第14回HR EXPO春(人事労務・教育・採用)|RX Japan株式会社第14回HR EXPO春(人事労務・教育・採用)|RX Japan株式会社

個と組織を生かす リモートマネジメントの教科書

第5回「リモートマネジメントを助ける会社の環境整備 ~3つの壁と2つの支援~」

「人と組織」をテーマに、マネジメントが直面するさまざまな課題の解決にあたるリクルートマネジメントソリューションズの協力のもと、「リモートワーク」および「リモート時代のメンバーマネジメント」をメーンテーマに、エグゼクティブコンサルタントの武藤久美子氏が5回にわたりコラムで解説します。

最終回となる第5回目のテーマは、リモートマネジメントを助ける会社の環境整備として、人事部門など全社施策として実施できることについて紹介します。リモートワークのマイナス面が見えてきて、原則出社に戻すことや、リモートワークを機に改めて人事施策を検討している人事・総務担当者、経営者の皆さんの参考になる内容です。

【参考】
第1回「リモートワークのもたらす変化とチャンス」
第2回「リモートマネジメントとは」
第3回「リモートマネジメントが目指す『3つの「こ」』――「個として立つ」」
第4回「リモートマネジメントが目指す『3つの「こ」』―「心の距離が近い」「ここがいい」」

目次

  1. 緊急対応の延長線上のリモートワークから平時のリモートワークへの移行へ
  2. リモートワーク導入に立ちはだかる「3つの壁」の乗り越え方
    ┗1.メリット不在の壁
    ┗2.業務切り分けの壁
    ┗3.メンバーを見るメガネの壁
  3. 2つの支援
    ┗「1.働き方の選択肢を増やす」とは
    ┗「2.メンバーの自律的な活躍を支える各種施策を整える」とは
  4. 「リモートマネジメントを助ける会社の環境整備 ~3つの壁と2つの支援~」のまとめ
  5. 編集部より書籍紹介

リモートマネジメントを助ける環境整備、つまり、全社施策やしくみとして見直すと良いことについてご紹介します。これは、3つの壁と2つの支援に分かれます。

【画像「2021年3月9日開催メディア向け共有会資料」より:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ】

緊急対応の延長線上のリモートワークから平時のリモートワークへの移行へ

3つの壁は、リモートワークの導入・推進に立ちはだかる壁です。リモートワークの導入時や全社展開時に乗り越えるべき壁として、私がクライアントをご支援するときに提示している内容です。

多くの方が何らかの形でリモートワークを体験した今、改めてこの話をするのは、リモートワークの特徴に関係があります。それは、「リモートワークは導入してみると意外と良いと感じられることが多い施策だが、導入前には不安や懸念があれこれ思い浮かぶ施策である。よって、まずは不安や懸念を払拭しないと導入に至らない」ということです。新型コロナウイルス発生前は、経営層、マネジャー、メンバーの不安や件、反対意見を、事前に解消するか、乗り越えられる見通しをつけるかしないと、リモートワークを導入することができなかったのです。

しかし、新型コロナウイルス発生によって、「急激」「一斉」「大規模」にリモートワークをせざるを得なくなる企業が増えました。現状は、この流れで定常運用されるようになったため、壁を解決したりきちんと検討したりすることがないままになっている企業が多いのです。そのため、マイナス面が目立ち、原則出社に戻すことを検討している企業や、緊急対応としてのリモートワークを続けていて、平時のリモートワークに移行できていないと感じる企業においては、改めて壁に対処するのも一考でしょう。

リモートワーク導入に立ちはだかる「3つの壁」の乗り越え方

リモートワーク導入・推進の壁は大きく分けて3つです。

  1. メリット不在の壁
  2. 業務切り分けの壁
  3. メンバーを見るメガネの壁

【「2021年3月9日開催メディア向け共有会資料・(株)リクルートマネジメントソリューションズ」を一部編集】

1.メリット不在の壁

「メリット不在の壁は」リモートワークの導入を企画している部署が、経営層や事業部長など導入の承認・決済権限を持った人に、「リモートワークを導入するメリットをわかるように示しなさい」と言われることを指します。
企画者はメリットを訴える資料を(時には何度も)作成して説明しますが、経営層に納得してもらえません。これを繰り返していくうちに、企画者は疲弊し、リモートワークの導入を諦めてしまいます。

乗り越え方
実際には、メリット云々ではなく、「リモートワークに対して明確な、または漠とした不安や懸念がある」という方が正しい表現です。「メリット不在」としたのは、しばしば重要なポジションの方が、リモートワークを導入・運用(しようと)する部署に対して、「メリットを示してほしい」と言うからです。重要なポジションの方は、不安や懸念を明確に口にはしてはくれるとは限りません。特に、緊急対応としてのリモートワークには、無理がつきものですし、マイナス面が強く出がちです。「このままリモートワークを自社の当たり前にして良いのだろうか」と考えるのも無理はありません。

