銀座といえば、NHKの朝ドラで話題になった「とと姉ちゃん」の舞台。その銀座の一角に、明るく瑞々しい空気を放つ会社があります。その会社は株式会社ランクアップ。代表は、岩崎裕美子さんという女性です。

ほとんどの社員がほぼ残業ゼロ

私がなぜその会社に注目するようになったかというと、遡ること2016年2月。『ほとんどの社員が17時に帰る10年連続右肩上がりの会社』（クロスメディア・パブリッシング刊）という書籍を読んだことから。

実は、私が起業したのと同じ時期に岩崎社長は化粧品会社を立ち上げ、設立10年で社員数約50人、年商75億、ワーク・ライフ・バランスの取り組みで都から表彰を受ける優良企業に育てています。しかも、岩崎社長と私は同じ生まれ年。名前も私と同じ“ゆみこ”。共通点が多く関心を持ちました。

特に関心を持ったのは「ほとんどの社員が残業ほぼゼロ」という事実。なぜなら、私が登壇する研修やセミナーで参加者に「業務で改善したいこと」について話し合ってもらうと、「残業を減らしたい」という声が圧倒的に多いから。残業を減らすためのアイデアはないだろうか、と日々考えていた時に、タイトルに惹かれて手に取ったのが同書。そして、内容があまりにも素晴らしかったのでSNSに「経営書として超オススメ！」と書き込んでみたところ、ある方から「講演会がありますよ」と教えていただき、直接岩崎社長に話をうかがう機会を得ました。

残業ゼロにも関わらず、社員が不満を持った理由とは

書籍、講演会ともに多くの示唆を得られましたが、最も印象に残ったのは「残業ゼロ」、「福利厚生充実」、「業績好調」、「プライベート充実」、にもかかわらず「社員が暗く、病に倒れる人がいた、そして、社員は不満を抱えていた」という話です。

その原因を、岩崎社長は次のように話されていました。「社員が暗く、病に倒れる姿を見て、私と前職時代からのパートナーはその解決方法を探しました。まずは社員の健康に配慮した就業規則や制度、外部機関の活用など様々な取り組みを実施しました。しかし社員の会社への不満は解消されません。社労士の先生からは、『理念の見直し』のアドバイスをいただき、パートナーと理念の見直しとその浸透に取り組みましたが、私たち経営者と社員の溝は埋まりません。次に提案されたのは管理職の育成でした。私たち経営者の想いや考えを、管理職を通じて社員に伝えてもらえるようにする。考えてみると、今まで管理職とじっくり話し合うことがなかったことに気づきました。そこで、管理職を中心に中期経営計画をつくるプロジェクトをスタートしたり、全社員の働き甲斐についての企業サーベイを受けたりしました。その過程でわかったことは、社員は『やりがい』を求めていたということでした。経営者中心で動く組織ではなく、自分たちも参画し、意見やアイデアを形にしていきたい、という気持ちを持っているということでした」（岩崎社長）

「とと姉ちゃん」のワンシーンに、借金で首が回らなくなった部下が会社を貶め、責任を取って退職を申し出る場面があります。そこで主人公の常子は、「やりたかった仕事と違うことをやらされ、不満があった」と、その部下から告げられます。その一言に常子は、「社員に自分の想いをぶつけていただけだったのかも」と自省し、他の社員の気持ちを確認する必要を感じます。翌日、社員を集めそれぞれが仕事に対してどのような想いを抱いているかを確認すると、社員は「誇りをもっている」「今の仕事を続けたい」と思っていることを知る――そんな場面を見たとき、岩崎社長の話が重なりました。

ワークスタイル変革を進める上での大事なポイント

銀座の会社、女性の社長、そして、社員を想う気持ちの強さがこの二人の共通点と言えますが、その中でも「社員を変えよう」とするのではなく「私たちが社員のためにできることは何か」と考えるリーダーとしての姿勢、社員の声に耳を傾けること。ここが、ワークスタイル変革を推進していく上での大事なポイントではないかと思います。

「残業ゼロ」、「福利厚生充実」、「業績好調」、「プライベート充実」であっても、社員の心が満たされることはないことを岩崎社長は教えてくれました。現在同社では、定期的に「理念研修」を開催し、会社の将来像、大事にしてほしい価値観、現在地、一人ひとりへの期待、社員の意見やアイデアを聞く機会を設けているそうです。

ワークスタイル変革を進める時代だからこそ、会社と社員が共通目的や目標、役割や貢献について話し合う機会や場を社員は求めるものです。そうした点も視野に入れて変革に取り組んでいってはいかがでしょうか。