人事データ活用の実践
第2回「人事データ活用の概要を把握する」
第2回は、人事データ活用のプロセスを中心とした概要をご紹介します。活用できるさまざまなデータと分析アプローチや、実際に人事データを活用する際の手順、さらにはデータ活用に苦手意識を持つ方におすすめの「小さなことからチャレンジ」を紹介します。自社で人事データ活用をスタートするイメージを持つヒントになれば幸いです。
目次
人事データ活用とは
人事データ活用とは図表1のように、「組織・人材に関するデータを用いて、質の高い意思決定やアクションを行う」一連の活動です。最近では、「HRアナリティクス」や「ピープルアナリティクス」といわれる取り組みです。
【図表1:人事データ活用のイメージ】
出所:2021年9月14日開催メディア向け共有会発表資料(筆者作)
デジタル化や自動化による人事業務の効率性向上、定量的・科学的な検証による人事業務の効果性向上、またパーソナライゼーションなど従業員の働きやすさや働きがいの向上につながる取り組みとして、近年急速に関心が高まっています。
一例ではありますが、国内であれば、ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会(https://peopleanalytics.or.jp/)やHRテクノロジーコンソーシアム(https://hr-technology.or.jp/)などで、企業の枠、また産学の枠をこえた学び合いが盛んに行われています。
活用できるさまざまなデータと分析アプローチ
人事データ、すなわち組織・人材に関わるデータは図表2の通り多種多様です。
【図表2:多種多様な人事データ】
出所:『人事データ活用の実践ハンドブック』(中央経済社,2021年)P10
これらのデータを用いて、集計やグラフ化を行う「記述的分析」、関係性や要因関係を明らかにする「診断的分析」、また可能性の予測やアクションの推奨を行う「予測的分析・処方的分析」を行うことで、図表3のようにさまざまな分析ができます。そして、分析からの示唆をもとに、質の高い意思決定やアクションを行うことができます。
【図表3:さまざまなタイプの人事データ活用】
出所:『人事データ活用の実践ハンドブック』(中央経済社,2021年)P12
なお、多くの場合、「予測的分析・処方的分析>診断的分析>記述的分析」の順に分析の難度は高くなります。しかし、「難度が高い分析をすることが、よいデータ活用」とは必ずしも言えません。
たとえば、エンゲージメントや満足度に関するサーベイ(調査)の結果を職場ごとに集計・可視化し、その結果をもとに職場内で対話を行い、職場改善につなげる取り組みは、「記述的分析」の一つですが、有効な施策です。
皆さんの会社の人事課題、また保有する人事データに合わせて、意義ある取り組みを設計していくことが大切です。
人事データ活用の手順
人事データ活用を行う手順は、骨子をまとめると図表4のようになります
【図表4:人事データ活用の手順】
出所:『ピープルアナリティクスの教科書―組織・人事データの実践的活用法―』(日本能率協会マネジメントセンター,2020年)P95
もちろん、それぞれのステップが重要なものであり、それぞれのステップならではの難しさがあります。このなかでも、人事担当の皆さんが重要な役割を果たすのは「①目的・計画の策定」、「③データの収集」、「⑦分析結果を元にした意思決定」、そして「⑧施策の展開」で、社内のデータ分析の専門家や外部のパートナーへの委託が難しい部分です。
特に、「①目的・計画の策定」は自社にとって重要な人事課題の解決の方向性を考えることであり、かつその後の手順を無駄にしないためのものなので、非常に大切なポイントとなります。図表5は、目的と計画の具体化の例です。
【図表5:目的と計画の具体化例】
出所『人事のためのデータサイエンス―ゼロからの統計解析入門―』(中央経済社,2018年)P44をもとに筆者が一部追加して作成
目的と計画を具体化していくと、時には「なんとなくできると思っていたけど、かなり手間がかかりそうだ」ということや、「この分析は、分析結果がでてもアクションにつなげることが難しい」ということが事前に分かることもあります。そうすれば、無駄になりかねない取り組みを事前にストップすることができます。
繰り返しになりますが、効果的な人事データ活用を行い、無駄な人事データ活用は行わないようにするためにも、目的と計画の具体化には特に力を入れて取り組んでいただければと思います。
眠っているデータに目を向ける
採用活動時に実施する適性検査、研修効果を確認するために行う受講後アンケート、組織状態を確認するために行う組織サーベイ、さまざまな人事施策のなかで、人事データが取得されています。
そして、「採用時の求職者の個性の把握」、「研修の出来・不出来の確認」、「組織サーベイを元にした組織開発」など、それぞれの人事施策の目的に応じて、それらのデータが活用されています。では、これらのデータは、十分に活用されているのでしょうか。