重要なポジションの方が不安や懸念を示している場合は、それは杞憂であること、または実際に不安や懸念に感じる状況は起きるが、対応可能であることを示すことが大事です。このために有効なのは、「目の前に成果を差し出すこと」です(私がクライアントにお伝えしいる表現であり、一般的ではありません)。
これは、自社でリモートワークの実験を行い、そんなに困った事態にはならないことを証明し、そのうえで不安や懸念を上回る果実の存在を提示することです。改めて、自社にとって平時のリモートワークに適した形を模索してはいかがでしょうか。

2.業務切り分けの壁

「業務切り分けの壁」とは、「自社にはリモートでできる仕事はない」または、「○○職(製造職、研究職、店舗販売職などの職種)にはリモートワークは無理」「個人情報を扱う部署なので難しい」と、一刀両断するという壁です。
この壁をつくるのは、事業系の部署、本社の部署など様々ですが、個々のメンバーの場合もあります。一刀両断されてしまうと、全社で導入されないか、一部職種や部署は全員原則出社を継続するかの道をたどります。

乗り越え方

例外もありますが、多くの企業、職種において、すべての仕事が対面でなくてはいけないということは考えにくいです。それなのに一部の業務がどうしても対面でないといけないという理由で、原則出社とするという事態が生じます。このような決断をする企業は、業務切り分けの壁を乗り越えることを避けていることが多いです。この場合は、「業務のデジタル化を図ること」および「業務の因数分解を行うこと」で、業務切り分けの壁を乗り越えることが可能になるでしょう。

「業務のデジタル化を図ること」は想像がつく方が多いと思いますので、ここでは、「業務の因数分解を行うこと」に触れます。原則出社に戻る企業の特徴として、一部ダメなら全部ダメと考えたり、全業務を一括りに「業務」と捉えたりする傾向があるように思います。業務の性格を分け、「業務の因数分解」つまり、リモートワーク可能な業務を切り出すことが大事です。まずは「どんな部署や職種でもリモートワークできる部分はあるはず」という視点で業務を見てみましょう。また、「ここが問題だからリモートワークは難しい」というメンタルブロックを外して、「ここさえクリアできればリモートワークでも問題ないはず」と考えると良いでしょう。

3.メンバーを見るメガネの壁

「メンバーを見るメガネの壁」とは、メンバーをあまり信用していないために生じる壁です。経営層やマネジャーが、「メンバー」と一括りにして、「セルフマネジメントしながら働ける人材ではない」とみなすことを指します。「メガネをかける」というのは「メンバーとは、こういう生き物だ」とステレオタイプで見るという意味です。
この壁の存在を示す代表的な発言は、「リモートワークではメンバーがさぼってしまうのではないか」というものです。一方で、「メンバーが働き過ぎてしまうのではないか」という発言は、さぼるのではないかという発言とは一見逆ですが、発せられている根っこは似ています。

乗り越え方

「リモートワークになったら、メンバーはさぼるのではないか」「リモートワークになったら、メンバーが働き過ぎるのではないか」というのも、一見前者はメンバーへの見方が厳しく、後者はメンバーを信じているように見えるかもしれませんが、基本的には「メンバーはセルフマネジメントが上手ではない」と思っている点で共通しています。
メガネを外すのはなかなか難しいものです。このような企業でリモートワークを導入する場合に、メガネを外すところからスタートしても無駄な努力に終わります。不思議なもので、メンバーがリモートワークになると、マネジャーはマイクロマネジメントをしがちです。

メンバーを「メンバー」と一括りで見ずに、メンバーごとに自律度を勘案して、リモートワークのルールを決めると良いでしょう。また、経営層やマネジャーの不安が消えない最初のうちだけ、少しの管理(監視ではありません)をするのも一考です。
例えば、各メンバーは本日行うことを最初に報告し、業務終了時間に実施内容を報告する、といったことがこれにあたります。ただし、リモートワークが軌道に乗ってきたら、こういう管理はむしろ邪魔になったり、マネジャーやメンバーの負担になったりするかもしれません。これらの管理は、リモートワークが安定運用に乗ると必要性は減ってくるでしょう。

2つの支援

これまで壁について記載しましたが、ここからは、リモートマネジメントを助けるしくみ、施策面での2つの支援をご紹介します。

  1. 働き方の選択肢を増やす
  2. メンバーの自律的な活躍を支える各種施策を整える

2つの支援の共通点は、リモートワークとリモートマネジメントに適した環境を、リモートワーク以外の施策で整えることです。

【画像「2021年3月9日開催メディア向け共有会資料」(株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)を一部編集】

「1.働き方の選択肢を増やす」とは

リモートワークは、元々、働き方改革に関する様々な施策のうち「働く場所の柔軟化」の選択肢の1つでした。しかし、今はリモートワークに焦点が当たっているために、リモートワーク内だけで最適解を求めることになりがちです。働き方の多様な選択肢には次のようなことが挙げられます。

