個と組織を生かす リモートマネジメントの教科書
第4回「リモートマネジメントが目指す『3つの「こ」』―「心の距離が近い」「ここがいい」」
「人と組織」をテーマに、マネジメントが直面するさまざまな課題の解決にあたるリクルートマネジメントソリューションズの協力のもと、「リモートワーク」および「リモート時代のメンバーマネジメント」をメーンテーマに、エグゼクティブコンサルタント/主任研究員の武藤久美子氏が5回にわたりコラムで解説します。
第4回目のテーマは、リモートマネジメントが目指す『3つの「こ」』の2つ目「心の距離が近い」と3つ目「ここがいい」を取り上げます。マネジャーが、リモートマネジメントを通じて、どのような支援を行えばよいのか。[まずはここから]実施してほしい行動と、[プラスアルファ]の行動について紹介します。
【参考】
・第1回「リモートワークのもたらす変化とチャンス」
・第2回「リモートマネジメントとは」
・第3回「リモートマネジメントが目指す『3つの「こ」』――「個として立つ」」
目次
リモートマネジメントが目指す『3つの「こ」』と「10のポイント」(後半)
前回もご紹介しましたが、リモートワークは、メンバーに「自由と責任」をもたらし、マネジャーの「偶然やついでの機会を使ったマネジメント」を困難にします。そのような状況で、メンバーの3つの「こ」、①個として立つ、②心の距離が近い、③ここがいいという状況をつくるための意図的な支援がマネジャーに求められます。
【画像「2021年3月9日開催メディア向け共有会資料」より:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ】
今回ご紹介する「心の距離が近い」は、メンバーが、会社、自組織の方向性に共感し、自分の仕事とのつながりを感じられる状態を指します。加えて、地理的に離れていても、マネジャー、同僚、先輩・後輩、社内外関係者に、自分の存在が受け入れられており、そうした「みんな」の存在も感じられる状態です。ポイントは、次の3つです。
①縦をつなぐ
②縦をつなぐ
③横をつなぐ
次に、「ここがいい」とは、3つの「こ」の1つ目「個として立つ」を体現できている人が、「社外に素敵な会社や場はたくさんあるが、自社を積極的に選ぶ」状態です。
この仕事、この仲間、この会社の目指す世界など、理由はメンバーそれぞれで違います。ポイントは次の2つです。
① メンバーのパフォーマンス向上に環境づくりで寄与する
② ライフを大事にする
【「2021年3月9日開催メディア向け共有会資料・(株)リクルートマネジメントソリューションズ」を一部編集】
以下では、計5つのポイントについて、[まずはここから]実施してほしい行動と、[プラスアルファ]の行動をご紹介します。ちなみに、[プラスアルファ]は、[まずはここから]が実践できてきたと感じているマネジャーが追加で実践すると良い、応用的な取り組みです。
「心の距離が近い」①気にかける
リモートワーク下のメンバーにとって、マネジャーから「あなたのことを気にかけている」(監視ではない)と感じられることは、ありがたく思うでしょう。
[まずはここから]メンバーの情報を自ら取りに行く
まずは、マネジャーから情報を取りに行くことです。対面中心のときと同じようなマネジメントを行おうとするマネジャーは、今までよりも多くの時間を費やし、負荷が増しています。一方で、「いつでも相談に来てね」とメンバーに伝え、相談がなければ問題ないと判断するマネジャーもいます。
最近は、定期的にメンバーと1on1ミーティングを行っているマネジャーも多いでしょう。加えて、メンバーのためのスケジュールを先に確保するのもお勧めです。カレンダー上で、「メンバーからのよろず相談や雑談などなんでもOK」と、オープンにします。予めスケジュールを押さえておくのは大変でしょうが、うまくいけば、マネジャー自身も時間の使い方を変えられるかもしれません。
[プラスアルファ]斜めで気にかける
マネジャーが常にメンバーを気にかけるのは難しいでしょう。そこで、隣の部署のマネジャーやメンバー、同じ部署の先輩など、斜めの人も含めてメンバーを気にかけるようにするのも一考です。「最近どう?」と声をかけてもらい、話す機会を設けると良いでしょう。
「心の距離が近い」②縦をつなぐ
「縦をつなぐ」とは、会社や自組織の大事にしている考え方や方向性とメンバーをつなぐことです。会社とのつながりは、リモートワークで薄れるものの1つです。会社に属していることがわかりやすかったオフィスや通勤がなくなった今、リモートワークでどのように会社とメンバーをつなげばいいのでしょうか。
[まずはここから]会社や他部署の情報をシェアする
