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2022年4月から男性の育休取得はどう変わる?

今さら聞けない法改正案の概要と人事が準備すべきこと〜意外な副次効果も解説〜

皆様、はじめまして。株式会社Works Human Intelligenceの阿弥毅と申します。
約10年、統合人事システム「COMPANY」のコンサルタントという立場を通じて、勤怠領域を軸に日本企業の人事業務課題に触れてきました。その経験から現在は働き方の多様性についての調査に従事しています。

突然ですが、ニュースで「男性の育休取得」について見聞きすることが以前より多くなったのではないでしょうか。

少子高齢社会において労働力の確保・維持が重要課題であることは言うまでもないですが、その解決のために、育児がしやすい社会環境を整備し、働き続ける女性を増やす必要があることは皆様もご存知かと思います。そんな中で現政権発足以降、急ピッチで男性の育休取得推進策の検討が進んでいましたが、いよいよその法改正案が具体化されました。2021年の現国会が終了する6月までに法案が成立すると見られ、来年4月以降、順次施行されるようです。

今回は、法案成立に先んじて、キーワードの特性上、誤解が生じやすい次期法改正案の概要を解説するとともに、男性の育休取得を企業内で浸透させるために押さえるべきポイントを考察します。

※こちらの記事は下記の人事トレンド紹介コラム「『男性育休×義務化」法改正案の概要と企業が準備すべきシステム上の取り組み」を@人事の読者様向けに一部編集させていただいております。
https://www.works-hi.co.jp/businesscolumn/danseiikukyu

目次

  1. 誤解が生じやすい?男性育休取得推進と義務化の法改正概要
    【1】男性が取得可能な「出生時育児休業」制度の新設
    【2】企業側から従業員への通知と促進の義務化
    【3】その他、取得推進のための通常育休に関する各種改正
  2. 世界でも進んでいる日本の法的育休制度
  3. それでも男性育休の取得が進まない理由
  4. 男性育休推進のために企業が意識すべき考え方
  5. 法改正に向けたシステム対応案
  6. 男性育休に関する法改正に向けて人事担当は早めの準備を

誤解が生じやすい?男性育休取得推進と義務化の法改正概要

「男性育休取得推進」そして「義務化」と聞くと、「男性に育児休業を取得する義務が生じる」と捉えてしまうかもしれません。しかし、今回の法改正の内容はそうではありません。

政府は2021年2月26日に、労働政策審議会雇用環境・均等分科会から提出された法改正案を正式に閣議決定しました。そこに記載されている法改正案は大きく以下の内容に分類できます。

【1】男性が取得可能な「出生時育児休業」制度の新設
【2】企業側から従業員への通知と取得促進の義務化
【3】その他、通常育休に関する各種改正

つまり、「男性の育休取得」にまつわる法改正(上記【1】)と「取得促進の義務化」にまつわる法改正(上記【2】)は、内容的には別のものです。
これまで上記2つのキーワードだけがややひとり歩きしていた感がありましたが、決して男性労働者に育休の取得を義務付ける訳ではなく、取得の促進が義務化されるということです。

では実際にはどのような内容なのか、それぞれの概要を見てみましょう。

【1】男性が取得可能な「出生時育児休業」制度の新設

新しくなった男性育休である「出生時育児休業」の概要は以下の通りです。

<休業可能な対象者>
法律婚における、出産女性の配偶者
※法律婚上という制約から、必然的に男性が対象となる。

<休業取得の期間>
子の出生から8週の間に合計4週間分(2回まで分割可能)

<申請の期限>
休業開始予定日の2週間前まで(通常の育休は1ヶ月前まで)

<施行開始予定時期>
早くて2022年10月~

一般的に産後6週間~8週間は、母体の回復に全力で努める必要があるとされています。配偶者の協力が必要不可欠な期間に取得できる休業制度ということです。

実は、同期間中に取得できる「パパ休暇」という制度がこれまでも存在していました。しかしその置き換えとなる今回の「出生時育休」は期間を2回まで分割可能としていることから、一層取得のしやすさが考慮されているものと考えます。