  • 場所、地理に関すること(モバイルワーク、サテライトオフィス、在宅勤務、ワーケーション、勤務地限定社員など)
  • 時間に関すること(スーパーフレックスタイム制度、週休3日制、夜だけ勤務社員など)
  • 所属に関すること(社内インターン、社内兼業など)
  • 雇用に関すること(副業OK、雇用形態の一本化など)
  • 仕事との付き合い方に関すること(ジョブ型グレード、3カ月休暇など)

個人的には職種を理由にリモートワークをできないと決めつけては欲しくないのですが、とても難度が高い職種・職場がある現状は、十分に理解できます。そのときに、リモートワーク以外の働き方で、社員を個として尊重し、メンバーが自律的に働ける支援ができるなら、リモートワークが実施できる人か否かに関わらず、目的レベルでは実施したいことができるようになります。

「2.メンバーの自律的な活躍を支える各種施策を整える」とは

これまでの連載でも触れてきましたが、リモートワークはメンバーに自律的な働き方を可能とするとともに、自律的な働き方を求めます(自由と責任)。もちろん、メンバーの自律をメンバー任せにしていてもなかなか進まないですし、マネジャーだけの責任にしてもうまくありません。リモートマネジメントを自社の未来に必要な戦略と捉えた各種の施策を行っていければ、マネジャーは孤軍奮闘する必要はなくなります。
例えば、評価内容の変更、マネジメント状況を確認するためのサーベイなど、「良いマネジメントのあり方を再定義するための施策」などが、リモートマネジメントを自社の力にすることを助けるでしょう。また「マネジャーにリモートマネジメントの武器を与えるための施策」も奏功するでしょう。

リモートワークに対応したり、リモートマネジメントを定着・進化させたりするには、マネジャーやメンバーだけでなく、全社施策やしくみが支援できることも大きいのです。本日お伝えした3つの壁と2つの支援が、会社ができることのエッセンスですが、もう少し身近なものでいえば、「改めてリモートワークを職場の皆が気持ちよく使えるルールを決める」というのも一考です。

「リモートマネジメントを助ける会社の環境整備 ~3つの壁と2つの支援~」のまとめ

リモートワーク導入に立ちはだかる3つの壁とその乗り越え方、およびリモートマネジメントを助ける2つの支援をご紹介しました。会社へのご支援は私の本業であり、お伝えしたいことがまだまだたくさんあります。

今回の記事で一番お伝えしたかったのは、「緊急対応としてのリモートワークで、リモートワークの良し悪しを判断しないでほしい。第1回目の緊急事態宣言から1年超経った今の時期は、リモートワークを振り返り、平時のリモートワークに移行するのに良いタイミングである」ということです。
今回の連載が、貴社におけるリモートワークとの良い付き合い方を見つける一助になれば嬉しいです。【連載おわり】

武藤氏の連載コラム一覧はこちら
https://at-jinji.jp/expert/column/62

編集部より書籍紹介

いまリモートワーク下で起きている問題とマネジャーがすべきことが、すぐわかる『個と組織を生かす リモートマネジメントの教科書』

この本はリモートワーク下で役割の重要性がさらに増すマネジャーの負荷を大きくせずにいかにマネジメントを行えるかをアドバイスしています。メンバーが「個として立つ」「心の距離が近い」と感じる、「ここがいい」と思う、“3つの「こ」”の状態にするための支援方法のほか、“3つの「こ」”の状態にするための10のポイントについて、「ベースの行動」と「プラスアルファの行動」の2段階に分けて紹介します。

組織・人事のコンサルタントとしてこれまで 150 社以上を担当してきた武藤氏が、リモートワークが世の中で本格化する以前から、クライアントの働き方改革やリモートワーク導入支援を行ってきた経験や、リモートマネジメントを上手に行っているマネジャーへのヒアリングなどを踏まえて、リモートマネジメントのポイントをまとめています。リモートワーク下でマネジメントに悩むマネジャーだけでなく、経営層や人事部門、メンバーにも読んでいただきたい、幅広いビジネスパーソンにおすすめできる一冊です。

【出版概要】
出版社:株式会社クロスメディア・パブリッシング
発売日:2021年3月1日
価格:1,848円(税込)
体裁:単行本(ソフトカバー)
ページ数:304ページ
ISBN :ISBN-10(4295405167)、ISBN-13(978-4295405160)
URL :Amazon http://amzn.to/3szAgMC
株式会社クロスメディア・パブリッシング https://www.cm-publishing.co.jp/

【目次】
まえがき
序章 「リモートワーク」の現在地
第1章 リモートワークがもたらす変化とチャンス
第2章 リモートマネジメントとは
第3章 場面別、メンバー別でみるリモートマネジメント
第4章 リモートマネジメントのポイント
第5章 個として立つ
第6章 心の距離が近い
第7章 ここがいい
第8章 これまでのマネジメントとリモートマネジメントの違い
第9章 リモートマネジメントを助ける環境整備
あとがき

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