新たな時代を乗り切るための情報・スキルを陳腐化させないリスキリング
英語圏では2020年頃から、日本でも2021年2月頃より「リスキリング(Reskilling)」という言葉が話題となっており、すでに取り組みを始めた企業も少なからずあるようです。しかしこのリスキリングについて、きちんと理解している人はどれくらいいるでしょうか。
なぜリスキリングが今、注目されているのか。そして企業および個人でリスキリングに取り組むためには何から始めれば良いのか、について紹介します。
目次
リスキリングとは何か?
まず、リスキリングとは何かということですが、
「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」
(出典:リクルートワークス研究所「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」)
を意味します。
つまり、単純に現在仕事で使っているスキルを学び直すというものではなく、今後仕事を進めていく上で価値を創出するために必要となるであろう新たなスキルを学ぶことが目的とされています。
近年ではAIやRPAがより身近になったことでデジタル化・自動化が進み、これまで人の手で行われていた作業が代替されるようになってきていること、またデジタル化により必要となったスキルを持っている人材が不足しているという事情から、DX対応のための人事戦略としてリスキリングは注目されており、企業としても個人としても、2022年に取り組むべきテーマとなっています。
リスキリングに対するビジネスパーソンの関心
転職サイト「ビズリーチ」が2021年11月に行った「リスキリング」に関するアンケート調査(*1)で、将来的に新たなスキルを身に付ける必要があると感じるかという質問に対するビジネスパーソンの回答は、「とてもそう思う」(47.5%)、「どちらかといえばそう思う」(45.6%)を合わせると93.1%となり、将来的に新たなスキルを身に付ける必要性を感じている人が多いことがわかりました【下図】。
年代別で見た場合、リスキリングの必要性を最も強く感じているのは30代で、その割合はなんと99.6%。業務経験を積み、知識を蓄え、先を見る余裕が出てきたことでリスキリングの必要性を感じている人が多いようです。
将来的に新たなスキルを身に付ける必要が「あると思う」理由で最も多かったのは「仕事の幅を広げるために、継続的にスキルアップしたいから」(69.3%)で、「自身の希少性を向上させ、市場価値を上げたいから」(53.7%)、「中長期的にキャリアを考えると、現状のスキルだけだと不安を感じるから」(39.3%)と続いています。【下図】
これらの回答から、回答者たちは世の中の変化を敏感に捉えており、それゆえに危機感を覚えているらしい様子が垣間見えます。
続いての「現在リスキリングに取り組んでいますか」という質問へは、54.8%が「取り組んでいる」と回答しました。「取り組んでいる」の内訳は、「勤め先を通じて取り組んでいる」が9.4%、「勤め先でも個人でも取り組んでいる」が5.2%で、14.6%は仕事を通じて取り組んでいるようです。
そして、「個人で取り組んでいる」の回答は40.3%に上り、仕事を通じて取り組んでいるという回答の約3倍ということから、個人で主体的にリスキリングに取り組んでいるビジネスパーソンが多いことが発覚しました【下図】。
アンケート対象がビズリーチ会員、すなわちハイキャリア層が多いという特性からも、回答者たちの意識の高さがうかがえます。
そもそも「学び」は人から言われて取り組むのではなく、「自らの意志で学ぶ」という姿勢で取り組む方が、意欲も効果もはるかに高いものです。これは、たとえば資格取得のためにスクールに通う際、多額の受講料を自ら支払っている人と、会社から受講料を支給されて受けている人では授業に対する姿勢や資格取得後の事後学習への参加頻度に大きな差が出てくるのに近いものがあるのではないでしょうか。
(*1) 参考および図の出典:ビズリーチ「【リスキリングに関する調査レポート】即戦力人材の約5割が、既にリスキリングを実施 企業の9割以上が「年齢にかかわらず市場価値の向上につながる」と回答
リスキリングに関する日本企業の動向
日本では2021年から一気に「リスキリング」の観点が広まりましたが、この背景には企業寿命と職業寿命との関わりがあると思われます。
あらゆる分野でデジタル化が進み、情報やスキルがどんどん陳腐化していき、大企業でも倒産したり、終身雇用が崩壊したりと【入社したら一生安泰】ということはあり得ない時代になりました。こういった情勢はコロナにより更に加速化したとも言えます。しかし一方で、寿命がどんどん伸びていることから人生100年時代、超高齢化社会もすぐそこまで迫っており、リクルートワークス研究所も、この点には注目*2しています。
(*2)リクルートワークス研究所「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」)
それゆえに、「この会社の将来性は大丈夫なのか」「自分のスキルは世の中で通用するのか」といった会社・自身のスキルの両方において不安になっていき、必然的に「学び直し」という考えが取り沙汰されているのでしょう。
早期から対応している大手企業の話題としては、日立製作所や富士通が有名でしょう。
