リモートワークならではのトラブルも
職場のいじめ5つの事例と対策
【編集部紹介】厚生労働省がまとめた「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、令和2年度の相談件数は約129万件で、そのうち民事上の個別労働紛争のトップは9年連続で「いじめ・嫌がらせ」に関するものだ。
2021年4月からはパワハラ防止法の対応義務が中小企業も対象になる。人事・総務担当者が対策に注力するのはもちろん、すべてのビジネスパーソンが自身で身を守ることも、キャリアパスやウェルビーイングの観点で大事になる。
海外法人のデューデリジェンスや採用時のバックグラウンド調査を提供しているJapan PIの小山悟郎氏は、これまでの経験から取引リスクにつながる企業の組織課題や人材に関する問題を多く見てきた。今回は「職場のいじめ」についてビジネスパーソンができる対策をアドバイスする。
はじめに
「あなたが職場を選ぶ際に最も重要視することは何ですか?」という質問に対して挙げられる回答の中で、近年『仕事内容』と同じかそれ以上に多くあげられるのが『職場の人間関係』です。
いくら仕事内容に満足していても、日々密接に関わる人たちとうまく折り合いがつかなければ、それだけで作業効率が低下してしまいます。できるだけ日々の仕事をスムーズにこなしていくためにも、仕事内容以前に『人材そのもの』が非常に重要になってくることがわかります。
実際に職場でのいじめに悩んでいる方はもちろん、現代社会において円滑に仕事をしていく上で気を付けるべきポイントを、さまざまな事例とともに見ていきましょう。
目次
ケース1.いじめの代表格『パワハラ』事例
職場のいじめと聞いてまず思い浮かぶのがパワハラではないでしょうか。
実際に厚生労働省でも、2020年に代表的なパワハラ事例が明確に打ち出されました。
参考:https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000683138.pdf
- 身体的・精神的な「攻撃」
- 仲間はずれや無視などの「人間関係からの切り離し」
- 業務上明らかに不要なことの強制や妨害などの「過大な要求」
- 仕事を与えないなどの「過小な要求」
- プライベートなことへの過度な立ち入りである「個の侵害」
仕事上理不尽に感じることでも、まだ職場に慣れていない状況などでは我慢をしてしまいがちです。
そうなるとどんどん悪い状況がエスカレートしてくる可能性もあるので、毅然とした態度で「自分が今やるべき仕事に集中する」という姿勢が非常に大切になってきます。
その姿勢でいるためにも、『何がパワハラになるのか』を、厚生労働省のホームページなどできちんと把握しておくことが自分の身を守ることに繋がります。
「パワハラに該当するのかどうか」という部分が明白になることで、しっかりとその被害を主張することができるようになります。そのように明確に被害を把握して打ち出すことで、会社の第三者委員会などに直接相談したり、社内で抵抗があれば外部の公的な組織などに相談したりすることで、ただ曖昧に「いじめを受けている」という訴えではない「明らかな被害」として対応してもらうことが可能になってくるのです。
例えば「直接的な言葉や行動」などからくるいじめや「プライベートなどへの過度な干渉」など、明らかに業務に支障をきたすような目に見えやすいパワハラには、一貫して毅然とした態度で対応するようにするのが大切です。攻撃したときの相手の反応に対して、それがさらに攻撃の種になってしまう恐れがあるからです。
それでも攻撃してくる相手に対して、反応せず仕事に集中することに最初は心が折れかけてしまうかもしれません。ですが、ここでひたすらその姿勢を負けずに貫き通し続けることで「どう見ても言っている方がおかしい」という、会社全体の共通認識を作ることができるのです。そうなってくると、いたたまれなくなってくるのが攻撃している側なのです。
これこそがこの手の攻撃をかわすための一番効果がある対応なので、瞬発的な言葉やしつこい干渉などに負けずひたすら「ビジネスモード」を維持しましょう。
もちろん、精神的にそこまでもたないという場合は臆せず専門機関を頼るようにしてください。
また、「業務上無理な仕事を押し付けて」きたり、また逆に「極端に仕事を与えてもらえない」など、自身で対処できる範囲を超えているような問題の場合には、直接対峙せず初めから上記のような相談機関を通して解決するのがおすすめです。
元々交渉の余地のない相手に直接かけあっても好転はしないので、仕事自体に制限をかけて実質的に仕事にならなくなるようないじめの場合は、第三者を介入することでメスを入れることができます。