また、通常の育休と同様に雇用保険からの給付金も支給されます。

【2】企業側から従業員への通知と促進の義務化

続いて、義務化となる法改正の内容は以下の通りです。

<義務化の対象>
使用者側である企業

<義務化の内容>
労働者側である従業員へ、個別に育休取得制度の通知と意思確認を行うこと

<施行開始予定時期>
2022年4月~

具体的には、従業員に子供が生まれるにあたり、下記の2点が企業に義務付けられます。

  • 男女問わず該当従業員へ育児休業が取得できる旨、および制度の通知・説明
  • 取得を促すための意思確認

これまで、多くの企業で女性従業員に対しては産育休の取得を促す取り組みをしてきていたかと思います。中にはパートナーが出産を迎える従業員に対しても、積極的に育休取得の推進を図ってきた企業もあるでしょう。

しかし、その温度感は企業によりまちまちでした。このような企業ごと・性別ごとの温度差をなくし、等しく育児休業の取得促進を「努力範囲」ではなく「義務化」とすることが、本改正案の趣旨であるといえます。

【3】その他、取得推進のための通常育休に関する各種改正

その他、より一層育休を取得しやすくするため、通常の育休に対してもいくつかの改正が盛り込まれています。

〇原則1回だった取得回数について、2回の分割が可能に。(早くて2022年10月~)
⇒夫婦交代での取得を可能にすることが主な目的で、出生時育休と併せると男性側は最大4回に分割した育休が可能です。

〇有期雇用者についても、育休の取得が可能に。(2022年4月~)
⇒これまでは認められてこなかった有期雇用者の育休取得も、労働契約が満了することが明らかではない限り、申し出が可能となります。

まとめると、育児休業に関する法改正の変更は以下の通りです。

【図1】

これらの法整備を通じて、厚生労働省は2025年までに男性の育休取得率を30%まで引き上げたい考えのようです。

世界でも進んでいる日本の法的育休制度

前述の通り、国は育休取得推進のために法制度をますます充実したものにしようと手段を講じています。しかしながら、実はすでに日本の育休制度は、特に男性に対しての措置という面では諸外国と比べてかなり恵まれています。

日本では男女ともに同等の掛け率で育児休業給付金が雇用保険から支給されます。ユニセフによる2019年公表の調査では、2016年時点において、父親が給付金を受給可能な育児休業期間につき、給与満額支給相当の換算期間が最長なのは日本であるとの結果が出ています

【図2】

※出典元「Are the world’s richest countries family friendly?」(Unicef, 2019)より筆者が翻訳・作成

ちなみにこの育児休業給付金は支給額に上限があるものの、育児休業開始から180日間は給与額面の67%が支給され、手取金額のおおよそ9割程度が保障されることになります。そういった意味でも、日本の育休制度の手厚さがわかるでしょう。

<育児休業給付金額の詳細>

【図3】

また以下のように、金銭面以外でも順次法整備がこれまで行われてきており、うまく活用さえできれば有用であることがわかります。

<育児・介護休業法における育児関連の法改正変遷>

【図4】

※1 パパ休暇:
子供が生まれてから8週間以内に育児休業を取得し、そして終えている場合に、育児休業の再取得が可能であることが夫に認められている特例措置。
(前述の通り、新設の「出生時育休」に置き換わる予定。)

※2 パパ・ママ育休プラス:
原則子供が満1歳までである育児休業期間を、両親ともに育児休業を取得する場合に限り1歳2ヶ月になるまで延長することができる制度。(ただし親1人あたりの育児休業を取ることができる日数は最大1年間という点には変更なし)

それでも男性育休の取得が進まない理由

これだけの法的な手厚さがあってなお男性の育休取得が進まない理由には、別の大きな理由が存在していると考えるのが自然でしょう。

先ほどご紹介したユニセフによる2019年調査をあらためて見てみます。
下記は、日本において男性が育休を取得しなかった理由の上位3つです。
1位:人手が不足するから
2位:会社に制度がないから
3位:取得しづらい雰囲気があるから

また、別の民間による2021年の最新調査*1でも、「職場の仕事が回らなくなるから」「職場に取得しづらい雰囲気があるから」が上位に入っており、ここ数年での変化はあまり見られないと言えるでしょう。
*1 育休取得後の満足度に男女差 「非常に良かった」男性8割超え、女性5割下回る 男性の育休取得に関するアンケート調査

