個と組織を生かす リモートマネジメントの教科書

第3回 リモートマネジメントが目指す『3つの「こ」』――「個として立つ」

「人と組織」をテーマに、マネジメントが直面するさまざまな課題の解決にあたるリクルートマネジメントソリューションズの協力のもと、「リモートワーク」および「リモート時代のメンバーマネジメント」をメーンテーマに、エグゼクティブコンサルタント/主任研究員の武藤久美子氏が5回にわたりコラムで解説します。

第3回目のテーマは、リモートマネジメントが目指す『3つの「こ」』の1つ目「個として立つ」を詳しく紹介します。マネジャーが、リモートマネジメントを通じて、メンバーが個として立てるようどんな支援を行えばよいのか。[まずはここから]実施してほしい行動と、[プラスアルファ]の行動について、具体例を示しながら説明します。

【参考】
第1回「リモートワークのもたらす変化とチャンス」
第2回「リモートマネジメントとは」

目次

  1. リモートマネジメントが目指す『3つの「こ」』と「10のポイント」
  2. 「個として立つ」①メンバーが自走できるゴールを置く
  3. 「個として立つ」②メンバー・仕事を見積り、任せる
  4. 「個として立つ」③成果創出の支援をする
  5. 「個として立つ」④関与のタイミングを見極める」
  6. 「個として立つ」⑤成果とプロセスを振り返り、メンバーのブランドをつくる
  7. 「リモートマネジメントが目指す『3つの「こ」』――「個として立つ」のまとめ<
  8. 編集部より書籍紹介

リモートマネジメントが目指す『3つの「こ」』と「10のポイント」

前回のコラムでご紹介した通り、リモートワークは、メンバーに「自由と責任」をもたらし、マネジャーの「偶然やついでの機会を使ったマネジメント」を困難にします。そのような状況で、メンバーの3つの「こ」、①個として立つ、②心の距離が近い、③ここがいいという状況をつくるための意図的な支援がマネジャーに求められます。これがリモートマネジメントです。

【画像「2021年3月9日開催メディア向け共有会資料」より:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ】

今回ご紹介する「個として立つ」は、メンバーが、「自律的な職務遂行や協働を通じて、組織が目指す方向性に沿った良い動きを行い、成果を上げている状態」を指します。

個として立つメンバーは仕事への適応感や効力感を感じるとともに、メンバーに対する良い評判、ブランドが蓄積されることで、社内の人から声がかかり、新たな成長や挑戦の機会が生まれます。
メンバーは仕事を通じて、必要な経験を積むことで、自分が個として立てるようになってきたことを実感します。よって、マネジャーは、リモートマネジメントを通じて、メンバーが個として立てるよう支援するのです。それが、次の①~⑤にあたります。

① メンバーが自走できるようなゴールを置く
② メンバー・仕事を見積り、任せる
③ 成果創出の支援をする
④ 関与のタイミングを見極める
⑤ 成果とプロセスを振り返り、メンバーのブランドをつくる

以下では、それぞれにつき、[まずはここから]実施してほしい行動と、[プラスアルファ]の行動をご紹介します。ちなみに、[プラスアルファ]は、[まずはここから]が実践できてきたと感じているマネジャーが追加で実践すると良い、応用的な行動です。

【画像「2021年3月9日開催メディア向け共有会資料」より:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ】

「個として立つ」①メンバーが自走できるゴールを置く

リモートワーク下では、メンバーが自律的に業務遂行することがより求められます。ここで大事になるのは、期初や仕事を任せるタイミングで、メンバーと方向性やゴールをしっかりすり合わせておくことです。メンバーが迷うことなく決めた方向とゴールに向かって走れるようにすることがマネジャーの役割となります。

[まずはここから]VQCDをメンバーとすり合わせる

期初やメンバーに仕事を任せるタイミングで、「すべきこと」をすり合わせることはとても重要です。VはVisionで、自社と自組織が短~中長期的に実現したいことを指します。QCDは、製品製造やプロジェクトなどで用いられる、管理する三大要素のQuality(質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)です。目標設定の際、メンバーと以下を話すと良いでしょう。
自社や自組織が短~中長期的に実現したいことについて共有する
メンバー自身は期末にどうなっていたら良いかを話し合う
業務遂行においての裁量の範囲を確認する(フェアウェイとOBライン)

[プラスアルファ]組織とメンバーのWillの接点でゴールを置く

メンバーが成果を上げ続け、周囲を安心させる責任を果たすためには、「すべきこと」をきちんとすり合わせておく必要がある、と書きました。しかし、それだけでは、メンバーの目標が狭まり、小さくまとまってしまう可能性があります。そこで、何かに挑戦したいという思いがあるメンバーや、「すべきこと」ばかりをやっていてもエネルギーが湧かないメンバーには、本人が興味のあることやしたいことを確認し、組織として仕掛けていきたいことや探っていきたいこととの接点を見出したうえで、期初の目標設定を行いましょう。