その際に、実際の仕事のデータであったりメールや電話の内容であったり、証拠となるものはできるだけ提示できるように揃えて準備をしておきましょう。突発的に訴えてしまうとなかなか証拠が出ないため訴えが無駄になってしまうことも。相談機関を通す場合は、あらかじめ日々粛々と証拠を集めるようにしておきましょう。解決に向けて動くときには、このような段取りも重要になってきます。
パワハラの定義自体時代に合わせて変容していくので、まずはしっかりと「どのようなことがパワハラに該当するのか」ということを常にアップデートして認識しておくことが非常に大切です。
ケース2.女性の社会進出によって増えた『女性同士のいじめ』
日本で「男女雇用機会均等法」が施行されてからの女性の社会進出は、年々増加の一途をたどっています。そんな中見えてきた問題も。
いじめそのものに男女差などはありませんが、化粧品販売など比較的女性が多いとされる職場では、どうしても女性同士の嫉妬や妬みなどが生まれやすく、実際に仲間はずれや無視といったいじめが起こりやすい環境であることが往々にしてあるようです。
今では結婚・出産を経ても働き続ける女性は多く、さらにその状況は広がってきています。
女性の社会進出自体はとても望ましいことである一方、「女性同士」という感情が先立ちやすい環境下でのトラブルも同時に増加しているという現実も。
「自分よりも仕事ができる」「化粧が気に入らない」「態度がムカつく」などなど、驚くような主観的理由で無視をしたり難癖をつけたりしてくるというケースも実際に起こっています。文字にすると非常に稚拙な行為であるとわかるのですが、実際に「感情」が渦巻く現場ではこれがリアルなのです。
このような場合に気を付けたいのは、同様にそれを周りに愚痴として話してしまうこと。理解してほしい、聞いてほしいという気持ちで軽い気持ちでもうっかりこぼしてしまうと、その発言に尾ひれがついてしまうことは容易に想像がつきます。
女性同士のトラブルなどの愚痴を職場内でこぼさないようにするだけで、無用なトラブル自体を回避することができます。「あの人はあまり噂に興味がない人」というポジションでいることが最強なのです。
会社という組織の中で仕事をスムーズにすすめていくためには、このように「個」を意識せずに「全体」を見るという視点を常に持つことが、狭い視野にならないためにも非常に大切です。
ケース3.いつの間にか退職へ…?いじめによる『実質的リストラ』
前述ケース1.のパワハラ事例のようないじめが原因となって、実質的なリストラにまで追い込まれたというケースもあります。
実際に「暴言」などの直接的な圧力や、「仕事を与えられない」というマイナスな圧力によって精神的に追い込まれて退職を余儀なくされてしまう人も。
今の日本の会社という組織の中では、なかなか「声を上げて訴える」という空気になりにくいという現状があります。頑張って訴えて残ったとしても、後々仕事がしづらくなってしまうのではないかという心理的な葛藤を抱えながら、最終的に自ら会社を辞めてしまうという選択をする人も多いのです。
それでも近年、厚生労働省が提示するように、そのようなパワハラに対して非常に風当たりが厳しくなってきているのも事実。腫れものには触らないような空気が、以前と比べるとだいぶ緩和され、このような問題に対して社会全体が声を上げて動くような空気に変わってきています。
もし相談できる人がいない場合は、パワハラ対策でも記載したように会社にある相談窓口だけではなく外部相談窓口なども使って、理不尽な要求や待遇に対して臆せず声を上げていきましょう。
ケース4.リモートが生んだ社員同士の『無関心』が生み出すトラブル
コロナ禍で、リモートワークが一気に広がったことによる弊害も出てきています。
直接対面でコミュニケーションをとる機会が失われたことによって、心理的に一緒に働く社員同士間で関心がなくなり、問題が起こったときの連携がスムーズに取りにくくなっているという実態が浮き彫りになっています。
リモート環境やAIなどさまざまなテクノロジーが発達した現代ではありますが、仕事は最終的に「人と人とのコミュニケーション」で成り立つ部分が多いという現実があるので、その狭間で意外なトラブルに発展するケースも。
リモートでのやりとりで上司にミスを全くフォローしてもらえなかったり、リモート会議自体に呼ばれなかったり、リモートワークならではの問題が実際に起こってきています。
リモート上では1対1でのやりとりになることも多く、フォローがなく困っている人がいたとしても周りが気づきにくいという閉鎖的な環境要因が絡んでいます。
Zoomなどでのリモートという特殊な環境下での全体発言は、その人の立場やその人自身の性格などによっては想像以上に心理的な負担が大きく、大きなストレス要因の一つになっています。
また、リモートではそのようなことを気軽に誰かに相談できる環境ではなく、一人で抱え込んでしまう人も少なくありません。
少しでもこのようなトラブルを避けるためには、より今まで以上に普段の「社員間でのコミュニケーション」を意識することが大切です。