日立製作所は、2020年9月より国内グループ企業の全社員約16万人を対象に、日立アカデミーにて「デジタルリテラシー エクササイズ」という4講座を提供開始しています。
富士通でも2020年7月末の2020年度経営方針説明会にて「ITカンパニーからDXカンパニーへ」の変革のために必要な投資を積極的に遂行する方針を提唱し、その中で「人材のリスキリング」を重要課題として宣言しました。
リスキリング(学び直し)が全国的に注目された2021年は、ヤフーが全社員8000人を対象に、業務でAIを使えるように社内教育を始めたというニュースが話題になりました。
また最近では、SHElikesも注目されています。女性を主なターゲットに、Webデザイン・Webマーケティング・ライティングなどクリエイティブスキルを幅広く学べるキャリアスクールコミュニティです。
ニットが提供しているオンラインアウトソーシングサービス「HELP YOU」でも、世界中、どこにいても、PC1つで働ける時代だからこそ、自由に生きるための「スキル」や「強さ」を手に入れて、一人ひとりが「自分らしい人生」を歩んでほしい、自由な選択肢を持てる強さを一緒に身に着けてほしいという思いから、「HELP YOU Academy」というサービスを新たに立ち上げました。
参考:「世界各国・日本全国で受講可能、オンラインキャリアスクール「HELP YOU Academy(ヘルプユー アカデミー)」リリース!PC1つで完全在宅で働ける、ビジネススキル基礎が一通り身に付きます」(PR TIMES)
企業によるリスキリング・個人でのリスキリング
企業として、また個人としてリスキリングが必要であることは理解していても、対象が大きすぎる、または考えが漠然としてしまって実際に何から手を付ければいいのかわからない、という方も少なくないのではないでしょうか。
ここでは企業および個人でリスキリングに取り組むための指標をお伝えします。
・企業によるリスキリング
企業が今後の発展に向けて行うべき人材戦略は、「高度人材の採用・育成」です。
業務のデジタル化といった事業戦略を立てつつ、いかにしてスキルを持った人材を採用するのかを考えましょう。しかし、一概に採用と言っても高度人材は引く手が数多なことから、相当な報酬が必要になりますし、ヘッドハンティングをするにしても他社ではなく自社を選んでもらえるだけの魅力がなければなりません。
また、人材育成においても、社内に教えられる人がいなければ外部の研修を受けることになるでしょう。
このように人材の教育や人材獲得には投資が必要となりますが、その結果はいずれ事業成長への重要な取り組みとなることは間違いありません。
・個人でのリスキリング
現在の業務を遂行する中で高いパフォーマンスを発揮することはもちろん重要ですが、企業が未来永劫存在する保証がないことから、一人ひとりが雇用されていることに慢心せず、個人で稼げるスキルを身に付けていかなければなりません。
個人で稼ぐには、どのようなスキルが必要なのか、その学びの内容を整理するためにも、次の4つのステップを試してみてください。
- 社会で通用するポータブルスキル(*3)を可視化する
- 在りたい自分の将来像を定める
- 身に付けたいスキルを習得する
- 「3」を発信して認知を拡大する
(*3)ポータブルスキルとは、会社、業種、職種を問わず活用することができる汎用スキルのことで、代表的なものに論理的思考力、プレゼンスキル、コミュニケーション能力、問題解決能力、交渉力などがあります。
今後は個人が企業に頼るという構図ではなく、企業と個人が選び合い健全なパートナーシップを組んでいくという形が増えていきます。そのような社会で生き抜くためにも、そしてその際に様々な交渉をより有利に進めるためにも、個人が様々なスキルを習得していくことが重要になるでしょう。
陳腐化する情報やスキルに固執せず、フレキシブルに対応していこう
「今まで、こうやってきたから」「過去に失敗したから」と、事業を変化・進化させる意思がなければ、会社のDX化やデジタル化には踏み切れません。それは個人においても同じことです。技術の急激な進化により、世の中そのものだけでなく、営業やマーケティングの在り方、働き方の概念、費用対効果の価値などが、恐ろしい速さで変化しています。
初めて訪れた土地で「この辺りで、何か食べよう」となった場合、30代が食べログで探そうとする中で20代はインスタでお店を探すというように、ツールの使い方や情報収取方法一つにしても変化は起きており、抗うことはできません。
「自分の時代はこうだった」という過去の成功法則や経験が無意味であるとは言いませんが、時代の変化を認めず、思考停止する事へは強い危機感を覚えます。
もちろん変化や進化には大きな負荷が掛かります。しかし、その負荷と向き合う覚悟を持てず、現状維持を良しとしていれば、世の中の大きな動きに取り残されてしまうでしょう。
一度、自分にとっての常識を疑った上で、変化に挑戦する覚悟を持ってみませんか。
情報やスキルをアップデートし続けることが、企業も個人も求められる時代なのです。人生100年時代を有意義に生きていくためにも、常にリスキリングを心掛けることで時代の流れにフレキシブルに対応していきたいですね。
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