まず行ってほしいのは、自組織、他組織、会社の動きなどの情報をメンバーにシェアすることです。企業によってはハードルの高いことかもしれません。しかし、メンバーが無駄な活動をすることを防いだり、メンバーを信頼する大人として扱っていることを伝えられたり、マネジャーから情報開示した方がメンバーも情報を出してくれる可能性が高まるといったメリットがあります。
例えば当社では、経営会議への上申内容、各経営層の事前コメント、議事録が、原則全社員に公開されています。これによって、会社の動きを掴むことができますし、会社から信用されているのだと感じることができます。
もちろん、厳に取り扱いに注意しないといけない情報もありますが、決定していなくても、「検討中である」ことを伝えるだけでも十分な場合もあります。話せる範囲で話してみてはいかがでしょうか。
[プラスアルファ] 顧客、会社、組織の未来を話し合う
メンバーと顧客、会社、組織の未来や、重要なテーマについて話し合えれば更に望ましいです。このような機会は、メンバーが自律的に活動する際に、より良い動きができるヒントになります。また、解が見つけにくい時代だからこそ、必死に考え、施策を講じている経営層やマネジャーの苦労を知ってもらえる機会にもなるでしょう。
「心の距離が近い」③横をつなぐ
横をつなぐ活動は、メンバーが、「自分もグループやチームの一員なのだ」という気持ちを育み、居場所をつくります。
[まずはここから]職場のルールとツールを決める
リモートワークになると同じ職場でも、オンラインでしか会ったことがない、良く知らないという状況も見受けられます。こうした状況でマネジャーが留意したいのは、メンバー同士が、互いの働き方についてもやもやしたり、苦手意識を持ったりすることを減らすことです。
具体的には、以下のようなことについて決めることです。
・ 全員が集まる場の設定の有無と開催方法
・ オンラインミーティングでの作法
・ コミュニケーションツールの利用方法
いまさらリモートワークのルールを決めるのは難しいという方は、これまでを振り返り、改めて平時のリモートワークのルールを決めようとメンバーに切り出し、一緒に「最低限の」ルールを決めることをお勧めします。
[プラスアルファ]互いを知る機会とサイクルをつくる
メンバー同士がお互いを知っていることは、たとえば次の点で奏功します。
・ 自分のことを知ってもらうことで、組織に受け入れてもらっている感じがする
・ テーマや状況に応じて、誰に相談したらいいか、誰と協働したらいいかわかる
互いを知る良い方法を1つご紹介します。それは、「他者インタビュー&他者紹介」です。メンバー2名で、子ども時代や学生時代、社会人になってからの経験、大切にしている考え方などをインタビューします。聴く側と答える側に分かれ、役割を交代して同じことをします。その後、インタビューした人が、他のメンバーに他己紹介するという流れです。
答える側にとっては、理解してくれようとすること自体に安心を覚えます。また、答える側が自分を紹介してくれるのを聴き、自分を誇らしく思ったり、新たな発見をしたりします。聴く側にとっては、相手に親近感を抱くなどの効果があります。
「ここがいい」①メンバーのパフォーマンス向上に環境づくりで寄与する
「ここがいい」の「ここ」に入る内容は、人によって異なるため、それぞれのメンバーが仕事や働くことに望むことを知って届けることが、ここでいう環境づくりです。
[まずはここから]メンバーのエネルギーを奪う出来事を減らす
がっかりさせる出来事は、メンバーのエネルギーを奪います。活躍していて、成長意欲も高いメンバーが、自分の成長や組織貢献の両方を企図したにもかかわらず、それを会社やマネジャーが足止めすることが見受けられます。
たとえば、成果を挙げていてタイムマネジメントもできている社員が、新しい技術を学ぶために、終業後に学校に通いたいとマネジャーに相談したところ、難色を示されるケースが挙げられます。メンバーからすると、自費だし、技術を学ぶ動きは賞賛されてもいいはずなのに、と納得がいきません。
このようなケースで避けた方がいいのは、無下に断ることです。もちろん、個別ニーズすべてに対応できないのは当然です。願いが叶えられない場合でも、できない理由を説明することは重要ですし、他にできる方法をメンバーと考えられたら良いでしょう。
[プラスアルファ]望みに応え、制約を取り除く
「望みに応え、制約を取り除く」とは、「メンバー一人ひとりが仕事選びや働くことに望むこと」または「メンバーがパフォーマンスを発揮するうえで、制約になっていること」を知り、それらに1つでも応えることです。これは、パフォーマンス向上や、惹きつけにつながります。
しかし、これを実施すると、メンバーがワガママになり、収集がつかなくなると思う方もいるでしょう。ワガママか否かを分けるのは、「その望みは、本人や組織のパフォーマンス向上に寄与するか」です。メンバーの「個として立つ」レベルが上がってきたら、メンバーに望みや制約を尋ねてみることから始めてみませんか。