相手の感情や表情が読み取りにくいリモートやメール・電話主体のやり取りの中では、日々培ってきた信頼関係が大きく活きてくるので、日常的に仕事上でのスキルや考え方などをお互いに共有して理解を深めておきましょう。
職場の人間関係におけるトラブルは、実は日々のコミュニケーションのパイプが通っていれば避けられるものも非常に多いのです。
ケース5.パワハラがリモートにも。『リモート監視』の実態
リモートという環境が作り出した新たな問題はほかにもあります。
上司にリモートで逐一監視をされてしまうというトラブルや、自宅でのリモートワークによって見え隠れする「生活水準」マウント、またそこから派生する私生活の噂話などなど…プライバシーの侵害ともいえる問題もはらんでいます。
対策として、リモート会議は公共のカフェやコワーキングスペースを利用したり、プライバシーを隠せる壁紙を使ったりと物理的に解決する方法がおすすめです。ちょっとしたことではありますが、それによって私生活の情報が守られていることで、心理的な安心感をもたらすのに非常に有効な手段になります。
プライベートと仕事の境界があいまいになりがちなリモートですが、自分の身を守るためにも、職場のリモート会議等ではあまり私生活が出ないように工夫しましょう。
知っておきたい『働く人を守る制度』と問い合わせ先
では、実際にパワハラやいじめの被害にあっている従業員は、具体的にどのように対処すればいいのかを見ていきましょう。
具体的な相談先やそれぞれの機関のメリットデメリットをしっかりと知っておくことが最短にして最大の解決となります。
まず相談できるところは
まず最初は上司に直談判したり、会社内部の相談担当者や法人内の労働組合への相談が大きな第一歩ではありますが、そうした解決が望めない場合、外部の相談機関へ相談していくことになります。
しかし、在籍中に外部の相談窓口を関与させると、職場に居づらくなる側面もありますよね。
ただ、あきらかに会社側に落ち度がある案件であれば、労働者は勇気を持って外部機関への相談を行うべきなのです。
「厚労省系の相談窓口外部の相談機関」としては、まず、労基署・労働局のあっせん等の厚労省傘下の相談窓口があります。
「労基署」は、労災申請や労基法違反事案の行政指導を行う機関で、「労働局」は、労使トラブルの解決のため、中立的な立場で和解へ向けての調整をおこなってくれる機関となっています。また、これらは利用の際に費用がかからないのもポイントです。
その他に、東京都・福岡県・兵庫県以外なら、「都道府県の労働委員会」のあっせんなどもあります。こちらの方が労働局のあっせんよりも、より厳格で踏み込んだ調整をしてもらえるようです。
東京都・福岡県・兵庫県の場合でも、外部ユニオンの団体交渉を経て、労働委員会のあっせんにつなげていくことも可能ですので該当される方はそのあたりも確認しておくようにすると安心です。
「法務省系の相談窓口」としては、人権110番への相談やかいけつサポートを利用したADR(裁判外紛争解決手続)での解決、そして法テラスを利用した弁護士利用等の方法などもあります。
人権違反の事案では、人権110番が行政指導を行います。かいけつサポートや法テラス利用は有料となっています。裁判まで行いたくない場合は、かいけつサポートのADRを利用するのが得策です。
その他、一般の弁護士も外部相談窓口として利用することができるのでそのあたりもチェックしてみましょう。代理交渉、労働審判、訴訟等を依頼することができます。もちろん、弁護士を雇わず、本人訴訟を提起することも可能です。
ユニオン(合同労組)への依頼と注意点
また、奥の手としては「ユニオン(合同労組)に団体交渉を依頼」したり、「ユニオン系弁護士に依頼」するという手があります。
ユニオンやユニオン系弁護士は、労働者の強力な味方となってくれます。企業は、団体交渉を拒否したり、不誠実な対応をすれば不当労働行為とみなされ、企業側は刑事罰を科されることになります。
そういう点でも、ユニオンやユニオン系弁護士は、不当労働行為が横行しているブラック企業を糾弾する切り札的な存在となっています。
ただし、一部のユニオンは、恐喝や威力業務妨害で逮捕者を出しているところもあります。無法な団体でないかよく見極める必要がありますのでどのような団体であるかを事前にしっかりと調べるようにしましょう。
また、ユニオンに団体交渉を依頼する場合、労働者がそのユニオンの会員になり、会費を納入する必要があります。ユニオンは、企業からの解決金取得により、活動経費をまかなっています。
具体的には、団体交渉だけなら支払われた解決金10%程度、ビラまき、デモ、街宣活動等の労働争議活動を含む場合は解決金の20から30%程度のカンパ金が求められます。
弁護士の中には、ユニオンの守護神的存在で、多数のユニオンの顧問弁護士を努めているユニオン系弁護士も。
ユニオン系弁護士が、ユニオンと連携して、団体交渉や訴訟提起してくることもあります。