「個として立つ」②メンバー・仕事を見積り、任せる

リモートワーク下では、メンバーは自律的に仕事を行うことが基本となります。よって、マネジャーがメンバーに、逐一進め方を指導したり、対応方法を指示したりすることはあまりありません。しかし、メンバーの自律度によっては、関わり方や頻度を変える必要があります。これが「メンバーの自律度の見積り」です。また、それぞれの仕事の性格を踏まえたときに、どのようなタイミングで、進捗を確認するか見積ることも大事です。

[まずはここから]メンバーの自律度を見積る

メンバーの自律度は、「自律的職務遂行」と「自律的協働」のレベルから見積もることができます。「自律的職務遂行」は、「メンバーは、どれだけ自律的に仕事を進められるか」、そして「自律的協働」は、「メンバーは、誰と協働すべきかがわかっていて、その人にアクセスできるか」によって、おおむね判断できます。

例えば、業界や職種の経験のある中途入社者は、ある程度「自律的職務遂行」ができるかもしれません。しかし、「自律的協働」のレベルは低いといえるでしょう。いくら前職で実績があり能力が高くても、社内での人間関係がまだ構築されていないので、誰に声をかければいいかを教えたり、その相手に事前に声をかけたりすると良いでしょう。

[プラスアルファ]仕事の肝を確認する

メンバーの自律度によって、基本的な関わり方は決められますが、もちろん、メンバーの担う仕事の性格や難易度によって調整する必要があります。例えば、経営幹部への合意形成が難しい仕事であれば、経営層が今一番関心を抱いていることをメンバーに想像させるための投げかけをしたり、プロジェクトの初期段階で適切な推進体制を構築できるよう、他部署に事前に話をしたりするといった支援が考えられます。

もちろん、「個として立つ」の基本は、メンバーが自律的に動けるようになるための支援ですから、メンバーがぶつかりそうな壁をできる限り取り除くような過保護な支援は必要ありません。マネジャーは、「そこは自分で頑張れ」とメンバー本人に言える内容か、「本人次第と言うにはあまりに乱暴だ」と思うかどうかで判断すると良いでしょう。

「個として立つ」③成果創出の支援をする

リモートワーク下では、メンバーは自律的に仕事を行うことが基本となります。よって、マネジャーがメンバーに、逐一進め方を指導したり、対応方法を指示したりすることはあまりありません。しかし、メンバーの自律度によっては、関わり方や頻度を変える必要があります。これが「メンバーの自律度の見積り」です。また、それぞれの仕事の性格を踏まえたときに、どのようなタイミングで、進捗を確認するか見積ることも大事です。

[まずはここから]阻害要因を取り除く

「個として立つ」を目指すには、メンバーの自律を支援することになります。そこで、日常のマネジメントにおいても、手取り足取りフォローするというよりは、「メンバーだけで行おうとすると困難が大きいこと」を中心とした支援になります。メンバーの抱える仕事の難易度(影響範囲を含む)および自律度にもよりますが、「投資を伴うもの」や「別の部署を動かすこと」などが挙げられます。

[プラスアルファ]互助のしくみをつくる

リモートワーク下ではメンバーはともすると、同僚同士で解決できることも、マネジャーに相談しがちです(マネジャーとは定期的に話す機会があるメンバーが多いため)。ゆくゆくは、マネジャーがハブにならなくても問題解決を図り、業務を推進することができるしくみをつくりたいものです。それが互助のしくみです。メンバー同士で疑問を解消したり、問題解決を試みたりできる場やしくみをつくったり、社内の知へのアクセスできるようにすることなどが挙げられます。

「個として立つ」④関与のタイミングを見極め3つの「こ」

業務遂行の過程では様々なことが起こりますので、予め想定したタイミング以外でもメンバーに関わることは重要です。その適切なタイミングをはかるには、メンバーに困難や悩みが生じたときに、それを「発信」してもらえる環境を整えられるかにかかっています。

[まずはここから]自身の発信にこだわる

メンバーから発信してもらえるようにするためには、マネジャー自身が「メンバーに期待したい発信を、自分が行うこと」にこだわってみましょう。発信に配慮と感謝を乗せたり、発信した情報がどのように活用されるかを想像して発信を設計したりするなどがこだわりの例です。

[プラスアルファ]メンバーが発信したくなる状況をつくる

メンバーは少なからずマネジャーに報告、連絡、相談をするときは緊張しています。特にそれが良くない情報であればなおさらです。だからといって、「良くない情報はすぐに報告して欲しい」と言うだけでは奏功しません。例えば次のような行動を通じて、メンバーが情報発信したくなる状況をつくります。
・すべてのコメントに反応する(チャットやスタンプなど)
何気ない投稿や自発的に出してくれた意見やコメントに感想を返す
メンバーの情報が、どこかで役に立ったらそのことを知らせる