「ここがいい」②ライフを大事にする
「ここがいい」の2つ目、そしてリモートマネジメント全体の10 のポイントの最後は、「ライフを大事にする」です。
[まずはここから]メンバーの生活や仕事以外の活動を大事にする
リモートワークによって、ワークインライフになってきている今、「メンバーの生活や仕事以外の活動を大事にする」ことはとても重要です。特にお伝えしたいのは以下の2つです。
・ 生活と折り合いをつけながら仕事をしているメンバーの状況に配慮する
・ メンバーが仕事以外の場で、知見を拡げ、深めることを奨励する
前者は、プライベートに立ち入って欲しいという意味ではありません。メンバーが自宅で働いている様子を思い浮かべて、配慮することです。たとえば、「 ○○さんに厳しめのフィードバックをしないといけないが、同居家族に聞かれないような環境を整えた状態でミーティングに臨んでもらおう」「 □□さんは、最近一人で黙々とやる業務で忙しい。困ったことはないか、体調は変わりないか、様子を聞いてみよう」といった配慮が挙げられます。
後者は、副業、ボランティア、学び、趣味、地域活動など仕事以外の時間を充実させるメンバーの活動を応援することです。まずは、以下の容認から始めて、レベルを上げていけると良いでしょう。
Level2奨励:メンバーに「仕事以外の活動をどんどんやっていい」と明言する。仕事以外の活動に光を当てて、他メンバーに紹介する
Level3賞賛:メンバーの仕事以外での経験も使えるような仕事やプロジェクトを割り当てる
ワークインライフの進展やオンラインの機会創出によって、メンバーの遠心力(社外流出)が働きやすい今、仕事以外の面も尊重できる企業の方が、惹きつけ・引き留めを可能とするのではないでしょうか。
[プラスアルファ]マネジャー自身のライフを大事にする
メンバーだけでなく、マネジャー自身もライフも大事にできる環境が以前に比べてできてきました。筆者の通底した思いでもある、「リモートマネジメントによってマネジャーにこれ以上の負荷がかかることはしたくない。マネジャーにも心身健やかに過ごしながら、役割を果たせるようにする」状況が1人でも多くの方に訪れたら嬉しいです。
次回は最終回として、リモートマネジメントを支える環境整備として、会社ができることをご紹介します。
>>>第5回「リモートマネジメントを助ける会社の環境整備 ~3つの壁と2つの支援~」
編集部より書籍紹介
いまリモートワーク下で起きている問題とマネジャーがすべきことが、すぐわかる『個と組織を生かす リモートマネジメントの教科書』
この本はリモートワーク下で役割の重要性がさらに増すマネジャーの負荷を大きくせずにいかにマネジメントを行えるかをアドバイスしています。メンバーが「個として立つ」「心の距離が近い」と感じる、「ここがいい」と思う、“3つの「こ」”の状態にするための支援方法のほか、“3つの「こ」”の状態にするための10のポイントについて、「ベースの行動」と「プラスアルファの行動」の2段階に分けて紹介します。
組織・人事のコンサルタントとしてこれまで 150 社以上を担当してきた武藤氏が、リモートワークが世の中で本格化する以前から、クライアントの働き方改革やリモートワーク導入支援を行ってきた経験や、リモートマネジメントを上手に行っているマネジャーへのヒアリングなどを踏まえて、リモートマネジメントのポイントをまとめています。リモートワーク下でマネジメントに悩むマネジャーだけでなく、経営層や人事部門、メンバーにも読んでいただきたい、幅広いビジネスパーソンにおすすめできる一冊です。
【出版概要】
出版社:株式会社クロスメディア・パブリッシング
発売日:2021年3月1日
価格:1,848円(税込)
体裁:単行本(ソフトカバー)
ページ数:304ページ
ISBN :ISBN-10(4295405167)、ISBN-13(978-4295405160)
URL :Amazon http://amzn.to/3szAgMC
株式会社クロスメディア・パブリッシング https://www.cm-publishing.co.jp/
【目次】
まえがき
序章 「リモートワーク」の現在地
第1章 リモートワークがもたらす変化とチャンス
第2章 リモートマネジメントとは
第3章 場面別、メンバー別でみるリモートマネジメント
第4章 リモートマネジメントのポイント
第5章 個として立つ
第6章 心の距離が近い
第7章 ここがいい
第8章 これまでのマネジメントとリモートマネジメントの違い
第9章 リモートマネジメントを助ける環境整備
あとがき
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