彼らは、労働者側に立った行動原理で活動しています。その為、労働者側の言い分を拡大解釈して、過大な慰謝料、医療費、残業代、解雇撤回による長期間の休業保証金等の請求を行ってくることもあります。労働者側の代弁者でありますが、損害賠償金や解決金の取得を目標として活動しているため、過大要求も厭わない側面も。その点が、一般弁護士との違いです。
どこまで・どのように訴えたいのか、訴える側もそれぞれの機関の特徴・特性をよく理解して依頼することが大切です。
探偵業者という選択肢
また別の角度として、「探偵業者」などを使うのも一つの方法です。
探偵業者は、その名のとおり事実確認や証拠収集を得意としています。関係人物の身辺調査や、第三者機関としての内部事情聴取等のニーズがあれば、探偵業者が対応します。
パワハラをしている上司の素行調査や、過去に同様事例がなかったかについての証言収集等、人物調査を得意としています。交渉や訴訟で、事実確認の準備書面の作成や有利な心象を導き出す証拠収取にニーズが生じた場合は、探偵業者に相談するのがおすすめです。
【参考】問い合わせ先一覧
(内部相談)
上司に直談判、会社内の相談窓口や会社内の労働組合
(厚労省系)
労基署
・労災申請、違反がある場合の行政指導
・労働局のあっせん(総合労働相談コーナー)
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html
都道府県の労働委員会のあっせん(東京、兵庫、福岡を除く)
https://www.mhlw.go.jp/churoi/assen/index.html
個別労働紛争のあっせん
(法務省系)
法務省 みんなの人権110番
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken20.html
かいけつけサポート(ADR)
https://www.moj.go.jp/KANBOU/ADR/itiran/funsou022.html
社労士会、産業カウンセラー等中立な民間事業者によるADR(裁判外紛争解決手続)法テラス
https://www.houterasu.or.jp/madoguchi_info/call_center/index.html
低料金での弁護士依頼
一般弁護士
(ユニオン系)
・ユニオン系弁護士
労働者の駆け込み寺
・ユニオン(合同労組)
団体交渉、労働委員会のあっせん対応等、労働紛争解決の切り札
(事実確認)
・探偵業者
・身辺調査、経歴確認、法廷証拠
総合労働相談コーナーのご案内
総合労働相談コーナーでは、解雇、雇止め、賃金の引下げなどの労働条件や、募集・採用、いじめ・嫌がらせ、パワハラなど、労働問題に関するあらゆる分野の相談を、労働者、事業主どちらからでも無料で受けしております。
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html
個別労働関係紛争のあっせん|中央労働委員会|厚生労働省
中央労働委員会について紹介しています。
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労働関係紛争 |法律にかかわる様々なトラブルの相談・話し合いによる解決のサポートのかいけつサポート
法律に関係したトラブルの解決やご相談なら認証紛争解決サービス「かいけつサポート」トップページ。かいけつサポートは、法務大臣による裁判外紛争解決手続きの認証制度です。身の回りのことから専門的なことまで様々な法的トラブルの解決をサポートします。
https://www.moj.go.jp/KANBOU/ADR/itiran/funsou022.html
まとめ
働き方改革が叫ばれると同時にコロナが直面し、私たちの働く環境はこの数年で大きく変容してきています。それに伴い、いじめやトラブルもこのようにさまざまな問題をはらんでいるという実態が浮き彫りになってきました。
風通しの良い働きやすい環境に身を置くためには、職場環境任せにするのではなく、やはり職場にいる一人一人が『広い視野と正しい知識を持っておく』という意識が非常に大切です。
さまざまな相談先を知って、それらを正しく使っていくことで、能動的に自身を守っていくことができるのです。
この先リモートワークがどれだけ進んだとしても、最終的に仕事は「人と人とのやり取り」の上で成り立っているということを忘れず、その意識を共有できるようになれば、きっと『職場でのいじめは非生産的なものだ』という認識に会社全体が変わっていくことでしょう。
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Japan PI
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