弊社のお客様においても例えば下記のようなお話が上がります。

「次世代育成支援対策推進法*2を機に勇気ある誰かが取り始めると、その事業拠点では立て続けに男性の取得者が出てきた」
「社内アンケートを取った結果、半数以上の男性社員は取りたがっているが、仕事に穴が空くから言い出しづらいという意見が多かった」

こうした古くからの日本社会における勤勉な考えと商習慣は、有休取得率の低さにも表れている部分ですが、いずれにせよ「取れる雰囲気ではない」、「人手不足を懸念してしまう」といった理由が、男性育休の取得が進まない核心なのでしょう。

また、前述のユニセフ調査において「会社に制度がないから」という理由が2位に挙がっています。法的な制度が定まっている(本来であれば会社での制度有無は関係ない)にもかかわらずこのような意見が多く出てくるということは、社内での周知徹底も併せて必要であると理解できます。

そう考えると、政府が今回「企業を対象に社内への周知・促進の義務化」に踏み切ったことにも非常に納得感があります。

*2 次世代育成支援対策推進法:次代の社会を担う子どもが健やかに生まれ、かつ、育成される環境の整備を図るため、2005年に施行された。施行から10年間を集中的・計画的に取り組む時限立法として成立していたが、2014年に改正されてさらに10年間(2025年3月31日まで)期間を延長した。改正により常時雇用する労働者が101人以上の企業は、労働者の仕事を子育てに関する「一般事業主行動計画」を策定し、各都道府県の労働局に届ける義務があると定められた。100人以下の企業は努力義務。行動計画の目標を達成し、一定基準を満たした企業が申請することで厚生労働大臣から「くるみん」「プラチナくるみん」の認定を受けられる。

男性育休推進のために企業が意識すべき考え方

ではそれを踏まえ、企業は今回の法改正に対応するためにどのような意識で臨めばよいのでしょうか。

1.周知・促進を確実に行うために必要な体制を決める

まずは自社内において、年間の「子供が生まれた従業員数」を直近分の傾向としてあらためて確認します。来年度以降、その人数規模がおおよそ個別対応を行う対象と考えましょう。

なぜ育休取得人数ではないかですが、これまでは従業員本人が取得意思を持ってはじめて人事に申し出を行っていたかと思います。しかし今後は、本人が意思決定を行う前にアプローチする必要があると考えるのが妥当であるため、本人もしくは配偶者が出産を迎えるすべての従業員について把握をし、確実に周知と促進を行うことが義務として求められるはずです。

よって、扶養家族の変更届において子供の追加があった従業員数で傾向を掴み、その人数に対して人事部署内で個別説明の対応が可能そうかを検討します。

人事担当者だけでの個別説明が難しそうである場合、現場管理職にも説明の協力を得る必要があるかもしれません。

2.現場管理職に、男性の育休取得についての理解を求める

説明そのものの協力を現場管理職に求めるかはさておき、少なくとも今回の法改正の趣旨と、それに関する自社の対応方針は事前にしっかり説明をするべきでしょう。

職場の雰囲気は現場から作られます。自身の上長が男性の育休取得に理解がなければ、取得の申し出を自然に行うことはできません。

企業側が義務責任を負っていても、従業員からの申し出というきっかけがなければ成立しないため、従業員側の心理的安全性を担保するためにも、人事から現場管理職に理解を求める説明を行うのは必須であると考えます。

その際は、現場管理職が納得しやすいメリットを生み出し、それをしっかり伝えることをおすすめします。例えば以下のようなメリットが考えられます。

  • 男女ともに引き継ぎができる前提で仕事を行うようになり、属人化から脱却できる。
  • 従業員の定着率が上がり、長い目で人材不足が解消される。
  • 男性従業員(部下)が育休取得することで、自身または配偶者が産後うつになるのを回避でき、業務上のダメージが大きい突発的な休みの発生を防ぐことができる。

上手く雰囲気が醸成されれば、日頃の上長との面談や1on1などで自然と従業員から話があがるようになるかもしれません。その場合、現場管理職に周知のためのマニュアルが事前に渡されていれば、結果的に人事での対応負荷も軽減される可能性も考えられます。

