選考方法が適切でなかったり、現状にそぐわなかったりするということです。選考方法に納得感がなければ、やはり、「なんで、あの人が選ばれて、自分は選ばれないのか」という疑問や不満を持たれてしまいます。また、人材要件が変わってきているのであれば、それに応じて選考方法も見直さなければ、見極めるべき観点の確認ができない可能性もあります。

人材要件明確化の2つのアプローチ

では、まずは人材要件明確化のための方法について紹介します。人材要件明確化には、図表1のように、大きく分けて演繹的アプローチと帰納的アプローチの2つがあります。

【図表1:人材要件明確化の2つのアプローチ​】

出所:『人事データ活用の実践ハンドブック』(中央経済社,2021年)p70

演繹的アプローチは、事業戦略や会社として大切にしたいことを明らかにし、それに基づいて管理職に求める役割や行動などを言語化していくアプローチです。
一方、帰納的アプローチは、管理職として活躍している人の特徴を抽出するアプローチです。もし、360度サーベイや適性検査、またアセスメント・センターなどのデータがあれば、図表2のように活躍できている管理職とそうでない管理職の比較することにより、活躍できている人の特徴を抽出することができます。

【図表2:活躍者の特徴抽出(例)】

図表2の例であれば、意思決定力や統率力など「活躍できている」と「活躍できていない」との差分が大きな能力は活躍者ならではの特徴であり、発想力や動機づけ力など差分が小さな能力は活躍者ならではの特徴ではないと考えられます。この結果をもとに、管理者の選考においては、意思決定力や統率力などを特に注視する能力とすることなどができます

ただし、帰納的アプローチには留意すべき点があります。このようなデータを用いた方法で分かることは、「過去から現在にかけて活躍している人材の特徴」であるため、必ずしも「今後も活躍する人材の特徴」とは言い切れないことです。よって、特に環境変化などが大きい場合は、帰納的アプローチと演繹的アプローチを組み合わせることが有効です。

選考方法の検証方法

過去から行ってきた選考方法が機能しているのか、また、新しく導入した選考方法が機能しているのか、いずれも検証を行うに越したことはありません。
選考方法の検証観点の一つは、「選考時の評価が高かった人は、管理職になってからより活躍度が高いのか」のような選考方法の妥当性です。選考方法の妥当性については、図表2同様に、管理職として活躍できている人と、活躍できていない人について、選考時の評価に差があったのか検証することで確認ができます。「管理職として活躍している人の方が面接評定の結果は高いが、論文審査の結果には差が見られなかった」ということがあれば、論文審査を行うことをやめる、あるいは内容を見直すなどのアクションを取ることができます。
もう一つの検証観点は、選考時の評価にメリハリがついているかなど、選考方法の精度や信頼性です。例えば次のようなデータを使った検証方法があります。

【図表3:選考方法の精度や信頼性の検証(例)】

出所:『人事データ活用の実践ハンドブック』(中央経済社,2021年)p72より一部抜粋

図表3では、昇進・昇格選考の合格者と不合格者について、論文審査と面接評定の結果を比較しています。論文審査については、合格者と不合格者の平均の差が小さくなっています。すなわち、合否にかかわるような個人の特徴が表れていない、あるいは評価されていない可能性があります。論文審査の内容については、見直しが必要かもしれません。

続いて、面接評定についてみてみると、合格者と不合格者の平均の差は大きく、合否にかかわるような個人の特徴をしっかり捉えることができていると考えられます。しかし、評価者別の傾向を見ると、Aさんによる評価点はやや低く、Aさんの評価が辛めである可能性が示唆されます。もちろん、実際にAさんが評価した相手が面接では高く評価されない人が多かった可能性もあるので、精査は必要ですが、Aさんの評価が辛めということであれば、Aさんに対して改めて面接の評価基準の説明を行うことなどで、より評価の精度や信頼性を高めることができます。

このような検証を続け、昇進・昇格選考の施策を見直していくことで、管理職として活躍する人材を選考できる確率が高まるとともに、選考に対する納得感や信頼感も高めていくことができます。

人材要件の明確化は、昇進・昇格選考だけでなく、人材育成にも使える

管理職の活躍を促すためには、昇進・昇格選考はもちろん、人材育成も欠かすことはできません。人材要件の明確化は、優れた管理職としての特徴を抽出することにつながるため、管理職が身に付けるべき能力や行動を具体化することにもつながるので、人材育成の場面で行うことも有効です。
たとえば、富士通株式会社では、業績を上げることと職場マネジメントを効果的に行うことを両立している管理職の特徴を抽出し、その結果をもとに管理職育成に取り組んでいます。取り組みの詳細は、こちらの小社ホームページで公開されていますので、関心があれば合わせてご覧ください。

以上、今回は昇進・昇格選考の効果を高めるための人材要件の明確化と選考方法の検証方法、そこから派生して人材育成における人事データ活用のヒントをお伝えしました。第5回は、採用場面における人事データ活用について紹介します。

>>>第5回 データを活用して採用のPDCAを回す

編集部より書籍紹介

人事評価、業績、勤怠、適性検査、組織サーベイ、360°サーベイ、研修アンケート…
人事データを活用する考え方と実践方法を事例と合わせて初歩から解説

近年、ビジネスの世界では、テクノロジーやデータを活用することで、組織やビジネスのあり方を変容させるデジタル・トランスフォーメーション(DX)が注目を集めています。それは人事の世界でも同様で、HRテクノロジーやHRアナリティクスへの関心が高まっており、人事データ活用は以前と比べると確実に進みつつあります。

一方で、人事データを蓄積しはじめたものの十分に活用できない、またいくつかの分析を試みたものの、その結果がうまく活用できないというお悩みを耳にすることも少なくありません。

そこで、人事の実務の中で、「どのような課題を解決するために、どのようにデータを活用できるか。また何に留意すべきか」、その考え方や実践方法について解説する本書を執筆しました。リクルートマネジメントソリューションズは、適性検査「SPI3」や組織サーベイ、人事制度コンサルティングなどのサービスを企業に提供しており、60年近く企業のデータ活用を支援してきました。そのノウハウの一部を企業事例と合わせてご紹介します。

本書は、これから人事データ活用をスタートしようとされている方、また一度スタートしたもののなかなかうまく進めることができないと悩んでいる方におすすめできる一冊です。

【出版概要】
書名 :人事データ活用の実践ハンドブック
編著者:入江 崇介
ページ数:140ページ(A5判)
発売日:2021年4月26日
ISBN:978-4-502-38261-1
定価:2,420円(税込)
中央経済社:https://www.biz-book.jp/isbn/978-4-502-38261-1
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4502382612/ref=sr_1__mk_ja_JP

【目次】
第1章 人事データ活用の概要を把握する
第2章 データを活用して採用のPDCAを回す
第3章 データを活用して研修効果を高める
第4章 昇進・昇格選考を通じてより多くの活躍できる人を輩出する
第5章 適合の観点でデータを活用して個人の活躍を支える
第6章 組織サーベイを活用して組織の機能を高める
第7章 人事データ活用における留意点

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