実は、図表6のとおり施策や担当ごとにばらばらにデータが取り扱われており、これらのデータを複合してうまく活用することができていないことが少なくありません。
【図表6:人事データの散在】
出所:『人事のためのデータサイエンス―ゼロからの統計解析入門―』(中央経済社,2018年)P39
一方で、第3回以降で詳しく述べますが、たとえば適性検査と入社後の人事評価のデータを組み合わせることで、自社で活躍する可能性の高い人材の特徴を明らかにし、採用要件などを明確化することができます。また、職種別に活躍する人材の特徴を明らかにすれば、異動や配置の成功確率を高めるための参考情報を得ることができます。労働時間のデータと組織サーベイのデータを組み合わせることで、労働時間が長くなる要因を把握することなどもできます。
もちろん、人事データは個人情報の一つであるため、利用目的を明確にして使用許諾を得るなど的確な手続きは欠かせませんが、「眠っている人事データ」を活用することで、さまざまな取り組みができます。
小さなことからチャレンジ
いざ、人事データを活用しようとすると、「全員分のデータがない」、「一部のデータの取得が難しい」など、さまざまな壁にぶつかることもあります。その時、完璧を目指そうとすると、時間もかかればコストもかかり、なかなか着手ができないという問題に陥ってしまうこともあります。
しかし、人事データ活用をすることでどのようなメリットが得られるのかが分からない状況では、思い切った投資が難しいというのも正直なところだと思います。
そのような場合、まずは限られた種類のデータや、限られた対象者のデータでも構わないので、図表7のように「小さなことからスタートする」ことをお勧めします。
【図表7:人事データ活用の成功サイクル】
出所:『人事のためのデータサイエンス―ゼロからの統計解析入門―』(中央経済社,2018年)P34
小さなことであっても、成功体験を積むことで、人事データ活用に携わる皆さんの自信が高まっていきます。また、分析から分かってことを従業員の方と共有するなど成果を還元することは、多くの方にデータ活用の価値を理解いただくきっかけとなります。それによって、追加でのデータ取得などに前向きに協力いただけるようになれば、データ活用は加速していきます。ぜひ、「まずは、できることから」を意識して、人事データ活用を進めてください。
以上、今回は人事データ活用の概要をお伝えしました。第3回からは、採用や人材開発など、人事業務別の活用事例をご紹介します。ぜひアイディアを広げるための種として引き続きご覧いただければ幸いです。
編集部より書籍紹介
人事評価、業績、勤怠、適性検査、組織サーベイ、360°サーベイ、研修アンケート…
人事データを活用する考え方と実践方法を事例と合わせて初歩から解説
近年、ビジネスの世界では、テクノロジーやデータを活用することで、組織やビジネスのあり方を変容させるデジタル・トランスフォーメーション(DX)が注目を集めています。それは人事の世界でも同様で、HRテクノロジーやHRアナリティクスへの関心が高まっており、人事データ活用は以前と比べると確実に進みつつあります。
一方で、人事データを蓄積しはじめたものの十分に活用できない、またいくつかの分析を試みたものの、その結果がうまく活用できないというお悩みを耳にすることも少なくありません。
そこで、人事の実務の中で、「どのような課題を解決するために、どのようにデータを活用できるか。また何に留意すべきか」、その考え方や実践方法について解説する本書を執筆しました。リクルートマネジメントソリューションズは、適性検査「SPI3」や組織サーベイ、人事制度コンサルティングなどのサービスを企業に提供しており、60年近く企業のデータ活用を支援してきました。そのノウハウの一部を企業事例と合わせてご紹介します。
本書は、これから人事データ活用をスタートしようとされている方、また一度スタートしたもののなかなかうまく進めることができないと悩んでいる方におすすめできる一冊です。
【出版概要】
書名 :人事データ活用の実践ハンドブック
編著者:入江 崇介
ページ数:140ページ(A5判)
発売日:2021年4月26日
ISBN:978-4-502-38261-1
定価:2,420円(税込)
中央経済社:https://www.biz-book.jp/isbn/978-4-502-38261-1
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4502382612/ref=sr_1__mk_ja_JP
【目次】
第1章 人事データ活用の概要を把握する
第2章 データを活用して採用のPDCAを回す
第3章 データを活用して研修効果を高める
第4章 昇進・昇格選考を通じてより多くの活躍できる人を輩出する
第5章 適合の観点でデータを活用して個人の活躍を支える
第6章 組織サーベイを活用して組織の機能を高める
第7章 人事データ活用における留意点
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