「個として立つ」⑤成果とプロセスを振り返り、メンバーのブランドをつくる

「個として立つ」の最後は、「成果とプロセスを振り返り、メンバーのブランドをつくる」です。

[まずはここから]成果だけでなくプロセスも評価・賞賛する

これは、以前からやっている方も多いと思いますが、リモートマネジメントでは更に重要です。それは、リモートワーク下でメンバーが果たす「周囲を安心させる責任」を示すシンプルな方法が「成果をあげる」ことだからです。

また、プロセスを見る重要性についても言及する必要があります。リモートワーク下では、会社やマネジャーから、「プロセスは見られないので、成果だけを見ればいい」という意見が出ます。しかし、リモートワーク下でのメンバーは、ともすると、日常の業務を遂行しているだけで、時が流れていきます。だからこそ、例えば、新しいことに一歩踏み出す、「組織としての良い動き(いわばプロセス)」のような取り組みに光を当てる必要があるのです。

なお、これは「プロセス評価」以外にも、目標設定のチャレンジ要素として入れたり、社長賞や部門賞で評価したり、新たな機会に抜擢したりと様々な方法が考えられます。

[プラスアルファ]メンバーのタグをつくり他の人に共有する

リモートワークでは周囲の仕事ぶりが見えづらいですから、一緒に仕事をしたことのない人を知る機会が減りがちです。メンバーは、「私はこれができる」「これが得意である」「こういうことに興味がある」を言葉にして、発信することで、新たな人との仕事の機会がもたらされ、「個として立つ」に近づきます。

ここで重要なのがタグです。タグは、メンバーの経験やスキル、持ち味を短い言葉にしたものです。例えば、営業職でいうと、単に「営業」と括らず、「法人営業経験○年」「ビッグクライアントを○年担当」「自由設計商品の営業」と具体化することで、仕事の領域と年数を表すことができます。それ以外に「渉外」「店舗型営業」「代理店営業」などといったものも挙げられます。

マネジャーは、メンバーと一緒にタグを定期的に更新しつつ、まずは自組織やその1つ上の組織、そして自組織のメンバーと共有していけると良いです。そして、タレントマネジメントシステムに保存して、全社で検索できるようになると理想的です。

「リモートマネジメントが目指す『3つの「こ」』――「個として立つ」のまとめ

今回は、「個として立つ」を実現するポイントをご紹介しました。
どこから始めるかを考えるにあたっては、「[まずはここから]に記載した5つのうち、意識していなかったことや、できていないことから選ぶ」か、または「[まずはここから]ができていることについて、[プラスアルファ]に進む」といういずれかをお勧めしています。

次回は、3つの「こ」のうち残り2つ、「心の距離が近い」「ここがいい」について、[まずはここから]と[プラスアルファ]の行動をご紹介します。

>>>第4回「リモートマネジメントが目指す『3つの「こ」』――「心の距離が近い」「ここがいい」

編集部より書籍紹介

いまリモートワーク下で起きている問題とマネジャーがすべきことが、すぐわかる『個と組織を生かす リモートマネジメントの教科書』

この本はリモートワーク下で役割の重要性がさらに増すマネジャーの負荷を大きくせずにいかにマネジメントを行えるかをアドバイスしています。メンバーが「個として立つ」「心の距離が近い」と感じる、「ここがいい」と思う、“3つの「こ」”の状態にするための支援方法のほか、“3つの「こ」”の状態にするための10のポイントについて、「ベースの行動」と「プラスアルファの行動」の2段階に分けて紹介します。

組織・人事のコンサルタントとしてこれまで 150 社以上を担当してきた武藤氏が、リモートワークが世の中で本格化する以前から、クライアントの働き方改革やリモートワーク導入支援を行ってきた経験や、リモートマネジメントを上手に行っているマネジャーへのヒアリングなどを踏まえて、リモートマネジメントのポイントをまとめています。リモートワーク下でマネジメントに悩むマネジャーだけでなく、経営層や人事部門、メンバーにも読んでいただきたい、幅広いビジネスパーソンにおすすめできる一冊です。

【出版概要】
出版社:株式会社クロスメディア・パブリッシング
発売日:2021年3月1日
価格:1,848円(税込)
体裁:単行本(ソフトカバー)
ページ数:304ページ
ISBN :ISBN-10(4295405167)、ISBN-13(978-4295405160)
URL :Amazon http://amzn.to/3szAgMC
株式会社クロスメディア・パブリッシング https://www.cm-publishing.co.jp/

【目次】
まえがき
序章 「リモートワーク」の現在地
第1章 リモートワークがもたらす変化とチャンス
第2章 リモートマネジメントとは
第3章 場面別、メンバー別でみるリモートマネジメント
第4章 リモートマネジメントのポイント
第5章 個として立つ
第6章 心の距離が近い
第7章 ここがいい
第8章 これまでのマネジメントとリモートマネジメントの違い
第9章 リモートマネジメントを助ける環境整備
あとがき

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