3.経営トップからの発信を調整する

男性育休の取得に限らず、ダイバーシティが比較的上手く機能している企業を見ていると、必ずと言っていいほど経営トップからのメッセージ発信が行われています。

代表取締役でも、人事管掌役員やCHROでも構いません。経営側から企業としての方針を強く打ち出してもらうことで社内全体の意識が変わることは間違いないため、人事からあらかじめの調整を積極的に行っていただければと思います。

日本の人事の歴史でも解決に時間を要している男女格差に関わるものですから、上記にご紹介したことを実践すれば必ず男性の育休が劇的に進むとまでは言いづらいです。しかし、まず上記3つのポイントを押さえることは最低限必要と考えていただくべきでしょう。確実に推進の助力になるはずです。

法改正に向けたシステム対応案

社員情報や勤怠などの労務に関する社内システム上の対応方法も気になるところでしょう。何か事前確認しておくべき観点はあるでしょうか。

施行に向けて本格化するにつれて詳細な部分はさらに検討が必要かもしれませんが、現状考えうる対応案は以下のようなものがあります。

1.システム内に、配偶者の妊娠にまつわる申告/届出を用意する

既存の「配偶者の出産による育児休業予定届」では、すでに本人が育休取得の意思がある状態での申請になりますので、事前の周知・促進の対応にはならないでしょう。

そのため、十分なゆとりをもって従業員から、配偶者の妊娠事実の申し出を受け入れられる状況を作ることが大切だと考えます。本人の育児休業の取得予定に関わらず、たとえば配偶者が安定期に入ったタイミングですみやかに申告してもらえることが理想ですので、システム内に受け口を設けることができるか確認をしておきましょう。

また周知・促進という点では、女性従業員が妊娠した場合においても同様です。産前産後休暇だけを取るのか、その後育児休業も取るかの選択を従業員自身に委ねるのではなく、出産予定がわかった際にすみやかに申告してもらい、育児休業の取得を勧めることができる仕組みを整えるべきでしょう。

さらに、今回の法改正での周知の方法自体は、従業員の都合により複数の選択肢から選べるようにすべきという趣旨になっています。そのため、届出の画面内においては、書面での情報提供や面談での説明等、任意選択ができるようにしておくといった項目も必要になりそうです。

2.該当の申告/届出が提出された際のシステム通知文言を工夫する

後続の周知・促進の対応も、もちろん漏れなく行われるようにしなければなりません。そのため、従業員からの電子申請が提出された際にメールやメッセージ等で人事に届く承認依頼の本文中に、下記のような工夫をするとよいと考えられます。

  • 育休の制度説明および育休取得促進を行う必要がある旨を記載する
  • そのためのマニュアルへのリンクを貼る

また、面談希望の場合には、承認画面内に「面談日の設定をしたか」のチェック項目を実装することもよい取り組みといえるでしょう。

上記例も含めて漏れなく対応ができる状況を整える工夫・取り組みが必要になると考えられますので、システムでの実装可否を確認しつつ、準備を進めることをおすすめします。

男性育休に関する法改正に向けて人事担当は早めの準備を

いかがでしょうか。ここ数年はタレントマネジメント、働き方改革、コロナ禍など、両立支援以上に人事として緊急度の高い対応に追われていたために、リソースに限りのある中での積極推進は難しかったかもしれません。

しかし、今回は企業側に新たに義務が発生することもあり、確実な対応に向けて、あらためて入念な準備が必要となります。施行までにはまだ猶予がありますが、少しずつ検討や確認、運用整備を進めていくとよいでしょう。

そもそも従業員にとって子供の誕生は人生における大事なイベントです。そういった喜ばしいことをまずは上長や同僚に報告・相談ができ、当たり前に祝福される職場が理想であることは間違いないので、例えばそういった啓蒙も含め、ハンドブックのようにまとめて配布することも一案かと思います。また、これまで以上に育休分割の柔軟性が高まったため、育休取得の選択肢が増えることにもなります。従業員への案内に迷わぬようにあらためて取得のパターンを整理することもご検討ください

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